城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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 ※注意。今回は拙作に登場するある人物の、読んでも読まなくても別に構わない設定という名の昔話です。しかも若干Mount&Blade風。
 キャラの妄想過去なんて想像だけでいい!くどい!長い!という方はブラウザバック推奨です。









幕間 昔話

 

 

 

 人里離れた山間の村に住む槍造りの一族。

 

 その少年は四人兄妹の三男として産まれた。

 

 

 父も母も兄達も槍が至上だと口を開くたんびに言う為、少年はどいつもこいつも頭がおかしいと子供心に思っていた。

 

 少年にとって唯一純粋に敬意を払えたのは年老いた祖父で、槍の一族=ローナルドの中で剣も扱えるその人がとても輝いて見えていた。

 

『男ってのはな、何でも出来ないと駄目なんだよ』

 

『料理も?』

 

『馬鹿たれ。当たり前だろう』

 

 祖父は少年に様々な事を教えてくれた。

槍を扱う事は誰かを護る為であり、我々一族はその事に命を賭けるのだと。――大事なのは間合い、そして退かぬ心を忘れるなと。

 

槍しか頭に無い両親や兄達とは違う祖父を、少年はこの村で唯一の大人に見えていた。

 

『何だ?お前も剣を扱いたいのか?』 

 

『うん。俺も、祖父ちゃんみたいになりたい』

 

『お前にゃ無理だ』

 

『何で』

 

祖父はズイと剣の切っ先を少年の眉間に近付けた。いつの間に抜剣したのか、少年には見えなかった。

 

『ほらな。お前さんはそういう人なんだ』

 

『・・・・・』

 

 少年は動けなかった。 

身体も頭も動く事を全て拒否したかのように真っ白になり、ただ時間だけが過ぎ続ける。

 

近間に相手の得物を許す=死だと、祖父に教わっていたのに。

 

『儂(ワシ)らは強靭な槍を造り、強靭に槍を扱う一族だ。お前は剣じゃなくて槍に選ばれているんだよ』

 

―――兄弟喧嘩は解決してくれるのに。時はそれを解決してはくれなかった。

 

『・・・やだ』

 

『まあ、いずれ分かるさ。ガキの頃のお前の父ちゃんもそうだったんだから』

 

 一心不乱の修業が始まった。 

得体の知れない感情が少年に剣と槍を持たせ、山と野を駆ける獣狩りの少年期。

 

 逆に獣に狩られそうになった日は数知れなかったが、剣で獣を狩れた日は一度も無かった。それを諦めた日も無かったが。

 

 

 

 

 ・・・・老衰で祖父が死んだ次の年の冬、少年には妹ができた。

コイツもどうせ槍狂いになるんだろうと思って適当に相手してやったのが幸いしたのか、妹は一番年の近い兄に懐いた。

 

『どうしてお兄ちゃんは剣ばかり振るの』 

 

『男は何でも出来なきゃ駄目だからだよ』

  

『でも槍の方が上手だよ?上兄さん達も褒めてたよ』

 

『え?本当? ・・・いやいや、あの人達と俺を一緒にするな!』     

 

 ――このままではいけない。少年は故郷の村を出ると決めた。 ここに居たんじゃ腐ってゆく。いつか、俺が俺でなくなる。

 

そう思った時、少年は若者になっていた。

 

 勝手な思い込みという名の偏執病(パラノイア)が心身を支配し、16歳を迎えた日に若者は村の柵を乗り越えた。

 

もう二度とここには戻らないと決め、後にそれは真実になった。

 

『お兄ちゃん。 …ここを出るんだね』

 

柵越しに聞こえた声が、若者の背と足を縫い付ける。

 

『とめるな。俺は絶対に剣で勝てるようになる』  

 

『誰に?』

 

『誰にじゃない。何にでも』

 

『…、死んじゃうよ』

 

『祖父ちゃんがいる。怖いものは無い』

 

『…もう帰ってこないの?』

 

