城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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 【家の人】 白黒赤青緑 
housecarl ソーサリー。
 全てのクリーチャーを破壊する。それらは再生できない。 

『我らは人として生き、人として死ぬ。誰もいない場所を守り続ける化け物になどならないように』 
 ――失われた、古ノルド人達のおとぎ話。









第36話 Final Battle With

 

 

 

 

『・・・・おい。死んだか?』

 

『ええ、そのようです』

 

『本当か?心の臓は?』

 

『停止してます』

 

『腕と首は?』

 

『もぎました』

 

『足は?』

 

『骨を砕きました』

 

『血は?』

 

『赤いです』

 

 サクソン人の戦士達は深いため息を付いた。十一年にも及ぶ攻城戦が、ついに終結したからだ。 

 

彼らの敵であるこの城の兵達は小勢ながら皆手強く、兵糧の備蓄も充分あるのか決して心折れず戦っていた。

 

―――だが死んだ。殺した。一人残らず此の世から。

 

『残った敵兵は、いるかな』

 

『いないよ。・・・残ってたのはこいつ一人だ』

 

『え?―――それって、』

 

 ・・・城攻め最後の年。 

攻め手側の彼らはたった一人の敵兵と戦い大損害を出していた。玉座の間の前を陣取り、死体で出来たバリケードを作り、何を食ってるのか寝てるのか、彼らは一度も敵の不意を突ける事は出来なかった。

 

この城の兵士は、本物の化け物だった。

 

『気持ちを切り替えようぜ。玉座の間にはどんなお宝があるのか、ずっと気になってたからな』

 

『主君も上役もいねえのにこんだけ戦ってたんだ。さぞ多くの宝があるに違いねえ!』

 

『それだけが俺達の目的だったからな』

 

『さ、て~。 何があるかなっと・・・・・?』

 

彼らが玉座の間に入って見えた物。それは十一年間ずっと見たかった物。

 

果たしてそこには、

 

『――おい。 何もねえぞ』

 

『は?は? ―――・・・は?』

 

『・・・・・畜生』

 

 そこには宝など何も無かった。

がらんとした玉座の間。椅子とテーブルがあるくらいで、宝剣だ名槍だ金銀パールダイヤモンドだのは何もかも無く、有るとすれば無駄骨だけがそこらに転がっていた。

 

『俺は。―――俺達は、この、十一、年間いったい何の為にこんな化けモンと戦ってたんだよッッ!!!!!!!!!!』

 

激昂し、先ほど殺した死体を蹴る。

 

『この化け物野郎がッ!!!! 一丁前に兜なんぞ被りやがって!ずっとそのツラ拝んでみたかったんだよなあ!!!!!』

 

生首を覆っている兜を剥ぐ。

 

『騎士王がいた城なんだから絶対何かあると思ったのによ!! クソ!!!クソッ!!!クソッ!!!!!』

 

死してなお持っている槍を踏み砕く。

 

『何だこのツラ! ハハハ、見てみろよおい!!』

 

『ハハハハハハハハハハハハ!!!!―――このボロ雑巾がッ!!!!!』

 

『・・・・おい。やめねえか、もう死体だろ。体力の無駄だ』

 

それを見ていた一人の男が、仲間達を諌めた。

 

『あん? ・・・・ああ、お前確か北方出身だったよな』

 

『ああ』

 

『じゃあ知らねえか?これは俺達流の弔いなんだよ。 死体を蹴って嬲ってする埋葬法!!!』

 

『これまで俺らの仲間が何人死んだと思ってる? こんな化け物相手によお!!! おい!火だ!火ィ持って来い!!!』

 

『燃やせ燃やせッ!!』

 

『宝があると思ったから燃やさなかった事を感謝しろよこのバケモンが!!!!』

 

『・・・・。ああ、分かった』

 

 勇士は敵味方問わず敬意を表する。それがこの男の故郷に伝わる信仰だった。 仲間達は口々に罵るが、それは今まで味わい続けてきた恐怖の裏返し。それぐらいここの兵は強かった。勇ましい程に。

 

『・・・。せめて貴方がヴァルキュリアに選ばれ、かの地で蜜酒の杯を受けられん事を』

 

