成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。白き罪人更新です。

お気に入り登録、誤字報告どうもありがとうございます。

今回、ちょっと急展開です。


運命の分かれ道

『皆様、本日もスカイ・ジャパン航空をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。この便の機長は大越(おおこし)、私は客室を担当致します進藤でございます。』

 アナウンスに、それまでつまらなそうに機内誌を眺めていた(まき)が顔を上げた。その様子をコナンが怪訝(けげん)そうな顔で見詰める。

「?どうかしたのか?コナンくん。」

「ううん、別に何でも無いよ…。」

 それを見咎(みとが)めた世良がコナンに尋ねるが、コナンは(かぶり)を振って誤魔化(ごまか)した。

 千暁(ちあき)もまた、席の関係で(まき)の姿は見えなかったものの、アナウンスとコナンの様子から大体の状況を察した。

(大越(おおこし)って確か…。)

 (まき)は元スカイ・ジャパンのキャビンアテンダントで、今日の機長である大越(おおこし)とも何度も仕事をした事がある(はず)である。

(あの人、サービス業向きには見えないけど……。)

 だからこそ女優に転向したのか、はたまた上手く外面を取り(つくろ)っていたのか…。

 しょうもない事を何とは無しに考えている間に、一同が乗った飛行機はいよいよ離陸態勢に入った。

 865便が滑走路を走り出し、機内のビデオスクリーンに移り変わる滑走路の様子が映し出される。

「見て見て千暁(ちあき)!凄い速いよ!!」

「完全に離陸しないうちにずっと外見てると酔うよ?」

 子どものようにはしゃぐ青子(あおこ)を、千暁(ちあき)が苦笑しながら(たしな)める。

 大型の旅客機だけあって揺れはそうでも無いが、その分窓の外を流れる景色は速く、みるみるうちに過ぎ去っていく。乗り物酔いし易い体質の人間なら、それだけで酔いそうな位だった。

「平気平気!」

 まぁ、青子(あおこ)はそんなに乗り物酔いする体質でも無いから大丈夫だろう。

 ニコニコと機嫌良く答える青子(あおこ)に、それ以上の追及はしなかった。

 ゴトリ、と微かな振動と共に機体が浮き上がり、上昇していく。

(さて、いよいよ……。)

 離陸時のGによって微妙に座席に体が押し付けられるのを感じながら、千暁(ちあき)は最後のシミュレーションを繰り返した……。

 

 機内に点灯していたシートベルトの着用ランプが消える。どうやら完全な水平飛行に切り替わったらしく、非常口の(そば)のジャンプシートに座っていたキャビンアテンダントが自らのシートベルトを外して立ち上がった。

 そのまま座席後方のギャレーへと向かって仕切りのカーテンをくぐるのを、首だけ振り返った状態で確認する。

「どうしたの?」

「ん?ちょっと(のど)乾いちゃって…。」

 機内サービスを待っていたのだ、と青子(あおこ)誤魔化(ごまか)す。

「そういえば、青子(あおこ)も何か飲みたくなってきたな~。」

「話には聞いてたけど、やっぱり機内って乾燥してるみたいだね。」

 乾燥を理由に(もっと)もらしい理由を答えれば、やはり(のど)の渇きを覚えていたらしい青子(あおこ)は納得した。

「仕方無いよ。一般的に飛行機が飛ぶ上空1万mは、気温-50℃の極寒の世界。機内を暖める為に、エンジンの高熱を利用してるんだけど、湿度を上げると外気と機内の温度差で結露が起こって、(さび)や配線故障の原因になっちゃうんだ。だから、結露による精密機器への悪影響を避ける為に、水分除去装置を使って飛行機内の湿度を10~20%程度になるように調整してるんだよ。」

「………コナンくん、難しい事知ってるよね…。」

(ホントに正体隠す気ある……?)

 青子(あおこ)とのやり取りを聞いて雑学を挟んでくる“好敵手(ライバル)”に、表面上は笑顔を保ったままだが思わず突っ込む。

「って、この前テレビでやってたから!!」

(誤魔化(ごまか)し方が雑だよ?“名探偵”……。)

 千暁(ちあき)の指摘に、わたわたと慌てて誤魔化(ごまか)すコナンに内心呆れた。

「ちっちゃいのに凄いね~!昔の千暁(ちあき)みたい!!」

(げっ……!)

 本心から感心したらしい青子(あおこ)が、今この場では全く嬉しくない爆弾を落とす。

「昔の千暁(ちあき)姉ちゃんって?」

 いつの間にかシートベルトを外して立ち上がったらしいコナンが、通路から千暁(ちあき)越しに青子(あおこ)へと問いかけた。

青子(あおこ)千暁(ちあき)が初めて()ったのも、今のコナンくん位の年だったんだけどねぇ~。その時から千暁(ちあき)ってば、すっごく頭が良くって!小学1年生の時に4桁の掛け算暗算したり、英語とフランス語もペラペラだったし、今のコナンくんみたいに色んな雑学知ってたんだよ!!」

