成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。白き罪人更新です。

誤字報告、評価、お気に入り登録ありがとうございます。

何か、評価とお気に入り登録数が短期間で伸びたな、と思ったら7月28日付けのランキングで4位でした。
どうもありがとうございます。


865便

 ――――――――黒羽家、地下隠し部屋。

『良いかい、千暁(ちあき)…。マジシャンにとって、最も大切な心得を教えよう……。』

 灯りを付けると同時に、部屋の奥に設置されたジュークボックスが作動し、レコードに録音された、亡き父‐盗一(とういち)の声が流れ出す。

 ジュークボックスには複数のレコードが保管されており、どのレコードが流れるかは完全なランダムだったが、不思議とその時の千暁(ちあき)にとっていつも最善のアドバイスが流れた。

 いつものように、ジュークボックスの前に備えられた1人掛けのソファに座り、目を(つむ)って父の声に耳を澄ます。

『客に接する時、そこは決闘の場…。決して(おご)らず、(あなど)らず……。』

 父の低く甘い声が、千暁(ちあき)の心を落ち着かせる。

 元々甘い響きの声の持ち主の父だったが、母‐千影(ちかげ)と娘である千暁(ちあき)に対する時には、その声は殊更(ことさら)に甘く深く響いた。

 幼い頃はその膝に抱かれ、良くお気に入りの絵本を読み聞かせてもらっていたものである。どんなに怖い夢を見ても、嫌な事があっても、父の声はいつも千暁(ちあき)を落ち着かせたものだった。

『相手の心を見透かし、その肢体(したい)の先に全神経を集中して持てる技を尽くし…、(なお)()つ笑顔と気品を損なわず…。』

 並外れた知能と身体能力を持つ千暁(ちあき)とて、最初から何の不安も恐怖無く“仕事”をこなしてきた訳では無い。

 初めて父の秘密を知った日、“怪盗キッド”を継ぐと決意した日、初めてスネイクと対峙(たいじ)した日、そして“好敵手(ライバル)”たる“名探偵”との邂逅(かいこう)――――――――――…。

 不安に涙した日もあった。

 恐怖に震えた夜もあった。

 興奮で眠れずに迎えた朝も。

 そんな時は、決まってこの隠し部屋で父の声を聴いた。

 それだけで、どんなに心が乱れていても落ち着きを取り戻す事が出来たのだ。

 この時間は、“怪盗キッド”になる為の大切なルーティン。

 そして同時に、“黒羽千暁(ちあき)”に戻る為の儀式でもあった。

『いつ何時たりとも…、ポーカーフェイスを忘れるな…。………分かったかな?千暁(ちあき)……。』

「………分かってるよ、パパ……。」

 レコードの父の言葉に、目を(つむ)ったまま頷く。

 それと同時に、再生の終わったレコードが盤面(ばんめん)から外される。

 ゆっくりと開かれた紫紺(しこん)がかった青の瞳には、不敵な輝きが宿っていた―――――――。

 

 ――――――数時間後、羽田空港。

 千暁(ちあき)は函館の(まき)の別荘で行われる、舞台“ジョゼフィーヌ”の打ち上げに招待され、青子(あおこ)と共に羽田空港にいた。

「函館は雷雨みたいだね…。」

 空港内のテレビから流れる天気予報に、世良が呟く。

「あーあ…。せっかくめかし込んで来たのに、雨とはねぇ……。」

「ねぇ、千暁(ちあき)…。雷が飛行機に落ちちゃったりしない?」

 園子が不満気に呟く横で、青子(あおこ)千暁(ちあき)の袖を引っ張った。

「さぁ…。でも、欠航にならないって事は、プロの目から見て心配無いって事じゃない?」

 不安を(あお)らないように無難(ぶなん)な言葉を返しつつ、集まったメンバーを眺める。

 舞台“ジョゼフィーヌ”で(まき)と共演した俳優‐成沢(なるさわ)文二郎(ぶんじろう)、演出家も兼任していた(ばん)(とおる)(ばん)の妻で同じく女優‐田島天子(てんこ)(まき)のマネージャー‐矢口。

 そして、千暁(ちあき)青子(あおこ)ら同様に(まき)に招待されたのが、毛利小五郎とその娘‐蘭。そしてその親友‐園子と友人の世良。千暁(ちあき)の“好敵手(ライバル)”、江戸川コナン。

 正直なところ、このメンバーの中で何故(なぜ)自分が青子(あおこ)と共に打ち上げに招待されたのか、千暁(ちあき)には理解出来なかった。

 直接“運命の宝石”の警備に関わり、(なお)()つ著名人である小五郎とその娘の蘭、また鈴木財閥の令嬢である園子、その友人である世良までは分かる。このメンバーが揃えば、毛利家に預けられているコナンが同行するのも当然。