そう祈り、男はふと目に付いた大きなテーブルに手を伸ばした。

 

『? 随分大きなテーブルだな。周りの椅子の数は・・・・じゅうさ、ッ!?』

 

その時、夥しい殺気と一つの視線を背筋に感じた。

 

『ッ!!!』

 

 振り向き、眼を凝らし、火を付けようと準備をしている仲間以外に。 男はそこに人影が見えていた。

 

・・・忘れられるはずも無い。それは先程殺した城兵士、あの槍化け物だった。

 

『あ、――――な、何で・・・・』

 

 首は確かに切断したのに。

立ち上がり、こちらをぼうっと睨んでいる。一歩も動かないがしかし、その恐ろしい眼光には白く炎が燃えていた。

 

『エ、エイン―――、エインヘリヤルッ!!!』

 

『おい?どうしたってんだよお前?』

 

『ッ!? は、は!?』

 

『は?じゃねえよ。どうしたんだいきなり叫んで』

 

『あの化け物がッッ!!!』

 

『そこでバラバラになってんだろ。埋葬終了だ』

 

 ―――男が仲間に視線を移した後に眼を向き直すと、そこには何の影も形も無かった。 滅多切りにされた敵兵は地に倒れ、薪と一緒に火種へと変わろうとしている。

 

『心配すんなよ。化け物はこの城ごと跡形なく消し炭にしてやるさ』

 

『・・・・・、』

 

『その後は西に進もうぜ。ウェールズって最近は呼ばれてるらしい。何かあるぞ~? こいつは何か眠ってるぞ』

 

『イイ女がいてくれりゃあ最高だなあ!』

 

『ぬへへ!!』

 

・・・・・。

 

『・・・・・――あの、よ。実は俺十一年どころじゃなく、もう随分と女に会ってねえんだ』

 

『マジかよ。そりゃご愁傷様だ』

 

『昔馴染みの良い女が、故郷にいてな。そろそろ帰ってやらねえと俺の事忘れちまうかもしれねえ』

 

『おいおいそれを早く言えよ。イイ女は大事にしなきゃ駄目じゃねえか!ちなみに名前はなんてんだ?』

 

『ゲルダってんだ・・・なあ、この城は落とした事だし、女の所に帰ってもいいか?』

 

『勿論だぜ!だけどちゃんとこの隊に戻ってこいよ?お前の斧はピカイチだからよお!』

 

『当たり前だ。・・・戦利品も何もねえ城だったが、お前らとの思い出を忘れない為にこのテーブル持ってってもいいか?どうせ全部燃やすだけだろ?』

 

『ああいいぜ、そんなガラクタで良ければな』

 

『ありがとうよ』

 

 男は厳かにテーブルを手に取った。一応振り向くと、そこには死体だけだった。もう影は見えなかった。

 

『―――このテーブル。貴方はそんなにも護りたかったのか?』

 

・・・・・。

 

『この地は貴方のような勇士ばかりなのか? ・・・・俺は怖い』

 

 この気持ちを忘れずにいようと、男は己の魂と故郷の神族に誓った。

その甲斐あってか女の所に帰った男は末永く幸せに暮らし、戦場には二度と戻らなかった。

 

 ―――それ以外の者はウェールズにて槍を使う恐ろしい部族と戦い壊滅したのだが、それはまた別の話である。

 

『燃やせ燃やせ。早くしろよ!』

 

『ドゥンドゥンやろうじゃねえか!!』

 

『なあ。 この野郎たしか最期に何か言ってたよな?』

 

『名前じゃねえか?よく聞こえなかったが』

 

『お前耳ワリいな。ハスカル?ロンナルドだよ』

 

『お前も人の事言えねえじゃねえか!』

 

『ハハハハハ!おら火ぃつけんぞ!!』

 

『・・・・・』

 

 男はこの円いテーブルを護り続けた兵士の名前を生涯忘れず、故郷・ノルドの地の仲間と子孫に語ったそうな。

 

『―――これは大切に残します。 

さらば、勇士ハスカール』

 

【家の人】と、それは長い間忘れ去られぬ事となる。

 

 

 

 

 

 

 ―――そこに居たのは老人だった。

 

