城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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第23話 Awkward Justice(前編)

 

 

 

 地下尋問部屋から廊下に出る為の出入り口は、重い鉄扉である。

 

 外敵を入れず捕虜を出さない為、造りは頑丈で開閉の際は多少音が出る。現に、部屋に侵入した異邦人・カルデアの者達は例に漏れず物音を立ててしまっていた。

 

 ・・・だが、しかし。 突如訪れた騎士は何ら音を立てず、トレーを片手で支えながらその扉を開閉した。

 

「・・・・腐っても円卓か」

 

「立ち話もなんですし、どうぞ。手製のホットミルクです」

 

「・・・敵の施しなぞ受けるか」

 

「毒なんて入ってませんよ。心外ですね」

 

「……頂きます」

 

「立香!?」

 

 盾持つ守護者と共に、サー・ガレスに近寄る女性。淡い赤色の髪をふわりと揺らしながらカルデアのマスターの一人、藤丸立香は温かいコップを手に取った。

 

「先輩、大丈夫です。ガレス卿が料理に一服盛るなんて有りえません。………?あれ?」

 

「その通り。そんな事をするくらいならこの剣で自ら喉を斬ります。 よくご存知で」

 

「……??」

 

ずずず~。

 

「立香、音」

 

「おいしい!ご馳走様でした!」

 

「ふふ、お粗末様です。…わたしが初めて習った料理がこのホットミルクでしてね、以来牛乳を扱った物にはちょっとした自信があるのです」

 

「兄さん達も飲んでみなよ!これ本当においしいよ!」

 

「・・・・貴様。一体何の真似だ」

 

 立香と同じく(こちらは無音だが)ホットミルクを飲むガレスが、珍しくコトリと。トレーにコップの足音を響かせた。

 

「一つ教えて頂きたいのですよ。――貴方達は、何故獅子王陛下に刃向かうのですか?」

 

「人理の為」

 

「成る程、模範解答です。 しかし皆様ご存知の通り、この世界はもう滅ぶことが決まっています。獅子王陛下はそれを良しとせず、何が何でもヒトを守護する事を決定された。――これのどこが悪いと?何故陛下の邪魔をなさるのです? 正しきヒトを護って何が悪い」

 

「護る・・・だと? 罪無き人を聖罰と称して殺しッ、自分達にとって都合の良い人間だけを選別するなど許されるかッ!!」

 

「万人が万人救われる筈が無いでしょう? 何時だって何処にだって選ばれなかった誰かはいます。―――そして、獅子王陛下は人々に聖抜を強制していない。むしろ城に選ばれるチャンスをお与えになっている。 知りませんでしたか?物事の半分は運ですよ」

 

「だからって、…殺すなんて駄目だよ!!」

 

「それは非道です!!!」

 

「非道でしかヒトを護れない状況なのですよ、ここは」

 

「・・・・・」

 

「貴方はどうお思いですか?異邦のマスターさん?」

 

 先程から黙ってガレスを見つめているのは三人。

カルデア側についさっき助けられ、仲間に加わった英霊・俵藤太。玄奘三蔵。そして立香の兄、黒髪の男性マスターである。

 

「兄さん」

 

「先輩」

 

「・・・、君はどう思ってるんだ?」

 

「どう?とは?」

 

「獅子王のやり方、どう思ってるんだ?」

 

「…正しいですよ」

 

「それは本当?」

 

「ええ」

 

「物事の半分は運。 この世界を見て、君はそんな言葉一つで片付けられるのか?」

 

「ええ」

 

「嘘ね。……私の眼は誤魔化せないわよ、ガレスちゃん」

 

『ガレスちゃん!?!?』

 

「ドクター、今は黙っていて下さい。 どういう事ですか?三蔵さん」

 

ガレスを強く見つめながら、三蔵は瞬き一つせずに言った。

 

「――…貴女、既にこっち側じゃないわね?」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「獅子王から貰ったっていうギフト、それのせいかしら。それとも無いはずの果てが有るこの世界の影響? ガレスちゃん。………貴女も獅子王も、もう英霊じゃないの?人としての心をとっくに亡くして、神様にでもなってしまったの?」

 

「……。 ―――フフ」

 

ガタリと。冷笑と共に、ガレスはトレーを地に置いた。

 

「勘のいいヒトは好きですが、少々観えすぎましたね。キャスターさん」

 

「…!?」

 

「心を亡くす? 何を今更。そんな物、獅子王にもわたしにも必要ないんですよ」

 

・・・・・。

 

「心があるから真実を見失い、保身と妥協を重ね、独り絶望という汚水(ドブ)に堕ちて終わる。ヒトの人生などそういう物。 …誰かを救いたいのなら、護りたいのならばそれを凌駕する事が第一。あの御方は、ついに御自身を超えられたのですよ」

 

「それは超えたとは言わないわ、ガレスちゃん。 辞めたって言うのよ」

 

「―――結構。それで誰かが救われるのなら」

 

『!? 円卓の騎士、戦闘体勢!構えてっ、みんな!!!』

 

