城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
でもマシュはResolutionだと思ったり思わなかったり。
――何かを守る為には戦わなくてはならない。
昔教わったこの言葉を、わたしはいつも心にしまい込んでいる。
…怖くとも、私達はこれをやらなければならないのだと。 所長がそう教えてくれた。
五つの特異点をしのぎ、今や六番目の特異点。
戦うのは怖いけど、この子供のような小さい命と人理を守る事はデミサーヴァント、シールダーであるわたしの使命。
「……―――」
震える口元を押し殺し、敵である聖都の騎士を見詰める。
こちらは盾を前面に構えているというのに、わたしの正中線・心臓・肺・急所全てを狙うだろう長い槍の穂先は銃弾のように真っ直ぐで。 段平(だんびら)な刃部は突くだけが槍の専売特許では無いと如実に示していた。
「―――………」
方針は。 敵を盾で押し潰し押し飛ばし、わたしの後ろにいる子供の安全を確保する。槍使い相手には間合を詰めるのがセオリー。 ……見たところ、あの槍には想定外になりえる細工・要素は無い。
腰を落とした左半身、いえ、…一重身?の構で左手が前右手を後ろ。でも弱冠左手の握りが少し―――、
「―――ッ!!!」
火槍(ハンド・ボンバード)の一撃かと思う程の速さだった。 敵の攻撃はまだやって来ないと頭の片隅で思った矢先、槍の一突きがこの盾を重く震わせる。
………この衝撃、一体どうやればこんな攻撃を繰り出せるのか。――いえ、無駄な思考は今は不要! わたしは盾を持つ腕と足に力を込め、槍を上方向に弾き飛ばした。
勝機は、今。
地を蹴る足。明いた視界で見える、無防備な筈の敵の姿。
―――依然変わっていない槍の穂先の位置。遠い間合。でも槍使いにとってはそここそが必殺の間合だと、この肌が知っていた。
「あ、…れ?」
弾き飛んでいない?見切られた? 最初から?
「―――っ、……!!??」
こちらの方針も勝機も!?
デミサーヴァントである私の思考回路に理解が及ぶ。
盾で弾き飛ばしたと思った敵の槍は、こちらの動きに合わせて上空に振り上げ、身体を後退していた。 あとは構え直した槍を無防備なわたしの急所に付けるだけ。
…相手からしてみれば、盾を振り上げた格好の餌食が眼前にあるという寸法。その証拠に、いつでもお前を殺せるぞと槍の穂先が私に語っていた。
――さあ盾を構えろシールダー。でないと死ぬぞ?
お前も、お前の後ろのヒトの子も。お前の主も、すぐあとを追う事になるぞ?
早く。速く。はやく。
居るんだろう?君にはマスターが。それで良いのかい?
ここでくたばるなんて盾持ちの名が泣くぞ?所長もドクターもダ・ヴィンチちゃんも。
…先輩達も、皆泣いて死にますよ?
「ッッッ―――!!!はァああああああああッ!!!!!」
音を置き去りにしたわたしの盾。地にめり込み、守る為に構え直して駆け出すこの五体。 わたしはどうなってもいいけれど、先輩方は、皆は。
「マシュ・キリエライト!吶喊しますッ!!!」
死んでも護る。
◆
「―――ッ!!!」
「・・・」
――間合を図った渾身の槍の一振りで、俺と盾使いとの戦闘が始まった。
槍、剣、弓、斧、杖。
世に武器は数あれど、それら全てをサシで食い留める事が出来るのは盾という得物のみ。
・・・厄介な事この上ない。
しかもこの盾ってやつ丸いんだもんよ。四角いのも有るには有るけど、この丸みは運動エネルギーを受け流す事に適しているのだ。
―――射る、斬る、突く、打つ。
その全ては真っ直ぐ直線的なモノ。何故なら無駄があっては迅速な殺傷に支障をきたす。
特に槍はその傾向が強い。真っ直ぐという事は、エネルギーを逸らしやすいという事。
「・・・」
「あ、…れ?」
だから長物を扱い、殺す者は間合を図る事を第一に学ぶ。え?それだけじゃ足りなかったら? そこは戦術と腕かな。
「…届かない。いえ、手応えが無い……? まるで雲の中を進んでいるみたいに――っ」
俺は槍の穂先に盾が触れた瞬間、引いて、身体を大きく後退していた。
相手からしてみれば、注意して盾で攻撃を弾こうと受け流そうとした瞬間フッと重みが無くなるのは腹立たしい事だろう。
盾持ち(Scuta)との戦いは消耗戦をするのが吉。
特にこんなデカくて重い丸盾の戦士を相手取るなら尚更。
「・・・」
「こ、のっ……!」
盾が浮く。それも存外に早く。
「あ…――ぐっ!?」
未熟な盾持ちの足を薙ぐ。間合を図る為、大きく後退。槍を構える。
敵に変な顔をされる。・・・・眼を見開き、世界にはこんな敵がいるのかという風な表情。
「・・・」
意外かな?そこらの一兵卒がこんなチマチマした動きをするのは。―――でもこれぐらい出来なきゃ、我らが城の正門には就けないよ。ここを何処だとお思いで?
