城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
【西方方面―剣の粛正騎士】無色③白① 4/6
Enforcement knight of the west side(sword)
クリーチャー―軍人・レジェンド。
【聖都の獅子王】があなたの手札か場か墓地にある限り、あなたはレジェンドと付くパーマネントを何枚でもプレイできる。
(白):このパーマネントをアンタップする。
『俺は攻撃を行う!』
『俺は防衛を行う!』
『敵が来たぞ!』
――兵士は言葉で自他を震わせ、それは伝播する。
『ローナルド殿。お願いがあります』
『―――?』
かつてのキャメロット城正門に、その男はいた。俺はその人を射殺すよう睨み付け、威圧と声を掛ける。
今思えば、頼み事をする声では決してなかった。
『一度模擬戦闘をやって頂きたいのです』
『――』
『ローナルド殿の模擬戦闘の腕は正門で指折りだと聞きました。 是非薫陶を授けて頂きたいのです』
『―――?』
『何故? 私は貴方と同じく真にこの槍を王に捧げています。ですから我らが王を守る為、貴方の技を学ばせて下さい』
『―――』
首を振り、歩き去る男。無視しているわけではないが、その表情には無理と書いてあった。
『戦うまでもないのですか、・・・俺には負ける筈がないと思ってるんですか?他人に自分の技を盗まれるのがそんなに怖いですかッッ!!!』
『―――』
歩き去る、苛つく背中。
『俺は諦めが悪いですよ、―――ローナルド殿ッ!』
いけ好かないその背中を追い越し、手に持つ槍を鼻面に突き付ける。
殺されたって文句は言えない挑発行為。
先端を逸らされる俺の槍と、構えている男の槍。
『―――』
『やっと乗って頂けますか。・・・・――先輩ッッ!』
ずっと気に入らねえと思ってたそのツラ、地に這い蹲らせて踏んでやる。
◇
「――ケテル1。起きろ」
「――・・・む。 何だ、サシの勝負は?」
「――寝ぼけているのか?少し休むから120秒後に起こせと言ったのは君だろう」
「――・・・・」
意識が覚醒する。
砂漠と馬と、部下の姿。手慣れた自分の槍と、こちらを見つめるビナー1。
「――疲れているようだな。無理もない、今は南方の兵と兵士殿が見張りに付いている」
「――貴様は強くない」
「――そろそろホルモン剤を飲まなくちゃ」
「――んなもんよりもっと良いヤツがあるぜ?相棒」
かぶりを振って得物を持ち直す。
妙な夢を見た気がしたが、もはや思い出せなかった。
「――・・・どうやらそのようだ。 すぐに出発しよう」
「――南方の。そして兵士殿。ケテル1が起きました、……聖都の方角はあちらですよね?」
「・・・」
指し示す兵士の指。見慣れない鎧の背中。
「――、むう」
矛盾だ。とても懐かしいと思うのは、何故なのだろう。
◆
・・・・もしかしなくても迷ったのではないか?
熱砂の出会いからの帰り道。
砂嵐は止んだものの、動き続ける兵Cである俺の眼には未だ果てしない砂漠が広がっていた。 腹時計的に、我々偵察隊はもうかれこれ48時間は移動し続けているものと思われるのだが・・・・。
「――おい相棒。ほら、一杯やれよ。故郷の聖都の味だ」
「――助かる。 ッぁあ、今の俺達の五臓六腑にも水分は染み渡るな」
水筒を手渡す東方の兵士達。いいな、気分的に俺も飲みたい。飲めないけど。
「・・・」
「――・・・ヤハリミョウダナ」
「――ケテル1。時間の感覚が変なのは私だけか? 我々は行きよりも帰りの方がこの砂漠を進んでいると思うのだが?」
「・・・・」
間違ってないよ兵B。聖都への方角は合ってる筈だけども、俺達進んでいる感覚がしない。つまり・・・。
「――・・・確かに。今考えられるのは」
「――タイヨウオウノ罠、カ?」
「――こんな小賢しい罠を仕掛けるようなタマには思えなかったが・・・」
「――いっそ逆走してドンパチカチコミに行くか?その方が面倒がない」
「――貴様は強くない」
「――もういっぺん言ってみろよ西方の。てめえさっきからそれしか言えねえのか?東方を舐めんじゃねえぞ!!」
