成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。
今回は“銀翼の奇術師”導入編です。
映画とどう変わっていくのかお楽しみに。

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銀翼の奇術師編
“運命の宝石”


『     Romeo(ロミオ)

      Juliet(ジュリエット)

      Victor(ビクター)

      Bravo(ブラボー)

      26の文字が飛び交う中

       “運命の宝石”を

      いただきに参上する。

                 怪盗キッド    』

 

 赤いバラの花束に予告状を添え、女優‐(まき)樹里(じゅり)のマンションのベランダへと置く。そしてそのまま、夜の空へと身を躍らせた。

 ヒュウウウウゥゥ………

 バッ、とハンググライダーを開き、そのまま滑空体勢に入る。

(さて、今回はどうなるかな………。)

 人目に付かないように高度を上げながら、今出したばかりの予告状へと思いを()せた。

 今回“怪盗キッド”が狙うのは女優の(まき)が所有するスターサファイア“運命の宝石”。

 最初は、偽物と分かっているものをわざわざ盗む気は無かった。

 しかし、連日舞台“ジョゼフィーヌ”の宣伝も兼ねて“運命の宝石”についてテレビで報道されており、中には“怪盗キッド”が狙うのでは?!と余計な(あお)り文句を使っているワイドショーもある。

 嫌な予感がして(まき)の周囲を調べてみたところ、案の定スネイクたちが“運命の宝石”について()ぎ回っているのが分かった。

 放置すればどんな手段に出るか分からない。

 (まき)や周囲の人間の安全の為にも、あれが“パンドラ”では無いと奴らに知らしめる必要があった。

 本来ならば、明日の千秋楽(せんしゅうらく)で盗む事が出来ればベストだが、予告状を出した以上、スネイクたちは明日自分(怪盗キッド)を狙って姿を現すだろう。

 そのまま前回のように狙撃、もしくは銃撃戦となる可能性がある以上、劇場での犯行は避けた方が良い。舞台のキャストや観客たちにもしもの事があっては遅いのだ。

 止む無くストーリー通りの予告状を出したものの、不安要素しか無かった。

(“名探偵”だけでも結構いっぱいいっぱいなんだけどな……。)

 “沖矢(すばる)”と“安室(あむろ)(とおる)”が参戦しない事を祈るばかりである。

 ―――――――――思わず()いた溜息は風に流れて消えた。

 

 ―“ブルーパロット”地下―

『成程…。これがキッドからの予告状ですか…。』

『はい…。今朝、自宅マンションのベランダに大きなバラの花束を添えて置いてあったんです…。』

『う~む…。』

「やっぱりこうなったか…。」

 (はと)に仕込んだカメラ越しに、毛利探偵事務所の様子をモニターで(うかが)いながら溜息を()く。

 たぶん、ここはストーリー通りになるんだろうな、と飼っている(はと)のうち1羽にカメラを仕込んで飛ばし、毛利探偵事務所を見張らせていたが案の定だった。

 トランプ銃の手入れを行いながらモニターを注視すれば、来ないで欲しいと思っていたうちの1人が同席している。

(やっぱり……?)

 せめて“沖矢”の方は来てくれるな、と祈りながら手入れを進めていた千暁(ちあき)(もと)に、寺井(じい)がココアを持って来た。

「どうぞ、お嬢様。」

「ありがと。」

 一旦手入れの手を止め、温かいココアを(すす)る。

千暁(ちあき)お嬢様…。やはり今回は手を引いた方がよろしいのでは?以前の傷がやっと塞がったばかりだというのに、今回は()()()()だけでなく“()()()()()もいるようですし……。」

 心配で心配で仕方無い、といった様子の寺井(じい)が進言する。

「今回は直接やり合う訳じゃないし…。放っとけば“組織”の連中が(まき)さんに何するか分かんないもん。」

 何か前にも似たようなシチュエーションで同じような会話をしたな、と思いながらココアを飲む。

「しかし、この寺井(じい)は心配で心配で…………!!」

「分かってる…。流石(さすが)に私もこの前ので()りたよ…。だから劇場でも函館(はこだて)の別荘でも無い、“空の密室”を舞台に選んだんだから…。」

 密室の中で“名探偵”と対峙しなくてはならない、という難易度は上がるが、“組織”の連中とやり合う事を考えれば1番周囲への巻き添えが少ないのが正直コレなのだ。

 基本的に()()は存在を秘匿(ひとく)しなくてはいけない為、不特定多数の人間の前に堂々と姿を現す事はほとんど無い。

 警察関係者や、あるいはその場で口封じが可能な少人数の人間に姿を見せた事はあるものの、基本的に一般人の目に触れないようにはしているらしかった。

 これが地上ならば、数百人単位の人間がいようとテロか何かに見せかけ、劇場に爆弾なりなんなりを仕掛けてその(すき)に、という恐れもあったが、流石(さすが)に下手をすれば自分たちごと墜落しかねない飛行機の中で事を起こしたりはしない(はず)だ。そんなリスキーな賭けに出るよりも、飛行機に乗る前か降りた後の方が確実且つ安全である。