 真白髪に深い皺のある顔立ち。眉根を寄せて口は結び、骨と皮しかないのではと思わんばかりの首が逆に古強者の匂いを醸し出している。

 

・・・しかし眼光だけは、細く鋭く白く輝いていた。

 

「……。今のは」

 

「? マシュ?」

 

「やはり貴方か・・・フスカル」

 

「まさか老兵とはね」

 

「我が兵(つわもの)よ」

 

「・・・・・」

 

 兜が割れ落ち軽くなった首と頭を僅かに捻り、老兵は小さく息を吐いた。そしてゆっくりと吸って、今日の飯はなんだろとばかりにさり気なく周囲と間合を把握する。

 

それに気付けた者は獅子王と騎士王と――、

 

「……もういいでしょう」 

 

 マシュ・キリエライトは老兵の顔立ちをみて、堪らずに言った。

獅子王が聖剣を手にできた今、最早この特異点が終わる事は明々白々。・・・たとえ生前の老兵がロンの槍、つまり人々に信仰された聖槍へと習合された槍を扱った戦士だとしても、

 

 ――世界の表裏を繋ぎ止める槍・ロンゴミニアドを使用していたのは紛れも無くアーサー・ペンドラゴンただ一人。

 

「今の貴方は槍の権能を無理やり行使しているだけにすぎません。このままでは貴方の霊基、魂までも消えてしまいます…っ!」 

 

『マシュの言う通りよ。 英霊でなくとも、たとえ一側面のみであっても、その槍をこのまま使用し続けたら第二の獅子王の誕生になりかねないわ。恐らく今まで何かしらの兆候は有った筈。 ―――フスカル・ローナルド。人理を守ると決めた者の一人として、守り人である貴方には敬意を表します。ですがどうか、今を生きる私達の道を歩ませて。 …それとも貴方は神や化け物にでもなるつもり?』

 

「・・・・・」

 

 槍がしずと動く。無論、和平の意思表示などではない。

ひたり、ひたりと眼光が人知れず動き、狩りを行う猛禽類のように兵士が間合と狙いを定めている。

 

顔色は全く変えず、静かに。だが確実に誰も逃がさないと伝えるように。

 

「・・・マシュ。行くよ」

 

「…マシュ。これで、最後に」

 

「私も行くよ。もっちろん」

 

 藤丸兄妹とサーヴァント(ダ・ヴィンチちゃん)の眼が敵を捉え、間合を図る。 ・・・眼前の老兵が先程から足を動かさないのは、恐らく既に彼の間合に全員が入っているからだろう。

 

 逃がすつもりも戦うつもりも無いのなら、最初からここまで来るわけがない。敵の行動原理及び信念は動即滅、決即殺。死中活、意中人、腹中書、壷中天。

 

人間であるからこそ藤丸達はそう思った。

 

それを見てとって。

 

ほんの少し、老兵の眉根が上がった。

 

「フスカルさん。……なんで、」

 

 デミサーヴァントが震えながら口を開く。

・・・何故震えるのか。何故こんなにも胸が痛むのか。何故、こんなにもずっと、この円盾が泣くように軋むのか。 いない筈の彼女の中の誰かも、それは問いたかったのかもしれない。

 

「・・・・・」

 

「貴方は何故、そこまで?」

 

 

・・・・・。

 

 

「・・・・・主君は、ペンドラゴンのみ。二君には仕えん」

 

 

 パン、と音が鳴った。城兵の言葉と足が地を蹴った炸裂音。

 

 第六特異点最期の闘いが今、始まった。

 

 

 

 

 

 

  第36話 Final Battle With Huskarl

 

 

 

 

 

 

 

 ―――炸裂音と共に繰り出される槍の攻撃はマシュの盾を縦横無尽に揺らし、衝撃と恐怖を与えた。

 

 十重どころか∞とも思える槍の軌跡の数が脳の許容限界値を突破し、援護をしようと藤丸ぐだおはガンドを放とうとして動きを止めた。

 

「・・・・ッ!」

 

そうでなければ、この片腕は今頃此の世から失せていただろう。

 

「先輩っ!」

 

「機を待ってて、ぐだおくん。ちょっと彼、人外みたいだ」

 

 際限なき、何という槍捌き。何という広大な制空圏(槍の間合)。身動き一つ出来やしないとは正にこの事。人の形をした何かが、彼らの前で槍を振り続けている。

 

 ・・・地を鳴らし、たとえ海すらも叩き割り、空を断つ。生涯を武と共に生き、そして今も振るい続ける槍化け物が藤丸達には見えていた。

 

 ――しかしながら、妹の藤丸立香は疑問に思った。

今までの特異点で見てきたどの槍捌きとも違う、この兵士の槍の動きは一体なんなのか?

