城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
振るわれる剣戟の量が増え、吐息の数とそれが千を超えた辺りで数えるのを止める。
ずっとこの瞬間が続けばいいのに。 すんでの所でそんな気分に浸らせてくれないのが、この騎士王という剣士だった。
愉しいとはこれ。嬉しいとは、正にこれ。昔から、初めて会った時からずっと。
『参りました。陛下』
『……、―――』
『流石は騎士王であらせられる。無人の野を行くが如く、私の剣など歯牙にも掛けない』
『―――』
『陛下の剣に追いつけるようこのモードレッド、騎士としての職務と鍛錬に身をやつします。全ては我が王と、ブリテンの為に』
『――待て。貴公』
『? は』
…生前キャメロットに登城した初日のこと。騎士としての武勇を示すという名目で、オレは王に手合わせを申し出た事がある。
まだ荒削りなオレの剣はあの日、騎士王に全く敵わなかったものだった。
『貴公、剣はどこで修めた』
『自然相手に修練を重ねた我流ゆえ、師はおりません。無作法お許しを』
『それは構わぬ。……しかし我流でこれほどか。 貴公は恐らく、私を含め円卓の誰をも凌ぐ騎士となるやもしれぬな』
『――御戯れを。我が剣は騎士王の為に振るわれる物。王を超えて何とします』
『違う。それは違うな、サー・モードレッド』
『?』
初めての対話は心が弾み、剣も交えながらのそれは性に合っていたが、興奮で言葉が荒れないか気が気でなかったのを憶えている。
『我らの剣は民の為、国の為に振るわれる物だ。私などの為に振るわれるべきではない。断じて、そこを違えるな』
『――。は!肝に銘じます、アーサー王陛下』
『貴卿の尽力に期待する。……それともう一つ』
『? はい』
『機会があれば、今後は私が其方(そなた)に稽古をつけてやりたく思う。今の卿の剣は、やや粗野だ。無論其方が良いのであればだが』
…嬉しかった。
『…!! 有り難き幸せっ。このモードレッド、いついつでも準備は出来ております我が王よ』
『ならば―――これから少し良いか?』
『はいっ!! どうか宜しくお願い致します!!』
―――下げた頭を上げると、平素より少しだけ。
ほんの少しだけ柔らかく微笑む王が。ずっと話してみたかった父がそこに居たのを、オレはいつまでも憶えている。
◇
「アナタは変わりませんね、父上」
「………」
漂う風も、次元も切り裂く剣戟が何度も重なる。
必殺と言う名の刃鳴が散り、吐息が舞い、お前を切るという冷徹な意思だけがこのバトルフィールドを支配する。
一対一の決闘とは、古より皆こんな風。
「アナタはいつもそうだ。戦いとなれば相手に主導権を握らせないし、握らせたとしてもすぐに拍子抜けにさせる。―――あの丘の戦を除いてはね」
「……ッ!!!」
魔力を更に放出した騎士王がオレの剣のリカッソ(刃の根元にある切れない部位)を掴んで来る。まさに神速の妙技。 だがオレはそんな王の腹を思いっきり蹴っ飛ばし、赤雷を剣身に纏わせた。
――硬えなあ、父上。流石に蹴りじゃあ殺しきれねえか。
「…!! 赤色の魔力放出。だがその出力は、其方の命の火が今にも消えるぞ。サー・モードレッド」
「だから何だと言うのです?それが、一体全体、全く、どうしたと言うのです父上? これはアナタと私のサシの勝負です。本気を出さねば騎士として失礼でしょう?違いますか?」
「………」
騎士の王は剣を脇に構え、静かに機を伺った。
「そうッ!!!騎士の王たるアナタがコレを否定出来る筈もない!!!……いつ如何なる時も全霊であれッ、どんな怨敵どんな相手であっても、民の為国の為に剣を振れ!!! それが我ら円卓の責務であるッ!!!アナタが言った言葉です、アーサー・ペンドラゴン陛下!!!」
「………」
突撃。 時に片手で、時に両手で振るわれる十重二十重を優に超える剣閃の煌き。似通ったその全てが交叉につぐ交叉を超えて幾何学模様を宙に描いた時、
オレの眼には火が見えた。
「私は獅子王の御為、この聖都の為に剣を振るっています。王の配下としてそれは間違いではないし、今のアナタはここ聖都の敵ッ。この私を否定できるものならしてみればよろしいッ!!!」
