呂500「足柄教官の過去編ですって!」
遡ること数年前、僕がここに(直接)着任して数ヶ月が経とうとした頃だった。
多くの艦娘たちは通常よりも速い速度で僕の教えた「読み書きそろばん」をマスターしつつある。
そんな中、周りから置いていかれている艦娘もいた。
提督「よーし、これから昨日やった漢字テストを返すぞー。金剛ー」
金剛「ハーイ!Wow!high scoreネ!」
提督「陸奥ー」
陸奥「あらあら、前より点数上がってるわね」
提督「羽黒ー。はい、満点。よく頑張ったな」
羽黒「あ、あ、あ、ありがとうございます」
提督「足柄ー」
足柄は息を飲み、提督の元へと向かった。今度こそ、今度こそ羽黒に勝ってやるんだ!!
提督「うーん、ちょっと残念だったかな。また頑張ろうな」
足柄「え...」
差し出されたテストを見ると、大きく3の数字が。足柄は20点満点中3点しか取ることができなかったのだ。
足柄「うそよ。うそよ。う....うわああああああああんんんんん!!!」
絶望。虚無。無念。ありとあらゆる負の感情が足柄を襲った。
提督「ちょっ、大丈夫か足柄!」
その場にうずくまるように座り込んだ足柄は悲鳴のような泣き声をあげた。
ー医務室ー
あの後足柄は他の艦娘によって連れてこられ、泣き疲れたのか医務室で眠っている。
明石「今まで蓄積された心労と今回のショックで、心の容量をオーバーしたようですね。しばらく休養が必要です」
提督「そうか、お疲れ様。また足柄が目覚めたら連絡してくれ」
内線を置くと、提督はしばらく考える。この漢字テストがそこまで足柄を追い詰めているとは...
今回の漢字テストは読みと書きをそれぞれ10問ずつ。レベルにして小学4年生レベルだ。足柄のテストを見て見ると実に惜しい。
読みの方は音読みと訓読みが混じっている。例えば「老人(ろうじん)」は「おいびと」。うん、わからんことはないけど。
書きの方はもっと惜しい。字面的にほとんどあっているものの「億」の人偏が行人偏になっていたり、「兆」のはねがなかったり。
足柄は理解はできている方だと僕は思う。実際数学の方はまずまず取れている。漢字の方も勉強している時には正しい読み書きができているのだ。いわゆる本番に弱いタイプなのだろう。
総合的に見て、足柄に決定的に足りていないのは「得点力」。いわゆる本番に実力を発揮させる力だ。しかし、本来実力があるならここまでひどくはならないはずだが...
それにしてもわからないことがある。足柄はテストの点数が悪いだけなぜあそこまで泣いたんだろうか?
ーその晩ー
再び連絡が入ったのはその日の晩だった。僕は足柄が部屋に戻ったと聞き、艦娘寮の妙高型の部屋に向かった。
コンコン「はーい」
提督「すまん、僕だ。足柄はいるか?」
那智「足柄なら今外に出ている。埠頭で気晴らしをしたいそうだ。妙高姉さんが付いているが、かなり落ち込んでいる」
提督「そうか、わかった」
那智「うちの妹が迷惑をかけてすまない」
提督「いや、これは僕のミスだ。かなり足柄に無理をさせてしまった。こちらこそすまない」
そう言って部屋を後にした。
ー埠頭ー
妙高「そろそろ冷えてくる頃だし、お部屋に戻りましょう?」
足柄「...」
足柄はこの場所から動きたくなかった。
どうしてあんな点数しか取れなかったの? 勉強した時は完璧だった。ちゃんと読み書きできていた。だけど、テストの時に
頭が真っ白になってしまった。
老人?競争? あれ、勉強の時にできたのに?
いちおく?にちょう? あれ、どんな字だっけ?
今ならわかる。今すぐにでもリベンジしたい。だけど[いつまでたっても羽黒には勝てない]。
提督「大丈夫か、足柄」
足柄「提督」
提督「すまない、妙高。しばらく足柄と二人きりにさせてくれないか?」
妙高「わかりました。失礼します」
提督「ああ、今までありがとうな」
足柄「...昼間は迷惑かけたわね」
提督「いや、悪いのは君が無理をしていたことを気づけなかった僕の方だ。本当にすまない」
足柄「...また羽黒に負けてしまったわ。あんなに勉強したのに」
提督「ああ、足柄がいつも頑張っているのは、僕は知ってる。毎日遅くまで勉強してるんだってな」
足柄「それでもダメだった。もう私はダメなのかしらね」
半ば諦めたようにいう。そこから足柄は色々語り出した。
自分は羽黒より先に着任した艦隊の先輩であり、実の姉でもある。羽黒は私のたった一人の妹だ。なら、私は妹のお手本にならなくちゃ。
足柄は羽黒が着任してからずっと思い続けていた。
最初の頃は自分はちゃんと姉としてできていたと思っていた。自分が羽黒に姉として艦娘用艤装の使い方を教え、戦場では先輩として羽黒が戦いやすいようフォローしてきた。
いつしか羽黒は自分なくして存在できないものと本気で思っていた。楽しかった。いつも自分にべったりな妹が可愛くてしょうがなかった。
だけど、提督がここに着任してから事情が変わった。勉強がスタートすると羽黒はいきなりその天才ぶりを発揮した。
自分が理解できないようなことを逆に説明され、いつしか羽黒の周りには多くの仲間たちが集まっていた。
それに比べて自分はどうだろうか。最初のころは追いつけていたけど、次第に遅れだし、ついには大きな差をつけられるようになった。
足柄は悔しかった。もともと負けず嫌いな性格である。
もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど一向に差は縮まらない)
もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど自分だけ取り残されてる)
もっと頑張らなくちゃ、もっと頑張らなくちゃ。(だけど全然前に進まない)
モットガンバラナクチャ、モットガンバラナクチャ。(だけどもう誰にも追いつけない)
モットガンバラナクチャ、モットガンバラナクチャ。(とうとう周りには誰もいなくなった)
モット、モット...
モット....
足柄は限界だった。そして今日、限界を超えてしまった。
提督は足柄が本番に弱い理由がようやく理解できた。足柄は羽黒の存在と自分が姉であることがプレッシャーになっていたのだった。
簡単な話、そのプレッシャーさえ取り除けられれば、この子は一気に成長する
そう確信した。そうと決まればあとは早い。
提督「足柄、明日から一緒に勉強しようか」
足柄「えっ?」
提督「その苦しみ、俺が解いてやる」
こうして足柄専用、提督の集中講義が始まった。
【次回予告】
足柄「もう二度と羽黒なんかに負けないんだから!!」
提督「ダメだ、羽黒のことは一回忘れろ」
妹がプレッシャーになっていた足柄を救う提督の秘策とは!?