「え?!ち、千暁(ちあき)姉ちゃん凄い頭良いんだね……。」

 普通の小学生ではあり得ないエピソードに、コナンが本気で驚くのが分かる。

 そう。その頃の千暁(ちあき)は、前世の記憶など当然無く、頭は良くても精神的には普通の小学生とほぼ変わらなかった為、何の惜し気も無くその天才的な頭脳を披露していた。

 小学校で習う範囲など既に完璧に頭に入っていた為、正直、学校へは友達と遊ぶ為に遊びに行っていたようなものだ。

 流石(さすが)に授業妨害を行う程子どもでは無かったものの、授業中はずっと寝ているか好きな本を読んでいる、という問題児だった。学校の教師から見れば扱い辛い事この上無かったに違いない。

 今考えると、歴代の担任の先生には申し訳無い事をしていたと思う。

 中学生になってもそれは変わらず、むしろ基本的な授業態度は高校生になった今も変わっていない。精々、堂々と寝るのでは無く、真面目に授業を受けるフリが劇的に上手くなった位の変化である。

 しかし反面、その頭脳を惜しげも無く(さら)していた為、誰も千暁(ちあき)と対等に付き合う事は出来ず、今も昔もまともな友人は青子(あおこ)位のものだった。

 高校に入ってからは多少取り(つくろ)う事も覚えた為、クラスメートとも親しくはなったが、プライベートで遊ぶ程の相手はまだいない。

 唯一例外として、同じくクラスメートの白馬(さぐる)だけは千暁(ちあき)とも対等に会話出来る相手ではあるが、男女の差もあってプライベートで親しく連絡を取り合う程の仲ではないのだ。

「だからコナンくんも今の友達は大切にね。あんまり知識ひけらかしても良い事無いよ。」

 興味津々に根掘り葉掘り聞きたそうな“好敵手(ライバル)”に、これまでの実体験をかいつまんで教えてやれば、「き、気を付けるね……。」とやや引いた表情で頷いた。

「あ、ほら機内サービス来たよ!(のど)乾いたって言ってたよね?!」

(逃げたな…。)

 ギャレーから出てきたキャビンアテンダントを指差し、そそくさと自身の席に戻ったコナンに半ば呆れつつも、カートを押してきたキャビンアテンダントに向き直る。

「洋菓子と和菓子、どちらになさいますか?」

「洋菓子お願いします。」

「あ、同じく洋菓子で!」

「お飲み物は何に致しましょう?」

「紅茶をお願いします。」

「ウーロン茶ください。」

「かしこまりました。」

 受け取った紅茶を1口飲み、マドレーヌを(かじ)りながら、ふと先程までの会話を思い起こした。

 もし、“好敵手(ライバル)”たる“名探偵”とお互いに素顔で最初に出()っていたなら、対等の立場で親しい友人になれたのかもしれない、と……。

(…何を考えているんだか……。)

 怪盗と探偵、それこそが自分たちの間にある唯一だろうに。

 自身の思考に思わず笑いながら、溜息を1つ()いて意識を切り替える。

「コーヒーを。お菓子はいらないわ。」

「かしこまりました。」

 キャビンアテンダントが(まき)にコーヒーを差し出している声を聞きながら、“時”を待つ。

千暁(ちあき)、ちょっと前ゴメンね。」

「ん?」

 不意に青子(あおこ)千暁(ちあき)の前を横切る。

「ちょっとトイレに行って来るね。」

「トイレなら前と後ろにあるみたいだけど…。」

 そんな話をしている間に、前のトイレへ入っていた成沢(なるさわ)と入れ替わりで(ばん)が入っていった為、必然的に青子(あおこ)は後ろのトイレへと向かった。

 ちょうどその様子を(まき)が見ており、トイレが塞がっている事を知ってむっとした顔で前へと向き直った。

(女優の割に顔に出過ぎ……。)

 内心苦笑しつつ、ゆったりと席に座り直す。

 数分して青子(あおこ)が戻ってきたのとほぼ同時に、前のトイレから成沢(なるさわ)が戻ってきた。それを見た(まき)がすぐに席を立つ。

 トイレに入った(まき)だったが、1分と経たないうちにすぐに出てきて自分の席へと戻った。

「ちょっと、真佐代(まさよ)さん。チョコレート…!」

 酒井がそれを見て隣の矢口を促す。

 直後、千暁(ちあき)たちの横をトレイにコーヒーとお菓子を2人分載せたキャビンアテンダントが通り過ぎる。そのままコックピットへと向かうキャビンアテンダントの後をつけるように(まき)が立ち上がり、コックピットへと続くカーテンを(くぐ)る。

