成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。白き罪人更新です。
今回、ストーカー編解決です。
本来もっと引っ張る予定でしたが、途中からこれは誰得だろう、という疑問が沸いてきた為、サクッと終わらせました。
次回は後日談を挟みつつ、“怪盗キッド”編に戻る予定です。

評価、お気に入り登録ありがとうございます。


恐怖

「ホー…。ストーカー、ですか。」

「はい。ちょうど1週間前から…。」

 小五郎の留守中に勝手に事務所に入る訳にはいかないから、と案内されたポアロの奥まったテーブル席で、千暁(ちあき)好敵手(ライバル)である“名探偵”と、恐ろしさで言えば同程度のトリプルフェイスと相対していた。

 目の前にはお代はいりませんから、と出された紅茶が置いてある。

 安室(あむろ)はともかくとして、見かけはただの小学生であるコナンが同席しているのはこの上無いシュールだが、1度言及(げんきゅう)した際に「えー?ボクも千暁(ちあき)姉ちゃんの力になりたいなぁ。」と無邪気なフリしてぬけぬけと言い放たれた為、それ以上突っ込むのは止めた。変に突いて(やぶ)から蛇を出すのはゴメンである。

 まずは依頼内容をお聞かせください、という安室(あむろ)の言葉に切り出すが、声が震えていないのが自分でも不思議な程緊張していた。

 傍目(はため)にはストーカーに怯えて不安がっている、ただの高校生に見えるだろうが、その(じつ)別の意味で心臓の鼓動が(うるさ)かった。自慢のポーカーフェイスも今日ばかりは多少自信が無いが、それが良い方向に解釈してくれる事を祈るばかりである。

(ああああああ…!心臓に悪い………!!)

 せめて1人ずつでお願い出来ないだろうか。まぁ、無理な相談だろうが……。

 というか、安室(あむろ)はバイト中では無かったのだろうか。

「具体的な被害についてお教えいただいても良いですか?あまり気分の良いものでは無いでしょうが……。」

「ここ1週間、ずっと視線を感じていて…。初めてその視線を感じたのがちょうど1週間前だったんですけど、その次の日に郵便ポストに手紙が………。」

 安室(あむろ)の問いに事の発端(ほったん)から話していく。

「手紙って?」

 コナンの質問にちょっと躊躇(ためら)ったものの、鞄からこの1週間の間に送られた手紙を取り出した。最初の3日分は証拠品として警察に提出したが、残りの3日分は手元に残していたのだ。

「………あんまり子どもに見せたいものでは無いんですけど……。」

 より正確に言えば子どもに、というより自分と同じ年頃の男性に、といった方が正しいが。

 そう言ってテーブルに広げられた手紙と写真に、コナンと安室(あむろ)の表情が引き締まった。

「これは……。」

 どれ1つとして目線の合っていない、一目で隠し撮りと分かる写真の数々と、1通につき5~6枚に渡るポルノ小説(まが)いの妄想(もうそう)(つづ)られた手紙に、2人とも事態の深刻さを悟った。

「最初に手紙が届いていた時点ですぐに警察には届け出て、登下校の時間なんかに見回りをしてもらってるんですけど…。」

「まだ手掛かりは掴めていない、と……?」

「はい。手紙も、都内のあちこちから出されているみたいで消印もバラバラで…。指紋なんかも残ってないみたいで……。」

「この手紙は1週間ずっと?」

 手紙と写真を検分するように手に取りながら、安室(あむろ)が確認する。

「はい、受け取った日の前日の手紙が…。最初の3日分は警察に提出したので、3日分しかありませんが、ここ1週間家に帰ったら必ずポストに入っているんです……。」

「手紙の他に、何か送られて来なかった?直接千暁(ちあき)姉ちゃんの家に来たりは?」

 手紙を見て顔を(しか)めながらコナンが尋ねる。

「気持ち悪いから、家に帰ったらすぐにカーテンを閉めるようにしてるから、私は見て無いな…。」

「ご自宅のセキュリティーはどうなっていますか?」

「玄関と裏口に監視カメラがあって、動くものに反応して前後20秒が自動で録画されます。後は、玄関と裏口の両方に、門扉とドアで指紋と掌紋認証の2重ロックが付いてて、登録した人間以外が開けようとすると、すぐに警察と契約した警備会社に通報されるように設定されています。窓も無理に開けようとすると同様に通報されて、登録したスマホに警告メールが届くようになってますから、無断で侵入は出来ないと思いますけど……。」