『ああ。・・・この村は良い所だ、達者で暮らせよ』

 

『…うん』

 

一度も振り返らずに広い世界へ出た若者は、まず人攫いに襲われた。

 

『ガキ。てめえ歳は?』

 

『26だ。文句あるか』

 

『いい事教えてやろうか、ガキ。――嘘ってのはマシな嘘じゃねえと逆効果なんだぜ?』 

 

 色んな意味で襲われそうになった若者は人攫いの隙を見て逃げ出して、大都市のギルド街に辿り着いた。色んな物が死ぬかと思った。

 

『ジジイ、何でもするから金をくれ』

 

『ん?今なんでもするって言ったよね?』

 

『・・・訂正する。金になる仕事をくれ』

 

『てめえみたいなヒョロガリ棒っきれにやる仕事はねえよ。・・・と言いたい所だが、待ってな。一ついいのがある』

 

そう冗談めかして言うと、街の組合員は二つの油壺を持って来た。

 

『これを隣り街の商人ギルドまで運んでもらおうか。報酬はこれくらいだ』

 

『運び屋だあ?もっと割りの良い仕事はないのかよ』

 

『あ? てめえみてえな得体の知れない野郎に紹介してやるだけ、有り難いと思いやがれ!!』

 

 ブツクサ不満を道すがら言いながら、若者は仕事を全うした。途中野盗に何回か遭遇したが、戦えば品物が壊れるので逃げてやり過ごした。

 

若者は自分を幸運だと思った。別に感謝はしなかったが。

 

『完了だ』

 

『ああご苦労さん、また頼むぜ』

 

『・・・・なあ。この辺りで腕自慢が集まってる場所は無いか?』

 

『それならあの辺りだが。 何だてめえ命知らずか?やめときな』

 

『命要らずだ馬鹿野郎』

 

 若者は走った。そして眼に入った闘気と殺気を漲らせてる奴を片っ端から相手にしようとした。この剣でぶっ殺してやろうと思った。

 

『――なんだ小僧。お前、初心者か?』

 

『うるせえ。・・・んなわけないだろ切れよ』

 

『――身体つきも手の内も悪くない。だが何だその格好は。――剣突き付けられて、もう一歩も動けねえのか』

 

『うるせえ。切れよ、切ってみろよオラ!!!』

 

『――俺が言うのも何だが。命は粗末にするもんじゃねえぞ小僧』 

 

 ・・・・薄く。だが出血が致死量に達するだろうほど、若者は何度も何度も剣で切られた。歯噛みし、涙を殺し、世界と自分を呪いながら皮膚から流れる血を啜り飲み、元の自分の中に戻す。 

 

痛みを運ぶ夜風に耐えながら、伏した若者は血が止まるのを待った。

 

 ―――朦朧とする意識。砕かれた剣。流れる時間。

ふと顔を上げると、少しずつ霞んでは消えていく星々が見えた。 自分を死に誘っているのだろう星空。青ざめた血の空が、若者は初めて怖いと思った。

 

 そんな若者の顔を星光がそっと撫でた時。

若者は唯一残った槍を抱き寄せて立ち上がり、それを思いっきり振った。

 

『・・・・・』

 

 ・・・よく分からない感覚だった。 

剣ばかりで滅多に槍を振らない祖父の素振りが唐突に若者の脳裏に思い出され、その形通りに槍を振って振って振りまくった。 

 

塞がって間もない傷口が開き、血が槍を伝って地に落ちようとも若者は決して素振りを止めなかった。

 

 ―――夢を。 

ずっと抱いてきた剣を捨てる悲しみを、それは洗い流すようだった。

 

『そうか。・・・これだ』

 

・・・・・。

 

『槍を剣のように―――振ればいいんだ』

 

 

若者だった男は、今日が誕生日になった。

 

 

 

 

『誰だてめえ。何の用だ』

 

『金品を出せ。じゃねえと殺す』

 

『・・・てめえ、あの時のガキか』

 