 しかし、青子(あおこ)千暁(ちあき)はあくまでもチケットを融通(ゆうずう)してもらっただけの一般人に過ぎない。

 確かに青子(あおこ)の父‐中森は今回の警備の最高責任者だったが、結果的に“運命の宝石”は無事だったとは言え、“怪盗キッド”を確保出来なかったばかりか危うく成沢(なるさわ)を誤認逮捕しかけるという失態を犯している。

 言っては何だが、(まき)は自己顕示欲(けんじよく)虚栄(きょえい)心がかなり強い。著名人を(はべ)らかし、自分の良いように振り回す事を一種のステータスのように振る舞っている節がある。

 彼女の言動は全て、自分にとって得になるかどうか、という一点にのみ重きを置いている。

 そんな彼女が、呼んでも何の得にもならない女子高生2人を打ち上げに呼び、自分の別荘に招待する、というのも妙な話だった。

(一体どうして……?)

 考えるが、心当たりは全く無い。

「それにしても、安室(あむろ)さんが来られなかったのは残念だったわ~…。」

「探偵の依頼が入っちゃったんだから、仕方無いわよ…。」

 溜息を()く園子に蘭が苦笑する。

 そのやり取りを眺めながら、内心安堵(あんど)の息を()いた。

(上手くいって良かった…。)

 “怪盗キッド”としての“仕事”の下調べの最中に手に入れた、いくつかの反社会派組織の情報を公安の複数人の捜査官のパソコンをハッキングして(まぎ)れ込ませておいたのだ。

 “ゼロ”である彼が出張る程の案件かどうかは判断が付かなかったので一種の賭けだったが、どうやら情報の裏取りと洗い出しに時間を()かねばならない程度のものだったらしい。

 流石(さすが)に“名探偵”と同時に相手取るには不安過ぎる相手である。上手く分散出来た事にほっとした。

 残る唯一の不安要素は、探偵としての実力がある意味未知数の世良真純(ますみ)のみ。

(いつも以上に気を引き締めていかないと危ないな…。)

 下手をすると足を(すく)われる可能性もある。

「いやあ、すみませんなぁ…。私らまで舞台の打ちあげにお招きいただいて…。」

「皆さんのお陰で宝石が無事だったんですから、当然の事ですわ!」

「そうそう、そんな事気にせずに函館を楽しみましょう…。」

 小五郎の謝辞(しゃじ)にマネージャーの矢口が答え、成沢(なるさわ)が続けた。

「それにしても、樹里(じゅり)の奴、遅いな…。」

「ホント…。」

 (まき)が未だに姿を見せない事に、(ばん)とその妻‐天子(てんこ)(いぶ)かし気な顔を見せた。

「すいません、今なつきさんにメイクしてもらってるんです…。駐車場の車の中で…。」

「メイクですか…。大女優ともなると大変なんスなぁ…。」

 矢口の説明に感心したような声を上げる小五郎だったが、それは(ばん)夫妻によって否定される。

「大変なのはなつきちゃんの方よ!」

「ああ、樹里(じゅり)にすっかり重宝(ちょうほう)がられて、付き人のような事までさせられてるからなぁ…。」

 その言葉を聞いて、世良が千暁(ちあき)の隣にそっと歩み寄って来た。

「どうやら、あの噂は本当みたいだね…。」

「そうみたい…。」

 ニヤッと笑いながら小声で(ささや)かれた言葉に、同じく小声で返している間に、ヘアメイクの酒井を従えた(まき)が現れた。

「ハ~イ!!お待たせ、皆さん!!」

「いやあ、今日は一段とお綺麗ですなあ!」

「どうも、毛利さん…。」

 鼻の下を伸ばすような小五郎の台詞(せりふ)に、サングラスを外しながら(まき)婉然(えんぜん)と答えた。

「全員揃ってるみたいね…。」

「いや、まだ新庄(しんじょう)君が…。」

 同じく“ジョゼフィーヌ”で共演していた俳優‐新庄(しんじょう)(いさお)がまだ来ていない、と(ばん)が答えるが、それはマネージャーの矢口によって答えられた。

「ああ、新庄(しんじょう)さんなら体調が悪いのでキャンセルすると今朝電話があったんです…。」

 それに最初に反応したのが天子(てんこ)だった。

「あら、そうなの…。残念ね樹里(じゅり)…。」

「…え?何が?」

「ううん、別に…。」

 ある種の()()を持たせた2人の会話に、芸能界の闇を垣間(かいま)見た気がして薄ら寒い思いを味わった千暁(ちあき)である。

(恐っ…!)

