成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。
“銀翼の奇術師編”完結です。
ちょっと自分の中での消化不良感が否めないので、後々手直しするかも。…。

誤字報告、お気に入り登録、評価どうもありがとうございます。


“貸し”の清算

「きゃあああああ!」

「なっ?!」

 千暁(ちあき)たちから数秒遅れて、他の人間も事態に気付き、園子が悲鳴を上げた。

「うるせェ!!!静かにしてろ!」

 怒鳴り付ける男に、スーパーシートに座る者たちの緊張が一気に高まる。

 蘭と世良、そしてコナンが男の隙を窺っているのが分かるが、その立ち振る舞いには一切の隙が無い。

 その間、千暁(ちあき)は予想外の事態に焦りながらも、事態を察すると同時に、周囲の気配を探っていた。

 これが犯罪組織による計画的なものであるならば、近くに仲間がいる(はず)だが…。

(たぶん、単独犯……。)

 周囲にいるのは一般人ばかりで、乱入してきた男の他に殺気立った気配などは感じない。

 男の身長はおよそ180cm前後。一見するとビジネスマンにも見えるかっちりとしたスーツ姿だが、ジャケットの上からでも鍛えられた体付きが分かる。

 年齢は恐らく30代前半。

 やや目付きが悪いものの、これと言って特徴の無い、集団に溶け込みやすい風貌をしている。

 しかし、ハイジャック犯の男が纏っている空気は、間違い無く裏社会の人間の()()だった。良く見れば、アイスピックのように見えるのは万年筆に擬態させた暗器である。

(スネイクの手下……?!でも、それにしては…。)

 一瞬、“怪盗キッド”を狙う“組織”の差し金かとも思ったが、ハイジャック犯の目を見て、嫌な予感が込み上げる。

 どこか(よど)んでいるのに、異様にギラギラとした光を宿している目…。

 自棄(やけ)になった人間の目だった。

(まさか………。)

 厄介な事に、手にしている暗器の他に、手荷物検査をどう誤魔化(ごまか)したのかは知らないが、拳銃を所持しているようで、足首に特徴的な膨らみが見られた。

 また、堂々と顔を(さら)しているという事は、捕まる事を恐れていない証。または()()()()()()()()()()()と考えているか、あるいは…。

「動くんじゃねェぞ?!この女を殺したくなかったら、黙って座ってやがれ!!」

 蘭と世良、コナンが男の隙を窺っているのが分かるが、キャビンアテンダントの進藤の(のど)元に突き付けられた暗器を気にして行動に移せないでいる。

 千暁(ちあき)もまた、不安がって(すが)り付いてくる青子(あおこ)の手を握ってやりながら、男の出方を伺っていた。

「良――――し。そのまま大人しくしてろよ…?」

 そのままコックピットの方へと進藤を拘束したまま歩いていく。

「開けろ。」

「で、出来ません!」

「開けろって言ってんだよ!」

「出来ません!っ痛……!!」

 (のど)元に暗器を突き付けられながらも、進藤は気丈(きじょう)にコックピットへのドアの開錠を求める男の要求を()ね付けた。それに腹を立てたハイジャック犯の男が、更に暗器を(のど)元に近付け、暗器の先端が進藤の首をわずかにだが傷付けた。

「ら、乱暴は()せ………!」

「うるせェって言ってんだよ!黙ってろ!!」

 その様子に、成沢(なるさわ)が声を張り上げるが、逆上しかかっているハイジャック犯には逆効果でしかなかった。

「開けろ…!殺されてェか………?!」

 その、尋常(じんじょう)でない男の様子に千暁(ちあき)は腹を(くく)った。

(仕方無い……。)

 このままでは死人が出る。

 “怪盗キッド”のステージを血で汚すなど、この自分のプライドが許さない。

 コックピットへ続くドアのしっかりと閉じられている事を確認し、千暁(ちあき)は立ち上がって愛用のトランプ銃を撃った。

 ポンッ……!

 カッ!

 男の顔スレスレにトランプが突き刺さった瞬間、

 プシュウゥゥゥ――――――――ッ!!!

 トランプに仕込まれた催眠ガスが噴き出す。

「な?!吸っちゃダメだ!鼻と口を押えて!!」

「!!?」

 咄嗟(とっさ)に叫んだコナンの忠告に間に合ったのは、隣に座っていた世良1人。

 ガスは瞬く間に2階のスーパーシート周辺に広がった。

 ズル…、ドサッ…!

