成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。
白き罪人更新です。
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今回、ちょこっと急展開です…!


“月の記憶”

「何!?絡繰(からくり)箱の開け方が書いてある紙の在処(ありか)が分かっただと!?」

 コナンの耳打ちに、小五郎が図書館内にも関わらず声を張り上げた。周囲の一般客が何事かと視線を向け、慌て声のトーンを落とす。

「うん!みんなが一生懸命探してるのに…、どーしてその紙が見付からないのかもね!」

「コナン君、どういう事?」

 自信満々、と言わんばかりに堂々と告げるコナンに蘭が問いかける。

「あんた良い加減な事言ってんじゃないでしょうね?」

 千暁(ちあき)もまた、“園子”に成り切ってコナンを問い詰めた。

 そんな“園子”の反応は、コナンにも想定内だったらしく「じゃあ、手帳とペン貸してくれる?」と全く動じる事なく申し出た。

「これで良いかい?」

 沖矢(おきや)がコナンに手帳とペンを差し出した時、カチューシャに内蔵した骨伝導イヤホンから寺井(じい)(ささや)く声が聞こえてきた。

『お待たせ致しました、お嬢様……。』

(次は第2段階……。)

 笑みを(こら)え、腕を組みながら頬に手を当てて考え込むような仕草(しぐさ)を装い、カチューシャに仕込んだ骨伝導マイクを指先で2回ノックする。

 イエスなら2回。ノーなら3回。

 それが寺井(じい)と決めた合図だった。

『何秒後に………?』

 ノックを小さく5回。

 そして胸の内でゆっくりと5秒数える。

(1、2、3、4、5…!)

 それと同時に、相談役からスリ盗った防犯装置のスイッチを切った。

 その2秒後に再び寺井(じい)からの通信が入る。

『成功です、お嬢様…。後は手筈(てはず)通りに……。』

 再びノックを2回。

(これで第2段階もクリア……。)

 今回、千暁(ちあき)が立てた作戦は至極(しごく)単純なもの。

 千暁(ちあき)が鈴木相談役から防犯装置のスイッチをスリ盗り、寺井(じい)がその技術を駆使(くし)して精巧(せいこう)に作った偽の絡繰(からくり)箱と本物をスリ変える、というもの。

 寺井(じい)の合図で、千暁(ちあき)が防犯装置のスイッチを切り、寺井(じい)絡繰(からくり)箱をスリ変え、そして別の場所で落ち合う。

 寺井(じい)も老いたとは言えかつては“東洋の魔術師”として名を馳せた父の付き人を勤めた男である。すなわち、親子2代に渡る“怪盗キッド”のパートナーを長年勤めた猛者(もさ)。時には(おとり)を担う事もあった彼の手際は、並みのマジシャンよりも上を行く。防犯装置のスイッチさえ切ってしまえば、一般人の目を盗んで絡繰(からくり)箱をスリ変えるなど造作も無い事だった。

 絡繰(からくり)箱への挑戦が長蛇(ちょうだ)の列だったせいで、多少ヒヤヒヤさせられたがこの程度の遅れは誤差の範囲内である。

 後は寺井(じい)と合流して絡繰(からくり)箱を開けて“月の記憶(ルナ・メモリア)”を取り出し、再び絡繰(からくり)箱をスリ変えれば良い。

(さぁ、どうするの?“名探偵”……。今回は私の勝ちになるんじゃない……?)

 コナンの推理がいよいよ佳境(かきょう)に入ったのを聞きながら、内心でほくそ笑んだ。

「おばさんがぜーったいに(めく)らないページに(はさ)んであるんだよ!」

「でも、奥さんが嫌いな推理小説(ミステリー)怪奇(かいき)小説は…、(すばる)さんと哀ちゃんが調べてたよね?」

 コナンの断言に、蘭が疑問を返す。

「その本ならもう、おばさんが念入りに調べてるよ!紙を探すだけなら読まなくても良いからさ!」

「じゃあ、どんな本なのよ!勿体(もったい)付けずにさっさと教えなさいよ!」

 如何(いか)にも“鈴木園子”らしく言い(つの)れば、コナンが更に続けた。

「だからー、(めく)る必要の無いページがある本だよ!そのページを読んでも意味が無いっていうか…、そのページに書いてある事よりもっと良いものを教えてもらってるっていうか…。」

