成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。IFバージョン更新です。
そして次回に続きます。

今回は、前回チラッと存在だけ匂わせていた“友人”のご登場。
IFなのでなんでもあり、という方だけお進みください。
一応、次回で経緯については説明する予定です。
今回主人公あんまり出ていない上に、安室さんの登場も中途半端ですが、導入部分なのでご了承ください(汗)。

お気に入り登録、評価ありがとうございます。
そして7月18日付けのランキング2位ありがとうございました。1桁台初めてだったので、思わず興奮しました(笑)。
誤字報告もどうもありがとうございます。


IF Story 3

 ピンポーン…!

 夜の(とばり)が落ち、家々が暖かな光を灯す頃、とある住宅街に建つ(やしき)にチャイムの音が響いた。

 (やしき)内でテレビを観ながら(くつろ)いでいた男‐“沖矢(おきや)(すばる)”は、チャイムの音に立ち上がり、インターフォンを手に取る。

「はい…。」

『宅配便です!』

 宅配便との返答に玄関を開けた沖矢(おきや)だったが、そこに立っていた男に一瞬動きを止めた。

「こんばんは…。初めまして、安室(あむろ)(とおる)です…。」

「はぁ…。」

 宅配便業者とは思えない男‐安室(あむろ)挨拶(あいさつ)に、沖矢(おきや)が困惑した様子を見せるが、安室(あむろ)は構わず続けた。

「少し話をしたいんですが…、中に入っても構いませんか?」

「ええ…。あなた1人なら。申し訳ありませんが、外で待たれてるお連れの方たちはご遠慮願います。お出しするティーカップの数が、足りそうにないので…。」

 一旦は安室(あむろ)の言葉に了承した沖矢(おきや)だったが、安室(あむろ)の後方、門柱(もんちゅう)付近の気配(けはい)(くぎ)を刺した。

「気にしないでください。彼らは外で待つのが好きなので…。でも、あなたの返答や行動次第で全員お邪魔する羽目(はめ)になるかもしれませんけどね…。」

 しかし、安室(あむろ)は不敵な笑みで返す。

 ―――――――――そして、通されたリビングで安室(あむろ)は切り出した。「ミステリーはお好きですか?」と…。

「ええ、まあ…。」

 紅茶を出しながら頷く沖矢(おきや)に、安室(あむろ)が続ける。

「では、まずその話から…。まあ、単純な死体スリ替えトリックですけどね…。」

「ホォ―――――――…。ミステリーの定番ですね…。」

 沖矢(おきや)が対面に座るのを待ち、本題に入る。

「ある男が来葉(らいは)(とうげ)で頭を拳銃で撃たれ、その男の車ごと焼かれたんですが…。辛うじて焼け残ったその男の右手から採取された指紋が、生前その男が手に取ったというある少年の携帯電話に付着していた指紋と一致し、死んだのはその男と照明されたんです…。でも、(みょう)なんです。」

(みょう)とは?」

 安室(あむろ)の意味深な言葉に、沖矢(おきや)が尋ねる。マスク越しではあるが、その表情に変化はほとんど無い。

「その携帯に残っていた指紋ですよ…。その男はレフティ…、左利きなのに…、何故(なぜ)か携帯に付着していたのは右手の指紋だった…。変だと思いませんか?」

 表情こそ柔らかいままの安室(あむろ)だが、どこか詰問(きつもん)しているかのような雰囲気を徐々に強くしていった。

「携帯を取った時、偶然利き手が何かで塞がっていたからなんじゃ…。」

「…もしくは右手で取らざるを得なかったか…。」

「ほう、何故(なぜ)?」

 表面上は穏やかなやり取りの2人だったが、もし気配(けはい)に敏感な者がいれば気付いただろう。2人から発せられる()()が、一呼吸ごとにわずかずつ高まっていった事に。

「その携帯はね…。その男が手に取る前に別の男が拾っていて、その拾った男が右利きだったからですよ…。」

「別の男?」

「ええ…。実際には3人の男にその携帯を拾わせようとしていたようですけどね。さて、ここでクエッション…。最初に拾わせようとしたのは脂性(あぶらしょう)の太った男。次は首にギプスを付けた()せた男。そして最後にペースメーカーを()め込まれた老人。この3人の中で指紋が残っていたのは1人だけ…。誰だと思います?」

「………。2番目の()せた男ですね?何故(なぜ)なら最初の太った男が拾った時に付着した指紋は綺麗(きれい)()き取られてしまったから…。(あぶら)まみれの携帯を後の2人に拾わせるのは気が引けるでしょうしね…。3番目の老人は、携帯の電波でペースメーカーが不具合を起こすのを危惧(きぐ)して拾いすらしなかったってところでしょうか?」

「ええ…。」

 わずかな沈黙の後で見事に正解を導き出してみせた沖矢(おきや)に、安室(あむろ)が頷く。

「でも、()せた男の後にその問題の殺された男もその携帯を手にしたんですよね?だったらその男の指紋も…。」

「付かない工夫(くふう)をしていたとしたら?」

 沖矢(おきや)の疑問を(さえぎ)り、安室(あむろ)が続けた。

「恐らくその男はこうなる事を見越し…、あらかじめ指先にコーティングを(ほどこ)していたんでしょう…。接着剤やトップコート、乾けば透明になって一見して目立たないような物を使ってね……。」

「成程…。なかなか興味深いミステリーですが…。その撃たれたフリをした男、その後どうやってその場から立ち去ったんですか?」

「その男を撃った女とグルだったんでしょうから、恐らくその女の車にこっそり乗り込んで逃げたんでしょうね…。離れた場所でその様子を見ていた…、監視役の男の目を盗んでね…。」

「監視役がいたんですか…。」

「ええ…。監視役の男はまんまと(だま)されたって訳ですよ…。何しろ、撃たれた男は頭から血を()いて倒れたんですから…。」

 滔々(とうとう)と自身の推理を披露しながらも、安室(あむろ)の目は油断無く目の前に座る男を観察していた。その喉笛(のどぶえ)()み切らんと、虎視眈々(こしたんたん)と狩りの機会を(うかが)う獣のような眼差しで……。

 

 ――――――そして、(さかのぼ)る事数分前。工藤(てい)で2人の男が対峙(たいじ)を始めた頃、隣の阿笠(あがさ)(てい)を訪ねる2人の人影があった。

 ピーンポーン、ピーンポーン……!

