城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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 たまには真面目な前書きを。
今回で兵Cの本名が判明します。モブキャラに名前ついたらモブじゃなくなるんですが、主人公に名前を付けたい作者を許して下さい。
 
 拙作という変なSSを読んで下さる有り難い一騎当千の読者の方は、名前だけで兵Cのバックストーリーや元ネタまで読んでしまうかもですが、色々楽しんで頂ければ何よりです。









第15話 漂う雲の下で

 

 

 

「よいのか?三蔵。今ならまだ聖都に戻れるが」

 

「法師に二言は無いわ。あたしはこの世界をもっと知りたいの。……、兵士くんに挨拶しなくてよかったの?トータ」

 

「あの兵士殿とはまた会う気がするのでな。挨拶はその時でも遅くはあるまい」

 

――恐らくは戦場で。という言葉を、俵藤太はあえて口にしなかった。

 

 聖都の正門を抜けた二人が、死んでいるとしか形容できない荒れた土を踏み、歩き続ける。弾力も恵みも無い不毛の大地にとっての唯一の慰めは、神の如く全てを照らす太陽だった。

 

「・・・・、白亜の聖都か。 あそこまで見事としか言いようが無い都市を見たのは初めてであった。できれば敵対はしたくないものよな」

 

「そうなったらその時はその時よ!」

 

「えっ、ああ、うむ。 しかし『騎士』というのはかくも荘厳なものだったのだなぁ。しかも剛健さなどは侍(さぶらひ)並みであった。西洋の武門とは何ときらびやかなものよ」

 

「あら。武士(もののふ)の血が騒いでいるのかしら? 兵士くん達との鍛錬といい、本当は武を競い合いたかったの?」

 

「そうかもしれん。・・・騎士と歩兵、武士と兵。馬に乗っているか乗っていないかが共通の違いと言えば身も蓋もないが、しかし彼らの纏う雰囲気はそのどちらでもなかったな」

 

「なあにそれ。騎士と武士、漢字が違うだけで意味合いは同じでしょ? 生きる事を定めて、老いる事を嫌い、病を避けて、死ぬ事を忘れない。武人なんて皆そうでしょ」

 

「まずもって彼らは生きる事を定めていない。獅子王の為に居るだけだ。苦諦など、獣の耳に念仏だろう」

 

「………。あの兵士くんも?」

 

「あの者は、・・・・そうだなぁ」

 

一拍置いて、武門・俵藤太は言葉を継いだ。

 

「迷わない武者を見たのは久方ぶりであった。この理想都市の最期がもし有るとすれば、彼の者が迷った時だけだろう。 ―――ところでお前さんは一体どちらに進んでおるのだ?」

 

「西!」

 

「理由は」

 

「砂漠越えよっ!」

 

「掛け言葉のつもりか?理由になっとらんわ!!」

 

「お弟子はね、お師匠様に絶対服従なの。理由なんて問う必要も暇もないの。ツベコベ言わずに行くわよ!」

 

「求道者とはかくも恐ろしいものだな、言葉が通じんとはッ!!」

 

「失礼な事を言うのね、トータっ!!!」

 

 ――旅路は進んでゆく。三蔵一行は、果たして望むものを見れるのだろうか。

 

 赫奕たる焦熱炎のような太陽は、彼らの歩みとその先を照らし続ける。流れる雲は、一度として旅人を翳さなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

 聖都鍛錬場の片隅で、槍を素振りする。

周囲にはちらほらと城兵達がいるが、皆自分の鍛練に夢中でこちらを見る者は誰もいなかった。 突くというよりかは斬る、叩きつけるように俺は槍を振るう。

 

 剣の素振りみたいだあ、俺もそう思う。しかしそうなってしまったのだ。

 

「・・・」

 

 小休止。 

――三蔵さんが此処を発ったあの日、約一ヶ月前にひょんな事から兵Bに槍の振り方を教えたのはいいが、今尚メキメキと兵Bは剣腕を上げている。

 

 槍と剣で一体どんな化学反応が起きたのか。 剣兵なんだから他に浮気するのは如何なものかと俺は思っていたが、これが分からない。

 

・・・しかし、

 

『――兵士たるもの。様々な武器の扱いを知っておかなければ、いざという時に困りますので。』

 

 とのこと。ビナー1という小隊長の地位にある兵Bはまさしく兵士の鑑だと俺は思う。だってBだし。

 