「あれ?」

「ん?どうしたんだい?コナンくん。

(まき)さんがコックピットに入っちゃったんだ。」

「え?」

 コナンの言葉に、世良が立ち上がって前を見やる。コナンはその間に席を立ち、カーテンの隙間からコックピットを覗き込んでいた。

(まき)さんは元スカイ・ジャパンのキャビンアテンダントだからね。機長さんが知ってる人とかで挨拶(あいさつ)にでも行ったんじゃないかな。」

「へぇ、あの人、元CAだったんだ…。」

 千暁(ちあき)の解説に世良が納得した様子で腰を下ろす。

 その後、コナンが戻って来た直後に(まき)が戻って来た。

 それを見た矢口が立ち上がり、先程酒井に促されていたチョコレートの箱を差し出す。

(まき)さん。はい、チョコレート。」

「ありがとう。」

 箱の中の数種類のチョコレートの中から、1つを選び(まき)が口にする。

「毛利さんもいかがですか?」

「ああ、いただきます!」

 矢口が小五郎にもチョコレートを勧めている間に、(まき)は手に付いたココアパウダーを丁寧に()め取った。

 その途端、(まき)が苦しみ出す――――――――、事は無かった。

 映画では、(まき)はチョコレートを口にした直後に死ぬ運命にあったが、それを承知している千暁(ちあき)がそのままむざむざと死なせる(はず)も無い。

 予告状を出した直後、千暁(ちあき)は映画で(まき)を殺した張本人‐酒井なつきに会いに行ったのだ。もちろん、“怪盗キッド”として…。

 元々の酒井の殺意の発端(ほったん)となったのは、(まき)が酒井のハリウッドでメイクアップアーティストとして活躍する、という夢のきっかけを裏から手を回して潰した事にある。

 だからその証拠と、これまでに(まき)の横暴さの被害に()ってきた者たちの“声”をデータとして纏め、酒井に差し出したのだ。

 “手を汚すのではなく、世間に公表して味方を作る方が建設的ですよ。”

 “あなた程の腕を持つ“アーティスト”が、堕ちる必要はありません。”

 “あなたと同じような被害に()った方たちの為にも、立ち上がってください。”

 その言葉は、思い留まらせるだけの方便ではなく、千暁(ちあき)の本心からの言葉だった。

 それが伝わったのか、酒井は思い留まった。

 “そうね。あんな奴の為に一生を棒に振る事は無いんだわ。”

 そう言って笑った酒井は、まるで()き物が落ちたように晴れやかだった。

 その笑顔を見て、千暁(ちあき)もまた安堵したのだ。

 これでこの人は大丈夫だ、と――――――――。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 だから、千暁(ちあき)が待っていた“時”は、(まき)の死では無くチョコレートを食べるタイミング。

 矢口が差し出したチョコレートは、搭乗(とうじょう)前に千暁(ちあき)がスリ換えた物。

 全てに睡眠薬が仕込んである。

 効力は口にしてから2~3分後。持続性はさほど無く、30分程度で目覚めるように調整してあるが、その代わりに服薬してから5~20分前後は眠りが深くちょっとやそっとの事では目覚めない。

 (まき)同様にチョコレートを口にした小五郎が先程からビールを飲んでいるのは嬉しい誤算だった。これで小五郎まで眠ったとしても、真っ先に挙げられるのはアルコールによる影響である。

 アルコールを摂取している状態での睡眠薬の服薬は(いささ)か心配ではあるが、小五郎は“好敵手(ライバル)”によって日常的に麻酔を打たれているから、ある程度の耐性が出来ているので大丈夫だろう。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 そして、それからきっかり10分後。席を立ち、前のトイレへと進んだ。

 小五郎は腕を組んで大イビキをかき、(まき)は左肘を付けてもたれかかるような体勢を取り、右手は無造作にひじ掛けに置いている。

 その横を通り過ぎる一瞬の間に、右手の薬指から“運命の宝石”を抜き取り、代わりに精巧に作った偽物とスリ換えた。

 流石(さすが)に起きている状態でのスリ換えは本人に気付かれてしまうだろうが、熟睡している状態ならば問題は無い。

 まして、スリ換えた指輪は寺井(じい)が精巧に作り上げた、渾身の偽物(レプリカ)である。

 光りに(かざ)して注視すればキッドマークが浮き上がるようになっているものの、素人(しろうと)目には全く分からない。

 スリ換えるシーンも、時間にして1秒足らず。

 ずっと(まき)にか近付く者を警戒しているコナンや世良も、あの位置からでは千暁(ちあき)の体が邪魔でスリ換えるシーンそのものを見る事は出来なかった(はず)

(良し…。)

 スリ盗った“運命の宝石”を隠し、トイレを出る。

(後は乗り切るだけ…。)

 内心でほくそ笑みながらも、何食わぬ顔でそのまま席に戻った。

 これで後は無事に函館に着くのを待つだけ、と一息()いた時だった。

 後方からキャビンアテンダントの進藤の困惑した声が聞こえてきたのは。

「お客様、こちらはスーパーシートになりますのでチケットをお持ちでない方の出入りは……。きゃあっ!!!」

「「「!?」」」

 突然上がった悲鳴に、コナンと世良、そして千暁(ちあき)が全く同じタイミングで振り返った。

「おっと!動くなよ…。下手に動くとコイツの(のど)に穴が開くぜ……!」

 進藤を後ろから拘束し、その(もど)元にアイスピックのような物を突き付けた男が、声を張り上げる。

「余計な真似をするなよ…。コイツを殺したくなきゃな…。」

「な?!」

 コナンの息を呑む声に、千暁(ちあき)もまた事態を把握した。

(ハイジャック………?!)

 

 

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