城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない   作:ブロx

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今回から戦闘シーンが続きます。作者は口だけは達者なトーシローだなと思って頂ければ。そして分かる人にしか分からないネタも続きます。これはあれだなともし分かって頂けたなら、映画空飛ぶタイヤのあのシーンのように笑ってやって下さい。









第4話 獅子の円卓

 

 

 

 やあ、一般兵Cだよ。今ボクは古今東西人間の憧れの的、聖地の眼の前に来て実況生中継中。

 

 いや凄いですよ。ここを獲る為にうん百年単位で人物金が動くんだから。旅団超えて軍団規模で。

 

 憧憬の念がちょっと強すぎかなって思ったり思わなかったり。

過ぎたるは尚及ばざるがってね。

憧れは、理解から最も遠い感情だって事に気付いてからこそ本当の感情が始まるんだよ。

 

え?御託はいいからそれで生の感想はだって?

 

「・・・・」

 

「ほう、この恐怖の波に耐えられるのか。貴様は」

 

 ヒモ無しバンジーとか目じゃないほど超怖いです、今現在。

具体的に言うと前を進むアグラヴェイン卿の眼光が、若干弱くなるぐらいに。 

 

 まるで仄暗い底無し沼だ。人の六根どころか、命魂をも掴んで離さない。

この恐怖の波動は敵の重圧(プレッシャー)なのか。はたまた俺達の心が無意識に聖地に入るなと警告を出しているのか?

 

・・・。形容なんてとても出来ない。

 

「---聖地には偽の十字軍がいるが、この恐怖の波動はその首魁ただ一人の代物だろう」

 

 え、つまりこれって敵のボスがただ垂れ流してるだけの気配とか空気とかそういう類ってことですか?我がおう!!?

 

もしかして体臭とかそういう・・・

 

「---迷わず進め」

 

あ、はい。

 

 一歩一歩聖地に進むごとに、一般兵士=俺の同僚達が立ち止まる。酷い奴だと蹲って倒れ伏せてしまう始末。

 

 ・・・皆怖いのだ。 こんな見たことも聞いたことも無い敵の脅威が、敵の力が。

我が王に最期まで従うと決めたのに、その決断力をも濡らし染める、敵の恐怖が。

 

「・・・・」

 

 俺だって怖い。だって理解が出来ない。

恐怖の対義語は洞察とか何とからしいけど、この恐怖の主が一体何なのかが解らない。

 

「どうした?」

 

・・・え。アグラヴェイン卿?

 

「我らは何故ここにいる。我らの目的は何だ。我らの王は、どなただ」

 

「・・・」

 

「貴様らは所詮一兵卒。ゆえにそこで立ち止まり、震え上がっていろ。獅子王の円卓に、弱者は不要である」

 

 すると。アグラヴェイン卿をはじめ、円卓の騎士達の歩の速度が上がった。音を超え、人智を超え。そして迷いも、後悔も、恐怖も、慈悲も心も無い。

 

 為すべき事はただ王に付き従い、敵を蹂躙して聖都を造り上げるのみ。

 

「・・・」

 

 流石だ。 たとえ時代が違うとも、我が王の円卓はここに有り。

その気概、考えてみれば当然だった。彼らは皆、かつての仲間の死肉を喰らってでも王に尽くすと決めた獅子の爪牙。

 

 弱者にあらず。人にあらず。英霊にあらず。そして躊躇わず、愛も情けも涙も己の命すらも無い。

 

―――だから強い。

 

獣達が、今、聖地に突入した。

 

 

 

 

 

 

「ぁぁあああああああああーー!!!」

 

「・・・・」

 

 うわ、びっくりした。

武器を構える俺達の前に、叫喚といった風の兵士達が走ってきた。

ランスロット卿らが剣を振るい、それらを薙ぎ払って一掃する。

 

「ぁああああああああああぁ!!!!」

 

「ぬわああああぁああああああぬ!!!!」

 

 何だ何だ?ゲシュタルト崩壊という魔術の行使か? 奴ら、武器を持ってこちらに突進してくる。身なりからしてムスリム系の兵士達かな? でも西洋鎧を着た騎士っぽい奴らもチラホラいるね。

 

「・・・・」

 

 俺も槍を振るう。叩いて、薙ぎ倒して、仕舞いに突く。

武器持って突っ込んで来るのは別にいいんだけど、その先には我が王がいる。

 

 それは駄目だ。 不逞の輩が王に近寄るなど論外埒外だ。俺はそれを許せない。 

 

「ああああああああああ!!!」

 

「ぁあああああああああああわ!どけーーッッ!!!」

 

「・・・」

 

退くわけねえだろ。 

 

 ・・・・しかしこれ、何だ?何かおかしい。

こいつらみんな兵士なんだろうが、戦士が一人もいない。ここは戦場で、聖地には遠征軍と偽の十字軍がいると王はおっしゃっていたが。

 

 雪崩れ込んでくる兵士達。これではまるで、

 

「――敗走とは。悲しいですね、兵士諸君」

 

「・・・・」

 

あっちゃ。

 

「彼らは皆生きようとしているのです。この魔界のような聖地で、戦場で、我々の前で。 一体何が彼らをこうも駆り立てるのか?武勲をたてる為にいくさ場に来ているというのに、何故このような敗走という無様さを晒しているのか?」

 

「・・・・」

 

小首を傾げるトリスタン卿の妖弦が、鳴いた。

 