「・・・ッ」

 

 素振りを再開して百回ほどで終える。 生前俺が辿り着いた剣のような素振りを。

 

 ・・・・思い出すのもあれだが、昔は剣兵に憧れていた。

ご先祖様が剣士だったってのもあるが、槍の間合よりも刀剣の間合、遠間よりも近間の方が最初は好きだったからだ。

 

 『大事なのは間合い、そして退かぬ心だ』

 

 うちの家訓だが、これは剣を扱ってたご先祖様が言った言葉だそうな。

それは誰かから教わったのか。はたまた自分の言葉なのか。最早分からずじまいだが。

 

「・・・・」

 

 結論的に、俺に剣は無理だった。好きと仕事は必ずしも直結しないという事よ。

 身体のつくりがあれなのか何なのか、近間で打ち合うとどうも身体が固まって動けなくなってしまったのが昔(生前)の俺。

 

 剣士としてそれは致命だ。 だから俺は槍でしか、中間・遠間の間合でしか戦えなかった。 

・・・・え?では敵が近間(クロスレンジ)を選択してきた、またはその状況に陥ったらお前どうなるの?

 

「・・・」

 

 それを克服する為に生前の俺の稽古・鍛練はあったと言っても過言ではない。まあ、最終的に克服はできたよ。死んで我が王のサーヴァントとなった今、問題なしなのがいい証拠。

 

―――少し、辺りを見渡す。

 

 傍にある練習用の長剣を執る。だんびらで、鎧の上から敵を衝撃で撲殺する為に生まれましたと刀身に書いてある。 

 

 キョロキョロと周辺を確認。よし、今がチャンス。

 

「・・・!」

 

 ビョゥ、という小さな刃鳴が鍛錬場の一角に響く。 何度か素振りし、今度は仮想敵の木人に突進しながらこの剣を振るってみる。

 

 ――踏み込み。 気持ち骨盤をエイっと敵の方に入れて運動力を損なう事無く木人を切る。すると木人の首には凹み傷が出来、返す剣を頭部に突き入れた。

 

「・・・・」

 

 うーんドンピシャ。足腰腕の連動が申し分ない。思ったよりも中々いけた。

 これを機に初心である剣兵を目指してみてもいいかな?生前の憧れを死後に叶えるというのもどうかとは思うけど。

 

 ――剣を元あった場所に戻し、愛槍を手に執る。木人に向かって今度は槍で、先程と同じ事を行ってみる。

 

「・・・・ッ」

 

 ―――。悔しいけど、俺は槍兵なんだな。

槍の柄を握ったこの手の吸い付き具合といい、振りきった感覚といい、これ以外では満足感が全然違う。 これしか振らない家族も、槍も昔は嫌いだったのに。

 

「・・・・」

 

 俺は兵Bや円卓の騎士様のようにはなれない。 ずっとこの槍を振り続けて、鍛練し続けて、ここでも王の為に戦い続けるモブ兵C。羨ましくないと言えば嘘になるけども、悪い事なわけでもない。

 

 そんな一兵卒を鼓舞してくれたのか。 ガシャッと音が鳴る我が槍が、俺を見ていた。

 

「・・・」

 

 よし、いつもより8割り増し。やる気が出てきた。ちょっと早いけど交代に向かおう。 地面に転がった木屑と木人の頸部を片付け、俺は礼を行って鍛錬場を出た。

 

 

 

 

「――交代?では後を頼む!!!」

 

「・・・」

 

 夕陽が照らす黄昏色の雲の下、西の城壁から見える風景に人が増えてきた。俺は慣れ親しみながらそれを眺めて、もう聖日が来るのだなあと武者震いをする。

 

「・・・」

 

 そう。兵達と共に日々鍛練をして、ここ城壁に俺が立ち続けてついに半年が経ったのである。

 

思えばあっという間だったような、・・・長かったような。

 

 明日は月に一度の聖抜の日。

報告によれば聖都正門前には門をくぐらんとする人々が、過去に例を見ない程いっぱいな模様らしい。

 

 我が王と共に最果てに旅立つ人が多ければ多いほど、俺的には良いのだけど。

 

「・・・・」

 

 ―――恐らく、これが最後の聖抜だ。 

この聖都に居続ければそれが分かる。匂いとか空気とかで。 誰も言わないけど、皆薄々気が付いている筈。

 

つまりそれは、王との別れがもうすぐだという事。 

 

 王の爪牙である俺達は王と共には旅立てない。そうなっている。 王が淋しがらない様にしてほしいものだ。だってひとりぼっちは淋しいもんな。

 

「・・・・」

 

 自他共に神様みたいな存在になったとしても、孤独は誰かを殺す不治の病だって死んだ祖父さんが言っていた。 この人は家族の中で珍しく槍も剣も使っていて、昔の俺の憧れだった。だから俺もその言葉には同意なわけなんだよ。

 

 ・・・・え? て言ってるけどお前ボッチだろ?

