城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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テンション上げ過ぎました。今更ですがご注意を。








第32話 Never say never(後編)

 

 

「---立ち止まれ」

 

「はぁああああ!!!!」

 

 人知を超えた馬上槍の一閃が、受け止める盾ごと地球ごと穴を開けんとばかりに激突する。丸みを使って運動エネルギーを逸らすと、今度は馬の脚が強襲した。

 

 ――人馬一体。いや、神馬一体。

盾持ち(シールダー)、マシュ・キリエライトは理解した。一呼吸にも満たない刹那にこれらを行えるからこそ、この敵は槍の女神なのだと。

 

「サー・キリエライト!合わせて下さい!!」

 

「はいっ!!」

 

「---ほう?」

 

 ジグザグに、互いに交差しながら地を這うように疾走する。騎士ベディヴィエールとマシュは螺旋を描きながら大地を駆け抜け、間合に入った瞬間エックスの字になって互いの得物を一閃した。

 

「---見所はあるな」

 

その凄まじき攻撃は女神の跨る馬に直撃し、乗り手に声を洩らさせた。

 

「---ドゥン・スタリオン、下がれ」

 

「フルッ・・・ルル!(--承知。しかし私は、いついつでも出撃可能です我が王よ!)」

 

「---ご苦労であった。 時は充分に稼いだゆえ、あとは私が終わらせよう」

 

 神の馬は一鳴きすると、まるで靄のように消えていった。 

地に降り立つ槍の女神は静かに藤丸達人間を見て、掴む聖槍の光は刻一刻と輝きを増していく。まるで陽に照らされ昇り満ちゆく月のようにはち切れんばかりに。

 

「させない! マシュ!」

 

「はい!マスターっ!!」

 

 マスター・藤丸ぐだおが全体強化の礼装魔術を行使し、追撃を指示。『時』が彼らの味方ではない以上、常に先手先手を獲っていくしか勝機はないからだ。シールダーは体当たりを敢行した。

 

 ――ランス、すなわち馬上槍は一般的に馬に乗っていなければ無用の長物であると云われている。長大なそれは文字通り馬力が有れば十全に振るえるのであって、二足歩行の存在が扱える代物ではないと。

 

「………」

 

 マシュはそんな下馬評を心の底から否と断じた。

まずもって相手は槍の女神であるし、常軌を逸して新たな常識を敷くのが茶飯インシデント、むしろ役目ではと思っているから。

 

 そしてこれまでいくつもの特異点で、長槍を手足のように振るう戦士を見てきたからだ。無論ここも含めて。

 

「---」

 

「…………」

 

 疾走する。瞬きもせず。

今自分がいる場所こそ既に槍の間合。不動の敵が動く=攻撃が届く意味。

 

 この状況で後の先(カウンター)を獲る事は至難。戦いの主導権をこちらが握る為、相手の動きの兆候を見極めながら盾を構えて突進する。

 

「………っ」

 

 マシュは限界まで目蓋に力を込め、女神を見据えた。この目蓋は決して閉ざさないと誓って。――閉ざすのは勝った時。 

 

 盾と槍との間合が狭まる。際限なく。指呼と対話の間合も過ぎ去り斟酌の間へ。それさえ過ぎても敵は動かない。 しかるに、敵の狙いは後の先。

 

「………ッ!」

 

 そうはさせない。

マシュは気を吹いた。魔力ブースト・オーバードライブ。突進最後の一歩を飛ぶが如く大きく踏み込み、敵の間合と狙いを凌駕して勝つ算段。先の先の勝機(不意打ち)。

 

マシュは眼を敵から外す事なく突進した。

 

「また一撃ッ。やったぞ、マ――」

 

だから眼を疑った。これは幻覚、魔術の類かと。

 

「………。?」

 

神経系に作用する何かか。或いは脳に異常を見せる魔の類か。

 

―――いつ。

 

「---我が手に、」

 

―――いつ。一体いつ敵は姿を消したのだ?