「料理本の…、“肉ジャガ”のページですね?」

 コナンのヒントに気付いた沖矢(おきや)に、コナンが「ピンポーン!」と笑顔で告げた。

「なるほど?ご主人の母親からレシピを直伝(じきでん)され…、尚且(なおか)つご主人がその味をとても気に入っているのなら(めく)る必要は無いわね…。それ以外の料理のページなら、さっきの見付からない仕掛けがしてあったとしても…、索引(さくいん)に書いてあるページ番号で探されたら見付かってしまうから……。」

 灰原の言葉に小五郎が相談役に問いかけた。

「料理本はどこに?」

「確か、あの辺の棚に(まと)めてあると思うたが……。」

 相談役が指差した本棚の付近の料理本を小五郎がごっそりと机に運ぶ。

「でも、料理本は数十冊はありますよ!?」

「1万冊の中の数十冊だ!しかも肉ジャガのページを調べるだけなら…、手分けすりゃ数分で……。」

 友寄(ともよせ)夫人が小五郎に忠告するが、小五郎の言う通り、索引(さくいん)で肉ジャガのページを探せばそう手間でも無い。

 この人数で探せばものの数分で見付かるだろう。

(まぁ、今も隠したままならの話だけどね………。)

 そう。“鈴木園子”としてこの部屋に入り、相談役から防犯装置のスイッチをスリ盗った直後、千暁(ちあき)が真っ先にした事は料理本を片っ端から調べる事。

 “怪盗キッド”が登場するストーリーはほとんど詳細まで覚えている。今回のこの絡繰(からくり)箱の一件も、重要な役割を担っていた料理本のトリックについてはちゃんと覚えていた。

(ちょっとズルいかもしれないけど、有効活用出来るものはさせてもらわなくちゃね……。)

 そうやって見付けた、開け方を記した紙は既に千暁(ちあき)が回収した。

 (もっと)も、肝心の開け方は見てはいないが。

 あの絡繰(からくり)箱は、千暁(ちあき)好奇心(こうきしん)を刺激し、興味を()いてくれる数少ない芸術品。

 出来れば自分の力で箱を開けたかった。

 何食わぬ顔で料理本のページを(めく)って紙を探すフリをしながら、絡繰(からくり)箱を開けるシミュレーションを繰り返す。

 

 ―――――――――そして数分後。

「んだよ、どこにもねーじゃねーか、紙なんて…!」

 見付からない紙に小五郎がイライラし始めた。

「そう言えば園子、さっき料理本何冊か見てなかった?」

「え?うん、見てたけど…。」

 思い出したように尋ねる蘭に、それがどうしたの?と言わんばかりの顔で返す。

「その時も見付からなかったの?紙。」

「やーね。見付けたら教えてるわよ。」

「でも、園子姉ちゃんが料理の本見るなんて珍しいね。」

 胡乱(うろん)気な眼差しで見て来るコナンに、“園子”として返した。

「失礼ね!私だってたまには料理の本くらい見るわよ…!」

「でも、珍しいのは確かよね。」

「……実は真さんが帰って来た時に手料理でも作ってあげたいと思ったのよ…。ずっと海外にいるから、和食が恋しくなるだろうと思って……。」

 不思議そうな顔でコナンに同調する蘭に、ウインクしながら耳打ちするように小声で(ささや)く。

「なんだ…、そういう事ね……。」

 2人で顔を見合わせてクスクスと笑えば、コナンやそのやり取りに注目していた沖矢(おきや)も一応筋の通った言い分に一先(ひとま)ず納得した。

(ホントに気付かないの?“名探偵”…。)

 悪魔のような狡猾(こうかつ)さ、とも称される宿敵(ライバル)にしては妙だ。

 それとも、気付いていて決定的な尻尾を掴むまで泳がせるつもりなのだろうか?

 千暁(ちあき)がそれとは分からない程度にコナンを注視するが、直後にバイブレーションに設定していたスマホが震えた。

 ブー、ブー、ブー…!

