城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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第23話 Awkward Justice(後編)

 

 

 

 ―――サー・ガレスとカルデアとの戦いは地下尋問部屋だけに止まらず、天井をぶち割り岩壁を粉砕して地下から地上へ移動しながらの戦闘へと移行していた。

 

 マスター達はサーヴァントに補助や助言を出し、時折ガンドといったデバフ(debuff)を行ったが、ガレスには如何なる効果も受け付けなかった。

 

『何てこったッ!! ルキウス君がここにいてくれれば・・・!』

 

「あんな苦しそうなルキウスさんを、ここへ連れて往くわけにはいきませんっ」

 

「ドクター!所長!対処法は・・・!?」

 

『敵騎士の属性はセイバーのようだけれど、貴方達が戦ったガウェインやモードレッドのように特別ギフトでブーストしているわけでは無いわ。 バッドステータスは期待できないみたいだけど、こちらは数で圧倒してる。ジリ貧を狙いなさい!』

 

「了解!!マシュ、お願い!」

 

「真名、偽装登録。―――いけます」

 

「いいえ。させませんよ?」

 

 魔力を漲らせたシールダー、マシュ・キリエライト目掛けてガレスの拳が音速を超えて直進した。

 

「えいッ!!!」

 

「三蔵ちゃん!」

 

「拙者もいるぞッ!!」

 

「トータ!合わせて!!」

 

「応!!」

 

玄奘三蔵と俵藤太の掌底が、拳ごとガレスの身体を後方に吹き飛ばした。

 

「………」

 

「宝具、展開します!」

 

 マシュが盾を前線にて叩き付けると、光の壁がカルデアの者達全員を護るように包み込んだ。其の名を『人理の礎』。 

 

 ・・・デミサーヴァントであるが故に、擬似的に展開される彼女だけの宝具(パーソナルアート)。 ロード・カルデアスと所長達は呼ぶが、何か違うとマシュは人知れず思い続けていた。

 

「! これは凄い・・・、身体に力が!」

 

「…。このような宝具も有るのですね。暖かい…」

 

「今です!皆さん!」

 

「………それが貴女の。宝具ですか」

 

光を身に纏ったキャスター・玄奘三蔵の掌底が音を置き去りにし、

 

「そんなモノが………」

 

そして俵藤太の放った矢と、呪腕のハサンと静謐のハサンのダガーが。シールダーの盾が、

 

「その程度のモノが……」

 

ガレスの身体に深々と突き刺さった。

 

「え……?」

 

「―――足りませんよ。全く」

 

 まるで何事も無かったかのように。

『不浄』のガレスはマシュの耳元で呟くと、一息で小高い建物の屋根へ跳んだ。

 

「拍子抜けの皆さんをわざわざここ(地上)へ誘ったワケと、この世界で我らが獅子王陛下が定められた禁止事項をお教えしましょう。 まず一つ、聖都内での処刑行為。二つ、モードレッド卿に対する日没後の聖都への立ち入り。―――そして最後、」

 

 それは時間が止まったような瞬間だった。

屋根に仁王立ちするサー・ガレスが、おもむろに両の拳を広げ、手のひらを天の暗闇に向けてこう言ったのだ。

 

「『暴走』と『不浄』の祝福。双方屋内での完全顕現禁止」

 

「………、まさか」

 

「―――『不浄』顕現。我は不滅の穢れを浄化せし白き雷光」

 

 言葉が終わると、ガレスの白くなった十本の指は空を白ませた。

闇夜を照らす十のいかづちが指先から天に昇り、彼女の身体からもまた一本の白雷が空に向かって伸びた。

 

 ・・・そして合計十一本の雷霆が、さながら竜の息吹のように雲と闇を晴らして砦の空に白色の彩りをもたらした。

 

「…………――綺麗」

 

『惑わされないで、マシュっ。………こっちの計器の測定がヒトの英霊の域を超えてると出ているわ。 天の化粧すら塗り変えるなんて、何が不浄よっ!!』

 

しかしその絶景に、あらゆる生命が魅せられた。

 

「理解できなくて当然です。 ギフト(祝福)とは、王が我らに与えたもうた力。それがこの身に馴染めば馴染むほど我らは王に、―――神に近づく」

 

・・・・・。

 

「この我が力の事は同胞にも伝えていません。なので存分に、―――さあ始めましょうか」

 

 この時。

マシュ・キリエライトが咄嗟にマスター二人の頭上に盾を構えたのは、正に奇跡と言って差し支えないタイミングであった。

 

 一本の落雷が彼女の盾の丸みで流れて地面に消える、――が次の瞬間かるく十倍の量の雷が彼女たちの周囲に降り始めた。

 

「マシュッ!!」

 

「動かないで下さいっ!!先輩方!!!」

 

 一歩でも動けば、直撃する。…いやそもそもこのまま動かなければ大丈夫という保証も無い。それはこの場にいる人間が同時に思った事だった。

 

「―――考えた事はありませんか?皆さん。 何故世界は、昔も今もいつも何処も上手くいかないのかと」

 

「上手く?………っっ!!?」

 

 雷が降る。降り続ける。

そして雷霆を背にして尚白く光るガレスが、ヒトを見下しながら言葉を独り言のように口にした。

 

「皆を助けたいと思っても、それは無理と現実を見せ付けられる。だったら自分のこの腕で庇える誰かだけでも助けたい。 ―――それすら出来ないと誰かを諦め、自分だけが助かりたいと思い至って思考を停止する。それが人間です」

 

「……っく。何を…?」

 

落雷の量は増えに増え、咆哮する天の雷声はまるで一つの巨大生物を思わせた。

 

