城兵として召喚されたんだが俺はもう駄目かもしれない 作:ブロx
聖地に突入して早四日。
中心部に難なく辿り着いた俺達と我が王であったが、未だ聖地を落とす事は出来ていなかった。
生え抜きである円卓の騎士様方は総員突入し、俺を含めた兵士全部隊が防御も厭わず攻撃につぐ攻撃を敢行しているというのに。
・・・正直に言って、俺は楽勝だと思っていた。
「・・・・」
だってそうだろう? こちらには我が王よりギフト(祝福)を賜った騎士様たちがいるのだ。
たとえ相手が宇宙から隕石みてえに落下したってのに何故か落下地点には何もいなくて実は移動してた宇宙生物だろうと、負ける気がしないってもんだ。
しかし王の手足である我々は攻めあぐね、敵の首魁にすら会えていない。これが現実。
「・・・・」
一体どんな地獄変が眼前に広がっているのか。敵の恐怖に負けぬよう、俺は悪鬼滅殺の意志でもって敵地へ乗り込んだ。
だが恐怖に濡れる聖地中心は地獄であるかと言えば、そうでもなかった。
敵の兵士達は皆意気軒昂だし、誰かの死体の山が所狭しと充満しているわけでもない。そして死臭が酷いわけでも、夥しい血のりが聖なるこの大地を染めているわけでもなかった。
「・・・」
――ただ、ここには誰もいない。
俺はさっき敵の兵士達は皆意気軒昂だと呟いたが、それは動いているからだ。 こいつらは全員鉄で覆われていて、動いてはいる。・・・動いているだけ。成長はしないし、生きても死んでもいないのだろう。
生きてもいないし死にもしないって事は、そいつは産まれてもいない者。ブリキ人形のように誰かの肉を貪り続けて、心臓を抉り己の足元に横たえて、動き続けた後は独りでに影も形も無くなるだけ。
「・・・・」
俺達はそんな鉄で出来た怪物どもを相手に四日間戦い続けた。
ここから出してくれ!!と恐怖に濡れた敗走兵を斬り、際限なく湧き出てくる物言わぬ鉄の家の化生をずっとずっと殺し続けた。
「クソ…、こいつらどれだけいやがるんだ…」
モードレッド卿が大剣を肩に担ぎながら呟いた。
「疲れなんざ屁でもねえが、早急にここを獲らねえと父上が何と仰るかっ。――テメエら行くぞ!動ける奴はついて来いッ!!!」
「・・・」
愚痴はここまで。
勿論俺も行きますモードレッド卿。敵は雑魚ですが、いかんせん数が多すぎますな。このままでは我が王の御許にまで接近を許すやも。
「鉄クズどもがッ!雑魚が群がってんじゃねえ!!!」
赤雷に耀く剣が敵の大群を薙ぎ払う。ここに至って俺達一兵卒の仕事は、円卓の騎士の方々の後ろをカバーする事。
戦場はカバー命だからだ。・・・え?そんな事しなくても敵はクソ雑魚だろ?グゥレイトォッ数だけは多いぜって?
「・・・」
そんなこたあ全部過去形で言う台詞さ、勝った後で。
「―――クラレントを撃つ。 道を開けろ」
言葉と共に、一瞬空と地面が光った。それはどこかで見た稲光。
俺は全力で横っ飛び中なので、モードレッド卿を見る事すら出来なかった。だって雷を目視してから避けろなんてそんなの無理無理無理無理・・・
「 クラレント―― 」
無理!