 

「マシュっ! 頭っ!!!!」

 

答えは。

 

―――答えは。

 

「………!!?」

 

聞こえた声に寸分も違わず盾を頭上に回す。そこに答えはあった。灼熱の痛みを伴って。

 

「---我が手に収まる時だ。---人間」

 

「そん……、な…」

 

答えは明快にして異常。 不可能の一切を振り切って、女神ロンゴミニアドは空中にいた。

 

 ――飛翔である。

停止していた身体が音も兆候も無くマシュの頭上を飛び越え宙にて前転。防ぐ事に特化した盾持ちに対して真っ向から背中を切る不意打ち業がその正体。

 

二足歩行で、長大な槍を持つ者がまさかそんな、ありえない曲芸を行うなど誰にか判ろう。

 

 間合だの勝機だのを考えていた自分の頭こそ、これの前では狂気と言える。

 ――見上げ、ズタズタに切り裂かれた背中の痛みも忘れ、マシュは昼間に浮かぶ月を見る。其れは人鬼すらも通り超えた神仏だけが成せる業であった。

 

『――マシュっ!!!』

 

『バイタル不安定!デミサーヴァント・マシュの呼吸、動悸、血流が沈静しません!!』

 

『臨時魔力供給を急げ!』

 

『敵ロンゴミニアドの魔力余波でシステムに異常発生っ!!』

 

『なにい!?!?』 

 

『ここはプランBでいこう。 プランBは何だ?』

 

『あ?ねえよんなもん!』

 

「――応急手当!!」

 

 マスター・藤丸立香が礼装による回復魔術を発動した。マシュの傷は酷いが、辛うじて致命ではない。立香の声掛けが無ければそうなっていだろうが、そうはならなかった。伊達に五つの特異点を突破していない。

 

マシュはまだ闘える。

 

「――…どう、すれば。どうすればこの敵に………。 わたしはどうすれば…」

 

『マシュ・・・!?しっかりするんだ!!』

 

――心が折れていなければ。

 

 

 

 

 

 

「---聖槍、圧縮」

 

「・・・うあッ!」

 

「……あっぐ!!」

 

「皆さんッ!? はああぁああ!!!」

 

『ぐだーズっ!! 無事!!?』

 

「な、何とか……。 兄さん!?」

 

「くっ・・・そ・・・」

 

 戦場にいるのはサーヴァントだけでなく、マスターも一緒だ。だから充分気を付けなくてはならない。

 

 ・・・油断はしなかった。何とか転がって避けた筈だった。

でもそれは無理で、当たり所が悪かったのか血が止まらないし傷口はズタズタ。あの槍痛いなあ・・・くそ。マシュはこんなのを受け止めてたのか。

 

「――あ、…先輩。いけない、先輩を守らなきゃ。でも…血が。いっぱいわたしのせいで。でもあれに…どうやって……?わたしは、一体どうやって勝てば…」

 

 ・・・最近のマシュはメキメキと力と経験を積んでいた。多分それは分からなくてよかった実力の差を知る事が出来るくらいに。

 

「サー・キリエライト!心を、しっかり!!」

 

「---立ち止まれ」

 

「ぐ、ぬぅうううぅうッ!!!」

 

『・・・ベディヴィエール卿!』

 

 見た事も聞いた事も無い槍撃が縦横無尽にベディヴィエール卿を襲う。何とか凌いでいるけど、一人じゃ駄目だ。皆で立ち向かわないと。

 

『藤丸!無闇に動いたら危ないわ! その傷は深いのよ!?』

 

『コフィンの生命維持機能をもっと上げてくれ! もっとだ!!!』

 

『電力が足りない?だったら予備も使えばいいだろ!!!』

 

『了解ッ!!!』

 

 ――太腿の、内側かな。何だか嫌になるほど紅い血が見えてる。立香は無事だな。・・・だったら動かなきゃ、歩かなくちゃ。何とかしてマシュの元へ。

 

「・・・・マシュ」

 

「え…、……先輩?」

 

 やっと辿り着いた先の後輩は、何だかひどく懐かしい顔をしていた。あの日、初めてレイシフトをした日と同じ顔。

 

「わたし、――わたし。先輩を守るって決めたのに…。サーヴァントとして必ず守るって。 ―――思ったのに」

 

 盾の後ろにいたオレですら獅子王の威圧感と攻撃は怖かったし、生きた心地なんてしなかった。・・・・それじゃあ一体今までマシュはどれ程の恐怖と戦っていたんだろう?