カルデアの者達全員が構えると同時に、ガレスは全身をだらんと脱力した。

 

「――『不浄』開放。我に浄化は不要なり。 さあ、始めましょうか」

 

「敵・円卓の騎士サー・ガレス、来ますっ! マスター、指示を!」

 

 

 

 

 開戦は驚きと共に始まった。

腰に佩いた剣は抜かず、騎士は徒手空拳で立香達に突き進んだのだ。

 

『何だって!!?』

 

 それは武器など必要無いという侮りなのか、はたまた武器を持てぬほどに両手が黒く爛れているからなのか。

 

「拳!?円卓の騎士なのに!!」

 

「円卓にも色々な者がおるのだな・・・ッ」

 

 ・・・理由はさておき。 ギフトを持った円卓の騎士を相手に如何にして無事に逃げきるか。それこそが今のカルデア側の勝利条件であった。

 

「屈辱ですか? ならば我が剣、抜かせてみなさい」

 

「ガレスちゃん!貴女、間違ってるわ!!」

 

「…御託はわたしを倒してから存分に」

 

「もう!せっかくの可愛い顔がそんな無表情じゃ台無し!! マスター、ぶちのめすわよ!!」

 

「静謐の。 お前の力は、」

 

「…。…残念ですが。あの騎士は私の毒が効きません」

 

「・・・・何と」

 

「わたしが陛下より賜った祝福は『不浄』。我は一点の淀みも無い白い直線。 ――そしてわたしは、自身が護りたい者のみを護る者」

 

「それが騎士の言い分か!!!」

 

「何とでも。それが獅子の円卓の総意である!!!」

 

 ガレスの拳が地下のはらわたを抉り、瓦礫という名の血潮を撒き散らせる。

 沸き立つ土埃は刺激物となって鼻腔を刺し、立香達人間の放つ荒々しい吐息は今ここに獣がいるのだと十二分に理解した証拠であった。

 

「ふんッ!!」

 

「トータっ、大丈夫!?」

 

「要は相撲を一番という事だろう?ならば拙者に任せろッ!」

 

「―――……」

 

「応さあああぁぁぁあああああ!!???」

 

 カルデアのマスターの一人・藤丸ぐだおは今まで五つの特異点を英霊という人知を超えた者達と共に踏破し、経験した観察眼にて、新しく仲間になったアーチャー・俵藤太が見事投げ飛ばされた状況を見て取れた。

 

 ・・・まるで大型自動四輪車同士の衝突。

互いに手四つで正面からぶつかったと思いきや、俵藤太はガレスにその突進力を見事いなされたのだ。

 

 それは正真正銘受け流しの技巧。

合わさった右手と左手の力のベクトルが交互に絶妙なタイミングでオンオフを繰り返し、相手の力と重心、そして身体すら明後日の方向に投げ飛ばす業前(ワザマエ)。

 

 ・・・百聞は一見にしかず。

何だ簡単そうだなと見えるが、試しにやってみて初めて解る難しさ。  何故なら『術』(アーツ)とは、百人が百人同じ事をやっても上手く出来ないからそう呼ばれるのだ。

 

「ッッッフ!!」

 

「何て重い拳……っ。 技量もさる事ながら威力も想像以上とは…」

 

「マシュ!まともに受けないで!」

 

「――厨房に居た頃。剣も槍も振れなかったわたしは、単純な力の底上げと扱い方の鍛練しか出来ませんでした。……これらはその名残。この程度のわたしに勝てないようでは、ね」

 

「負けません!!!」

 

「そうこなくては!!!」

 

シールダーの盾とガレスの拳が、互いに火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

「――おい。無事か、ビナー1」

 

 開戦の号砲の如き戦闘音と誰かの声が、地下尋問部屋の外廊下で倒れている私を目覚めさせる。顔を起こすと、そこには生死を共にした仲間達がいた。

 

「――う、ん。 何とかな。他の者は?」

 

「――俺ら東方勢はぴんぴんしてるぜ」

 

「――衛生兵ー!!!」

 

「――ヌウアア!ココマデカ・・・・!」

 

「――皆無事のようだな。奴ら、止めを怠ったか?」

 

「――違う。恐らくこの砦を覆うガレス卿の力のお陰だろう」

 

「――? 兵士殿は?」

 

「――分からん。一体どこにいるのか・・・」

 

「――とにかくだケテル1隊長殿。今俺達のすべき事は二つに一つ。 すぐそこでドンパチしてるガレス卿に加勢して敵をブチのめすか、西方兵士殿と合流して敵を皆ブッとばすか」

 

「――・・・・いいや、第三の選択肢だ」

 

「――なに?」

 

ケテル1が顎で先を促した。

 

「――上に、地上に出るぞ。・・・ここはもう持ちそうにない」

 

「――ソノヨウダナ」

 

「――マジかよ!おいこんなトコで地割れ!!?」

 

「――階段へ急げ!!!」

 

 戦闘の余波がここまで凄まじいとは。

壁が、地が割れる音を聞きながら、私達は地下を後にした。

 

 

 

 

 

 


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