城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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第24話 Vector to the Heaven

 

 

 

 ―――肌がざわつく感覚が止まない。

 

 

 砦の外にて、俺はアサシンの放つ漆黒色のダガーの群れを薙ぎ払い続けていた。

 足腰を使って時に回転し、時に沈み込む。重心含め『力』を最大限に利用し続ける事は、兵士の基本。

 

 ・・・個人同士の戦いの場合大抵はこれで何とかなる。だが誰が言った言葉だったか、――戦いは数だよ。 

 

 甲冑の至る所が敵の攻撃で軋むという音を聞きながら、俺は敵を殺すべく槍を振るっていた。

 

「・・・」

 

「―――生き汚い兵卒が」

 

「まだその武器を振るうか。たった一人で」

 

 無論。たとえ疲労で脚が動かせなくなっても、腸骨含め骨盤が動けば人体と重心は経験上勝手についていく。そして俺は獅子王陛下の爪牙。疲労など無い。

 

「気持ちの悪い」

 

「砦の兵どもは烏合の衆だが、中々どうしてお前は骨が有るらしい」

 

「英霊でもない只の兵士。お前は止まるという事を知らぬのか?」

 

「…やかましい。さっさとヤツの息の根を止めろザイード」

 

「フ。 では任されよう」

 

 漆黒の人影が華麗なステップを刻みながら俺の真後ろに移動する。初見だがその歩法の凄絶たるや、正に無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き。 なので俺はその美脚に自然と槍をぶつけた。

 

「ごっっはッ!!!」

 

「他愛ないなザイード」

 

「足首をくじいたアサシンなど不要だ」

 

「・・・」

 

 むう、さっきからずっと軽口を叩いてるがこいつら・・・強い。このままじゃジリ貧は必至。理想はこいつら全員叩き潰して兵B達と合流だったけど、どうしようか。

 

「・・・・」

 

 砦の者達はあっちこっちで戦っているし、援軍は期待できないかも。ていうか今気づいたけどこのアサシン達何人いるの?図体は十人十色だけど百人スミスかよ。空飛んで逃げるしかねえじゃん。

 

「・・・・」

 

 ・・・槍を振っても振っても肌が粟立ち、何故か不安と武者震いが募っていく。 砦で何かが起きようとしているのか?それともここにいたら危険だと本能が伝えてくれてるのか?

 

妙な虫の知らせを強く感じ、俺は槍の穂先をうわずらせた。

 

「…我ら相手に脇見とはな」

 

「もらった」

 

「・・・」

 

 真上からの滑空攻撃。 刹那見上げて対処してしまったら、その隙を突かれて終わる。左と右と斜めに二人ずつ。

 

あ・・・・やべ。

 

「何をしている。 もうへばったか」

 

 声と同時にアサシンのダガーに負けない黒色の鎖が、俺の周囲にいる暗殺者共をみな吹き飛ばした。

 

「・・・ガレスに呼ばれて来てみれば、既に戦端が開かれているとはな。 敵は山の民か」

 

 アグラヴェイン卿!!! 

来た!鉄の騎士来た!ありがとうございますこれで勝つる!!

 

「なるほど、大方ハサン奪還作戦といったところか。・・・ついて来い、無口な兵士。急ぎガレス卿と合流し今後の対策を練る。この敵共には構うな、所詮陽動だ」

 

「・・・」

 

了解! 俺とアグラヴェイン卿は同時に駆け出した。

 

「・・・・む?」

 

 砦の正門をくぐった瞬間、上空に三つ首竜みたいな形をした稲光が奔った。白い霹靂が雲を追い散らかしながらそこかしこに落ち続け、砦の深夜を青天の白夜へと変える。何これ超怖いんだけど。

 

・・・でもどこか、神々しいような。

 

「ガレスめ。・・・・よもやこれほどの力を隠していたとは。しかも神性特性すら得ている」

 

「・・・」

 

 何で分かるんだろうこのお方。

でも確かにこの落雷、どこか離宮みたいな厳かさが感じられますね。

 

「だがこれは良い。陛下の御為になるというものだ。 ガレスが奴ら反乱分子どもを消し炭にした機を見計らい、近づくぞ」

 

「・・・」

 

了解。これを前にしてはいかなる存在もたちまちお陀仏でしょうな。

 

