城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
第26話 兵站
聖都でとれた瑞々しい果実を頬張りながら、オレは考える。
何の為に自分はここに居るのか。命の使い所とは。
その答えは武者震いとなってオレの脳髄と全身を戦慄かせ、何処からか無限に湧き出す曇りなき喜びが我慢等するなと口を開かせる。
「………ハハ」
そんな自分を何とか抑えようと、オレは咀嚼する歯に力を込めた。…漏れ出す歓声を、必死になって食い留めるように。
「まさかまたこんな日が来るとは。―――父上」
オレは真理を見つけた。
この世界は何という僥倖に満ち満ちた物であったのだ。 獅子王(父上)の為に剣を振るい、そして敵(父上)を切る事すらも出来るとは。
――幸福という言葉は今のオレの為にあるのだろう。
誰も文句など言いはしない。
これこそが獅子王への絶対的な忠の顕れ。今の我らが王と定めた御方は、獅子王アーサーのみ。
たとえ敵が騎士王だろうと何であろうと全て我らの邪魔者だろう。そうだろう?
「――モードレッド卿。御命令の通り兵を集めましたが、我ら遊撃隊はこれから如何します?」
「いかがも甲賀もねえだろ、出撃だ。 オレ達は砂漠の奴らが聖都に襲来する時間を稼ぐ。時至れば獅子王は聖槍を起動し、最果てへ旅立つ。今から砦と聖都の間に陣を敷くぜ。命令は只一つ、眼に映る敵を全て殺せ」
「――了解」
「それと、もし騎士王が見えたら光の速さでオレに教えろ。オレが切る」
「――了解。元より」
この間の戦で損失した粛正騎士達を補充したオレ達遊撃隊は、広がる砂漠を見据えながら馬を進める。――未来がこんなにも待ち遠しいと思うのは、ここに来て初めての事だった。
「剣の腕はオレが上だ。 だからあの日槍を使ったのでしょう?父上」
◆
「ヒヒヒヒーン(お腹が空きました。食べ物を所望します)」
・・・聖都西方の城壁を下り、馬小屋の前で見える聞こえる四本足。
「・・・」
のどかなここ、聖都に戻れた事は城兵である俺にとって何より嬉しい事だった。どうやら馬も嬉しいようで、近寄るとこう無駄に声と尻尾を振り上げてくれる。
「ヒッヒッヒーン!(加工された食べ物が欲しいです。我が主、貴方の蹄が食物を所望ですよ?これは早急に解決すべき事案です!あ、人参は要りませんよ?)」
「・・・・」
・・・・・。
「ブルッルヒヒルドルブ!(肉が喰いたいです。雑で所々焦げたビーフが。間違っても馬肉なんて与えないで下さいね!)」
「・・・・」
どうしてこうなっちまったかなあ・・・。
あの偵察任務からずっと幻聴が聞こえるようになっちまうなんて、真面目に医務室に行こうかな。
「ブルブルブルル(医務室って。何かのギャグの話ですか?)」
死活問題の話だ。
「――おや?兵士殿。今日は鍛錬場には行かないので?」
「ブルブルブールヤリドヴィッヒ!!(ビナー1さんの期待の眼差し。…そして私の願望の尻尾振り!これは応えてあげるべきです。貴方のちょっといいトコ見てみたい!!是非貴方の超人雑料理を見せて下さい。そして早く飯を喰わせて下さい!)」
「・・・・」
「――ふふ。可愛い馬ですね、この子。尻尾をブンブン振って兵士殿にとても懐いている」
そうかなあ・・・。
「ブル~ブルゥ?(………あれもしかして。――出来ないんですかあ?)」
「・・・・」
・・・・・。
やってやろうじゃねえかこの馬野郎!!!
「――え、兵士殿?そんな天を仰いで一体…」
「ブルブル!(私は牝馬ですよっ)」
そこまで言うなら眼に物見せてやらあ!よしちょっと待ってろや!!!