「――よせ! ・・・今一番懸念されるのは、我々が迷っている事ではない。我々が迷っている間に、聖都に何か起きたかだッ!!」
流石だァ隊長。俺もそう思うな。
「――しかしケテル1。 本当にこれでよかったのか?」
「――何がだビナー1」
「・・・・?」
兵Bが兜の下部、顎の場所に手を当てた。
「――これはあくまで私的な意見だが、獅子王陛下は太陽王を聖抜の邪魔と判断していない。即座に潰さず盟を結んでいるのがその証拠だ。 だがガレス卿らに砦を建設させたのは、――私には戦支度に見える」
「――何を言うかと思えば。盟を結んだとはいえ、相容れぬ敵である事に変わりはないだろう。それのどこがおかしい?」
「――そこがおかしいのだ。相容れぬ敵と判っているなら、獅子王陛下は一揉みに消し潰す筈。 ――ちょうど、白亜の聖都を御造りになられたあの時のように」
「・・・・」
・・・・・。
「――今回の我々の偵察で、太陽王らに此方へ攻め入る用意は無いように見えた。 もしも聖都を落とすつもりならば何千、いや、万単位の兵が必要な筈。魔術的な何かを使用したとしても、そんな大人数をずっと隠しておけるわけが無い。 ――つまり一見、太陽王らは此度の反乱には加担しておらず『白』という事になる」
「――・・・・、」
「――そして彼奴のあの言葉。――直接、聖都に、私が来るという言葉。妙だとは思わないか?まるで投降だろう、それは」
「・・・・」
「――ビナー1。何が言いたい」
「――もしも投降ではないとしたら?」
・・・・・。
「――兵が見えなかったのは、太陽王自身がそれを必要無いほどに強いのだとしたら? サーヴァント・オジマンディアスは単体で、万の軍勢に匹敵するほどの力を持っているとしたら?」
「――まさか・・・」
「――我々はいいように利用されたのかもしれん」
「――ヌウ。コチラガワニ近寄ル口実ヲ与えてシマッタカ・・・?」
「・・・」
「――成る程面白い高説だ。 が、問題なかろう。敵がどれほど強くとも、我らが聖都は落ちん。円卓の騎士様、獅子王陛下、そして我ら。獅子の爪牙は朽ちる事も折れる事も無い!! ――来たならば叩き潰せばよいではないか。魔人リチャードの時のようにな!!」
「・・・・」
檄を飛ばすケテル1の声を聞き、俺は兵Bの肩を叩いた。
「――?…兵士殿?如何しましたか?」
「――俺も隊長にご同意だね。・・・ところでよ、一つ気になる事があるんだが」
「――何だ?東方の」
何か閃いたのか。東方の兵士は地面の砂漠を執拗に蹴りながら言った。
「――実はずっと気になってたんだ。・・・聖地を獲った戦の時、あの魔人はどうやってあんな数の鉄兵を生み出してたんだろうな?」
「――? 宝具だろう。あの桁違いの魔人には、それくらい可能と見るのが自然だ」
「・・・・・」
俺は両手で強く握っていた馬の手綱を緩めながら、馬ごと兵Bの前に出た。ここからなら仲間全員をカバーできる。
「――いいや、アイツは魔力的な何かを使っている様子は無かったぜ。俺はこれでも弓の粛正騎士だ、そういう流れはちゃんと感じるさ。・・・でもよ?」
「――? 兵士殿?」
「・・・・・」
「――媒介物が、もし有ったとしたら?」
「――媒介?」
「――聖地中心は血で濡れていなかった。けど遠征軍どもは血だらけで、一目散に逃げ出してた。・・・あんな大人数が血を垂れ流してりゃ、色々ベッチャベチャになってた筈だろ?」
「――それは。 確かに」
「――つまりあの魔人は空気中だか地面だか、自分の領域に流れた血を媒介にして鉄の兵士を生み出してたんじゃないかと俺は思うんだ。原理は考えるだけ無駄だけどよ。 ――そして俺らは全身鎧だから滅多に血を流さない。だからあの地獄の四日目に、満を持してリチャードは俺達の前に姿を現した。・・・もう血が無いから」
「――。 つまり、まさかお前が言いたいのは――」
「――なあ。だから・・・・もしもだぜ?太陽王がさあ、」
「・・・・・」
兵B、皆の衆。振り向かず走れ。
「――この砂を媒介に兵を生み出せたら・・・・・やばくねえ?」
『お前のような勘のいい兵士は好きだぞ?余はな』