城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
「――来たか」
正門にて待つ事しばし。 俺の耳に、こちらに向かう粛正騎士達の具足音が聞こえてくる。
それと同時にいつだったか聞いた事のある甲高い破砕音も、我が王がおわす聖都中心の王城より聞こえてきた。
・・・視線を動かすと、刹那ガウェイン卿が聖都東方に吹き飛んでいくのが見えた。おお、見よ。東方は赤く燃えている。
太陽の騎士である卿なら大丈夫かと思いますが、今すぐ再会はもう無理ですな。・・・どうかご無事で。
「・・・」
「――これで総勢7名か。偵察隊参加の命が下った強者達が、どうやら全員集まったようだな」
「・・・・」
「――オーイェイイェイイェ、ふざけんな。こんなのアリかよマジで契約違反だ!東方がツマんねえから一番良い仕事をって頼んだのにこんな野郎どもと一緒だなんてよ!!」
「――ああ。これじゃあまるでヤクの密売所だ」
「――トウホウトセイホウノヘイガ何故ココニ居るのか?コレガワカラナイ」
「――分からんのか?このたわけが」
「――あっ、どうも」
「・・・・」
「――頼もしい限りだな」
どこが!?ねえどこが!?!?
顔合わせの時点で一抹どころじゃねえ全くの不安しかねえよ!!
何だこのパリピ共!!全身鎧の野郎がこんな会話してたら何事かと思うわ!
誰も彼も言葉が通じねえ方に賭けるわ!
そして何で兵Bがここにいるの?君ビナー1でしょ小隊長殿!?
「・・・・」
「――君がビナー1か。私はこの偵察隊の長、ケテル1だ。 ・・・敵地偵察は少数精鋭が基本。生半な者では務まらん。ゆえに君がガウェイン卿に見いだされたと聞いた。よろしく頼むぞ」
「――こちらこそよろしく頼む、ケテル1。 兵士殿、気を揉んでおられるようですが西方はビナー2に任せました。彼は優秀です。問題ないでしょう」
・・・・・城壁西方にて。
「俺は防衛を行う!!!」
「俺は防衛を行う!!!」
「俺は防衛を」
以下略。
「・・・・」
思わずうろたえてしまった兵Cです。
城兵として召喚されたんだが砂漠横断偵察隊とかいう部隊に編成されてしまいました。
これだけで軽い小説のタイトルになりそうで怖い。
タイトルが長すぎる読み物なんて語感だけでお腹いっぱいだよ。出来れば止めた方がいいよ。
どの口が言ってんのかは分からないが、さて。 気を取り直して俺が所属する事になったこの部隊を見渡す。東西南北の城壁兵士で混成されたドリームチームと言えば聞こえは良いが、ぶっちゃけ付け焼き刃感が否めない。
「・・・・」
「――隊長。我々はまず何をしろと?」
「――作戦は?」
東方の兵士達がケテル1に言葉を投げた。
「――偵察はスピードが命だ、馬を使って一日で済ませよう。 最短距離で西の砂漠に辿り着いて敵陣をつきとめ、獅子王陛下に仇なす者がいない事を確認して、我々のいた痕跡を残さず引き揚げる。 ――南方の。山の民にも見つからず、ここから砂漠到達への最短ルートは?」
「――ルートは一つダケ。コノ門を抜けて南城壁に辿り着いてから西へ向かう。・・・ただしヒドイ砂嵐ですよ隊長?」
「――行くしかないだろう」
「――獅子王陛下は我らに、敵軍情報の報告を期待しておる!!前進あるのみ!!!!」
「――東方以外の兵士ってのは皆でっかいネアンデルタール人みてえだな。噂どおりだ!」
「――イクゾー!!!!」
「・・・」
俺が悪かった、盛りすぎなこいつら負ける気がしない。
―――ケテル1が言うには先程円卓会議が行われ、我が王より正式に偵察の許可が下りたらしい。俺達は聖都を出て西の向こうのそのまた西へ。
敵が何かしら軍事行動を起こしていないかの確認を行う為、砂漠とこちら側の狭間、通称燃焼回廊を通過する。
すなわち、スルーするのだ。もし何か言われたら、
「――? あ、どうも」
挨拶してやればいい。
・・・つまり見ての通り、これは挑発であり最悪威力偵察となる可能性大という事だ。
ちなみに聖都正門を荒らした不逞の輩どもはランスロット卿が討伐の任に就いたらしい。
今日か明日には、あの不届き者どもは死ぬか拿捕される。シャンパンでお祝いだ。 しかも最新の情報では、我らの砦のガレス卿らが山の民の頭目の一人を生け捕ったとか。
流石は円卓の騎士様だ。俺達も負けてられないな。
「――行くぞ、兵士達」
「・・・・、」
しかし俺達これで晴れて城兵から偵察兵になっちまったってわけだ。
チェーンマイン振り回すケンプファーがカメラガン撃ちまくるザクフリッパーになったみたいなもんさ、詐欺だよ詐欺。とか言われないかな。問題ない?誰も気にしない?
・・・・正直この城から離れたくないのが俺の本音なんだが、仕事なら致し方ないね。俺はぐるりと槍を振って己を鼓舞した。
「――では状況を開始する。足となる馬はこの通り、アグラヴェイン卿より我ら全員に与えられた。総員、乗馬。 好きなウォーホース(軍馬)をひけ」
「――乗馬、了解」
「――乗馬、了解」
「――了解!」
「・・・」
了解。
「ブルッヒヒン」
「・・・・?」
おお?馬なんて久々に乗るけどこれは佳い馬と見た。どうどう。 額に白い模様があるのがチャーミングだね、君は。
「ブルブルヒヒン(的盧といいます)」
「・・・」
――獅子王陛下の寄る辺に従い、汝の身は我が下に。我が命運は汝の蹄に。
「ブルッヒヒヒーン!(ならばこの運命、汝が槍に預けよう!)」
「・・・・」
手綱に触れ、跨る。 何か声が聞こえたような聞こえないような。気のせいだよね?