「……っ!ゴメン蘭!真さんから電話かかってきたからちょっと外すね……!!」

「いってらっしゃい。」

 スマホを見せながら(きびす)を返す千暁(ちあき)を蘭が見送る。

(ナイスタイミング…♡)

 小走りでその場を後にしながら、寺井(じい)との合流場所に急いだ。

 もちろん、この電話も“鈴木園子”の彼氏、“京極真”からでは無い。“鈴木園子”がより自然な形でその場から離れ、尚且(なおか)ある程度の時間戻って来なくても不自然では無いように装う必要があった為、絡繰(からくり)箱をスリ変えてから10分後に連絡を入れるように打ち合わせていたのだ。

 “鈴木園子”のスマホと同じ機種を用意し、寺井(じい)が用意したスマホの番号を一時的に“真さん♡”という表記で登録して………。

 

 人目に触れないように、素早く、()つ怪しまれないように堂々と合流場所であった資料室に入る。

 専門的な資料ばかり置いてあるこの部屋は、一般客の出入りがある程度規制されており、事前の申請が必要不可欠。入るにはスタッフルームに保管されている鍵が必要である為、スタッフと一緒でなければ本来は入れない。

 しかし、この程度の鍵ならば数秒あれば開ける事は可能。それは寺井(じい)とて同じ事。

 おまけに、今日は“怪盗キッド”の予告にスタッフも浮足立っている為、最低限のスタッフを残して他のスタッフは全員図書スペースにいる。

 一時的に身を隠すには最適の場所だった。

千暁(ちあき)お嬢様……!」

「お待たせ、寺井(じい)ちゃん。早速始めよ♡」

 “園子”に(ふん)しているとは言え、流石(さすが)に“怪盗キッド”の付き人。その気配を間違える事は無かった。その姿を見るなり、明らかにほっとした顔を見せた寺井(じい)にウインクしながら絡繰(からくり)箱を手に取った。

 7つ目までは既に攻略法が分かっている。

 不敵な笑みを浮かべながら、全神経を集中させながら絡繰(からくり)箱の罠を外し始めた千暁(ちあき)の邪魔をしないよう、寺井(じい)が静かにその姿を見守った。

 そして集中する事、およそ6分。

 カタカタ……

 カタン…

 カタッ………!

 軽やかな音を立て、絡繰(からくり)箱が一瞬沈黙した直後、不意に資料室に柔らかなオルゴールの音が響いた。

 ♪~♪♪~♪~♪♪♪

「“通りゃんせ”?……また意味深な曲を…。」

 有名な童謡が流れる、とは聞いていたが何でこの曲をチョイスしたのか。

「おお……!流石(さすが)でございます、お嬢様……!あの“カラクリ吉右衛門(きちえもん)”の傑作(けっさく)をこの短時間で……!」

「まぁ、今回は2回目だしね……。」

 感嘆(かんたん)して興奮した声を上げる寺井(じい)(なだ)めながら、中に収められていた月長石(ムーンストーン)月の記憶(ルナ・メモリア)”を取り出し、ポケットにしまう。

 そして、オルゴールを巻き直して仕掛けを最後の1つのみ元に戻し、先程回収しておいた、開け方を記した紙を“キッドカード”と共にテープで貼り付けた。

「じゃ、寺井(じい)ちゃん。後は任せて。」

「はい。お嬢様、くれぐれもお気を付けくださいませ…。」

「分かってる。無理はしないから…。」

 先に寺井(じい)を見送り、2分程待って資料室を出て再度施錠する。

 周囲に人影がいない事を確認して暗視スコープを付け、図書館内の全ての電気を消した。

「何だ?!」

「もしかして“怪盗キッド”!?」

 途端にざわつく客たちの間を素早く走り抜け、再び防犯装置のスイッチを切る。

 本物の絡繰(からくり)箱“木神(もくじん)”と、寺井(じい)の作った偽物を再びすり替え、偽物(にせもの)に辞書のカバーを被せて本棚へと隠した。棚に足を引っかけて勢いを付けて登り、1番上の棚に隠せばまず見付からない。後はほとぼりが冷めた頃に回収すれば良いのだ。

 音も無く着地し、最後に先程元に戻しておいた最後の仕掛けを解除する。

 ♪~♪♪~♪~♪♪♪

 図書館スペースの入口まで戻りながら、防犯装置のスイッチを入れて作動させた。

 ガシャン!

