城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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第三部
第16話 IGNITE


 

 

 

 陽が上がり、陽が沈む。昔それは物悲しい事だとのたまうヤツがいた。

無駄な事言ってんじゃねえと、一笑する。それが誰も勝てない自然の摂理だろうがよと。 

 

………何とも懐かしい夢を見た。

 

「――モードレッド卿。ご起床ください」

 

「……、…ぁア?」

 

「――お休みのところ失礼致します。 まもなく陽が沈みますゆえ、ただちにここ聖都より出なければ王より罰が下りますが」

 

 身体の覚醒、と同時に目蓋を開ける。そこには見慣れた甲冑姿の粛正騎士(デク)がいた。

 

「………。ああそうだな」

 

 陽が沈めばここにいてはならない。 それが父上の命令だ。オレはそれに従い聖都の外から聖都を守る。父上の敵なら有象無象の区別無く、このオレの剣は許しはしない。

 

「出発するぜ。グズは置いていく」

 

「――了解。・・・・・・」

 

「? なんだテメエ。オレの顔になんか付いてるか?」

 

妙な間が空く。 眼前の木偶が珍しく武器を納め、此方を慮っていた。

 

「――これは失礼を。ただ先程、卿はうなされているように見えましたので。・・・何処か、お加減でも?」

 

「木偶のクセに気を遣いやがる。…なんでもねえよ。ただ少し、昔の事をな」

 

「――獅子の円卓といえど、卿は今生きておられます。夢を見ても不思議ではありますまい」

 

「………。お前は憶えてねえだろうが、円卓には騎士のクセに盾を持った野郎がいてな。それでいて妙に騎士道精神とやらが溢れていやがるから余計タチがわりい。……円卓が盤石だった頃。まあ、そんな夢だ」

 

「――・・・・」

 

「今この聖都は完璧だ。澱みも穢れも無い純白の覚醒都市。夜の闇に呑まれても、その色が染まる事はねえ。―――だからオレは、」

 

「――外で聖都を守ると?」

 

「分かってるじゃねえか」

 

 あの頃(生前)も今も、オレは城勤めが苦手だ。

はためく風を肌で聞き、大地の軋みと剣の感触を手足で味わって、喰らう。それが性に合っている。篭城は嫌いだ、あの最期の戦でもな。

 

「――私の知る叛逆の騎士、サー・モードレッドとはそういう御仁だと覚えております。あの頃も今も、卿は一陣の自由な風だと」

 

「ハ、抜かすじゃねえか。普段はモノも言わねえ木偶のクセによ。…気に入らねえな、昔を想い出す」

 

「――どうも。・・・しかし、そうですね。あの頃から直接卿につづいて戦った者も、私だけになってしまいました」

 

「…………?」

 

「――私は。・・・我々は叛逆の騎士と共に闘います。これからも、そして今までも。その為にここに集まったのです」

 

「……。 そういやいたな、テメエみてえな物好きどもが。だからあの丘で全滅するんだよ」

 

「――それは、武を執る者の宿命でしょう。前以外を見る暇がありませぬ」

 

「成る程、違いねえ。ただ駆け抜けるだけ、ってな。―――往くか?分隊長」

 

「日没20分前です。聖都正門へお出で下さい」

 

甲冑の具足音が大地をへこませ、心地いい風がオレ達を門の外まで運ぶ。

 

たむろする難民共を無視して、遊撃部隊は聖都を後にした。

 

 

 

 

 

 

 ・・・正門前ではまもなく聖抜が行われるのだろうな。

 

 陽も暮れて、さやかな夜風に打たれている城兵Cである俺は、さっきから妙な感覚に身を奮わせていた。

 

「・・・・」

 

 今日は妙に懐かしい感覚に身を包まれるな。でも、別に問題は無いだろう。

あのガウェイン卿が門の守護(ゲートキーパー)をしておられるのだから、何事も起きる筈が無いさ。応ともさ。

 

・・・・しかし何か。何か気掛かりな事がありそうな。

 

「・・・」

 

 よし、ちょっくら正門付近に行ってみようか。なので俺は兵Bに腹が痛いジェスチャをする。 ちょっとだけ!すぐ戻るから!すぐすぐ!!兵B!!

 

「――え?おかしいですね。我等は獅子王陛下より召喚されたサーヴァントのようなモノ。腹痛など起こる筈が……?」

 

「・・・・」

 

 兵B痛いこれ腎臓かも分かんない!腹痛だと思って腹さすっても無駄なんだよ!腎臓をマッサージして温めないといけない時が稀によく有る!!

 

俺は屈んで背中、腰骨のすぐ上あたりをさする行動に出た。チラっ。

 

「――その位置は霊核がある場所の付近。これはいけませぬ!すぐに後方へ、ビナー1の名のもとに許可を出します!」

 

「・・・」

 

すまん、兵B。すぐに戻るぜ。

 

俺は城壁を下りて西から北、聖都正門に向かって移動を開始した。

 

「・・・・?」

 

 さて何事か。

正門に近づく度にドタドタ、というよりはガシャガシャという無駄の無い鎧具足音がひっきり無しに聞こえてきた。聖抜はもう始まっている筈。

 

え?まさか異常?ここで? ウッソだろ。 

 

「・・・」

 

「――西方方面・兵士殿。急ぎそこをどいて頂きたい。 我らは賊の迎撃の為、出撃中である」

 

 本気と書いてビンゴだった。正門担当粛正騎士の行列。

なので俺は急いで道を譲り、

 

「―――、何用か。貴殿の持ち場はここではない筈。急ぎ持ち場に戻られよ」

 

しれっと、列の最後尾に連なった。

 

「・・・」

 

 知っているとも。しかし申し訳ないが我慢できない性分なんでね、特に今日は。

 俺は槍の穂先の反対側を地面に数回打ち付けて、胸の中心をドンと拳で叩いた。

 

「――意気軒昂とは。 成る程、では共に参られよ」

 

「・・・」

 

やったぜ。

 

「――前線の報告によれば、賊は少数なれど戦い慣れているとか。相当な修羅場の数を潜った強者との事。各々抜かるな」

 

「・・・」

 

 ・・・場数?へ~。でもここを元々何処だと思ってんだよ?

