城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
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この目出度き日を生きて迎えられるとは正直思っていませんでしたぞ殿下ァ!突撃艦に乗りますんで我らが首都ラクファカール奪還の一番槍を担わせて下さい!下劣な人類統合体のアメンボ共を、平面宇宙を漂う塵にしてやらあな!!巡察艦ゴースロスのクルーとレクシュ百翔長(ボモワス)の無念を晴らす!!
・・・でも一番びっくりしたのはあの人の主計千翔長とかいう肩書きだったりする。
――西方の城壁を下り、城下町に向かう途中にそこはあった。
木造りの小さな台。ちょっとだけへこんだ地面。大剣(ツーハンデッドソード)。その傍には何かを晒すにちょうど良い獄門台。
和洋折衷だあ。そうか、ここが俺の第二の死に場所。
「・・・何をもたもたしている。早くついて来い」
「・・・・」
え、ここで俺の首が刎ねられるのでは?
遠く弾ける鉄の斬撃音(ドラム)が俺の最期の子守り歌なのでは、
「貴様が何を勘違いしているのかは知らんが、この都市で勝手な処刑が行われる事は無い。・・・現に、聖罰は正門の外で行われている」
「・・・」
た、確かに。
「そしてここ聖都で命令違反を犯した無能を処断するのは、たった御一方」
聖都の中心に位置する王城。円卓の騎士の方々が居住し、あの御方がおわす場所。昔も今も俺が守るべき場所。
「・・・跪け。王の御前だ」
「・・・!?」
範を示して跪く漆黒の騎士。城の入り口に、純白の輝きを纏った我らが主君が現れた。
「---私がこのような些事を行うのは意外か、我が兵」
「・・・」
「---騎士も兵士も何もかもが我が手足。ならば貴公らに処断を私が下すのは至極当然の事だろう」
「・・・・」
右手を左胸に当てて跪き続ける俺。
う、動けない。だってこれつまり神明裁判って事でしょ?パチモンじゃなくてマジモンの。
熱い鉄棒持たせる事も水に沈めさせる事もしない。いや、するまでもない。ただ言うだけだよ、神に向かって私は無罪ですと。正しくなければ殺される。
「---事情は知っている。聖罰の対象者を一人取り逃がしたと。しかしそこには山の翁の妨害があったそうだな、アグラヴェイン?」
「は、その通りです。・・・報告によればこの兵士が止めを刺そうとした折、サーヴァント山の翁の妨害に遭い奮戦むなしく取り逃がしたと」
「・・・」
兵Bなに盛ってるの?俺奮戦なんてしてないよ?
「---」
「陛下。相手がサーヴァントだとしても、王の粛正騎士らがアサシン風情に遅れをとるわけがありませぬ。負傷者を庇うなり何なりしていればまだしも、圧倒的有利な状況下での掃討戦、人一人取り逃がす事は職務怠慢以外の何者でも無いと愚考致します。・・・おおかた手でも抜いたのでしょう。 そんな半端者は、ここには必要ありませぬ」
「・・・」
頭を下げ続ける。だってぐうの音も出ない。
王の獣である俺が、傍に誰かいるから妨害が来るかも→サーヴァントだったら勝つの難しい→ここ壁の外だし無理しなくても・・・。
なんていう体たらくを晒してしまった。これが真実。
元正門の城兵たる俺がこのザマよ。申し開きの次第も無い、本当に。
「・・・」
跪いたまま両手を地に付けて、首を伸ばす。
「・・・そういう所は殊勝だな、無口な兵士」
そっ首が大気に当たる感覚。カラッとした空気が久々で心地良い。
ここは王の御前で、俺の死に場所。上出来上出来。生前では叶わなかったなあ。
「---命は乞わぬのだな、我が兵」
「・・・」
「---つまりはアグラヴェイン卿の言う事が全てだというのだな。---我が兵ローナルド」
兵Bが色々盛っているので奮戦はしておりませんが、その通りです。我が王。
「・・・」
「---では処断を下す。面を上げよ」
顔を上げ、目線を我が王に向ける。純銀の甲冑、金の麦穂の髪、ペリドート色の瞳。
片膝立ちになるその御姿が、閻魔の如く俺に指先を向ける。
・・・これにておさらばです、我が王。
「---死ぬほど吹き飛べ」
言葉と同時に聖槍の煌きを感じた俺は、風を突き破って遠い彼方に旅立った。
◇
「ローナルド? ・・・・陛下、今ローナルドとおっしゃいましたか?」
――獅子王の一撃を受けて聖都東方に吹き飛んだ兵士を見る事も無く。 サー・アグラヴェインは眼を見開いて、まるで地震や雷を初めて体験した人間のような表情で獅子王を見つめていた。
「---ほう、珍しい表情だなアグラヴェイン。卿のその顔、他の兄妹達が見ればそれに匹敵する顔を私に見せてくれる事だろう」
反して獅子王は、無感情という言葉がこれほど似合う者はいないと百人が百人首肯するだろう表情をしていた。 無貌というよりかは静謐で、機械的というよりかは化け物染みていながら。
「・・・あのローナルドでよろしいのですか? 我らがキャメロット城の兵士の・・・?」
「---ああ。卿の記録通りのローナルドで間違いあるまい。生前他のあの一族の者を見た者は、私以外の円卓では古参の者しかいない」
「・・・・」
