城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
今作は主人公が獅子王陛下に召喚されてなんやかんやするお話です。六章ゼロからスタートで、裏テーマは『盲目たる信仰』。そんな妄想話です。ディバインセイバー!と迷わず出た方、爆炎剣。 誰も気にしないでしょうが、タイトルを今どきのちょい長めにしてみました。作者はナウいのです。ムフン。
今作、ゲームFGOのネタバレがあります。そして死んでる奴が生きてたりとかストーリーがそもそもおかしいとか、え?誰こいつ?とか一杯です。許容出来ない方はブラウザバックをお願いします。獅子王陛下万歳。
第1話
息を吸う。空気が旨い。身体が軽い。
眼を開けると、そこには金の麦穂が見えた。
「---選択せよ、我が兵(つわもの)」
? う、美しい・・・ッハ!
「・・・・」
あ、ありのまま、今起こった事を話すぜ?
ここはあの世だと思って眼を開けたら我が王がいた。
「・・・・」
何を言ってるんだと思ってるだろうが俺も何が起きたのかが分からない。頭がどうにかなりそうだ。死者蘇生だとか、催眠術だとかじゃあ断じてねー!
もっと恐ろしい王の威光を味わってるたった今!!
――想像してみて?
ぬわああ疲れたもおおお!って死んだように眠って翌朝眼を開けたら眼の前に金髪!ペリドート色の瞳!え?太陽と槍の女神様?みたいな美しくて綺麗(重言でより強調)な御方が居たらどう思う? 怖いじゃん!
知り合いでもびびるじゃん!とても言葉に出来ない!でもあなたに会えてほんとによかった。ラーラーーラアアア!
「・・・・それが貴様の。王に対する態度か。 分かった」
漆黒の巌の声が天地を震わせる。
え、何が分かったんだろう。俺まだ何も言ってないんだけど。
黒い甲冑を身に着けた苦労人気質風の男が、美しいコントラストといわんばかりに白く輝いている我が王に跪いた。
「王よ、この不届き者は王に対する反逆の意図が見て取れます。その証拠にこの態度、間違いありませぬ」
いや、多分俺貴方と同じ跪き方してると思う。
「・・・・」
「----」
王と無言で顔を見合わせていると、何だか色々思い出してきた。
俺をタコつぼゲッソー(クラーケンの亜種)ぶっ殺す為にスーパーファイア連打してる時の眼で睨んでる黒甲冑のお人は、アグラヴェイン卿。
ランスロット卿とギネヴィア妃の不倫を咎めたはいいものの、殺されちゃったお人だ。お懐かしい。
「---アグラヴェイン卿。下がるがよい」
「しかし陛下、」
「---私は下がれと言った」
「はっ・・・」
アグラヴェイン卿のにらみつける。効果は抜群だ。タイプ一致、俺の精神に四倍ダメージ。
「---選べ、我が兵」
「・・・・」
ぶつぶつ独り言を言うと異常者だが、心の中で言うのなら健常者だ。誰だってそうしてる。だからこれからもこうやって呟くとしよう。
―――我が王は俺に選択を迫っている。それは王の手足となってこの先報い無き戦いに身を投じるか、否か。
例えかつての仲間・同胞を手に掛けても、獣の如く最後まで動き続けられるか、否か。
「…………」
俺の答えは決まっているので、少しだけ周りを見渡そうと思う。
見やれば哀愁感じさせる円卓の騎士達が、それはもう全員・・・て、いや何人かいないようだ。
あの方々なら納得だけど。
「………、…」
「・・・」
俺は右膝を地面に着けて跪いたまま、左胸に手を当てて一礼する。
先程から異色の視線を感じているが、そこは華麗にスルー。ガレス卿は可愛・・・じゃない、見目麗しいが今重要なのは我が王のリアクションだ。
「---感謝しよう、我が兵。共に聖抜を成そうぞ」
よかった、伝わったみたいだ。相変わらずお美しいです我が王。
「・・・・・」
しかしこの兜? 暑苦しくは無いけど視界が悪い。しかもさっきから声を出しているものの、反響して外まで聞こえてないみたいだし。
俺の装備はフルプレートな鎧と兜に、背中にしょってるでっかい馬上槍。 なあにこれ?騎兵みてえじゃん。俺はただの城兵だよ。詳しく言うと、キャメロット城正門の警備についてたモブ兵Cって奴。 騎士の凱旋を皆と祝い、敵の接近をいち早く城内に伝え、飯炊きだって時にはやったよ。得意料理はバーンミート!(調味料無し)
「---アグラヴェイン」
「・・・は」
凛とした我が王の声。気のせいか、鉄壁・アグラヴェイン卿の声と表情に僅かな硬さが生まれた。
「---日没だ。 騎士達をここに」
「いいえ。その必要は有りません、獅子王」
眩しい太陽が失せると同時に、残りの円卓の騎士達が一堂に会した。
突然だが、俺は日没が嫌いだ。ガウェイン卿が通常の三倍じゃなくなるからとかじゃあない。気分の問題。
「………兄さん達」
俺と趣味が合うのか、パーシヴァル卿とガレス卿の声は悲しく、そして儚げだった。
「我らは貴方と袂を別ちます」
ケイ卿とパーシヴァル卿が一歩、前へ出た。
「---そうか」
「俺の主は騎士王(あいつ)だけだ。 獅子王では無い、断じて」
剣の柄に右手を飛ばすサー・ケイ。相変わらず、恰幅のいいすごい漢だ。
「これが我らの忠義なれば」
ガへリス卿達も剣を抜いた。 円卓同士での立ち合いが勃発する。いや、した。
あれ?今更だけど円卓の騎士じゃねえのに俺何でここにいるの?俺いらなくね?