もう半年も前の事になるが、ここには鉄のかたちをした悪魔が蠢いていたんだぜ?

 

 ―――肩を落とした鉄の背中が何処までも続く。

 

 穢れた血色の雨が容赦なく降り注ぎ、鎧までも溶かさんとする。

・・・息を詰め、足元だけを見詰め。ただひたすらに爛れた大地を踏み締める獅子の兵卒。

振り向けば、未練も無い過去がスロウモーションとなる。

遠く弾ける鉄のドラムが、地獄への道を急かせる。

 

 ―――だから噴き飛ばせ、この戦場を!!!!

 

「・・・」

 

 回想終わり。まあ、だいぶ盛ったけどその結果が今の俺達だろうがよ。 たとえ相手が何だろうとぶっとばしてみせるさ。今まで通り。

 

「――報告。敵発見。 正門前にて王に選ばれた人間の女性と、粛正騎士の近くに居る」

 

「・・・」

 

 なんと!王と共に往けるラッキーウーマンの近くにだって? 賊の魔の手に掛かる前に危険を脱して差し上げなければ!

 

「……めて、 やめて―――どうか、その子だけは!!!」

 

「・・・!」

 

 見えた! って、おや?

女性の近くにいるあの粛正騎士くん周り見てなくない?おいちょっとあぶな、

 

「・・・・・、」

 

「――・・・馬鹿な。我が子を、庇う、などと」

 

王に選ばれた女性が、粛正騎士の大剣の犠牲となった。

 

「ああ…ルシュド。…どうか……健康に、…善き毎日が、これからも…送れますよう……」

 

 我が子だろうか。抱きしめてうずくまる、王に選ばれたヒト。選ばれてた、選ばれていたんだ。あの人は王に。

 

「おかあさん、泣いてるの?・・・もう、泣き虫なんだから」

 

「……………。」

 

・・・・・。

 

「・・・おかあさん」

 

「――コクマー2より報告。一名、生命活動停止。自らの価値を計れぬモノに、聖都に入る資格はない。――報告、以上。 む?」

 

「・・・・・」

 

やあ、粛正騎士くん。

 

「――貴方は西方方面の。見ての通り、この母親が選ばれたのは何かの間違いだ。我らは任務を、下らぬこの山の民どもを引き続き処断致しま、」

 

「・・・・・」

 

「――ガッ」

 

 限られた、我が王と共に有れるヒトを。あの御方の傍に居てくれるヒトを。

 

正しい人を、

 

「――な・・・ッにを――ッッッッ!!!!!」

 

未熟にも殺したな?

 

「・・・・・」

 

そんなお前にはねえよ。任務も、今日も明日も明後日も。

 

永遠に。

 

「――――。」

 

 頭部を兜の上から叩き、くし刺し、時計回りに抉って反時計回りに抉り戻して槍を上空に振り切る。頭の無くなった躯は、仕事の邪魔なので左方に吹き飛ばして片付ける。

 

 お前は過ちを犯した。 ここ(聖都)には要らん。

 

「・・・」

 

「おかあさん? 誰、その人?おかあさんのトモダチ?」

 

 めでたい日にケチつけやがって。くだらねえ真似すんじゃねえ未熟者。・・・・時既にもう遅いけれども。

 

あ、この子供はどうやら選ばれなかったみたいだね。

 

「・・・」

 

「――え?」

 

 早く残りの選ばれしヒト達を無事に城へお連れしなければ。悲しいけど、ここ聖都なのよね。 俺は選ばれなかったモノに槍の穂先を向けて力を込めた。

 

――ん? 

 

おや?この音、

 

「う、わぁああああああああーーー!!!」

 

「・・・!」

 

 運動エネルギー満タン。鈍い衝撃。全速で突進し、俺を弾き飛ばす懐かしいシールドバッシュ。

この盾の使い方。この雰囲気、この視線。

 

「う…くぅ……!見えていたのに、わたし、…間に合いませんでしたっ」

 

この言葉。

 

「・・・」

 

―――盾使いとは。あの御方の真似かな?

 

「マシュ・キリエライト! 少年を保護しますっ!!!」

 

お嬢さん。

 

俺は大地を脚で思いきり踏み潰して震わせながら立ち上がり、敵に槍の穂先を向けた。

 

 

 

 

 

 




崩れ去る命。裏切れない無力。断ち切られる誰か。
その時、呻きを伴なって流される血。
人は、何故。
絆も愛も牙を飲み、涙を隠している。
血塗られた過去を、見通せぬ明日を、切り開くのは力のみか。
次回『First Battle With Soldier』
あの槍は、心臓に向かう折れた針。





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