「・・・・、―――む?」

 

 屋根下で雷宿りをしながらよく見れば、あれは三蔵様に藤太様。やはり貴女達は我が王の敵になりましたか。 だがまあ、あんなにガレス卿の白色雷の直撃をくらえばもう駄目でしょう。その証拠に、落雷がピタリと止んだ。

 

「・・・・・」

 

おさらばです。俺は王の敵を追い詰めるべく歩き出した。

 

「・・・・・・な、に――?」

 

「・・・・」

 

 聞こえたのは後方から黒騎士の呆然なる声。そして今までとは違う光がこの眼に見える。・・・・それはとても綺麗で、何処か我が王に似た聖を宿していた。

 

「あれは、・・・・誰だ」

 

 脳裏に消えない記憶が想いだされる。 

数多の会戦を不敗の二文字で完遂し、勝利という銘の剣でいつも俺達を鼓舞したあの光。卑王(憎いあんちくしょう)を斬り潰し、ウーサー様がいつも待望していた人知を超えるこの魔力と、再度落ちる雷すら斬り捨てるこの剣腕。

 

「・・・」

 

お懐かしい。

 

「そんな、事は。ありえん」

 

「・・・・」

 

「ありえんだろう?」

 

「・・・」

 

俺の一歩前に立つ黒い騎士が、独り声を上げる。

 

「――何故だ。 そんなにも我らが許せなかったのか。この死にかけた星にすら呼ばれ来るほどに。死にかけの異邦の人類にすら応えるほどに。・・・我らに誅を、下さなければと? そうなのですか騎士王よッ!!」

 

「・・・」

 

・・・・・。

 

「・・・どうする。このままでは全てが狂う。聖都は磐石だが、それはかのブリテン王が居るからだ。だがこの状況を見ろ。 ・・・・王が、この世界に、御二人。離反者が出るだろうか?否、獅子の円卓は歪まない。 しかし陛下が眼の前におられる以上、これを見て混乱が生じない可能性はゼロではない。ゆえ今取るべき行動は―――」

 

「・・・」

 

くいくい。耳を揉むボディランゲージを俺はする。

 

「――――。 それは、」

 

「・・・」

 

 貴方は昔もいつも難しく考え過ぎまする。

それは誰にも出来ない貴方だけの凄さですが、今は切り替えしが必要では?

 

「・・・」

 

「・・・・・」

 

耳を揉む『鉄』のサー・アグラヴェイン。

 

「―――命令だ、兵士。他の者らと共に敵を殲滅せよ」

 

「・・・」

 

はい。

 

「ただの一人も例外はない。我らが王は、聖都の獅子のみである」

 

「・・・」

 

了解。元より。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

――瞬きをする暇もなく、わたしはただただ見つめていた。

 

「久しいなサー・ガレス。変わりない様子で何より、と言いたいが。 どうやら卿は様変わりしてしまったようだ」

 

 風に覆われた聖剣が金色に輝きながら露わになる。 その綺麗な光を見て、わたしは瞬きをしようとして止めた。

 

「………」

 

「どうした。我らは戦場で出会ったのだ。騎士として、為すべき行動を為すがいい」

 

「………、…」

 

 何故。 という疑問が堂々巡りを繰り返す。考える事をやめてもまた巡る。我が意によって再び白雷が周囲に降り落ちるが、しかし。

 

眼前の騎士の王は手に持つ剣で異邦の者達全てを護っていた。

 

「……アーサー、様」

 

 今の我が王は獅子王陛下ただお一人。

だってガヘリス兄さんをケイ卿を、同胞を、数多の兵士を。鉄の魔人を殺してきたのは一体誰の為、何の為。

 

眼前の騎士王ではなく人間を辞めた獅子王を選んだのは、どこの誰?