「 ブラッドアーサー!!! 」
本日最初の赤い落雷が、敵に向かって真っ逆さまに落ちていった。其の名を確か、我が麗しき父への叛逆。
「よっしゃあッ!もう一発いくぞ!! 死にたくない奴ァそのままどいてろ!」
おっかねえ。でもこれこそモードレッド卿がモードレッド卿である証の宝具(パーソナルアート)。
しかも『暴走』のギフトによってここ数日ポンポンポンポン休み無く撃てているなんて、そこに痺れる憧れる。
「埒が明いたぞ!敵を押し込み叩き潰せ!!」
ランスロット卿が檄を飛ばす。この四日間の戦闘で、敵さん鉄人兵団の数が流石に少なくなってきた。よし、いけるぞ。
「・・・」
このまま敵を皆殺してこの大地を我が王に捧げるのだ。それが我らの仕事だからだ。
俺達兵卒が武器を振り上げ己を鼓舞し、ランスロット卿とモードレッド卿が意気軒昂足を踏み出す。
鉄の兵で満たされた聖地は俺達を歓迎した。
そして空ろのような敵兵の後方に、それは現れた。
「・・・・」
「…………」
そいつは馬に乗って、背が高く、頭巾をかぶり黒いマントを着ていた。
死んだ者達や鉄の兵を踏みつけながら、それはゆっくりと馬を進め、こちらが射掛けるいかなる矢も物ともしなかった。
それは立ち止まり、微かな光を放つ長い剣を腰から抜く。そうすると、獅子の円卓にも敵にも等しなみに、非常な恐怖が全員を襲った。
「・・・」
叫び声すら上げる事が出来ない見るも恐ろしい姿のその者に、俺は槍を向ける。・・・こいつが首魁だ。我が王に仇為す幽鬼の魔人だ。
――動け。
何故か足が動かない。獅子の爪牙である俺達兵士だけでなく、獣である騎士の方々すらも。
――動け。
――動け。
――動け。
―――動け。
こいつはここで絶たねばならない。ここで滅しなければならない。敵は下馬し、ゆっくりとこちらに歩いて来ている。
皆武器を抜いて構えている突きつけているというのに、魔人は指先一本でそれらをスイと動かして、進路を確保して進んで来ている。王に向かって。
触れた武器は、みな腐って崩れ落ちていた。
「ぉ、・・・ぉぉおおおおおおおおオ!!!!」
その時、ランスロット卿が『凄烈』なる気を吹いた。射出する全身。迅る剣。迸る青光。
敵の肩口から脇腹にかけて斬り下ろすその速度たるや、逆にスロウに見えてくる程に澱みも無駄も雑念すらも無い。
「 ――アロンダイト、 」
何故ならこの御方こそが円卓の騎士の中で最も強く、最も上手く剣を扱えるからだ。
「 オーバーロードッ!! 」
ただ長物を振るだけという技術機構(システムオブアート)。それをしかるべき時にしかるべく為せる。
簡単な様で不可能に近いこれを現実の物とする事こそ、剣を使う者が夢想する完成の一つである。
其の剣技の名を、縛鎖全断・過重湖光。
サー・ランスロットは不可能という名の溝を現実という青い湖で満たしていた。
「・・・・」
真っ二つだ。刃筋から溢れる極光は魔人を呑み込み、跡形も見えなくなる程に真っ青に掻き消えた。
ランスロット卿の剣技は天下一品。奴は斬撃を見る事すら出来ずにこの世から死んで、
【---お前達は死を見た事が無いのか、獣の御手足共よ?】
ふいに足を引かれる。
深く深く、影の底に水底に。
【---この我が国で】
・・・嘘だろ。古代悪魔のヴァリアブルスライサーみてえな斬撃を喰らったってのに、何でこいつピンピンしてんだ。
不可解だ、無敵なのか。こいつには誰も勝てないのか。
【---お前は負けたのだ、さ迷う獅子】
魔人の言葉が恐怖という名の重圧で俺達全員に伸し掛かっている。今すぐ槍を突き刺さねば、あいつに。・・・・あの影に。
心臓の音が、まだ俺がここにいる事を伝えてる。でも足が動かない。
俺の影が、俺を止めている。
【---人間の世界も、お前の世界も共に滅ぶのだ】
魔人の痩せさらばえた手には、鋼の剣。顔には鋭い無慈悲な眼が燃えていた。
我が王に向かって。我が王に向かって。我が王に、剣を向けて。
「----」
【----】
王も槍の穂先を敵に向けた。聖抜を行い、最果ての都を造る聖なる槍を。
・・・無言で視線を交わす両者。進み行く魔人はこの世の果てをも染めるつもりなのだろう。濡らすつもりなのだろう、この恐怖で。
そう・・・・・それは我が王であろうとも例外無く。
鉄の魔人と聖なる君主が膠着した時を動かそうとした正にその時。
血潮が、この場の流れを破壊した。
「・・・なんと」
「君は・・・!」
ランスロット卿とガウェイン卿が俺に眼と声を向ける。 貴方がたは円卓最強なんですから、止めは任せましたよ?
――あとは往くのみ。
気付けとして膝裏に突き刺した馬上槍を患部から抜き、着剣ならぬ着槍。俺は魔人に向かって全力で突撃した。
―――我が槍に懸けて。王の為に。
かつて、あの重々しき歌に送られた戦士達。
祖国を守る誇りを厚い甲冑に包んだウォリアー達の、ここは墓場。
無数の僭主達の、ギラつく欲望に曝されて、聖地を地獄へ天国へ。駆け抜けて往く剣闘士。
魂無き獣達が、ただ己の主の為に激突する。
次回『バトルフィールド1273』
幽玄なる鬼から、兵士に熱い視線が突き刺さる。