「厳重ですね。」

 思っていたよりもしっかりとしているセキュリティーに、安室(あむろ)が目を(みは)る。

「最近物騒ですし、母が用心に越した事は無いから、と…。」

「そうですか…。では、外出した際に誰かに後を付けられている、という事はありませんか?」

「視線は感じますけど、誰かに付けられてる、という感じはしないです。登下校中の写真も混ざってますけど、見回ってくれているお巡りさんも怪しい人は見た事無いらしくて…。私も、それらしい人を見たのは初日だけなんです。」

「姿を見たんですか?!」

 その言葉に安室(あむろ)が食い付き、コナンもまた身を乗り出した。

「1週間前にチラッと…。すぐに電柱の影に隠れてしまったので顔は見ていないんですが……。」

「他に何か覚えてる事ある?」

 コナンの問いに記憶を辿(たど)る。

「たぶん、そんなに体格が良い人ではないと思います。電柱の影にほとんど隠れてしまって良く見えなかったので……。後は、たぶん身長が175cm前後だと…。」

何故(なぜ)そうはっきりとした数字が?」

 千暁(ちあき)の推定した身長に、安室(あむろ)怪訝(けげん)そうな顔を見せた。

「その時隠れていた電柱には番地の看板が付いているんですけど、それがちょうど私の目線の高さと同じくらいなんです。チラッと見えた時にそれより頭1つ分位高かったので……。」

「なるほど………。」

 千暁(ちあき)の言葉に、安室(あむろ)が何やら考え込んだ。

「ねぇ、電話がかかって来たりとかはしてないの?」

 直前まで同様に考え込んでいたコナンが尋ねる。

「ウチは固定電話契約してないから…。やり取りはほとんどスマホかEメールなの。」

「今は固定電話を契約される方も少なくなってきているみたいですからね。」

 納得したような安室(あむろ)に伺いを立てる。

「あの…、依頼は引き受けてもらえるんでしょうか?」

「もちろん!お引き受けしますよ。」

「っ良かった…!」

 思わず頬が緩むのが分かった。どうやら、自分で思っていた以上に精神的な負荷がかかっていたらしい。

「でも、良いの?」

「え?」

 コナンの一言に思わず素の反応を返してしまう。

「だって、小五郎のおじさんに依頼しにわざわざ江古田から来たんでしょ?話だけでもって言って安室(あむろ)さんを紹介したのはボクだけど、“眠りの小五郎”じゃなくても良いのかなって。」

「ああ…。毛利さんに依頼しようと思ったのは、毛利さんなら引き受けてくれそうだって思っただけだから…。」

 特に偽る必要も無い為、素直に教える。

「引き受けてくれそう、とは…?」

「実は、この3日くらい探偵事務所を3件訪ねたんですが、どこも保護者同伴で来てほしいと門前払いされてしまって…。母は、今仕事の都合でラスベガスにいるので、急に帰国はやっぱり難しいらしくて……。毛利さんなら、私と同じ位の娘さんがいると聞いていたので引き受けてくれるんじゃないかと思って………。」

「なるほど…。」

 安室(あむろ)の疑問に答えれば、何か思う事があるのか渋い顔をしていた。

「お母さんがラスベガスにいるって事は、お父さんは?」

「っ…!」

 コナンの言葉に、咄嗟に言葉に詰まる。

「父は……、私がまだ小学生の時に亡くなったので、ウチは母子家庭なんです………。」

「あっ、ご、ごめんなさい…!」

 何気無いように装ったつもりでも、多少声が震えてしまい、コナンも千暁(ちあき)の地雷を踏んだ事に気付いたのだろう。思いっ切りヤベッという顔で即座に謝った。

「ううん、大丈夫。……なんか気を使わせてゴメンね。」

 その言葉は本心だった。

 しかし、少しずつ傷が()えてきているとは言え、父の死が千暁(ちあき)の心に深い傷を残したのもまた事実。

 暗くなってしまった空気を壊すように、安室(あむろ)が切り出した。

「それでは、依頼内容の確認ですが…。」

「あ、はい。」

 思わず姿勢を正して安室(あむろ)に視線を送る。

「ストーカーの正体を突き止める事と、その間の身辺警護という事でよろしいでしょうか?」

「え?身辺警護もしてもらえるんですか?!」

 うっかり素のリアクションで返してしまう。

(この人忙しいんじゃ……?)