 図書館内に響いた音に、相談役がスタッフを怒鳴り付ける声が更に響いた。

「おい、何をしておる!?早く明かりを復旧させい!!」

 そして、複数人が絡繰(からくり)箱の元に走ってくる音が聞こえてきた。

(でも、もう遅いよ“名探偵”…。)

 そのまま静かに、しかし素早く図書スペースを出て暗視スコープを外す。その数秒後に電気が復旧したのを確認し、そのまま屋上へと足を進めた………。

 

 ガチャリ……。

 屋上への扉を開け、真ん中へと進み出る。

 チャラリ…

 ポケットから取り出した“月の記憶(ルナ・メモリア)”を月へと(かざ)した。

 既にパンドラでは無いと分かっているものの、周囲を張っているだろうスネイクたちに、“怪盗キッド”が確認している姿を見せなくてはいけない。

 (もっと)も、今はまだ“鈴木園子”の姿ではあるが…。既に階下の騒ぎは外の群衆にも伝わっているようだから、心配は無いだろう。

 そして、“月の記憶(ルナ・メモリア)”を再度ポケットにしまった時、開け放したままの扉から、追いかけてくる気配がある事に気付く。

 (あぁ…。それでこそ……。)

 思わず笑みが零れるのが分かった。

 扉に背を向けたまま()()()を待つ。

「キッド!!!!」

 その呼びかけにゆっくりと振り返った。

「これはこれは“名探偵”…。なかなか気付いてくださらないので、今回はもういらっしゃらないかと思いましたよ…。」

 “鈴木園子”の声のまま、クスクスと笑みを零す千暁(ちあき)にコナンが渋面(じゅうめん)を作る。

「いつまで園子の姿でいやがる…。さっさとその変装を解け!!」

「やれやれ……。全く…、《無粋(ぶすい)な方だ…。》」

 途中から“瀬戸(せと)瑞貴(みずき)”の声に切り替え、“鈴木園子”の変装を解く。

 バサリ、と夜風にマントを(なび)かせながら、シルクハットを整える千暁(ちあき)の姿は既に“瀬戸(せと)瑞貴(みずき)”の姿に変わっていた。

 本の一瞬の間に、顔や服装だけでなく骨格すら変えてしまったかのようなその変装に、コナンもまた顔付きを引き締めた。

「《折角の逢瀬(おうせ)だというのに、自分の要求ばかり通すようでは愛しの幼馴染殿に嫌われてしまいますよ……?》」

「余計なお世話だ、バーロー!!!さっさと宝石返してオレに捕まりやがれ!!!」

 真面目な顔しておちょくる千暁(ちあき)に、コナンが青筋を浮かべて怒鳴り付ける。

「《この宝石も私の求める物ではありませんでしたから、もちろんお返しさせていただきますが……。ここで捕まる訳にはいきませんね…。私にはやらねばならない事がある。》」

「“やらねばならない事”、だと……?オメーがコソドロなんてやってる理由か。」

「《おっと…!詮索(せんさく)はご遠慮いただきたい……。そんな事より…!?》」

 不意に感じ取った殺気に、本能的に千暁(ちあき)がその場を飛び退()く。

 チュイン…!

「キッド?!」

 コンクリートに響いた独特の音と、直前に現れた“赤い光”に、コナンが一拍遅れて事態を悟った。

「狙撃だと…?!どこから……??!」

 チュインッ…!

 チュイン………!!

 連続で響く跳弾の音と、ギリギリでそれを回避する千暁(ちあき)に、コナンは狙撃のポイントを探すべく視線を巡らせた。

 しかし、千暁(ちあき)が気付く。

 自分(怪盗キッド)を狙っていた(はず)のレーザーポインターが、コナンに狙いを定めた事に。

「《!?いけません、“名探偵”!伏せなさい!!!》」

 咄嗟にその小さな体を(すく)い上げ、腕に抱え込む。

 ――――――――直後、

 パシュッ……!!!

「っ……!!!!!」

 千暁(ちあき)の左肩に衝撃が走った―――――――――。

 

 

 

 

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