「はいはい…!誰かな?」

 ドタドタと玄関に走り、ドアを開けたのはこの家の主たる阿笠(あがさ)博士(ひろし)

「夜分すみません。」

「君は……?」

 立っていたのは2人の女性。うち1人は、目深(まぶか)に被ったキャップと眼鏡で顔が良く分からないが、もう1人にはどこか見覚えがあった。

「お久しぶりです、阿笠(あがさ)博士(はかせ)。黒羽千暁(ちあき)です。昔、新一と一緒に良く遊んでもらったんですけど、覚えていらっしゃいますか?」

「お、おお…!千暁(ちあき)君か!!覚えとるぞ、いやぁ久しぶりじゃのう…!!!」

「良かった、覚えててもらって……!」

 千暁(ちあき)の名乗りに、昔の面影と成長した現在の姿が合致(がっち)し、阿笠(あがさ)が懐かしそうに笑う。

 千暁(ちあき)もまた、ニコニコと微笑んでいた。

「それでまた、今日は一体どうしたんじゃ?」

「突然ごめんなさい。でも、どうしても新一には内緒でお話したい事があって……。」

「ん?」

 悪戯(いたずら)っぽく、人差し指を口に当てて“しー♡”のポーズを取る千暁(ちあき)に首を傾げた阿笠(あがさ)だったが、「まぁ、こんな所で何じゃし。上がりなさい。」と2人を中へと(うなが)した。

「おーい、(あい)君。すまんがお客さんじゃ、お茶を()れてくれんか?」

「はいはい…。」

 リビングのソファでファッション誌を(なが)めていた(あい)だったが、阿笠(あがさ)の言葉にやれやれ、と立ち上がる。

「あ、お構いなく…。それよりも、彼女‐志保(しほ)さんにも同席していただきたいので…。」

「「?!」」

 立ち上がった(あい)を制止した千暁(ちあき)の言葉に、阿笠(あがさ)(あい)がバッと彼女を振り返った。

「ち、千暁(ちあき)君…?!急に何を言い出すんじゃ…?」

「あなた…。一体何者なの?!」

 笑って誤魔化(ごまか)そうとする阿笠(あがさ)に対し、詰問(きつもん)する(あい)に応えたのは、千暁(ちあき)ではなかった。

志保(しほ)…?」

「え…?」

 それまで、千暁(ちあき)の後ろに立ったまま黙っていたもう1人の女性が、不意に(あい)の本名を呼んだ。

志保(しほ)なのね……?」

「そ、の声…!嘘でしょ…?まさか………?!」

 そして、誰よりもその声に反応したのは(あい)‐否、宮野志保(しほ)

 志保(しほ)の反応に、その本名を呼んだ女性が自身の被ったキャップと、かけていた眼鏡をもどかし気に外す。

 現れたのは、短いが良く手入れされた艶やかな黒髪に、やや垂れ目がちな黒い瞳。普段、優し気でありながら強い光を宿すその瞳は、涙で(うる)んでいた。

「お、お姉ちゃん……?本当に、お姉ちゃんなの………?!」

 驚愕と期待、そしてもし違っていたらという不安で動けない志保(しほ)に、千暁(ちあき)が口を開いた。

「本人ですよ。正真正銘、あなたのお姉さん‐宮野明美さんです。……()わせるのが遅くなってごめんなさい。“黒の組織”が“シェリー”の捕縛を諦めていない以上、接触させるのは危険だったから……。」

 目を伏せられて告げられた言葉に、まだ大部分で理解が追い付かないながらも志保(しほ)は理解した。

 目の前にいるのは、正真正銘自身の姉であると。

 1度は(うしな)ったかと思っていた、唯一の家族が目の前にいるのだと。

「お姉ちゃんっ………!!!」

 理解したと同時に、志保(しほ)の目から涙が溢れ、視界が歪んだ。

 しかし、(なつ)かしい姉目がけ、勢い良く飛び付く。

志保(しほ)っ…………!!!

 飛び込んできた志保(しほ)を、屈んでしっかりと抱き留めた姉からは、(なつ)かしい姉の匂いがした。それを感じた途端、ますます涙が溢れ、姉の服にシミを作っていく。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん……!()いたかったっ………!!!」

「ゴメンね、志保(しほ)…!辛い目にばっかり()わせて…、ゴメンねっ……………!!!」

 (ようや)く再会の叶った最愛の妹を固く抱き締めながら、明美もまた涙を(こぼ)した。

 状況の全く理解出来ない阿笠(あがさ)も、目の前の光景にもらい泣く。

 千暁(ちあき)もまた、思わず目頭が熱くなるのを感じながら、今頃起こっているだろう隣家での“化かし合い”と来葉(らいは)峠での“大捕り物”に思いを()せた。

 これで、自分(千暁)が出来る役回りはほとんど終わった。後は任せるだけである。

(降谷さん、後はお願いしますよ…?)

 ここが、あのいけ好かない(くま)男に一泡吹かせられるかの正念場(しょうねんば)だった。

 

 

 


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