「もちろんですよ。依頼人の身に何かあっては意味がありませんから。この写真を見る限り、恐らくは望遠レンズを使ったんだろうと思いますが、ストーカーは常にあなたを監視しているようです。身辺警護という形で(そば)にいた方が正体を突き止め易いでしょうから。」

(さ、流石(さすが)トリプルフェイス……。仮面の1つ1つに妥協が無い………。)

 思わず変なところに感心してしまった。

 “怪盗キッド”としての仕事はしばらく(ひか)えなくては、とも思ったが、たぶん情報収集には公安の部下も使っているだろうからそう長い期間にはならないだろう。

 今の千暁(ちあき)にとっては、何よりもまず、ストーカーへの生理的嫌悪感が勝っていた。

「それで、調査料なんですけど……。」

 引き受けてもらったならば、次に気になるのは料金である。後回しにしても仕方が無いので、率直に安室(あむろ)に尋ねた。

 探偵を雇うとなると、料金は決して安いものでは無い。拘束時間が長ければ長い程料金が上がるのが一般的だが、依頼先によっては追加料金がかかる事も多い。

「そうですね…。依頼によっては実際に調査にかかった時間で換算する場合もあるんですが、今回は完全成功報酬という形でいただきたいと思います。」

「完全成功報酬、ですか?」

「はい。ストーカーを突き止めて警察に突き出すなり、示談(じだん)になるなり、ストーカーから完全に解放された時点で依頼を完遂(かんすい)として調査を終了とさせていただきます。料金は7万でいかがでしょう?」

 警護込みで7万、というのは決して高くは無い。調査料の相場としては、1時間あたり4,000~5,000円程。長期間の調査では一気にそれが跳ね上がる。

 状況によっては数十万単位でかかる事も想定しており、母‐千影(ちかげ)からも、身の安全の為ならばいくらかかっても構わない、と許可をもらっていた為、安さに驚いた程だ。

 本業は公務員だから安いのか?と明後日の方向に意識を飛ばしつつも、力強く頷いた。

「それで大丈夫です。」

「高校生で7万円って大きいと思うけど、即答して大丈夫?」

 コナンが心配そうな顔で問うが、頷く。

「大丈夫。探偵さんにお願いする事に関してはママも知ってるし、何かあってからじゃ遅いからお金で解決出来るならそれで良いって。それに、7万なら相場より安い位だから……。」

「そうなんだ…。」

 7万って安いか?という顔をしているコナンだったが、依頼人(千暁)が納得している上に安室(あむろ)も深く頷いている為、それ以上の追及はしなかった。

(というか“名探偵”、探偵を名乗ってる割に料金相場については知らないんだ…?)

 いや、まだ高校生だから料金はとっていないのだろうが、将来的な事を考えれば把握しておいた方が良いのでは無いだろうか……。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 その後、細かい契約内容について確認し、連絡先を交換した。

 この時に誤算だったのは、何故(なぜ)かコナンとも連絡先を交換するハメになった事である。

(なんでだ………!)

 何が彼の興味を惹いたと言うのか。

「それでは、ご自宅までお送りしますから後30分程待っていただけますか?今日は15時までのシフトなので…。」

「えっ?!お仕事中だったんですか?!!」

 それで良いのかトリプルフェイス…。

 ――――――そして30分後。

「本来ならば車で送りたいところですが、ストーカーの動きがあるかを確かめたいのでバスでも構いませんか?」

「大丈夫です。来る時もそうでしたから。」

 江古田から米花まではバスで20分程である。

 バス停に向かって歩きながら、千暁(ちあき)安室(あむろ)に切り出した。

「1つ気になっていたんですが…。」

「何でしょう?」

「私の警護をしてくださる、というのはとても心強いんですが、それがきっかけでストーカーを刺激しないかどうかが心配で……。」

 ただでさえ気持ちの悪い妄想(もうそう)をしている相手である。その対象である千暁(ちあき)(そば)に男(それも滅多にお目にかかれないイケメン)がいる事で逆上しないかどうかが不安だった。

「実はそれも目的の1つなんですよ。」

「え?!」

 思わず立ち止まる。

「こういったストーカーの思考と行動は、だいたい予想が付きます。あの手紙のような妄想(もうそう)をしているのなら、その対象であるあなたの(そば)に男がいればまず間違い無く逆上するでしょう。そして恐らくは、あなたの(そば)から排除しようと動くでしょうね。」