 

「マシュ、大丈夫だよ。こんな傷なんて事無い・・・ッ!」

 

結論・マシュは強い。

 

「兄さん! 今は動かないで!」

 

「…先輩」

 

立香には悪いけど聞けない。今は動かないといけない時だから。

 

「――ガンドッ!」

 

「---、む。 ヒトにしては永いな、藤丸ぐだお。おまえのその傷は致命の筈だが」

 

「生憎頑丈なだけが取り柄なんだ」

 

「ぐだお殿!・・・、――これは」

 

「これは…? これは何だって言いたいのベディヴィエール卿!!」

 

おお、ガンドは獅子王にも効いた。これすごいな。・・・流石は、

 

「---間もなくこの世に別れを告げる今のおまえならば分かるだろう、藤丸ぐだお。---受け入れよ。見える筈だ、この最果てへの階(きざはし)が」

 

 マシュ達から眼を獅子王に向けると、彼女の後ろに白い漣が見えた。それは輝く渦のようにも見え、とても此の世の物とは思えなかった。

 

とても綺麗だった。

 

「・・・・」

 

「---解ったか。ならばもう何も考えるな。ヒトは得てして、考えるから不幸になる。人類最後のマスターのおまえですら例外ではない。---ただ愚直なまでに旅をしてきただろう事、今までの特異点はさぞ苦楽が傍に有った事だろう」

 

「・・・・」

 

「兄さん!?」

 

「先…輩?」

 

・・・・・。声が。もう声が一つしか聞こえない。

 

「---我が槍におまえは選ばれなかったが、おまえの往く先に安寧がある事を私は言祝ごう。間違いなく、おまえが生きた旅路は偉業であった。---大義だった」

 

「・・・・」

 

・・・・偉業。 そうか、偉業か。

 

「―――っ!」

 

 何かを叫びながらへたり込む妹が俺の眼を見つめる。

やったぞ立香。オレ達がやってきた事は無駄じゃなかったって、他ならぬ女神様は認めてくれるんだ。感慨深いな。

 

だってそれは絶対に、

 

「・・・それは、絶対に」

 

「---?」

 

血が流れ続ける箇所に掌を押し付けてオレは。

 

オレ達は。

 

「―――それは絶対に違う」

 

二本の足で立ち上がった。

 

 

 

 

「………、」

 

「それは絶対に違う。オレ達はまだ何もしてない。 人理も修復しちゃいないし、皆もこの世界も元に戻してない。・・・・それに」

 

後輩(マシュ)をこのままにして何処かに往く先輩が何処にいる? 

 

「――いるわけないだろ」

 

「---、」

 

「―――………」

 

その時、女神の。獅子王の顔が少し、

 

「---成る程。死に急ぐのならばするがよい。矜持やら自負やらヒトが己を満足させる為の物は須く、口に出してこそだ。だがそれで一体何が変わる?何を変える?」

 

「諦めない」

 

「---、何?」

 

―――少し、歪んだ。

 

「オレは諦めない」

 

歩く。

 

「オレは・・・ッ。諦めないッ!」

 

最果てに。女神に向かって歩く。

 

「………―――。 先輩」

 

「---何だ? それは。ある一定の条件下でヒトが出せる火事場の力か。そんなものに縋るから、ヒトは正しくある事が出来ない。死に往くおまえは今それが正しいと思っているのだろうが、それこそ違う。---異物だ。人間、それはただの歪で醜い魂の」

 

「笑いたければ笑えばいい。・・・馬鹿にされたって構わない」

 

『………』

 

・・・・・。

 

「貴女がもう人間より遥かに偉くて強くて長生きでも。・・・たとえ今にも、たとえ今世界の全てが滅んでも――ッ!!!」

 

「…………」

 

 ペリドット色の綺麗な瞳に向けて拳を伸ばす。・・・目前まで来た、女神ロンゴミニアドの視界を塞ぐようにしてオレは。

 

「オレはッ! オレ達は、絶対に諦めないッ!!!!!」

 

最後の礼装魔術を発動した。

 

「オーダー、チェンジ!!!」

 

 

 

 

 その瞬間。 

私はこの藤丸ぐだおがサーヴァントのマスターである理由を再認した。

 

「――東方の三博士。北欧の大神。知恵の果実」

 

 秘密の指示はこうだった。 玉座の間に入って戦闘になったら、あまり自分とは話さないでくれ。むしろ誰とも喋らないでくれ。 正直何を馬鹿なと思ったしこの天才にどの口が宣ってんだと思ったが。

 

『切り札は最後まで取っておかないと。・・・でしょ?ダ・ヴィンチちゃん』

 

「―――我が叡智、我が万能は、あらゆる叡智を凌駕する!!!!」

 

 まさかこの瞬間に。

敵間近のこの土壇場に自分を私(後方)とチェンジさせるなんて。まかり間違えば全てが終わる事を彼は分かっていたのか?

