城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
人は、いざという時必ず両手を使う生物である。
左右二つの手腕に十本の指。運良くこれらを持って生まれた生き物は、効率を死ぬまで学んでいく。
もちろん利き腕とか太さとか長短といった違いは如実に現れるが、それらを補って余りあるのが両手腕という利点。
「ォおおおおお!!!!」
「・・・!」
粛正騎士を瞬く間に蹴散らし、光り輝く剣を片腕だけで振るう騎士を迎え撃つ。 ・・・いや、片腕そのものが光剣と化している騎士が、まるで不治の創痕を映す月影となって俺に襲い来ていた。
―――サー・べディヴィエール。別名、隻腕の騎士。 しかしながらこのべディヴィエール卿がそのように呼ばれた事を、生前俺はあまり耳にした事は無かった。卿の戦働きを見てそんな事を言ってしまえば、お前は腕二本付いてても眼玉は付いていないのかと笑われてしまうからだ。
人は片腕だけで骨を断てるのか? それが出来るから彼は『サー』と呼ばれている。
え?では一体何で補っているの? 俺には分からない。予想しかできない。
だからこそこのお方は円卓の騎士様、その最古参なのだ。
「・・・―――」
「・・・・・」
口をつぐむサー・べディヴィエール。
言葉は不要か。俺の槍と騎士の剣先との刃鳴が散る。 一合、二合。そして打ち合ってこそ分かる、身体の使い方。
「・・・!」
「―――ッ!!!!」
鈍い感覚。足が崩れる重い衝撃。 このお方、背面が異常に発達してると見た。あとこの呼気からして横隔膜とかその他諸々。
無駄がない。もの凄い。押される。
あ、やべ。
「・・・」
「―――ッ!!」
クロスレンジ(近間)、インファイト(死地)。
槍を短く持って凌ぎきれるか。振り、払い、捌けるか。この人相手に。
「・・・・」
果たして出来るのか。
「――その槍捌き。堅実な手合いですね、貴方は」
打ち合えた俺との間合を図り、構える剣と口で牽制するべディヴィエール卿。
近くにいるガウェイン卿は変な女性?サーヴァント達と戦っている。なので今の内に勝機を見つけなくては。
「先程の盾の少女との戦いといい、貴方を見ていると何故か懐かしい感慨が湧きます。槍捌きは我流と踏みましたが。 貴方は一体・・・?」
「・・・」
そういえば最期に会ったのはフランスに行く前でしたな、べディヴィエール卿。今私は声が出ないので、不敬をお許しを。なのでここで私を殺してこの兜を取り去るがよろしい。
俺はかぶりを振った。
「・・・・。参る」
光腕がしずと動く。今が勝機か。ここは戦場、はたまた罠か?
「ルキウス君!申し訳ない!!円卓の騎士がそっちに――っ!」
臨機。 俺は一歩も動かなかった。
「――兵士君。彼は君には荷が勝つ相手だ、下がりなさい」
「・・・・?」
熱い、じゃなくて。ガウェイン卿? もう敵を退けたのですか?
しかしここで下がればキャメロット城城兵の名折れ。しかも彼ら異邦者は我らが王の邪魔を為す不届き者共ですぞ?
かつての仲間であるべディヴィエール卿がこちら側でないのは残念ですが、我らは我らの職務を全うすべきでは?
「・・・・」
「下がりなさい」
一騎当千。太陽の騎士は下がった俺の前で仁王立った。
「王の粛正騎士達を一蹴し、私のギフトの効力が十全に顕れていないとは。 サー・べディヴィエール、その力は一体?どこで?まさか本当にヌアザの腕というわけですか?」
「・・・さあどうでしょう」
! 言われてみるとそうですね。この人何で腕光ってんだろ。もっと輝けええ!とかは言わないと思うけど、シェルブリットバーストなのかな?はたまたレインボーなバーストかな?
