城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
Gareth of the Round Table
クリーチャー―円卓の騎士・レジェンド。
プロテクション(黒) (このクリーチャーは黒のものに対してブロックされず、対象にならず、ダメージを与えられず、エンチャントされない。)
キッカー・無色②(あなたがこの呪文を唱えるに際し、あなたは追加の無色②を支払ってもよい。)円卓のガレスがキッカーされた場合、このカードはプロテクション(すべて)の状態で戦場に出ると共に、これ以外の全クリーチャーに2点のダメージを与える。
――染まらず穢れず。悔やまず惜しまず。それが騎士。
・・・・あれは昔(生前)、俺が正門での仕事を終えて家に帰る時の事だった。
『新しく厨房に加わった新人の事でご相談が』
ローナルドさん。と、相変わらず硬派な声が俺を呼び止める。
『―――?』
何だよ藪から棒に。 俺はそいつに言った。
『あの者は大器です。厨房にのみ収まるとは到底思えません』
『――――?』
お前がそう言うなら間違いないんだろうけど。でも何でまたそれを俺に言う?
『貴方も是非一度ご覧になって下さい。ローナルドさん』
『―――?』
答えになってないぞ厨房長殿。・・・ちなみにその人を厨房に採用したのはどなただよ?
『サー・ケイ殿です』
『――――』
ぬぬ?
となればまず裏があると見て間違いない。もしお前が言うその人に好機が訪れたら、邪魔しない方が良いだろう。適当に全部流れに任せ任せ。
『はい』
『――。―――?』
・・・て。お前何でわざわざ俺に意見を求めるわけ? 昔同じ部署に居たってだけで、今の貴方はこの城の兵糧を司る厨房長殿でしょ。私のような一兵卒に気安く話しかけられては、他者に示しがつかぬのでは?
『ご冗談を。 正門での仕事と貴方の料理は、私の人生に指針を授けて下さいました。死んでも忘れられません』
『――――』
大げさな。俺が作ってた料理なんて雑なバーンミートとベチャベチャしてる麦だった何かぐらいだろうが。
お前の料理がキャメロット城一番だよ。
『・・・・。そう言って頂けると腕によりを掛けたくなります』
『―――』
今夜は御馳走だ。
『厨房長!探しましたよ!』
『―――?』
けたたましい足音が俺達の肌を撫でる。・・・むむ?君が噂の新人君?
『はい、初めまして!ガレスと申します!宜しくお願いしますね!!』
『・・・何か用か。ガレス』
『――――?』
お前はもう何でこういつもぶっきらぼうなんだよ人生損するぞ。 ガレス君、こいつはこう見えて良い奴だから挫けないでね?
『はい、勿論です!!厨房長には料理の事や城の裏方など様々教わっています!感謝しております厨房長!!』
『・・・・』
『―――』
お前照れるなよ。大の男が一体誰に似たんだそれ。
『あのっ。………ところで、貴方は?』
『・・・ガレス。この人は私の先輩で、』
『―――』
失礼まずは自己紹介を。王の下、これから長い付き合いになるのだし。俺はこの城の一兵卒、正門担当のローナルド。
『じゃあ正門のローナルドさんですね!改めて宜しくお願いします!』
『―――』
今の厨房には腕のいい頭がいるから、とても良い所だよ。こちらこそ宜しく。
『はいっ!これからのこの城の炊事は!お任せ下さいね!!』
―――頼もしい笑み。そして優しげな瞳の色。
こんな人間を見ると、この城の未来は明るいなと俺はいつも思っている。 兵士とはこんな人達と王を護る為にいるって、そう改めて思わせてくれるのだ。
『おいガレス。それで、用は何だ』
『…ああっ!?忘れてました厨房長! ホットミルクを作ったので是非味見をお願いしたいのです。習った通りに出来ていますか!!?』
『ホットミルクは奥が深いからな。・・・俺も、それを厨房で初めて習った』
今は只の厨房兵。後のサー・ガレス様は、昔も今もとても好い御方だった。あの人は良い同僚だったのだ。
◇
・・・・遠い思い出が脳裏に浮かび上がり、蝋燭を焦がす炎を吹き消すように俺は目を閉じる。
初めて逢った時の出来事。心震えるあの日あの時。この目蓋を開けてしまえば何処かに消える、懐かしい過去。
とっくに慣れ親しんだ忘却の彼方を、俺は開いた目で直視した。
「・・・・ガレス」