 

「私はセイバーのサーヴァントだ、サー・ガレス。マスター達人間を護ると決め、この剣を手に執った一人の騎士だ」

 

「………」

 

「では貴公は?」

 

「わたし、…わたしは……」

 

 エメラルド色の綺麗な瞳はわたしを糾弾しているのか。問いかける眼前の騎士は、剣を右脇に構えた。

 

「―――参る」

 

「………」

 

 それはかつて円卓全ての騎士と兵士が憧れ、忠を尽くすと決めた騎士王アーサーの構(かまえ)だった。

 

わたしが模範とした、我が王の構だった。

 

「………。わたし、は」

 

 震える右掌が拳を造る。左はもう既に握り締めていた。

屋根の上から跳んで膝を曲げて着地。その間、我が眼は敵から離れなかった。

 

―――離せなかった。

 

「わたしは!!!!」

 

 利き手が剣の柄に飛ぶ。それと同時に、この胸から湧き立つ何かの温度が、わたしの喉を煮沸させ叫ばせる。―――そう、今だ。

 

この世界で名乗りを上げるべき時は、今しかなかった。

 

「わたしはロット王が子、円卓の騎士ガレス!! 我が主君獅子王アーサーの御為、貴女に決闘を申し込む!!!」

 

「―――」

 

構える騎士の王に、言葉は不要だった。

 

「この…戦いが……っっ!」

 

 剣を抜き放ってすぐさま右肩に担ぎ、まるで貴婦人がするように気持ち腰を捻る。それはちょうど眼前の敵・セイバーと相反する構だった。

 

………それがとても。 嬉しかった。

 

「この戦いが誉れ高き戦いである事!!!!!」

 

 ―――落雷は止み、生前よりも紫電よりも速く地を駆ける脚。そして切り間へと大きく踏み出す一歩の足。

 

「ォォォオオオォォオオオオオアア!!!!」

 

 それはセイバーとわたしの二人分。

己の体重と突進という運動エネルギーを合算した全力を、得物を振るという行いの全動力に充てる。

 

 ――違うのは『狙い』。 土踏まずを軋ませながら首と腰を捻じ切るように振るわれるわたしの剣は、的確にセイバーの首筋に向かい。

 

敵はわたしの脇下目掛けて斜めに剣を切り上げていた。

 

 ――その速度は我が間合と想像を僅かに凌駕しており、

わたしの剣が敵に届く前にこちらが切られる事は肌で感じ取れていた。

 

だからこの状況を覆さねばならない。

 

わたしが剣の英霊なのであれば。 

 

「―――ッッ!!!」

 

 わたしは剣を振り下ろした。敵の武器を粉々叩き折るように。

そして生じる互いの剣がぶつかって刃鳴散る反動反発を、更なる一撃を加える為の動力とし、わたしの手首がクルリと返る。

 

加速するスピード。切り上がる剣。

 

わたしは後の先という勝機を獲った。

 

 

 

 

 

 

「――――」

 

…雷が通り過ぎれば、晴れ間がやって来る。

 

 それは昔(生前)ブリテンでよく見た光景。まるで天使様が昇るはしごみたいで綺麗だと、わたしはこの光が今も昔も好きだった。

 

「―――」

 

「………」

 

 空を切った我が剣。

全身を沈み込ませ、片膝を地に着けながら左手のみで振り上げた騎士王の聖剣。それはわたしの胴体を斜めに切り、祓っていた。

 

「相変わらずの運体と運剣。 流石は我が王」

 

「―――騎士ガレス。貴女も」

 

 さらりと、音がする。

有るはずの無かった我が心が振り向いた事により、わたしの霊基が塩と化してゆく音。これが獅子王からギフトを頂いた上で反逆した獣の末路。 でも何故か、心と頭は清々しかった。

 

 もはや英霊の座に負けて帰るだけのこの身なれど、どうか。どうか身勝手ながら最期に暇乞いのお許しを。

 

『---許す。申すがよい、サー・ガレス』

 

「獅子王陛下。 貴女は、間違っている」

 

『---そうか』

 

「………」

 

もう何も聞こえない。自分の声も、誰の姿も何もかも。

 

「頑張って。皆さん、幸運を祈ります」

 

 ? 今わたしは何と言っただろう。

人が頷く気配を感じ。何故か少しだけ嬉しい気持ちと共に、わたしは雲散した。

 

 

 

 

 

 

 




始めから感じていた、心のどこかで。
強い憎しみの裏にある渇きを。
激しい闘志の底に潜む悲しみを。
…似たもの同士。
自分が自分である為に、捨ててきたものの数を数える。
声にならない声が聞こえてくる。
次回『仲間』
一足先に自由になった誰かの為に。



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