小さく、熱く。まるでウィルオウィスプのように永遠此の世をさ迷い続ける、ジャックが持つランタンのような蒼い火を。
「―――。貴公は、間違ってはいない」
「ハハッ!!!ようやっと飲み込めましたか父上!」
「貴公の炎は、間違いではない」
「炎? 抽象的な言葉を使うなどアナタにしてはらしくない!英霊になって、何ぞ心境の変化でもありましたか?」
「ああ。そうかもしれん」
闘いの最中だというのに。胸の辺りをそっと撫でながら、騎士王はこちらを見た。
「………?」
――この世界で初めて。こちら(オレ)を見てくれた気がした。
「モードレッド卿。貴公が駆け抜けた一生に、悔いはあるか」
「さあどうでしょう。 アナタには悔いしか無いのでしょうが」
「……以前であれば、そうであったのかもしれぬ。だが不思議な事に今は―――」
何も無いと。
生前からずっとずっと見続けている筈の騎士の王は、そう口にした。
「無い……? 円卓とブリテンのあの滅びを、その原因たる私が眼前にいるというのに、何も無いと?戯言にしても限度がありますぞ。父上」
目蓋を閉じ、もう一度開かれるエメラルドの瞳。
綺麗な、でも只の一度も見た事の無いそれには嘘偽り無しと書いてあった。
――――。何だ、その眼は。
「私が選び、剣を執り駆け抜けた道。その過程で切り捨て、置き去りにしてきたものの為にも。―――その道が。今までの自分が、間違って無かったと信じている」
「…………。 お前―――誰だ?」
「私はアルトリア・ペンドラゴン。セイバーのサーヴァントであり、今は貴公の敵だ」
「……そんな眼を、オレは…、知らない………」
「そして今もこの聖剣を、光を掴み続ける者だ!」
「黙れッ!!!!!!!」
成る程、合点がいった。父上の顔で父上が言うはずのない、アーサー王が考え付く筈のない言葉を垂れ流すコイツはつまり偽者だ。
煩わしい事この上なく、口から塵を吐き出すしかないゴミ溜めだ。
…だってあの円卓の騎士王が。我が麗しの父がこんなにも蒼く輝く炎を、瞳に湛えられる筈が無いんだから。
「父上のガワを被ったパチモンが。父の剣を誰よりも見て聞いて、学んだオレの前でよくも。…よくもそんな女みてえな腑抜けたツラと言葉を抜かしてくれやがったなッ!!!!!!!!!!!」
「………」
眼前のパチモンが剣を上段に振りかぶった。こちらも全く同時に。
「ォォォォオオァァアアアア!!!!!!!」
合わせ鏡のような剛剣と剛剣が空中で火花を散らす。
一撃で一切合財決着をつける。 それが我が父の剣でありオレの剣の一つだが、まさか性懲りも無くそれまで似せて合わせてくるとは。性懲りも無く、性懲りも無く。
「性…懲りも無く…ッッ!!!!!!」
赤雷の魔力を放出し、大地を踏み潰しながら猛進して剣をぶん回す。
敵は緑風の魔力を纏わせ、五体を無駄なく使いながら猛進し剣を振るう。
大地と全身を十二分に使う敵の動きに対してオレは跳躍し、空中で回転。パチモンの攻撃を受け流し、追撃へと移行した。
「オレに勝てるのは……、父上だけだッ!!!!」
――剛剣対剛剣。
この場合、勝負は一瞬でつく。攻め手の間隙を突けばいいからだ。だがオレは剛剣だけでなく防御堅牢なる頑剣と、敵刃を捌ききる技剣も取り入れている。
敵の隙、敵の傾向、そして癖。
それらを一つ余さず捉えて切り殺す為には『剛剣』だけでは足りない。数多の引き出しを持って扱えてこそ剣は『万能』に至り、
あらゆる状況を想定してそれに打ち勝つ事が出来れば、オレの剣は『無敵』と成れる。生前ある時期にオレはその発想に至り、そういう鍛錬を積んでいた。
その為に、この闘いは長引いた。
「―――ストライク・エア!!!」
疾風を纏った敵の刺突が、さながら閃光めいて邁進する。
どのような状況どのような相手であっても全霊を。戦士だけが放つ芳香、純粋なる闘気を漲らせた敵が来る。
オレは剣と利き手を右から左にグルリと返す事で、体を捌く事でそれを受け流して突進。反撃。
クラレントの柄頭(ポンメル)をパチモンの顔面に突き入れた。
「っく…!」
「―――ッッッ!!!」