 

 ・・・長年槍を振るってきた年の功。いやいや、そんな事じゃ納得できない。根本的にこの槍兵は。―――この『槍』は他とは違うと立香は思った。

 

『!? マシュ、穂先を見ないで!敵の手元を見てっ!!!』

 

「え……?」

 

 防戦一方のマシュと立香が同時に声を漏らす。 

動く槍を見てから対処したのでは遅い、そんな当たり前の事をカルデア所長が伝えたわけではないからだ。

 

『…まさか暗黒時代にそんな物が。しかも鉄で出来た馬上槍でなんて……っ』

 

「・・・・・」

 

 老兵が金属音を鳴らしながら槍をうねらせ、穂先を手繰る。音は使い手の手元から生まれていた。 ―――妙だ。今まで短期戦ばかりで気にならなかったが、よくよく考えればそれはおかしい。

 

単に手の内を利かせただけではこんな音は出ない筈。竹刀ならまだしも。

 

 立香の兄も同時に疑問に思った。

しかし刹那、閃きが彼に微笑んで、妹と昔見た古い動画を脳裏に思い出させた。

 

すなわち、フスカル・ローナルドが辿り着いた槍とは。

 

「・・・まさかこれ―――『管槍(くだやり)』?」

 

「・・・・・」

 

爆烈なる足音がその答えだった。

 

 ―――キャメロット城に篭城してから十年目のある日、ふと老兵は考えた。

日々鍛錬している己の心身の最盛期とは無論死ぬ時である。しかし万が一という事もある。

 

人の心は老いる事は無い。 が、昔の自分に今の自分が負ける事がもしかして。

 

・・・兵士としてそんな事は堪えられない。

 

 何か解決策は無いかと玉座に迫る敵を打ち殺していたその時、槍を持つ手が敵の返り血で滑ってしまった。 ・・・運の良い事にそれは群を抜いたスピードで敵の喉笛に向かい、蛮族一人を突き殺す事に成功する。

 

 それを体験した老兵は何とかして今のを再現できないかと思考を巡らし、転がっている味方の死体から小さな筒を拾って槍に通してそのまま振るい続けた。

 

幸いな事に敵はいつも大勢、寝ても覚めても攻めてくるので練習には事欠かない。

 

技は呼吸をする度に磨かれた。

 

―――フスカル・ローナルド 88歳の時である。

 

『ただの装飾品じゃなかったのか・・・・!!』

 

「動画で見たことある!」

 

「左手の握りが少々変だと思っていましたが、まさかそんな物が……っ」

 

 ともあれ敵の種は割れた。

手強いが、あとは往くのみ。我らの為すべき事は何も変わらない。カルデア側の人間達がそう奮起した瞬間だった。

 

「・・・・・」

 

 一際、地面がバンと鳴り揺れる。

見事と言うように、お前達は決して弱く無いと言うように。だがしかしと言うように。

 

 ――だから何だ? という目付きを老兵はあえて見せた。

今まで我が槍の仕組みを理解した敵は多かったが、俺は負けなかった。それが何故か分かるか。

 

「……。ハァアアアアアア!!!!!」

 

 俺の最期は盾を持った蛮族どもに押し潰されながら、剣やら斧やらで滅多打ちにされて死んだ。痛いしとても疲れたが、俺は純粋な戦いで負けていない。俺はあの方以外に負けちゃいない。

 

卑怯者のサクソン人ども、愚劣畜生異民族どもめ。

 

 俺に勝てるのは我が大将だけだ。ペンドラゴンだけだ。

そして俺の忠が負け果てる事は、人理とやらが跡形無くなろうとも有りえない。

 

―――パッシブスキル『滅殺の誓い』・三連重ね掛け。

 

「・・・・・」

 

―――俺は城兵だからな。

 