 ハイジャック犯の男は、進藤を拘束したまま意識を飛ばし、床に崩れ落ちた。

 そして、それは他の乗客たちも同じ事。

 いち早くガスの発生に気付いたコナンと、その忠告に即座に従う事が出来た世良を除き、スーパーシートに座っていた全ての乗客たちが眠りに付いた。

 ほぼ同時に、スーパーシート周辺に充満していたガスが空調によって散っていく。

「《全く…。余計な邪魔が入ったものですね……。》」

 “瀬戸瑞貴”の声で独り()ちながら通路へと足を踏み出した千暁(ちあき)の頭上を、世良の回し蹴りが通過する。

「《やれやれ…。少々お転婆が過ぎるのでは?》」

「チッ……!」

 世良が攻撃の体勢に入った一瞬を見抜き、即座に屈んで(かわ)し、尚且つ側転とバク転を繰り返して瞬時に機体の後方へと下がって見せた千暁(ちあき)に、世良が舌打った。

「避けるな!」

「《無理を(おっしゃ)る…。そんな蹴りを受けたら無事では済まないでしょう?》」

 間髪入れずに第2撃に移ろうとする世良に警告する。

「《それ以上、近付かれない方がよろしいかと…。》」

「?!世良の姉ちゃん、危ない!下がって!!」

「!?」

 世良よりも低い目線であるが(ゆえ)に気付いたコナンが、世良を制止する。

「コナンくん…?どうして止めるんだい?!」

「良く見て!このまま突っ込んだら怪我するよ…!」

「?これは、ピアノ線……?!」

 コナンの言葉に、自身が今まさに突っ切ろうとしていた箇所を見直した世良が目を見開く。

 先程世良の蹴りを避け、後方に退避した際に、座席を利用する事で通路に張り巡らせたワイヤートラップである。丸いボタンが2つ重なったような形状のケースに収納させてあり、ボタン状の(ふた)を左右に引っ張ると巻き取られていたワイヤーが姿を現す仕掛けになっている。

 それを通路を横断させるように左右の座席にそれぞれ貼り付けたのだ。

「《ご安心を……。ピアノ線よりも太くしてありますから、切れる事はありませんよ…。ただ、少々(しび)れていただこうとしただけです……。》」

 このワイヤー、肌を傷付けるような事が無いように通常のピアノ線よりもやや太くしてある。そして、最大の仕掛けはワイヤーに触れる事で大人が動けなくなる程度の電流が流れる、スタンガン形式の一種のブービートラップだ。

「今の一瞬で良くこれだけの罠を張ったな……。」

 驚愕を通り越して半ば呆れた顔の世良が溜息を()く。

千暁(ちあき)姉ちゃんはどうした?」

 世良の目を気にしてか、わざわざ“姉ちゃん”呼びのコナンがギリギリと(にら)み付けながら問う。

「《もちろん、ご無事ですとも。ただ、悪天候の為に飛行機が2時間遅れる、と偽装メールを送らせていただいただけですから……。》」

「なら良いけどよ…。」

「それより、ここは高度1万フィートの密室…。どうやってここから逃げ出すつもりだい?」

 世良の言葉に、千暁(ちあき)はにっこりと笑みを返した。

「《そろそろ“貸し”を返していただこうかと…。》」

「“貸し”?」

「げ…。」

 心当たりは全くありません、といった様子の世良とは対照的に思い当たったコナンが(うめ)いた。

「《そこの小さな“名探偵”と、先日お約束したのですよ…。彼に協力する代わりに、1度は私の仕事を邪魔しない、とね…。》」

「そうなのかい?コナンくん。」

「うん…。この前のベルツリー急行でちょっと助けてもらって…。」

「あの時か!偽のメールでボクを騙した時!!……でも、助けてもらったって一体何をしたんだい?」

「ちょっとね……。」

 言葉を濁すコナンにちょっと首を傾げた世良だったが、「でも、ボクには関係無いけど?」と続ける。

「むしろ、この前の“借り”を返すにはちょうど良い機会だね…!」

 自身の顔と名前を勝手に使われた事に腹を立てていたらしい世良が好戦的に笑うが、千暁(ちあき)が肩を(すく)めて言い放った言葉にコナンと共に(きびす)を返した。

「《そうそう…。言い忘れていたのですが、このガスの効果は約5分程…。早くその男を拘束しないと、そろそろ目を覚ましてしまいますよ?》」

「「それを早く言え!!」」

 慌てて2人がかりでハイジャック犯を拘束しにかかるコナンと世良を尻目に、千暁(ちあき)は中央の非常ドアを開く。

 ボンッ!!

 ゴオォォオ……!!!

 激しい音を立てて非常ドアが吹っ飛び、機内に風が吹き荒れる。それと同時に、着ていたサマーセーターとジーンズを脱ぎ捨てた。

「キッド?!」

「何を?!」

 吹き荒れる風に、ハイジャック犯を拘束していたコナンと世良がハッと顔を上げ、“怪盗キッド”の衣装を纏った事に驚愕する。

「《それではまたいずれ…。月下の淡い光の(もと)でお会いしましょう……!》」

 言うや否や飛行機の外、高度1万フィートを超える上空へと身を躍らせる。

 ゴ、オォォオオオォオオオ…………!!!!

 そのまま自然落下に身を任せる事数十秒、眼下に北海道の街の灯りが見えたのを確認してハンググライダーを開く。

「取り()えず、適当な場所で降りて寺井(じい)ちゃんに連絡しなきゃ……。」

 流石(さすが)にこんな形でのエスケープは予想外だった。

 まぁ、“運命の宝石”自体は手に入れた後だったのが幸いだった。元より偽物とは分かっているが、“怪盗キッド”が1度盗むと宣言したものを盗めないのは沽券(こけん)に関わる。

 いつも通り中森警部に送り返す時に、ついでに“偽物”を“本物”と偽って公表した事についてマスコミにリークすれば良いだろう。酒井の告発の後押しくらいにはなるだろうから…。

 北海道の上空を滑空しながら、千暁(ちあき)は今後の算段を付けた。

 

 

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