「あのう…、他の役者さん達は来ないんですか?」

「当たり前じゃないの。端役(はやく)の連中を呼んだって何のメリットも無いでしょ?」

 ニッコリと微笑む(まき)に、蘭と小五郎が言葉に詰まり、コナンが苦笑いした。

 その様子に、世良が再び千暁(ちあき)青子(あおこ)(ささや)く。

「イイ性格してるよ…。ホントに…。」

 千暁(ちあき)青子(あおこ)が黙って頷いた。

 

 一部を除いて微妙な空気になったが、一同は函館行きの飛行機‐スカイ・ジャパン865便へと乗り込んだ。

 コックピットのすぐ(そば)、2階席のスーパーシート。座席番号は左の窓からA席、B席、通路を挟んでJ席、K席となっている。

 つまり、

 A B| 通路 |J K 

 の順で席が並んでいる。

 千暁(ちあき)達の座席は、1Kが成沢(なるさわ)、2Bが(まき)、通路を挟んで2Jが天子(てんこ)、2Kが(ばん)。そして3Aが山口、3Bが酒井、通路を挟んで3Jがコナン、3Kが世良、4Aが青子(あおこ)、4Bが千暁(ちあき)、4Jが小五郎、5Aが蘭、5Bが園子だった。

 

 図解すると

 1A 2B| 通路 |1J 成沢(なるさわ)

 2A (まき)| 通路 |天子(てんこ) (ばん)

 山口 酒井| 通路 |コナン 世良

 青子(あおこ) 千暁(ちあき)| 通路 |小五郎 4K

 蘭 園子 | 通路 |5J 5K

 となる。その他は空席で完全な貸し切り状態だった。

「ホントに良いの?千暁(ちあき)。窓側替わってもらって。」

 元々4A、つまり窓側は千暁(ちあき)だったのを交換した為、青子(あおこ)が不思議そうな顔をする。

「良いよ。景色、見たいんでしょ?」

「へへ…!いつもありがと!!」

 いつも新幹線などで窓側に座りたがる青子(あおこ)なので、千暁(ちあき)が交換してやるのはいつもの事だが、青子(あおこ)から求められる前に自分から申し出るのは珍しい。

 その為、不思議そうな顔をしていた青子(あおこ)だったが、千暁(ちあき)があっさりと頷けば嬉しそうにはにかんだ。

(通路側の方が機内を把握し易いしね…。)

 これぞwinwin。

 何食わぬ顔でこれからの手順をシミュレーションしている時だった。

「どうしたのよ、蘭。さっきから振り返ってばっかりで…。」

 後ろの席で蘭が最後部の階段をしきりに気にしているようで、隣に座っていた園子が不思議そうな顔をしている。

「あ、ううん、何でもない…。」

 蘭が(かぶり)を振った直後、キャビンアテンダントが「いらっしゃいませ。」と新たな乗客を迎える声が聞こえた。

(貸し切りじゃないんだ…?)

 千暁(ちあき)が一瞬疑問を持つが、ほぼ同時に蘭が小声で「来た……!」と期待を込めた声を上げる。

「来たって誰が?」

「しっ!黙って…。」

 園子の問いかけを制止し、蘭が前に向き直った。

「どしたの?」

「しー…!」

 後ろのやり取りを耳にした青子(あおこ)が振り返るが、園子同様に蘭に制止される。

 直後、後方から歩いてきた女性がチケットの座席番号を確認しながら小五郎に声をかけた。

「あの、お隣の席……。」

「ああ、どうぞ……。」

 返事をしながら機内誌から顔を上げた小五郎が、その女性を見るなり驚愕の声を上げる。

「いっ!?英里(えり)っ?!」

「あ、あなた!!」

 そう。新たに入って来た乗客は小五郎の別居中の妻で蘭の母親‐妃英里(えり)だった。

(ああ、そういう事……。)

 そういえば、こんな展開が映画にあったかもしれない、と千暁(ちあき)が意識を“仕事”へと戻す。

 その後、小五郎が(まき)の隣、2Aへと移り、それぞれ離れた席へと座る事で落ち着いた。

『業務連絡です…。乗務員はドアモードを変更してください…。』

 機内に離陸間際のアナウンスが流れる。

 ふと、通路を挟んで斜め前の席に座っていたコナンの様子が変わった事に気付く。

 流石(さすが)に表情までは見えないが、その楽し気な、挑発的な気配から察する事が出来た。

(予告状の意味が分かったみたいだね…。)

 予告状の暗号が解けたタイミングは、映画とほぼ同じ。

 しかし、安心は出来ない。自分(千暁)青子(あおこ)ががいる時点で既に本来のストーリーからは外れている。

 少しでもしくじれば、“怪盗キッド”は一巻の終わり…。

(さぁ、始めましょうか“名探偵”…。私の奇術(マジック)とあなたの頭脳、どちらが上回るのか……。)

 既にいくつかの布石(ふせき)は打ってある。

 最後に笑うのは、一体どちらか…。

 上空1万フィートの密室で、“怪盗”と“探偵”の化かし合いが今、始まる―――――――…。

 

 

 




千暁の狡い作戦で、安室さんは不参加。
次回、世良ちゃんがどう動くのか!?それは作者にも分からない←
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