「・・・」
アグラヴェイン卿はジッと、塩と光になって消えたガレス卿を見ていた。
「・・・砦の全部隊に通達。奴らを逃がすな。一人として、誰として例外無く打ち倒せ」
「・・・」
了解。俺は敵目掛けて全速で駆け出した。
「! マスター、下がって!」
「セイバーさんっ!! ……ええと、セイバーさんでいいのかな?」
「見ての通り。私はセイバーのサーヴァントです、マスター。ですから私の事はセイバーと」
「・・・」
お喋りとは余裕ですな。・・・流石は、
『この霊基………。ぐだーずっ!そのセイバーはあの誉れ高き騎士王よ! でもこんな土壇場で来てくれるなんて…』
「マジですか所長!!?」
「私は貴女達の闘う意志と不倒の心に共感し、召喚に応じました。我が剣と命運は貴女達と共にある。どうか存分に指示を」
「了解、よろしくセイバー!…でもまずここは一旦退くべきだと思うんだけど!」
「承知しました」
「セイバーさんっ! マシュ・キリエライト!援護します!」
「…? その盾は………」
「・・・」
のがさんぞ。
「!この敵……っ」
俺は盾使いの女性の前に立ち塞がって槍を振るう。そして砦の粛正騎士達が続々と集結。異邦者どもを包囲しつつあった。
・・・しかし意外と数が少ない。
あの百人アサシンの陽動が功を奏しているのか。これ、まずいかも。
「敵騎士多数集結中…っ!! しかもこの敵は、たしか聖都正門で戦ったあの敵騎士です!マスター!」
「やっかいだね……」
「・・・」
おや憶えてくれてたのか、敵ながら嬉しいね。でも俺は騎士なんてガラじゃないよ。いつぞやのお嬢さん?
「ハァァアアアアア!!!!!」
「マシュ!?」
「・・・・・」
この戦はガレス卿の魂に送る我らのトーテン・グロッケ(とむらいの鐘)。響き渡る鉄の剣戟で創られるこのララバイ、あの方へどうか届きたまえ。
「わたしはシールダーです、マスター!! セイバーさんが加わった今、わたしが殿を務めるのは当然かと!!」
「確かにそうとも言えるけど……」
「・・・・」
砦を震わせる盾と槍のぶちかまし。 ・・・おお?この短期間で随分腕を上げたと見える。足元のお留守がさっぱり消えているし、良い戦場に巡り合えたか。
「――絶対に。先輩方には、手出しさせません!!!」
「・・・」
繰り出される盾の攻撃。
そのどれもが重く鋭く、俺を像に踏まれるアリの如くぶっ潰そうとする意思が感じ取れた。良い事でもあったのかな?
・・・なので俺は槍を下げて顔と身体を余所に向けた。
「……、―――っ!!!!」
そう。誰がどう見ても、今が好機。
「・・・? マシュッ!!」
好機を逃さないシールドバッシュが、真っ直ぐ俺に向かって飛んで来る。その鋭さと激しさは、百人が百人眼で見ていなくても判る類の物。
そういう風になるよう仕組んでいる。
「・・・・・」
なので敵よりも一拍早く、俺はクルリと回転した。
そして我が腕で盾を受け流して攻撃を躱すと、敵の真横に移動した俺は敵の首に槍を叩き込んだ。
「………っっ!!!」
「・・・・・」
―――卑怯。 と、誰かの口が呟く。真剣勝負の最中相手に背を向け武器を下ろす。なんて汚い騙し技と。
しかしこちらを振り向く、盾使いの顔はこう言っていた。
「…………」
「・・・! マシュ殿、三蔵殿達のお陰で埒が明きました!こちらに!」
―――そんな戦法もあるのか、と。
「・・・・・」
「…………」
「退散しますぞ、マシュ殿。長居は無用!!」
山の翁の一人だろうか。
片腕を布で隠したアサシンが粛正騎士を蹴散らし、盾使いの隣りに立って声を上げる。・・・だがこいつは俺から視線を少しも逸らさなかった。
「………。はい」
―――空振り。
騙し討ちを狙った俺の攻撃は空のみを切っていた。この盾持ちは最初から解ってたようにしゃがみ込んで槍を躱し、更に大きく一歩跳んで俺の間合から逃れたのだ。
「・・・・・」
「…………」
タイミングは完璧だった。
攻撃だけを考えている者ならば、致命傷を負う事は明々白々だったのに。
―――つまり。騙されたのは俺か。
さっきまでの一辺倒な攻勢は最初から演技。その証拠にこの行動とこの間合。 跳ばずに一撃俺に加える事が出来たのは確実。
―――今の機、いつでもお前に一撃見舞う事は出来たぞ。この間の正門での戦いの意趣返しは、存分に果たしたぞ。と?