よ、弱いからつるむんだよ。つるんだ所で弱えがな(涙声)。

 

「---兵士よ」

 

 ボッチとか強弱だとかそんなもんはな、己の足で立てねぇ奴が言い訳に使うのさ?

 

「・・・?」

 

「---軒昂そうだな。我が兵よ」

 

・・・・―――。

 

「・・・・・・」

 

眼を瞬き、横を向く。と我が王様が傍にいた。

 

 ここどこだっけ、あそうだ俺の持ち場だ城壁西だ。こんな所に王がいる訳が無いじゃあないか。

 

幻?これ幻?  

まやかすなぁあーッッ!!!!!!

 

――俺は潔く跪いた。

 

「---よい。面を上げよ」

 

「・・・」

 

「---」

 

 王は壁の上から城下町を静かに眺めていた。未来を見ているのか。将来を見据えているのか。 

 

 ――もう何も見えていないのか。

供の者も付けずに、たった御一人の我が王は夕陽を背にしている。そして何故か今、王と俺の傍には誰もいなかった。

 

「・・・」

 

「---」

 

 風に揺れる金の麦穂の髪。橙色の日輪が己の定めを打ち破る為に最期の力を振り絞ろうと輝く中、王の口が小さく開いた。

 

「---城壁の上から見える景色が、私は嫌いではなかった。---らしい」

 

・・・・。

 

「---人間は素晴らしい。白亜のキャメロットも円卓の騎士や兵士も、何もかもが人間の営みの中で誕生した。---私はそれを、失いたくはない。だからこの槍を今も手に執っている」

 

「・・・」

 

『我々は、同胞達の明日の為にこれを執った。だから―――』

『だから、多くの役割が必要なのだ。二人とも。』

 

――おや、懐かしい。

 

『このキャメロットが華やかなのは力で作ったものだからか?』

『違うだろう? ここは多くの人々の夢で出来たものだ。……いつかこんな理想の都を人間だけの手で作りたい。そういった願いでかろうじて成立しているものだ。だから卿のような騎士や、兵士が要る。』

 

「・・・」

 

脳裏に浮かぶあの日あの場所。

 

「---似合わぬか? どうやらこれは私の最後の感性らしい。我が身がヒトであった頃など、風に乗るあの浮雲のように消えていった。---畢竟、もはやこのような感慨が生まれる事は無いだろう。だがこれだけは、貴公に伝えておきたかった」

 

こんな、時間が。

 

『―――卿らの日々が充実したものであるなら私も嬉しい。日々を生きる糧になるというものだ。』

 

「・・・」

 

「---聖抜が終われば、ヒトは大丈夫だ。この私が衛り継ぐ」

 

 こんな時間が、あの頃にはありましたな。アーサー王陛下。

穏やかに微笑む王の姿を見て、俺は昔(生前)を思い出していた。

 

「---さて、もう時間だフスカル。---我が兵フスカル・ローナルド。合っていたか?」

 

「・・・」

 

 胸に手を当て、あの日と同じように深々と跪く。

私の名前を覚えていらっしゃるとは。有り難き幸せ。

 

どうか、貴女もどうか健勝で。

 

「---励むがよい」

 

「・・・」

 

 ゆっくりと漂う雲の下。 少しの間だけ、俺は王と共に聖都の中、荒野ではなく美しい城下町を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 




守る者と継ぎし者、そのどちらもが欲しい者。
刃を持たぬ者は、生きて往かれぬ無情の土地。
あらゆる正義が武装する聖なる都市。
ここは、存続を望む神が産み出された青き惑星の、パライゾ市。
白亜の都に染みついた聖の匂いに惹かれて、危険な奴らが集まって来る。
次回『IGNITE』
星見屋たちが飲む聖地のコーヒーは、苦い。




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