敵の魔力放出が周囲全てを薙ぎ払うように放射されたが、オレは既に空中へ。敵の後背、死角を取っていた。
死ねよや。クソパチモン野郎。
「『暴走』顕現。――我は暴風、走る雷ッ!!!」
氾濫するオレの魔力波が常を超え、空気中の荷電粒子をとらえて収束しながらクラレントへ。赤雷色に光る魔力はオレの剣をまるで砲身に変化させ、荷電粒子と魔力を一気に射ち出した。
「 我が麗しき父への叛逆!!! 」
直撃、じゃない。勘が良いのかパチモン野郎はオレの宝具を躱していた。しゃらくせえ。が、そうこなきゃ面白くねえ。
「 我が麗しき父への叛逆!!! 」
オレの宝具如きで獅子王のキャメロットがブチ壊れる筈がない。
「 我が麗しき父への叛逆!!!! 」
まだ死んでねえな。塵と失せろよ、このゴミ箱が。
「 我が麗しき父への叛逆!!!!! 」
オレの視界から消えろ。この世界から失せろ。父の面影を、重ねさせるんじゃねえ。
「 我が―――麗しきッッ!」
体中の皮膚から蒸気が漏れ出す。 大気中の荷電粒子と魔力を収束させ続けた為に、過熱状態になったオレの身体が止めろと口から血を吐き出させた。…五月蝿え、黙ってろや人間じゃあるまいし。
「 父へ!!! 」
これは闘いなんだよ。だから勝つ為の方法を、ここにいる間は考え続けなきゃならねえんだ。こんな奴にオレが、敗けるなんて有っちゃならねえんだ。
「 ―――エクス 」
そうだ、その言葉。その気配。
「 ―――カ、」
その兆候(宝具)。
それをずっと、待ってた。
「……ッッ!!!!!!!」
「――っ!?」
魔力放出脚部限定。音速も神速も超えて、誰も彼も時空も超える。
この機だ。 剣のみではなく敵との距離、彼我の間合こそ心血を注いで把握するべき物であり勝つ為に必要な要素。
何度も見せたオレの宝具のタイミング。
それを掴ませ、一撃必殺を使おうと思ったこの瞬間こそが我が勝機に他ならない。
「 クラレント・ 」
敵の懐に潜り込む。大上段に振り上げた敵の懐へ。この距離ならばオレも相手も剣を振れないが、リカッソを片手で握り、もう片方の手を柄に添えればその限りではない。
すなわち。
擬似的な短剣と化したオレの剣は、最短距離で敵の首へと向かっていた。
「 ブラッドアーサー 」
勝つのは、オレだ。
血濡れの剣が敵に届いた。
◇
『―――蹴りを使うな。それはあまりにも粗野だ』
――肉を断つ感覚。昔これを味わった時、何とも奇妙な感情が湧いたのを憶えている。
『しかしながら陛下。出来ると出来ないとではあまりにも違います。これが役に立つ時が必ずや有りましょう。…日々の鍛錬がそうさせると、私は思います』
――ああ何でだろう。何で、かなあ。
『む。…そうか? ならばいざという時にこそ、それは使われるべきだろうか』
『そうですとも、アーサー王陛下。どうぞ存分に』
『其方に使いたくはないがな』
『?何故です』
――こんな感情は二度目の事だった。
『鍛錬ではなく真剣勝負になってしまうだろう。其方とそんな事態には、なりたくないものだ』
伸ばされた片足がオレの胸を押さえる。
広がった距離が、敵に届いたクラレントの剣先と間合を僅かに。だが遥か彼方に押しやって。
オレは首皮一枚のみを切り、空振りと同時に敵の聖剣が振り下ろされていた。
「――……」
「……――」
・・・・・。
「オレの敗けです、…父上」
…クソ。やっぱこの人相手にゃ、思い通りにはいかないもんだな。
「―――貴公との闘いは、今まで以上に死力を尽くさねばならなかった。 あの日、キャメロットの留守を任せた貴公を真っ向から相手取り、勝つには聖剣では足りぬだろう。私は其方を、ずっとそう想っていた」
・・・・・。
「ハハっ、やはりアナタ相手じゃ思い通りにはいきませなんだ」
「………」
「だって。 だって昔も今も。あなたに敗けたら、」
・・・・・。
「もっと悔しいもんだと思ってたぜ」
あの頃も。そして今も。
どれだけ経っても。
―――オレは貴方の。
何故、どうして戦う。
何故武器を向けあう。
ともに登った果て城で、互いの心の中を覗く。
そこには、荒涼たる視界の中、暗夜に武器を手に持ち振り翳す、戦士と己の姿があった。
次回『思い出』
死が互いを分かつとも。