 今回、“怪盗キッド”が予告状を送った事で劇場を囲んで待ち伏せる位の事はするだろうが、その場で“運命の宝石”を狙う事もまず、無い。

 “怪盗キッド”目当てのマスコミが多数いる中、顔を(さら)すどころか“組織”の存在を露見(ろけん)させかねない行動はしない(はず)。まぁ、自分(怪盗キッド)が姿を見せたならば、見せしめも兼ねてその始末を優先させる位の事はするだろうが。

 恐らく“怪盗キッド”がいつ現れても良いように(まき)の周辺を張りつつ、彼女の行く先々に先回りして彼女が1人になる、あるいは複数の人間が(そば)にいてもすぐに警察への通報が出来ないような機会を待つだろう。

 女優という職業柄人間関係も(はな)やかであり、1人で行動する事はほとんど無い上に、住んでいるマンションのセキュリティーもなかなかのもの。“怪盗キッド”のようにベランダから、というならともかく、正面からのセキュリティー突破は骨が折れるだろう(あくまでも()()にとっては、だが)。

 ()()(まき)を狙うなら、最も可能性が高いのは彼女の函館(はこだて)の別荘。彼女の別荘は他の別荘とはやや離れた場所にあり、周囲には何も無い自然の中。仮に何か事件が起きたとしても、それが発覚するまでには時間がかかる。

 まぁ、“名探偵”だけでなく安室(あむろ)も同行する可能性が跳ね上がった今、若干計画の見直しが必要になってきたが。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「ま、何にしても本番は明日…。今から心配してても身が()たないよ?寺井(じい)ちゃん。」

 ココアを飲みながらモニターを眺め、寺井(じい)(なだ)める。

「はぁ…。」

 まだ不安そうな寺井(じい)だったが、千暁(ちあき)の言っている事も(もっと)もである為、言葉をのみ込んだ。

『キッドが今夜その宝石を狙って来るのは間違いありません!!』

「残念…。今日じゃないんだな~…。」

 小五郎の断言に茶々を入れつつ、“名探偵”と同席している安室(あむろ)の様子を(うかが)った。

 どうやら暗号はまだ解けていないながらも、今夜狙って来る、という事に関しては疑っていないらしい。

(このまま(だま)されてくれれば楽なのに……。)

 まぁ、そう上手くいく(はず)が無いのだが………。

 さて、“組織”の連中が来ているかどうか今夜偵察(ていさつ)した方が良いだろうか。

 そんな事を考えながらココアを飲み干し、モニターの電源を切る。

 チケットが無ければ中には入れないし、周辺の様子だけ(うかが)おうか、と簡単に変装する為に、取り()えず服を見(つくろ)いに衣装部屋に入った。

 

 ――――――――――――午後6時、劇場“(そら)”。

 千暁(ちあき)は舞台“ジョゼフィーヌ”が上演される劇場“(そら)”にいた。

(何で私ここにいるんだろう…。)

 自分でもこの展開は想定していなかっただけに、思わず遠い目になる。

「どうしたのよ、千暁(ちあき)?変な顔して。せっかくお父さんが“ジョゼフィーヌ”のチケット(もら)ってきてくれたのに。」

 その様子を見(とが)めた青子(あおこ)千暁(ちあき)の顔を覗き込む。

「…何でもないって。開場まだかなって思っただけ。」

 良く考えればその可能性は気付けた(はず)だった。

 最近は鈴木相談役(がら)みの“仕事”が続いたせいでうっかりしていたが、青子(あおこ)が父親である中森警部に頼んで“怪盗キッド”が予告状を出した美術館や舞台に出入りする事は珍しい事では無い。