「・・・!」
のせられた俺は超特急で厨房に向かった。
「――…兵士殿にも困ったものですね。的盧さん?」
「ブルーブルブル(ビナー1さん、こんにち殺法)」
っておい君も聞こえるんかい。
◇
「・・・」
厨房がある兵站棟には常に粛正騎士が詰めている。 ここでは西の砦に運ぶ食糧・物資等の選別や運搬の指示を出しており、そして何より聖都に収容された正しき人達に対する衣食住関係も担当していた。
「――マルクト1。ガレス卿が身罷われましたが明日の砦への食糧輸送は、どのように」
「――もうこうなったらしょうがないだろうな。明日から輸送量を250キログラムに増やそう」
「――1回に?」
「――うん」
世界中の食糧が我が王の御業で無限に生まれるので、飢える心配も備蓄の心配も無いここは正に天国だろう。
「――? 西方兵士殿。また料理ですか?」
「・・・」
頷く俺。勿論勿論。
「――兜取れなくて食べられないのに。いい加減飽きませんか?」
「・・・・」
え。取れないって知っていたの? まあ兜も取らないで料理してたらそう思われるよね。
「・・・」
俺は首を横に振って厨房に入った。
―――よし、では俺こと城兵Cが生前より培ってきたワザマエを見せてやろう。これはクッキングタイムだ、オリョウリの話の時間って奴だ!!
「・・・」
皆大好きバーンミートのコツまずその1、鉄板を用意します。
その2、いい感じの火力で鉄板を熱します。その3、そこに厚い肉を敷きます。
その4、塩を適当に振りかけます。コショウがあったら尚良いです。
その5、頃合を見計らって肉を裏返します。そして5を繰り返します。生肉は見てくれは宝石みたいにキラキラ美しいですが、食ったら最期健康と食感がガルベッヂです。
なので終いにその6! 火を消して鉄板の余熱で肉をしっかりじっとり焼きます。
「・・・」
ふふ、この音この匂い。そしてこの色。今も昔もウェルダンこそ至高の焼き方と俺は信仰している。レアだとかミディアムだとかはこの聖都には存在しないし俺の辞書にも無い。
だって食べる人がこの焼き肉を切った時、内部に赤い部分があったらどう思う?
――これ生肉じゃん!!!コックこれバーンしてねえよ注文間違ってるよヒンシュクしか買わねえわ!!!
「・・・」
食べる人の事を考えて料理とは作られる物。 宝石食べる奴が一体全体何処にいますか?
・・・・よし出来た、これぞ我が必殺の牛肉料理。え? 肉焼いただけのこれのどこが料理だよって?
「・・・」
あ、これ料理じゃないんだそうなんだ。で?それが何か問題?
これは老若男女問わず、ガッシリ胃袋を掴めるんだぜ?
だって昔(生前)これを振舞った時は我が王含め皆無言でモグモグしてたもんよ。 まさに急所(胃袋)つかまれて参った降参ですってね。ぐうの音も出ないってそういう事よ。ハッハハハ!
おーい、飯が出来たぜ我が馬!!
「ブルブルヒヒヒン(ビナー1さん、知ってますか?名馬は三つの種類に分けられます)」
「――ほうほう」
「ブルッヒブルッヒブレイブリー(速さを求める奴。自分に忠を尽くす奴。乗り手の空気が読める奴。 この三つです)」
「――君は?」
「ブルゥ…(私は、勿論……)」
「・・・・」
的盧お前本名ピクシーだったの?兵Bも付き合わなくていいのに。 ・・・じゃあこの飯は俺一人で食うとしよう。多めに作ったんだけどお話の邪魔しちゃ悪いし俺はクールにこの場を立ち去って――、
「――!?兵士殿お待ちを。食べます、食べますからちょっと待って下さ…っ!」
「ブルブルブルブル!!(そこで立ち去るとか馬心分かって無さすぎでしょう。私は牝ですがっ!)」
「・・・」
しょうがねえな。じゃあ皆で食べるとしよう。
「――話は聞かせてもらった。西方兵士殿、是非私も頂こう」
「――そういや偵察成功の宴をしてなかったな。兵士殿、俺達も参加するぜ?」
「――東方から野菜を持ってきた。付け合せには最適だ」
「――ジョウトウなヤキニクはヘイシヲシアワセニスル。少しは歯応えノアルニクナノカ?」
「――食べる準備をせよ!」
「・・・・」
――何だこいつらどこから湧きやがった。え?かつての偵察隊全員今非番なわけなの?そんなわけあるの?