今シリアスだから毒電波はあっち行け。
「どのようなモノであろうと、我が王と聖都への危害狼藉はこの私がさせません。――それはたとえ貴方でもだ、我が友よ」
「ルキウスさん!!こっちへ!!」
「・・・・」
敵の少女がべディヴィエール卿に手を伸ばす。
「この場は退かせて頂きます。・・・・然らば」
「・・・!!?」
またも閃光と爆発。眼を開けると、そこには誰もいなかった。
ただあのお方の剣の残光が、俺達の胸に輝き続けている。
そう、まるで。
「あの光。 美しい」
「・・・」
まるで闇夜の烏を白く染める、星屑の光だった。
「・・・さて、兵士諸君は城に入りなさい。負傷者の手当てと、選ばれた人の警護を」
「――了解」
「・・・・」
むむむ?了解ですが追撃はよろしいのですか?ガウェイン卿。
「私は王へ報告に向かいます。誰か!」
「――は。ガウェイン卿。ケテル1ここに」
「・・・」
兵Cここに。
「今後は恐らくあの者達、反乱分子らを討伐するよう御下知が下るでしょう。 私はあの者達こそ予言にあった、この聖都を破砕する異分子と見ました。邪魔な草は刈らねばならない。迅速に、無駄なくただちにね」
「――了解」
「・・・」
了解。
「粛正騎士ケテル1、異分子討伐隊を編成しなさい。 他の者は持ち場へ、情報の共有を速やかに」
「――了解。討伐隊を編成します」
「・・・」
了解。では私は西方(持ち場)に戻ります。
「――待て、そこの西方兵士。 ガウェイン卿、この者はコクマー2を滅した者。その穴を埋めるため討伐隊に参加させるべきと具申致しますが、如何でしょうか?」
「・・・・」
ゑ? そ、そうなっちゃいます?俺は全身を震わせた。
ケテル1って、簡単に言うと粛正騎士のヤベー奴って意味だよ。
甲冑着てても分かるこのオーラ。 もしやあなた粛正じゃなくて整合騎士じゃない?心意使えますって身体に書いてない?
「――貴様が殺したコクマー2の穴は貴様が埋めよ。道理だろう?」
「・・・」
俺はこっくりと頷いた。
「待ちなさい。彼には他の任務がある為それは却下です、ケテル1」
「・・・・」
「――、承知」
他の任務、ですか?ガウェイン卿。何だかルート分岐したような音が聞こえましたが・・・、幻聴ですかそうですか。
「考えてもみなさい。―――聖都が出来て既に半年。 あの反乱分子らに何の後ろ盾も無いと思いますか?この世界の何者かの尖兵だという可能性は、万に一つもないと?」
「・・・!」
! 成る程。 して、私は何をすればよいと?俺は命令を受ける為跪いた。
「戦の芽は、少しでも地上に出ていれば根こそぎ抜かなければなりません。無論確認した後にですが。 それゆえ君は西へ、砂漠の王の領域にて偵察任務を命じます」
「・・・」
了解。
「――何と。ガウェイン卿は此度の件、彼の王の手が加えられていると見たのですか?」
「いずれはぶつかる手合いです。可能性は低くは無いでしょう。――王の聖槍の起動まであと少し。何か一手を指してきても、おかしくはありません」
「――成る程・・・」
「これで彼の王の差し金と判明したならば、もはや互いに結んだ不可侵の盟は無いも同然。アグラヴェイン卿ならば必ずや我らが王の邪魔者を排除すべく動くでしょう。・・・いや、砦にいるガレス卿の部隊だけで事は足りるかもしれません」
「・・・」
流石だァ。 誰だよガウェイン卿のことゴリラとか金属の歯車(聖剣搭載二足歩行戦車)だとか噂流した奴。対峙する前から怖えよ、戦わずして勝っちゃうよこの方。
「では各々、抜かりなく。 ・・・兵士君、西方の皆には私から伝えておくから、正式に任務が下るまでここ(正門)に居てくれたまえ。偵察隊の人員等はその時に」
「・・・」
深く頭を下げる俺。ケテル1と話をして歩き去るガウェイン卿。
偵察とは腕がなるぜ。昔を思いださあ、ハハハッハ!
「――偵察隊には私も先程志願した。兵士よ、どうやらこれで同じ隊だな」
ハ?
「――貴様の槍捌きはかつての聖地攻略戦の時より見ていた。非常に興味深い。 過去の記憶など無い今の私の脳裏に、消えず残り続ける程。まるで個室の窓辺に映る三日月のようにな」
「・・・・」
えぇ・・・? それほどでもないと思うけど。まあ、槍は武器の王様だからね。記憶に残っても仕方ない。所謂三日月の舞って奴。オーボエとトランペットのソロが魅力的。
勿論ジョークだよ?
「――兵士。ではよろしく頼むぞ」
「・・・」
不安しかないけどそれはさておき。ケテル1と俺はがっしりと握手し、ガウェイン卿を待ち続けた。
カルデアの手を逃れた兵士を待っていたのは、また地獄だった。
聖抜のあとに棲みついた羨望と任務。
聖なる暴力が生み出した、理想の居城。
悪徳と忠義、獣心と鉄心とを、コンクリートミキサーにかけて尚純化したここは、惑星地球のユートピア。
次回『編成』
次の話も、兵士と地獄に付き合ってもらう。