 

「兄さん! 『応急手当』!! ――そしてダ・ヴィンチちゃんに『緊急回避』!!!」

 

いや―――彼らか。

 

「・・・槍持ち相手にどうやって近づいたらいいか。 もう忘れているかもしれないけど人間はね、女神様。生きている間は闘う方法を考える生き物なんだ。切り札を肌身離さず、ね!!!」

 

「---!!?」

 

 突如現れたであろう私の掌に振るわれる槍が、あり得ない方に向かって空を切る。流石兄妹息ピッタリ。あとはこの万能の天才に任せたまえ。

 

 何故なら魔力完全充足充填距離ゼロで放たれるこの宝具は、たとえ神であろうと何であろうと耐えきれないと他ならぬ私(ウォモ・ウニヴェルサーレ)は確信しているからだ。

 

―――よくも。よくも私の友を傷付けたなこの女神。 

 

「 万能の人 ! 」

 

深遠八方、いわゆる八極(最果て)までぶっ飛ぶといいぜ。

 

 

 

 

 

 

…空の果てまで届きそうな大爆発が起こり、私は身体の芯まで震えて息を吐いた。

 

「成功だ!立香!やったぞ!」

 

「どういたしまして!でもその前に一発ぶん殴らせてね?」

 

小さくて鈍い音もしたが、何故かそれは心地良い音だった。

 

「ッ何で!?」

 

「パワハラ」

 

「お前それどの口がッ」

 

「せ、先輩方…っ?」

 

 聞きたい事が沢山あった。

礼装魔術はサーヴァント用の物ではないのかとか、マスターとサーヴァントは交代可能なんていつ知ったのか説明書を読んだのかとか。ダ・ヴィンチちゃんの事とか。

 

「マシュ!うちの家訓なんだけどさ、いつだって大事なのは間合いと退かない心らしいんだよ」

 

「……? え?」

 

「ベディヴィエール卿!力を貸してっ!! 獅子王に伝えなきゃ!今の私達に必要なのはそれでしょ!?」

 

「勝つ事は勿論大事だけど、その為には退かないで立ち向かわなくちゃいけない。オレ達はずっとマシュを見て、分かったんだ」

 

「諦めたらそこで試合終了だよ!!」

 

「・・・! はいッ!!!」

 

サー・ベディヴィエールが的を射た表情でわたしの横に立ち、光剣を携え前を見据えた。

 

「―――サー・キリエライト。私は獅子王に言わなければならない事があります。でもそれはあの方を打ち倒すことで出来うる事でも、勝つ事で為し遂げられる事でもなかったのです」

 

「………!」

 

 眼を見開き、光に照らされ煌く盾を見詰める。

…戦う事だけがわたしに出来る事なのか。『シールダー』のデミ・サーヴァントとは、それ以外必要ないモノなのか?

 

いつの間にか膝をついていた身体を起こし、わたしは立ち上がった。

 

「わたしは、シールダーです」

 

「うん」

 

「わたしは倒す者ではなく。この盾で先輩を、―――皆さんを護る!!!シールダーですっ!!!!!」

 

―――無心の叫びと共に、白光に輝く盾。わたしはこの眼に白く輝く炎を見た。

 

「---Sïona gairh,Daïsairé.」(聖槍、抜錨。)

 

 煙の向こう。 そこに向かって走る。この足でいつものように先頭に立ち、盾を構えて地を踏みしめる。

 

「---Soghi éïrach,Fadhl flare,Birautece scure,Rüarhéücl laiblatélach.」(地に増え、海を渡り、都市を作り、空を割いた。)

 

 …聞いた事も見た事もない言葉と音声が全身を震わせる。恐らくこれが槍の女神の正真正銘。 人知を超えた存在だけが知る古の、或いは遥か未来で使用される言語なのかもしれません。

 

「---Dainhr,laimi?」(何の、為に?)

 

 盾越しでも全身が千切れんばかりの力の奔流。

輝く槍は永遠に最果てを照らし、此の世なんて只の影法師でしかないのでしょう。

 

「---Sïona gairh éü,Lyge ablïarsace!!」(聖槍よ、果てを語れ!!)

 

「―――其れは全ての疵、全ての怨恨を癒す、我らが故郷」

 

でも諦めない。絶対に。必ず、わたしはあなたを。

 

「―――顕現せよッ!!!!」

 

「 ---Rhon gominyad. 」

 

「 ロード・キャメロット!!! 」

 

貴女も。

 

 

 

 

 

 

 




全ては、あの闇の中から始まった。
人は生まれ、人は死ぬ。
天に軌道があれば、人には運命がある。
肉親に逐われ、剣に導かれ、辿りゆく果ては何処。
だがこの命、求めるべきは貴方。
目指すべきは貴方。討つべきは貴方。
けどオレは、何?
次回『バックトゥパラダイス』
目も眩む剣戟の中を、騎士達が走る。



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