「・・・・・」
城兵たるこの俺を。 貴公騙せるようになったか。
「…………」
ズリズリと後退し、そしてあっという間に撤退する反乱者集団。瞳を俺から逸らさない、隙もない盾も揺れない敵の姿が闇に消えた。
「――兵士殿!ご無事でしたか!」
俺が握る槍の端、石突が地面に触れる。そしてミシリと槍が鳴った。
「・・・砂漠偵察隊の七名だな? お前達は私と共に聖都へ帰還する。もたもたするな付いて来い」
「――了解。しかし奴らの追撃はよろしいのですか?アグラヴェイン卿」
俺は闇の先を見詰めながら、あの敵の見事な戦いを反芻する。
「・・・・先程王命が届いた。奴らの追撃は遊撃騎士・ランスロット卿に任せよと。この砦の今後もな」
―――たしか、名をマシュ・キリエライトと言っていたな。
あの眼差しこの名前。
「――了解。聖都へ帰還します」
「・・・・・」
二度と忘れない。
◆
「マシュ。…一体どうしたの?」
撤退途中の道すがら。
マスター・藤丸立香はいつもと様子が変なシールダーの手を握った。ここは未だ戦場であるとはいえ、いつも見ていた彼女の背中が先程一瞬白く光って見えたからだ。
「さっきの雰囲気、いつもと違うようにオレも見えたけど。・・・大丈夫?」
立香の兄・藤丸ぐだおもシールダーの手を握る。そして彼女の顔を見詰めると、その瞳に小さな光が燃えていた。
「はい、わたしは大丈夫です。先輩方」
「それならいいんだけど……」
「マシュ。オレ達頼りないとは思うけど、独りで無茶はしないでくれ」
「はい!勿論、いつも存分に頼っています」
マシュが優しく微笑む。そしてこの人達の為にも、強く今の想いを心に誓うのだった。―――今度こそ。そう、次こそ必ず。
「負けません」
あの槍に。あの兵士に。絶対負けない。応えたい。……応えたい?
「……、え?」
「大事ありませんか、マシュ」
セイバーが声を掛け、その手がシールダーの肩に触れた。
「貴女に敬意を。マスター達を護ったその手腕、見事でした」
「いえ、わたしなんて……。先輩方やセイバーさんに比べたらそんな…」
「私には眩しすぎるその盾は、正しく貴女の心に相応しい。だからこそ私はここに来れたのでしょう」
「・・・?」
「……え? それってどういう…」
よく分からない言葉を口にするセイバーをマシュと藤丸達は見る。
そんな瞳から眼を逸らさず、セイバーのサーヴァントである騎士王は言葉を続けた。
「自身の心に従いなさい。マシュ、貴女にはそれが出来る」
――迷いも後悔も一切無いその足取り。頷くシールダーと共に、カルデアの異邦者達は夜道を駆け抜けた。
聖都という揺り籠の中を、ただ往く。
完璧な古城が見せているのは夢か、続きか。
獅子の愛が、女神の理想が、完璧な古城の中で極まれる。
兵士達は委ねた。自分だけの支配者に。
やがて破られるであろう、しばしの安息を。
次回『兵站』
彼らの最終章の幕が開く。