「――冷めないうちに頂くぜ?兵士殿?」
「――・・・」
「・・・・」
食べたいという欲求と視線を強く感じる。俺達腹など空かない筈なのだが。ま、まあせっかく作ったんだし召し上がれ。
「ブルブル!(頂きます)」
「――頂こう。 そういえば馬達も共にあの熱砂の戦いを駆け抜けた仲間だったか。・・・後でこの肉、我々の馬に持っていっても?」
「・・・」
勿論。俺は強く頷いた。
「――しかしいつ食べても懐かしい味だな」
「・・・・」
「――こうして皆と食を共にするのも良いものだ。なあ、ビナー1?」
「――ああそうだな。私の晩年はこういうのが少なかった」
「――何だビナー1殿。アンタ生前を思い出したのか?」
「――薄ぼんやりとだがな。自分が死んだ時の頃だ」
「――へえそうかい。確かにカムランの戦の頃は強行軍で飯もろくに食えなかったから、仲良しこよし一緒に食うなんざ無かったな」
「・・・・」
・・・・・・。
「――東方の。今は飯時だ」
「――あん? 何だよ西方の。飯が不味くなるってか?昔話なんざこういう時ぐらいじゃねえと出来ねえだろうが」
「――・・・・。分かった好きにしろ」
「――? んだよその態度。てめえら西方の衆はこんなんばっかだな感じわりい」
「――おい止せ」
「――ホド2、すまない。これは元々私が始めた話だ。 東方の衆を責めないでやってくれ」
「――・・・・。東方の、すまなかった」
「――ま、肉食ってる時に花咲かせる話でもなかったか。こちらこそ詫びるぜ」
「――イイニクダカラナ。舌ガマワルノモイタシカタナイコトダ」
「・・・・」
・・・・・・。
晩年か。
「――そういえば西方兵士殿。 間もなくトリスタン卿指揮の下で、大規模な山狩りが行われるとの事」
「――ランスロット卿も参加するというこの作戦。これであの反乱分子共も終わりだな」
「・・・・」
そうかな。奴ら簡単にくたばるとは思えないけども。
「――しかしヤブレカブレをオコスカモシレン。セイトニ来るカノウセイモナイトハ言えんな」
そうだな南方の。一瞬の油断が命取り。
「そうなれば遺骸を余さず残さず消し炭にするしかないでしょうね。それが王の為になるというものです」
「・・・」
成る程、それは確かに。しかし俺には出撃命令は出なかったので、山狩り部隊には是非とも頑張ってほしい所ですな。
「――・・・・、」
「ありがとうございます。そのような激励の心音、心強さを得た私は千人力を発揮できそうです。ああ、これからこの弓で土に帰るだけの死体が増えるに増える。私は悲しい」
「・・・・」
・・・さて皆の衆、後片付けは俺がやっておくから今日はお疲れ様。解散。 解散だってばほらさっさと弦音が聞こえる前に早く。
「私にも肉を頂けますか? 久しぶりに食したくなりましたので」
ええ勿論。料理はここから逃げませんし、それを作った者も逃げませぬゆえ。
「・・・」
「ふふふ、流石は元正門の城兵。貴方は今も昔も変わらず正直に生きている」
ははは、貴方様は違うのですか?
「はははははは」
矢要らずの弓を肌身から離さない盲目の射手。サー・トリスタンは琥珀色の瞳をピタリとこちらに向け、口元だけに笑みを浮かべていた。
響く音矢、狙う鏃。こわばった指が、征矢を引く。
いつも仕損じない腕が弓弦をまわして虚しい音を立てた時、皮肉にも生の充足が心を震わせ、偽りの肉体に溢れる。
シューティング・ターゲット。
この危険なフィールド遊戯が、これこそがこの世に似合うのか。
次回『貫く星』
的を外せば、リスクが上がる。