サー・アグラヴェインは右手で軽く耳を揉んだ。こうすると血行が良くなって思考が気持ち明瞭になる。そう教えてくれたのはそのローナルドの者であったからだ。 そして感情を切り替える事にも適していると、今ここにいる『鉄の騎士』には解っていた。
「しかし何故です、陛下。何故あの者への刑罰が死罪ではないのですか」
王に対して臣下に有っても良いが、無くても良いもの。それは理解だと鉄の騎士は思っている。
「---先程のあれが死罪以外の何だと言う、アグラヴェイン。私は指先から死の一撃を放った。生きていようと死んでいようと、これであの兵の罪は消えた。---卿は私の裁きに異を唱えるのか?」
「・・・それはありませぬ。 しかし、聖抜を見た者は生かしておく必要は無いと王はおっしゃった。かの兵士に罪が無くなったとしても、この事実は消えませぬ。・・・如何したものか」
そして無くてはならないもの、それは遵守だとも。
「---砦建築に出ているランスロット卿に、追討の指示を出すがよい。あの者ならばやり遂げよう」
「・・・・。成る程」
全身が更に黒く塗り潰される感覚、殺意にも似た感情がサー・アグラヴェインを支配しようと鎌首をもたげる。
だが、それを実感し制圧できないようでは『鉄』とも王の補佐官とも呼ばれていない。名実共に。
「---不服か?」
「まさか。 私は王の補佐官です。為すべき職務を為すまで」
「---励むがよい。そして西方の兵達には、私の裁定を一言一句逃さず伝えよ」
「畏まりました」
歩き去る獅子王の背中が王城に消えるまで、サー・アグラヴェインは頭を下げ続けた。
「・・・。 東方の外壁までには至らなんだか。腐っても我が王の城兵よ」
頭を上げた男が見つめる先は聖都東方。先程の無口な兵士が吹き飛ばされた方角だった。
―――この聖都の全戦力の中で彼の者を無下にする者はいない。兵士の正体が知れた今、鉄のアグラヴェインはそう考える。 嵩に懸かるとなると話は別だが、その確率は低いと予想もした。
「・・・そうか。ガウェインはこれを知っていたのか。しかしどうやって・・・・」
新たな疑問が湧くが、すぐさまそれは些事であるとサー・アグラヴェインは断ずる。何故ならどこぞの完璧騎士と違い、あの兵士は絶対に王の手足となり続けると読んだからだ。
王の為に己がやるべき事は山積みで、無駄な思考は職務の妨げになる。片耳を揉みながら鉄の騎士は、懐かしい時分(生前)を思い出してはそれを捨て去った。
「・・・前言は撤回だ、兵士」
王の裁決を伝える為、騎士・アグラヴェインは足早に西方の城壁に向かった。
◇
「・・・・、」
息を吐いて、吸う。どれくらい意識を失っていたのか。
というかここは聖都の外なのか遥か彼方なのか、俺はまだ槍を振るえるのか。
「・・・・」
眼を開ける。ここは何処だ?
「――よお兄ちゃん、おおっととちょっとお話しようじゃないか」
「・・・」
え。
「ここは何処だって雰囲気だから教えといてやるが。 ――地球へ、ようこそ」
粛正騎士に囲まれた!しかもずらっと!判ったここは―――、
「――俺たちゃ東方聖都労働者組合のモンだ」
「――アンタが王の一撃喰らってヤード単位で吹き飛んだって小耳に挟んだ。 まさか違うよな?」
「・・・」
まだ、生きている。俺はすぐさま立ち上がり、辺りを確認。まるでマフィアみてえな東方方面の兵士達に向かって片手を上げて挨拶した。
「――無理するなよ。傷が癒えるまでここに居るといい」
「――しかし兄さん、やけに丈夫だな。確か西方方面の兵士だったか?」
「――西方の兵ってのはサイボーグみてえだな、腕が立つぜ!」
「――しかもよく見りゃアンタあの槍兵だろう? ここを獲る時に魔人リチャードに突っ込んでったあの!」
「・・・」
頷く。いかにも俺は西方の兵士だけど。
「――アンタの話はそれなりに有名だぜ、特にここ東方では。 アンタ自分のアダ名知ってるかい?ついこないだ迄は『鉄の兜』だったが、――今じゃ『鋼鉄マン』だってよ!ハハハッ!!あっちの方も鋼鉄並みかい? ヴァーハハハッハハ!!!」
「・・・」
・・・・。
「――おいおいそう怒るこたあ無えだろう? ちょっとしたマッスルジョークって奴さ。ここらの兵士なら誰でも使うぜ?」
「・・・・」
そ、そうなのか?ネタってのはよく分からないなあ。
「――我らが王の為に戦うんだ、名誉なこったよ?でもその過程で少しぐらい息抜きしたって悪かねえだろう? ――これは好奇心で聞くんだけどよ、城兵の仕事は古今東西どこだって同じだ。アンタは仕事上のストレスをどうやって解消してる?」
「・・・」
鍛練だ。 俺は槍の調子を確かめた。
「――、その槍爆弾詰まってねえよな?」
「・・・」
失礼な。
「――冗談だよ。 正反対の位置関係だが、お互いここを守る為に頑張ろうや。兵士殿?」
「・・・」
よろしく。
俺と東方の兵士は手と手をバシンと叩き合わせた。
生き残った事が幸運とは言えない。
それは次の土壇場への誘いでもある。
ここは世界の最前線。焼け爛れた大地が助けを乞い、呻きと血を産み出し続ける。
奪い合い、せめぎ合い、勝者という枠を埋めなければと断末魔を星が叫ぶ。
次回『目指』
この爛れた大地とは丸いのか。