 そして千暁(ちあき)をそれに誘うのも珍しい事では無かった。何せ、このお陰でスムーズに下見を進められた事も1度や2度では無い。

 だから、今回の舞台のチケットを中森警部が愛娘(青子)その親友(千暁)の分を融通(ゆうずう)してもらっていたとしても不思議は無かったのである。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「そう?それなら良いんだけど…。それよりこのワンピースどう?おニューなの!」

 千暁(ちあき)の返事で気を取り直した青子(あおこ)がクルリ、とワンピースを見せるようように回転して見せる。淡いオレンジ色と薄い黄色、薄茶色のタータンチェックのワンピースは実際良く似合っていた。髪も一部だけを(まと)めて同じ生地で作ったシュシュで(くく)っている。

 大粒のパールを模したイヤリングと、足首丈のブーツもワンピースと合っていた。

「似合ってるよ。可愛いね。シュシュもお揃い?」

「うん!セットだったの!」

 夜に開演の舞台、という事もあって周囲の客もある程度フォーマルな服装が多いが、これなら浮く事も無いだろう。

 千暁(ちあき)自身、それを見越して黒いワンピースを着ている。シンプルだが、フワリと広がるスカートと腰のリボンが可愛らしいデザインのものだ。足元も同じようなデザインの、足首でリボンを結ぶタイプのパンプスを()いている。

 アクセントとして黒いレースの手袋と、アクセサリーに赤い宝石(もちろん偽物(イミテーション)だが)のピアスとペンダント。

 軽くだがメイクもしていた為、普段よりもグッと大人びて見えた。

千暁(ちあき)も可愛いね!そのワンピースどこで買ったの?パンプスも合ってて良い感じ!!」

「これ?ママが送ってきたヤツ。アメリカ(向こう)で見付けたんだって。」

「へぇ~。良いな、ちょっと大人っぽーい!」

 クルクルと千暁(ちあき)の周りを回りながらニコニコとベタ()めする青子(あおこ)に苦笑する。

「それよりおじさんは?チケットのお礼を言いたいんだけど…。」

「あ、いっけなーい!着いたら電話するように言われてたんだった!」

 そう言って(あわ)てて携帯を取り出す青子(あおこ)に首を傾げる。

(電話ったって中森警部(おじさん)仕事中なんじゃ……?)

 そんな事を考えている間に無事に中森に繋がったらしい。そのやり取りを何とはなしに聞いて待つ。

「うん。うん、分かった!それじゃ今から行くね!」

 そう言って電話を切り、携帯をしまった青子(あおこ)千暁(ちあき)を振り返る。

「おじさん、何て?」

「今、(まき)さんの楽屋にいるから、チケットのお礼を言いに来なさいって!」

「え?入って良いの?楽屋…。」

「今なら他にもお客さんいるから大丈夫って言ってたよ!」

「へぇ…。」

 そう言って千暁(ちあき)の腕を引っ張る青子(あおこ)を止める。

「待って!せっかく行くならもっと可愛くして行こ。メイクしたげるから。」

「え?でもお父さんたち待ってるよ?」

「任せて。そんなに濃くしないし、3分で終わらせるから。」

 善は急げ、と青子(あおこ)の背を押してトイレのパウダールームへと移動する。

 ―――――――そして5分後。宣言通りに3分で青子(あおこ)をメイクアップさせ、軽くダッシュして2分で楽屋に着いた。

「ここ?」

「そうみたい……。」

 コンコンコンッ………!

 ノックする千暁(ちあき)の後ろに青子(あおこ)が隠れる。

「何隠れてんのさ?」

「だって緊張するよ~…。」

『はい…。』

 ガチャ…

 応対したのは、眼鏡をかけたスーツの女性。(まき)の秘書‐矢口真佐代(まさよ)だった。

「ああ、あなたたちが中森警部の娘さんとそのお友達…?」

「はい。」

「どうぞ。お話は伺ってました。」

 話は既に通っていたらしく、すんなり中へと入れてくれる。

「おお、青子(あおこ)千暁(ちあき)ちゃんも!来たな。」

「あ、お父さん!」

 父親の姿を見付けた途端に心強くなったのか、千暁(ちあき)の背中から出てさっさと中森警部に走り寄る青子(あおこ)に苦笑し、自身も中に入ろうとした時だった。

「あれ?千暁(ちあき)姉ちゃん?!」

(そうだった、その可能性をすっかり忘れてた………!)

 本当に驚いた顔で千暁(ちあき)を見詰めて来る“好敵手(ライバル)”に、条件反射で引き()りそうになった頬を押し留め、笑顔をキープした。

 

 

 

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