「ブルブルル(気のせいですね)」
「・・・・――」
俺は明後日の方を向いた。
「――成すべき事は速攻だ。迅速で終わらせ聖都に帰還するぞ。 我らが獅子王陛下の御為に!」
「――おおおおおお!!!!」
「・・・・」
い、いくぞー!!!!!!!
デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!!
・・・・俺達生きて帰ってこれると思うか。
不安しかない中、偵察隊は聖都を後にした。
◇
―――松明の明りが灯る中、石廊下の上を足音も出さずに歩く誰かの影。
絶えて物言う事も無い、それが自分が生み出した物だと気付いて、わたしは目線を振り切り扉を開けた。
「ご苦労様です、皆さん」
「――総員円卓の騎士様に、敬礼」
「…外して下さい」
「――はッ!」
『太陽を冠する王よ。 ---貴公らがこの聖都に何もしなければ、我々は手を出さぬと約束しよう』
………あれは純白の聖都が出来て間もない時の事だった。
誰かと念話(テレパシー)でもしているのか。後ろ姿の王はわたしを五分ほど玉座で待たせた後、こちらに振り返ったのだ。
『---待たせたな。ガレス卿』
『勿体無き御言葉。 …王よ、わたしに何用でしょうか?』
『---無論王命だ、サー・ガレス。まだ少々先の事になるが、卿には聖都の西に砦を建設。そこの長になってもらいたい』
『承知致しました。して、その目的は』
『---解っている筈。今の卿ならば』
・・・・・。
『…山の民と、砂漠の王に対する牽制ですか。 表向きは』
『---流石は我が騎士。許す、裏の理由を申してみよ』
『……戦支度。かと』
王はしばし沈黙した。ただ玲瓏なる玉座の間と此方を見詰めるペリドート色の瞳が、わたしを肯定していた。
『---ランスロット卿とモードレッド卿を、私は先程遊撃部隊に任命した。砦への兵員と武具、食糧の輸送、調達も無論兼ねている。---砦が出来次第、物資は貴卿の好きに使うがよかろう』
『……畏まりました、王よ。 ただ一つ、質問をよろしいでしょうか?』
『---許そう』
『………。何故、不浄のわたしなぞを?』
『---それが答えだ。サー・ガレス』
・・・・・。
『為すべき事を為します。―――我が王の為に』
『---励むがよい』
・・・玉座の間を退室したその数ヶ月後。
資材を持ったランスロット卿とわたしの部隊はこの砦の建設に着手。王命どおり、わたしは長としてこの砦の運営に勤しんでいた。
「―――そういえば、ここの名前をまだ決めていませんでしたね。何か良い案はありませんか? 可憐なる翁さん」
「…。………」
「相変わらずのだんまりとは頭が下がりますが、些か飽きましたね。ここの兵士達はあまりわたしと会話らしい会話をしてくれないですし。 なので貴女と是非話をしてみたいのです。――翁よ。山の民は、この先一体何を考えておいでなのですか?」
「…。………」
髑髏の仮面を被り、うんともすんとも目線すら何も語らない女性。地に跪いた山の翁ハサンはここに捕らえられてからずっと、一向に埒が明かないまま。
なのでわたしは彼女の髪をさらりと撫でた。
「―――わたしは貴女に触れられます」
「…。……っ!?」
「わたしは獅子の円卓、『不浄』のガレス。我に害為すモノは何もかも受けつけません。ゆえに貴女の力も技も、ここでは無力。 こうしてボディランゲージでフレンドシップを示しているのですから、少しくらい一緒にお喋りしてもいいのではありませんか? 山の翁殿?」
「…。………、」
髪と頭をポンポンと撫でる。
幼子に、ここが何処か一から教えるように。花を愛でるように。
そして幾分経った後、小花の花弁が開くような声が聞こえた。
「――――貴女は。人間ですか?」
「………」
「…。……私と同じ、なのですか?」
「違いますよ。この身は王の獣です」
「嘘。…。……だって貴女、私と同じ匂いがします」
仮面の下。哀れみの視線が、まっすぐにわたしを射抜いていた。
「――…。次はもっと有意義なお話をしましょう、アサシンさん。 今度は我が兄と共に」
「……っ!!」
手を離し、伸ばした人差し指から白色の雷光を浴びせ気絶した翁を尻目に。わたしは地下尋問部屋を後にした。
「アグラヴェイン卿に連絡。翁は口を割らず。……ご助力を願うと」
「――了解」
「ああそれと。 砦の警戒レベルを上げなさい。勘ですが、じきにお客様が来るでしょう。歓迎の準備を怠らず」
「――ははッッ!」
煙立つ人差し指。中指、薬指。小指、そして最後に強い親。
五本指折り、わたしは待つ。
何故にと問う。故にと答える。
だが、人が言葉を得てより以来、問いに見合う答えなど無いのだ。
問いが剣か、答えが盾か。
果てしない打ち合いに散る火花。
その瞬間に刻まれる影にこそ、我々は潜む。
次回『熱砂の回廊』
飢えたる者は常に問い、答えの中にはいつも罠。