『二度は言わねえぞ。人攫い』

 

汚い頭と腹を潰し、男は当面の金を手に入れた。

 

『よお、今回は油壺と小麦を三つずつだ。宜しく頼むぜ?運び屋』

 

『任せときな』

 

信頼と実績は実戦をこなす度に勝手に付いて来た。

 

『――そうか剣使いではなく。 お前は槍使いだったか』

 

『ああ』

 

『――あれから五年。極上の餌になったな、小僧』

 

『あんたもな』

 

そして男は剣を上手く使う奴を見ると、無性に叩きのめしたくなっていた。

 

『――お互い様か。・・・じゃあ、やろうや』

 

 男が人間相手に一対一で負けたのは、生涯ただ一度きり。少なくともそれはここではなかった。

 

 

 

 

 

 

 男が33歳になった時だった。

仕事帰りに焼肉をホットミルクでやりながら新築の自宅でくつろいでいると、不意に出入り口が音も無く開いた。

 

おっと復讐かな? 殺すか。と思いきや妙な丁寧さを感じたのでその線は消した。

 

『何だ小僧。俺に何か用か?』

 

 出てきたのは気に食わない笑みを浮かべる一人の若者だった。

・・・この邂逅がなければ男の将来は戦と血に酔った獣であったろうが、男は知る由も無い。

 

『アンタがあの運び屋だな?』

 

『あのかどうかは知らねえが。・・・仕事の依頼ならギルドの爺を尋ねな』

 

『俺と戦え』

 

『・・・・あ?』

 

 歳は20半ばくらい。上半身の肉の隆りが著しい。騎士かもしれない。 男は観察の手を止めずに答えた。

 

『腕試しなら他所でやれ。見ての通り俺は忙しい』

 

『暇だろう?なあアンタ強いんだろ? なあ、ローナルド?』

 

『・・・・・』

 

一族の名はこの街に来てから、一度も口にした事は無かった。

 

『――誰に聞いたその名前』

 

『アンタの知り合いさ、ローナルド』  

 

『今度そのクソったれな名前を言ったら口を縫い合わすぞ』

 

『おお怖い。じゃあそう呼ばれたくなかったら、俺と戦え』

 

『どこでやる?』

 

『表』

 

 その若者は人間離れした強さだった。 油断も疲労も無かった男はあっという間に敗北し、久方ぶりに地に這いつくばった。 

 

『――何、モンだてめえ・・・!ここらにこんな強え奴がいるなんて聞いた事ねえぞ・・・!!』

 

『流石だな。一人で運び屋しながら野盗やら異民族やらとも戦う男は、地力が違う。倒れても元気一杯だ』

 

『質問に答えろッ! てめえ誰だ。何で俺の名を知ってる!!』

 

『答えてやるよ?アンタが俺の配下になったらな』

 

『配下だあ・・・!?』

 

 登用試験は合格だ、と若者は続けた。

誰がなるかボケ、と反吐と一緒に言葉を吐き出したかったが身体に力が入らない。

 

 力強い剣の振り、下半身と重心の使い方が常人のそれじゃあない。若者の剣技は、男にとって初めて見る戦闘法だった。

 

――昔夢見てた剣士、正統なる騎士の剣使いだった。

 

『・・・・・。俺は今まで誰かの下になんぞ付いた事はねえ』

 

『だろうな。口汚いもんよ、アンタ』

 

『・・・・背中からてめえを槍で刺し殺すかもしれねえぞ?』

 

『それは無いだろう。アンタがそれを許さない』

 

『・・・、最後にもう一つ』

 

『うん?』

 

渾身の力を込めて膝立ちになった男は、左膝を立てて左胸に利き手を当てた。

 

『あなたの名前を教えてほしい。―――我が大将』

 

『勿論だ、運び屋』

 

笑みを浮かべ纏う雰囲気をがらりと変えて。若者は荘厳なる意志を瞳に湛えてこう言った。

 

『私はウーサー。ウーサー・ペンドラゴンである』

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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