「―――生前のわたしは、ランスロット卿を何とか助けたかった。 あのお方には絶対何か理由がある。潔白の身で臨めば、騎士として応えてくれる筈と。そう信じて疑っていなかった」

 

「マシュ殿!この雷、ただの雷ではない! 触れればたちまち・・・ッ」

 

「待ってて皆!今あたしのこの拳で………――あぐ!!??」

 

「三蔵殿!」

 

「―――ギネヴィア様はお美しく聡明でした。わたしは、必ずや助けに来るだろうランスロット卿と共にあの方も救おうと思っていた。 でも皆、不可能でした」

 

「雷が地面で跳ねてる!危ない、マシュッ!!」

 

「動かないで下さい!マスター!」

 

「物事の半分は運命。全ては全部運と巡り合わせが悪いせいだ、と。

―――否、断じて否。あの時もっと力さえあれば、全部何とかなったのです。 この雷のように穢れも運命すらも塗り潰せる力があれば。―――だからわたしはあの日ギフトを受け入れ、王と共に今度は誰も彼も救うと決めた」

 

「ぐわああああ!!!!」

 

「呪腕さん!?」

 

「―――でも聖地奪取の戦は、わたしにそれすら不可能な事を教えてくれた。 死のうと思ったけど、あの兵士さんが頑張っているのだからもう少しだけ頑張ろうと思った。―――そして今、」

 

「ぅああああっ!!」

 

「静謐さん!!!」

 

「―――わたしはついに獅子王様と同じになった。 己を全うするだけの、ヒトを超えた獣に。やっと、やっと!やっと!!!」

 

・・・・・。

 

「―――もうわたしは諦めない。もうわたしは絶望しない出来ない。わたしはガレス!!! この手を穢したこと無いただの騎士として!!!わたしはわたしの正義を成し遂げる!!!今度は絶対に護ってみせる!!!!」

 

もう誰も、傷つきませんように。

 

「だから。―――邪魔な汚れは消え失せて下さい。この世ごとね」

 

 ・・・ガレスが白い指を眼下に向ける。

それは竜の化身となった雷霆が人間達を襲い来る合図。マシュの盾で防いでも、地や壁で跳ねるそれは雷竜の顎(アギト)となって立香達全員に直撃し続けた。

 

 ――その雷撃は大英雄だろうと誰であろうと、とても耐え切れる代物では無かった。

 

「………ぅああああ!!!!」

 

「――ッッッッーーー!!!」

 

「………っ!!!!……っ!」

 

 神鳴りをその身に受けた人間から、悲鳴など出るわけも無い。

それは生存方法を模索する為に脳が身体に命令を出した結果であり、一撃で身命の一切合財が終わる何かを食らえば、生存を模索する事は非効率で無駄な事である。

 

「・・・・」

 

「…………」

 

 ――人間の細胞・遺伝子が連綿と受け継いでいる、おぼえているこの真実。 弱者と無駄は淘汰され、種の保存という名の取捨選択の結果が我々(現人類)だという事は、心が理解出来ずとも周期的に生まれ替わっている約37兆2000億個の細胞は皆理解している。

 

 ―――だから。今受け入れれば、楽になる。現実を。

 

「嫌だ」

 

・・・・・・。

 

「オレは、辞めないッ」

 

「私は、諦めないっ!」

 

「―――、――何ですって?」

 

『不浄』のガレスの視線の先に、誰かが立ち上がる。

 

「・・・貴女は。歪んだ力だけに、魅入られてるッ」

 

「人を辞めて、本当にいいの?人を守れるのは、同じ側の人だけじゃ、ないの?……ガレス卿っ! …私達は、幾つもの特異点を旅してきた。そこでの人は、人のまま、何かを為し遂げようとしてたよ。頑張ってたよ!」

 

・・・・・最後まで。

 

「―――何故立ち上がれるのです。力の差は、十全に思い知った筈。貴女達はこのわたしには絶対に、」

 

「……ガレス卿!貴女は、間違ってるっ!」

 

「オレ達は、諦めないッ」

 

「私達は、やめたりなんてしない!」

 

最期まで。絶対に。

 

「せん、ぱい………っ!」

 

「……何ですか。それ。貴方達はゾンビか何かですか? …何で、何でそんなボロボロなのに。眼だけが―――」

 

「だって、決めたから」

 

「たとえ明日が来ないとしても、あの小さな手を取ったから!!!」

 

「……先輩っ!」

 

―――だから、絶対に。我々は負けない。

 

 

 

 

 ……その時を、わたしは今際の際でも鮮明に想い出せると分かった。

 

歯を食いしばって、血を流す膝になけなしの力を込めながら立ち上がる先輩方の姿を。

 

 同時に光が迸るこの円盾と、駆け抜ける風の芳香を。…降り続けている雷とは違う、月光のように神秘的で綺麗な光を。

 

「―――サーヴァント・セイバー。闘う意志と、召喚に応じて参上した」

 

「………」

 

 金の稲穂の髪。

どこか先輩に似ている、強い意志を秘めたエメラルド色の瞳がこちらを向く。

 

「―――問おう。貴方が私のマスターか」

 

 時が止まった夜天の霹靂の下。

わたしの胸の中の何かが、今動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




聖都と砂漠、カルデア、兵士、獅子王、円卓の騎士達。縺れた糸を縫って、神の手になる運命のシャトルが飛び交う。
流れ着いた特異点の地表に織りなされる、女神の企んだ紋様は何。
巨大なタピスタリーに描かれる一つのドラマ。
その時、騎士は叫んだ。我が王よ!と。
次回『Vector to the Heaven』
いよいよ、キャスティング完了。



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