「ぉぉおおおおおおおおおお!!!」
ってうわ! 俺と同じく一兵卒ですって兜に書いてある兵士達のエントリーだ!擬音的にはワラワラ。
・・・どうやら我が王は俺を含めたかつての自分の軍勢をも召喚・服従の是非を問うたらしい。
こんな一兵卒までだよ!!? 正に大盤振る舞い。そんな所も素敵だ。
「憎しみも恨みも無い。 さらば、我が同胞」
アグラヴェイン卿、モードレッド卿、トリスタン卿、ランスロット卿、ガレス卿、ガウェイン卿らが武器を抜き、かつての仲間達に突撃した。
その顔は異質なほど無表情に、笑顔に、悲痛に、覚悟に満ちていた。
「さらば!」
そして槍衾ならぬ剣衾がついに俺にも。 皆途轍もない表情を浮かべているが、彼らは王の招集に応じた強者の中の強者(ツワモノ)。
やるからにはいつだって本気なのだ。 なので俺もその意志に応える。
「・・・!」
そこで問題だ。馬に乗ってもいないのに馬上槍でどうやってこの攻撃を躱すか?
三択-ひとつだけ選びなさい。
答え①カッコいい鎧がチャーミングな一般兵Cな俺は突如反撃のアイデアが閃く。
答え②眩しくて美しくて見えない我が王が助けてくれる。
答え③無理。躱せない。 現実は非情である。
・・・俺がマルを付けたいのは勿論②だが、我が王はそこまで暇じゃあ無い筈。ここは答え①といこう。
「・・・・見事、だ」
馬上槍(ランスとも言う)は無駄に大きくて無駄に長い。馬に乗ってなけりゃとてもじゃないが振ることも突く事もままならない。 そんな槍を、どうやって手足のように扱って相手の剣を捌いて薙ぎ払うか?
答えはそのまま。 手足を使う、これにつきる。点数は相手の断末魔。
「・・・―――」
呼吸しながら爪先立ちになり、そこから急激に体重を無駄なく下方に落とすと、足で地面が割れる。そして前進。体重と重心が移動した際に生じるエネルギーを、手腕を連絡して槍に移す。すると俺の得物は夥しい速度を帯びる。
あとは槍の重さで相手の剣を全部弾いて無力化し、ついで首に柄を叩き込んで昏倒させる。
槍は武器の王様だよ、いつの時代も。・・・我が王には負けるけど。
「中々の槍働きだな、貴様」
「・・・」
アグラヴェイン卿に、俺は会釈だけ行う。
この人が他人を褒める時は裏しかない時か、裏が全く無い時だからだ。
「だが。 何故止めをささない?」
「・・・・」
やっぱり前者だった! その証拠に血で濡れた剣を俺の足元に突き刺している。
動けない。踏み出したら最期だよこれ、十死零生。
プランD、いわゆるピンチですね。
「王は命令を下された。敵は全て殺せと。 かつての同胞だろうと、例外は無い」
「・・・」
「先程の王への殊勝な態度で私を欺いたつもりか? 他の騎士達はともかく、見くびるな。王への反逆はこの私が断じて許さん」
久々だ。これぞ『鉄』のアグラヴェイン。
この意志があるかぎり、アグラヴェイン卿は不倒なのだ。・・・なので、俺は槍を手放す。
「む」
「・・・・」
兜越しに目と目が合う感覚。俺はこのお方とは戦いたく無い。
「戦場で武器を手放すとはな」
「・・・」
「私でなければ、」
「・・・・」
「貴様は不様にそこで倒れていた」
鉄の雷光が一閃。俺の後ろで兵卒達が倒れる音がする。一刹那遅ければ俺も彼らの仲間入りだっただろう。
そう、この益荒漢が剣を振るわなければ。
「・・・」
「無口な兵士だな。 が、悪くは無い」
信用してくれたのか。剣を腰の鞘に納めるアグラヴェイン卿。
応とも、合言葉は『皆仲良く』です。
「陛下の御為に、その槍を今後も振るえ」
「・・・」
頷く俺から、鉄の騎士は目を放さなかった。
かわる、変わる、変る。この世を回す獣が、奈落の裏から天上の面へと動き始めた。天地が軋み、人々は瞑る。世界が回れば、吹く風も変わる。昨日も、今日も、明日も。血潮に閉ざされて見えない。
だからこそ、切れぬ心を求めて。色褪せぬ忠を信じて。
次回『祝福』
変わらぬ忠など、あるのか。