「…。ァアアアアアッ!!!」

 

「・・・、ぉおおお!!!!」

 

「…、ぁああああ!!!!!」 

 

 マシュが気を吹いた。藤丸達マスターも同じく。

どんな時でも諦めない。それが彼らの信念だが敵はその信念を死ぬまで、いや、死んでも持ち続けている正真正銘の槍化物。ハスカールの語源になった者。

 

この闘気を前にしては、頭を垂れてしまいそうになる。それに負けぬ為の発声だった。

 

「ぅ、く――!!?」

 

「ダ・ヴィンチちゃん!!」

 

「・・・・・ッッッ!!!!!」

 

 ――雷声の如き呼吸と同時に炸裂音。 地が割れるような音と槍撃がキャスターのサーヴァントを打ちのめした。

 

 闘いの間ずっと鳴り続いているこれは老兵が繰り出す屈強な足踏みが発生原因だが、立香達とマシュは先程から耳がぐらんぐらんと根元から揺れていた。 

 

 ・・・デミサーヴァントは半分は人間である。

このままこの音を拾い続ければ、彼女ら三人は三半規管及び聴覚の異常すら引き起こすかもしれない。

 

『震脚…! あれで調子と血の流れを促進して自己の間合を生み、そして反響する音を耳で感知して他者との間合を図っているんだわ!――この兵士、眼に頼っていないっ!』 

 

「・・・・・」

 

 ―――人は自然に眼を瞑る事が出来る。鼻息も止める事が出来る。口も閉じる事が出来る。しかし、耳は何かで塞がなくてはならない。

 

すなわち人間とは、耳と頭脳を使って此の世に君臨できた生物である。

 

『平衡感覚が崩れるぞ!! みんな、耳を塞げ!!』

 

『駄目よ!そんな事は許しませんっ!! そんな事をしたら敵は期待に応えて槍を振るってくるわ。変幻かつ神速の管捌きと踏み込みとで。 ……それは眼で追えない恐ろしい速さの槍撃を、眼だけで何とかするという事よ!!!』

 

「―――彼は耳が良いというより耳が強い。 というわけだね、マリー。ならば!!」

 

「ダ・ヴィンチちゃん! 『瞬間強化』!」

 

「 ウォモ・ウニヴェルサーレ ! 」

 

「・・・・・?」

 

「ひゅー!解剖してみたーい! 何で無事なの?」

 

「…ハァァアアアアアアっ!!!!!」

 

「マシュ!?」

 

「・・・・・ッ!」

 

 槍の軌跡が幾何学模様を宙に描き、盾の軌道が天地自然の隅々に曼荼羅を創り出す。 足の運びは体重を、腕の振りは発生した重心を運び、老兵とマシュの一撃は常を超えて必殺必倒の域に達していた。

 

 ・・・・しかしこの期に及んで、老兵は眼前の敵を驚異的と判断した。

こちらの槍撃を寸分の狂いなく同じ速度同じ間合で捌ききる、盾の守り人の凄まじさから。

 

「・・・・・」

 

―――、捕捉されている。

 

 瞬間的に相手よりも強い力を、速度を発揮したのならまだ解る。運と地力が微笑んでいるからだ。今だけは。

 

しかし間合の捕捉だけは、どんな者でも如何ともしがたい。

 

―――流石は盾の防人。まるで鏡相手に槍を振るっているかのよう。

 

 なので老兵はマシュ・キリエライトを難敵ではなく害敵と判断した。即ち、これ以上の生存は天地神明に懸けて許さないと。必ずやこの敵を屠り去り滅殺せんと。

 

「・・・・・」

 

「……………」

 

 疾くこの城から追い出す為に。

身体を弛緩させた老兵は槍の穂先を右肩後ろに回し、マシュから大きく距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何もかもが、炎の中に沈むとも。
微笑みかけた友情、芽生えかけた愛、秘密も、そしてあらゆる悪徳も燃えるとも。
全てが振り出しに戻った。
勝負とは、滾る魂を五体の隅々へと包んで、冷徹なる意志と共にただ前へ前へと往く行為。
一勝一敗。思い返せばこれで決着。
次回『白く輝く炎で』
城兵は、誰も愛を見ない。



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