君もサーヴァント、戦う者の一人だろう。
眼前の敵の力が、決して自分以上ではないって心が無駄口叩くなら黙らせろ。
「でも。―――それでも、負けません…!!!」
気を吹く瞳に睨まれる。それはまるで塩湖のように美しく澄んでいて、白く輝く炎を宿していた。
使命に燃え、死に怯え、それでいて自分の生を度外視している眼だった。
「・・・・・」
そうか、戦う者ではなく。 ――この子、護る者か。
「その差が歴然でも、わたしはカルデアのっ。先輩のサーヴァントです!!!」
それは一人前の兵士のセリフだ。
「マシュー!!!」
「先輩ッ!?」
「・・・!」
!!むむむ、援軍かな? 淡い赤色の髪がよく映える女の子が戦場(バトルフィールド)に躍り出た。
お嬢さん、後方にいるだけだったなら積極的に手出ししなかったけど、ここに出て来るなら話は別だよ?
「・・・・・」
俺は槍の間合に赤毛の少女も入れた。敵は誰一人として、逃がさない。
「ここは退くよ!マシュ!」
「でもっ、難民の人達が!!」
「大丈夫っ!今ダ・ヴィンチちゃんと兄さんが―――」
賊はもっと複数いるのか? 逃がすかッ!
しかし俺が足に力を込めたその瞬間、眩い閃光と音が迸った。
「・・・!!」
むう、何も見えない聞こえない。
「眼を閉じて口を開けたまえーーーー!!!」
閃光が収まり、他の粛正騎士達と俺が前後不覚になっている時に現れる人影。
・・・・わざとらしいこのタイミング、中々の手練れと見た。 サーヴァントかな?
眼は咄嗟に瞑ったけど耳が痛え。
「マシュ!立香!」
「先輩! …申し訳ありません、このような体たらくを…っ」
「まだ生きてるっ。なら、次はある!!!マシュ!」
「その子を連れて逃げよう、マシュ!」
『囲みが薄い西から離脱してくれ!今ならまだ間に合う!』
おお?今度は黒髪の少年ときたか。雰囲気的に兄妹かな?仲が良いのは感心だ。
「・・・」
逃げようとする少年と少女が、チラと俺を見る。
・・・意外と良い眼をしてる。護られる者特有の、堅気の眼。
――でもこういう者達が気付かない内に偉業を成し遂げてたりする。ここを落とすとかね。知らぬは本人ばかりなり。
「・・・・・」
気に入った。苦しみは与えないと約束しよう。 俺は身体を半身に直し、槍を振りかぶった。
『早く逃げなさいっ、3人とも!!』
「―――それは叶いません。貴方達は、ここで命を終えるのですから」
『ッ!? この騎士……!』
何とガウェイン卿のエントリーだ!死んだぜ?君ら。
「円卓の騎士、ガウェイン。正門の守護者として、貴方がたを処断します。―――兵士諸君よ、君達は左翼から敵を追い立てなさい」
「・・・」
了解。
「――了解」
「――了解」
「!! 先輩方はわたしの後ろにっ!」
「いいや、マシュも後ろだ。正面は、この万能の天才に任せ給え!」
『…太陽の騎士、サー・ガウェイン。 第二の聖剣(ガラティーン)の保持者!すなわち聖地の場所に有るこの聖都は、アーサー王とその騎士達の仕業って事ね!?』
「その通り。そして、さようならです。 異邦より訪れた人理の護り手よ」
熱気がガウェイン卿の周囲に立ち昇る。それはこのお方が、伝家の宝剣を抜き放った合図だ。
「貴方がたは我らが獅子王の膝元で狼藉を働いた。・・・王は唯の一度の過ちも許しません。 ゆえに共存も、貴方がたの正義の行使も、もはや手遅れ。人理は純白の獅子王である我が王、アーサー王が救う。―――お覚悟を」
『不夜』のギフトとは天候操作。
太陽の加護を終始得たガウェイン卿は、正しく晴れ男ってわけだ。にほんばれ。日差しが強くて、むせる。つまり無敵。
「―――そうはさせません」
「・・・・?」
ガウェイン卿が聖剣を腰だめに構えて突進する、正にその時であった。 俺達の前にひょろりとした男が立ちふさがったのは。
「サー・ガウェインともあろう者が強い言葉を遣うなどと。 どうやら卿は驕っているようだ」
「ッ?―――き、貴公は。貴公は・・・!!!?」
「・・・・」
おぉ。
「私の知る太陽の騎士は、こんなものではなかった。・・・それに連なる兵も。―――貴方達はッ!ここまで外道に堕ちたのですかッッ!!!」
おおお!
おおおお!!
貴方様は!!!
「・・・・。今更出てきた所で、貴公には何も言う権利は無い。王の招集に応えなかった貴方には。 ――サー・べディヴィエールッ!!」
お久しゅう、べディヴィエール卿。ご挨拶をしたい所ですが、得物は抜かないので?
「・・・」
「剣を摂れ、銀色の腕!(スイッチオン・アガートラム!)
我が忠を尽くす為、私は貴公らとは違う生き方をする!!!皆さん、助太刀致します!」
ここは聖都で、俺達は獅子の兵卒。だったらこんな事も有るよね。
俺はガウェイン卿と共に、敵に向かって駆け出した。
小さな偶然が全ての始まり。
芽生えた信念は行動を、行動は情熱を生み、情熱は願望を求める。
願望はやがて、愛に行きつく。
愛は全てに呵責なく干渉し、消えず想いを育む。
そして、集う想いは誰を討つ。
次回『残光』
必然たりえない偶然は無い。