「生きたいのならば救ってあげなくては。――私は悲しい」

 

 俺は反射的に身体を地に伏せた。それと同時に、トリスタン卿の周囲に光が奔る。

生首が大気を赤く染め上げ、流血は大地を悉く濡らして殺風景な白いカンバスを絵画に変えた。

 

・・・なんて恐ろしい空気の矢じりだろう。鋭く、そして見えない。これこそ正に空気の刃(ビークスパイダー)。敵がZMCで武装していようとも多分無意味だろうけど。

 

この御方、俺はちょっと苦手だ。

 

「おや? 良い反応ですね、兵士君」

 

「・・・」

 

 俺は即座に敬礼し、立ち去ろうとする。敵味方問わずまた攻撃されたら堪らない。

なのでここは任せましたトリスタン卿。兵Cは逃げ出した。

 

「はて。 私は以前、いや生前、君を何処かで見た覚えが有るのですが。はて一体何処でしたかね?」

 

「・・・・」

 

しかし回り込まれてしまった!円卓の騎士様からは逃げられない!!

 

「そう、あれは確か我らが城の正門」

 

 そうですトリスタン卿。私はただの元城兵ですよ、正門担当でした。あの頃の貴方が奏でる音色は、とても心が安らいだものでしたよ。今はノーコメント。

 

「懐かしい城兵君。 久闊を叙する為一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

はははは、よろしいもよろしくないも無いんでしょう? 俺はやけくそ気味に頷いた。

 

「君は何の為に戦うのですか?」

 

「・・・」

 

「ぁあああああああああああああぁぁあ!どけえええ!!!!」

 

迫り来る敵に槍を叩きつける。王の為です、サー・トリスタン。

 

「君の心音は分かりやすいですね。しかし誰の為にではありません。――何の為にです」

 

「・・・」

 

・・・・。

 

「正義、友情、勝利、平和、愛。自由、真実、祖国などなど。戦う理由は人によって様々です。 しかし君は?」

 

「・・・」

 

槍で敵を払う。槍で敵を叩く、突く。

 

「―――アナタは?」

 

「・・・」

 

払う、払う、握って突く。

 

そのようにして敵を突いた槍を、トリスタン卿に見せる。

 

「――、・・・・ほお」

 

「・・・」

 

 妖弦が下ろされるのを確認し、俺は駆け出す。敵に向かって。

王の為に、働く為に。

 

「私は嬉しい」

 

 

 

 

 

 

 さて。おっかない騎士様のテリトリーから抜け出したぞと。敵は聖地の中心から全力で逃げてる様子だが、何故なんだろ。

 

「おい、どいてくれよッ!!!俺はもうあんなモンを見たくないんだ!!」

 

「あんたらに危害は加えない!!だからこっから外に出してくれ!!!」

 

「・・・」

 

 何か知ってるんだろうか。色々聞き出してみよう。

俺は指差した。あそこ(中心)には、一体何がいるんですか?

 

「嫌だッッ!振り向きたくも無い!!」

 

「ここは魔の国だ・・・・、あいつは化け物だ!」

 

「・・・・」

 

どういう事だ?君達は皆仲間同士じゃないのか?

 

「俺は聖地を獲ろうって頑張ろうとした。武勲をたててこの先ずっと腹一杯パンを食って生きていくんだって。正常だろ?俺は、・・・・俺達は正常なんだッッ!!!」

 

あ、そうかこいつらは遠征軍の兵士達か。

 

「知りたいなら行けば解かるさ!! 偽りの十字軍だと?あんなもんが軍なものかッ!!鉄で出来たブリキだ!!!」

 

「・・・・」

 

そう言って走り往こうとする兵士達。俺は即座にこの槍を、

 

「大丈夫ですか?」

 

 心臓を一刺し、二刺し。

即死だろう兵士二人を尻目に、俺はその御方に敬礼をした。

 

「ここは戦場です。武器を振るう以外に、王の為になる事はありませんよ」

 

「・・・」

 

はい、サー・ガレス。 俺は槍を振り上げて己を鼓舞した。 

 

「軒昂なところ申し訳ないのですが、我らが王が全部隊をお呼びです。参りましょう」

 

「・・・・」

 

 撤退命令?いや多分小休止かな。流石は我が王。

腹も減ってきた感もあるし、ここは僭越ながら一つ俺の得意料理でも。

 

「……、ここはまるで深淵ですね。闇夜のカラスで、辺り一面敷き詰められているような」

 

「・・・」

 

「そんな場所にずっと居ると、敵と味方、相手と自分すらも判らなくなってしまいそうです」

 

 手を見つめるガレス卿。真白な指と、真さらな手。

それ以外に何も知らないかのような。

 

 ―――汚い。

 

声が聞こえた。

 

 ――――洗わないと。

 

か細い、声が。

 

「ある日ふと気が付くと、私達こそが深淵であった。 なんて事にならないように気を付けましょうか」

 

 手で俺を促すサー・ガレス。まるで百鬼夜行の最終に向かってゆくように、俺達は歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 




昨日の夜。全てを無くして誰かの涙に濡れていた。
今日の昼。命を的に、夢見る背中を目指してた。
明日の朝。ちゃちな己と、ちっぽけな忠義が無明の聖地で腕を振るう。
今いるここは、神と人間が造ったパンドラの箱。前と下を見なけりゃ何でも有る。
次回『亡国の魔人』
明後日?そんな先の事は分からない。





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