「危ないじゃないですか!」

 いや、腕っ節が強いのは承知しているが、何もそこまで捨て身にならなくても良いのでは無いだろうか。

「僕なら大丈夫ですよ。それよりも、万が一あなたの方に行ってしまった場合が心配なので、当面は学校以外の外出はなるべく控えてください。買い物もしばらくは僕が付き添いますから。」

「は、はい…。」

 取り()えず、明日の登校時間に迎えに行くから、と時間を聞かれ答えていた時の事だった。

「?!」

「!」

 ねっとりとした、しかしこれまでとは異なり確実に殺気立った視線に、思わず後ろをバッと振り返った千暁(ちあき)を、安室(あむろ)が後ろに(かば)う形で前に出る。

 視線の10m程先にいたのは、明らかに挙動不審の男。

「……んで…、……ちゃ…は……ボクの………のハズ………!」

 ブツブツと何やら呟いている男の目は、長い前髪を通しても焦点が合っていないのが分かる。

 外見は一見して大学生風の若い男。服装もどこにでもいそうなTシャツとジーンズだが、その目と正気を失ったかのような言動が不気味だった。

 そして何よりも、その手に握られた金属バットがその異様さを強調する。

 ボコボコに(へこ)んだ金属バットの先端部分には、黒ずんだ染みのようなもの。

 ――――――――血の跡だった。

「ひっ………!」

「下がって…。」

 千暁(ちあき)を背後に(かば)ったまま、安室(あむろ)が小声で(ささや)く。

 スネイクたちと対峙した時とはまた違った恐怖と嫌悪感に、思わず息を呑んだ。

 サッと血の気が引くのが自分でも分かる。

(“仕事”の時は平気なのに………!)

 “怪盗キッド”としての“仮面”を被っている時は平気なのだ。自分の持つ能力を全て発揮出来るから。

 しかし、“黒羽千暁(ちあき)”は荒事(あらごと)とは一切縁の無い、普通の高校生である。例え撃退出来る(すべ)を持っていても、それを人前で発揮する訳にはいかない、という(かせ)そのものが千暁(ちあき)の恐怖を掻き立てた。

「ちあきちゃんからはなれろ………。」

 何か薬でも使用しているのか、呂律(ろれつ)の回っていない口調で男が呟く。

「ちあきちゃんから、はなれろよォオオオオオ!!!!」

 動かない安室(あむろ)に逆上した男が、絶叫と共に金属バットを振りかぶり安室(あむろ)へと殴りかかった。

「やっ…………!!!」

 明らかに正気ではない、常軌(じょうき)(いっ)した男の様子に、思わず恐怖から目を(つむ)ってしまう。

 ――――――――結論から言えば、全く心配する必要は無かったが。

 ドゴォッ……!

 直後に響いた(にぶ)い音に一瞬身を(すく)ませるが、固まっていた千暁(ちあき)を安心させるように声がかけられる。

「目を開けて大丈夫ですよ。」

 安室(あむろ)の声にゆっくりと目を開けると、ピンピンとしている安室(あむろ)と目が合った。

 そして、その足元にはあの男が(うつぶ)せで倒れている。

「どうやらこの男がストーカーだったようですね…。まさかこんなに早く行動を起こすとは思いませんでしたが…。」

 男の腕を背中で纏め、脱いだ自身の上着で縛り上げながら呆れたように呟く安室(あむろ)に、思わず全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「け、怪我が無くて良かったです……。」

 色々言いたい事はあったが、取り()えずそれだけ呟いた………。

 

 

 

 

 




・千暁が怖がっていた件について
本文中でもチラッと書きましたが、本来ならば千暁も素人の男を1人撃退するだけの術はあります。格闘技などをやっているわけではないので、マジックの応用やアイテムを利用しての技術ですが、それでスネイクたちと渡り合えているので決して弱い訳ではありません。
しかし、“怪盗キッド”とは異なり“黒羽千暁”はただの女子高生である為、そんな技術を持っている事を知られる訳にはいきません。千暁が1人であの場を何とかするのは技術的には可能でも、それをする訳にはいきませんでした。
出来るけどしてはいけない、というジレンマによって下手に対処出来ず、それが恐怖に繋がった訳です。

以上、蛇足の説明でした。
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