成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。第3話更新です。
長くなりそうだったので今回は分けました。

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鉄狸編
“鉄狸”


 ブー、ブー、ブー、ブー

 朝食として(かじ)っていたトーストをカフェオレで流し込み、スマホを手に取る。

寺井(じい)ちゃん?こんな朝に……?」

 現在の時刻は7:10。早朝、という訳では無いもののこんな時間にメールでもLineでも無く電話を寄越すなんて、今までに無かった事である。平日のこの時間帯は登校前で何かとバタバタしている頃なので、普段の寺井(じい)であればメールにするのが常だった。これはかなりの急用か、と画面をタップし、耳に当てる。

「どうしたの?寺井(じい)ちゃん。何か急用?」

千暁(ちあき)お嬢様!ニュースをご覧になりましたか?!』

「ニュース?」

 泡を食ったような寺井(じい)の声に、キッチンからリビングへと移動してTVのリモコンを手に取った。

「何チャンネル?」

『どこでも構いません!早くニュースをご覧ください!!』

 説明する間も惜しい、とでも言った様子に取り()えず逆らわずにTVを付ける。

 《今回、怪盗キッドが狙うのは()の幕末の天才絡繰(からく)り師・三水(さみず)吉右衛門(きちえもん)の最期の作品、難航不落(なんこうふらく)の大金庫、通称“鉄狸(てつたぬき)”です。所有者の鈴木次郎吉氏は、これまでにも自身の所有する宝石を使って怪盗キッドに挑戦状を提示してきましたが、今回は怪盗キッド自ら鈴木次郎吉氏に予告状を送り付けました。鈴木次郎吉氏は、これまでに名立たる盗賊たちを全て返り討ちにしてきた“鉄狸(てつたぬき)”を開けられるかどうかが楽しみ、とコメントしており………》

「………何コレ?」

 ニュースキャスターが朗々(ろうろう)と読み上げる全く身に覚えの無いニュースに、思わず通話中の寺井(じい)に問いかけた。

『や、やはりお(じょう)様ではないのですね?!』

「予告状出すなら一言相談してるよ。流石(さすが)に。」

 一体どこの偽者の仕業(しわざ)だ、と思わず眉を(ひそ)めた千暁(ちあき)だったが、ニュースに映し出された“怪盗キッド”からの予告状に、(ひらめ)くものを感じた。

「あ。」

『お嬢様?何か心当たりでも…?』

「あぁ、ううん…。取り()えず鈴木(てい)に行って調べて来るよ。何かの罠かもしれないし、1人で行って来るから寺井(じい)ちゃんは連絡だけすぐに取れるようにしといてくれる?」

『お(じょう)様お1人では危のうございます!やはりこの寺井(じい)めもご一緒に……!!』

「2人の方が逆に目立つってば。大丈夫、何かあったらすぐに逃げるから…。」

『しかし…!』

「大丈夫だってば。じゃ、後で連絡するね。」

 食い下がる寺井(じい)(なだ)め、通話を切る。

 そして、再度ニュースに目をやった。

「……これ、アレだ。犬が閉じ込められたヤツ………。」

 あの縦書きの(にせ)の予告状には見覚えがある。誤って“鉄狸(てつたぬき)”に愛犬‐ルパンを閉じ込めてしまった鈴木相談役が、自分(怪盗キッド)を呼び出す為にマスコミに公表した自作自演。

「仕方ないから一肌(ひとはだ)脱ぎますか……。()の怪盗紳士の名を冠する名犬を(ほう)っておくのも(しの)びないしね…。」

 まぁ、万が一“原作”とズレが生じていた時の事を考え、(わな)の可能性も視野に入れなくてはいけないが、その為にも鈴木邸に潜入せねばなるまい。

「さて、と…。メイドか使用人か……。それが問題かな。」

 メイドの方が立ち回りしやすいが、毎回変装姿が女というのも“名探偵”に何か(かん)付かれそうで怖い。それに、たまには男に変装した方が“怪盗キッド”=男と印象付け易いだろう。

「……今回は男で良いか。」

 

 ―――――――2日後。

 千暁(ちあき)は執事見習いとして鈴木邸の面接を受け、無事に採用される事に成功した。

(案外簡単に潜入出来たな…。)

 やはり“手を貸してくれ”のメッセージ通り、自分(怪盗キッド)の手を借りたかったのは本心だったのだろう。メイドたちの話ではここ数日、鈴木相談役は夕食を自室で済ませているらしいし、下げた食器からは皿が2枚消えている、と聞いている。

 そして、相談役の愛犬‐ルパンは使用人たちも知らない間に“入院中”。

 “原作”通り、不運にも“鉄狸(てつたぬき)”に飲み込まれてしまったのだろう。

 出来る事ならさっさと金庫を開けて出してやりたいが、鈴木相談役が用意した(にせ)の予告状に書かれていた“月が闇に呑まれる中”の一文のせいで、“怪盗キッド”が動くのは明日の新月の夜だと予測している者が多い。いや、より正確に言えば予告状そのものは偽物かもしれないが、それによって“本物の怪盗キッド”が来ると期待している者が多いのだ。

 例え偽物であろうと、1度“怪盗キッド”の名を(かん)した以上、それを(くつがえ)す事は自分(怪盗キッド)の美学に反する。

 幸い、“鉄狸(てつたぬき)”には空気穴になる隙間(すきま)が存在し、新鮮な水と(えさ)を差し入れる事が可能となっているのだから、後1日我慢してもらうとしよう。

 本番は明日の夜。

(まぁ、どーせ“名探偵”も来るんだろーけど……。)

 折角本番一発勝負の脱出劇の成功で、()()()()で邪魔をしない、という確約を得たというのに。長期連載作品の弊害(へいがい)か、時間帯がごっちゃになっていて読み辛い。

(てっきり、()は“赤面の人魚(ブラツシユマーメイド)”かと思ってたのに………。)

 まぁ、良い。今回は“人助け”。邪魔をされる(いわ)れは無いのだから。

 

 ――――――――――翌日、夕刻。

「お待ちしておりました。園子お嬢様。それから毛利小五郎様と毛利蘭様、そして江戸川コナン様でございますね?」

 案の(じょう)、連れ立ってやってきた好敵手(ライバル)千暁(ちあき)は何食わぬ顔で出迎えた。

 執事(しつじ)見習いに(ふん)した千暁(ちあき)を、園子はうっとりとした顔で見ていた。

「あの…、あなたは?見ない顔だけど……。」

「ちょ、ちょっと園子……。」

 (ほお)を赤らめながら尋ねる園子を、蘭が小声で「京極さんは良いの?!」と(たしな)める。

 それを微笑ましそうな顔で眺めるふりをしながら、「申し遅れました。」と礼儀正しく一礼した。

(わたくし)、先日から執事見習いとして参りました、瀬戸(せと)瑞貴(みずき)と申します。本日は旦那(だんな)様から皆さまをおもてなしするように(おお)せ付かりました。何なりとお申し付けくださいませ。」

 “瀬戸(せと)瑞貴(みずき)”。今回、潜入するにあたって千暁(ちあき)が作り出したキャラクターである。字と性別こそ違えど、“原作”において“黒羽快斗(かいと)”が成りすましたメイドをオマージュし作り上げた。

 当然、容姿もそれに準ずるようにイメージしてある。

 やや()れ目に明るい茶髪、物腰は柔らかく常に柔和(にゅうわ)な笑みを絶やさない。

 ………作り上げてから気付いたが、肌の色が異なるだけでイメージが先日対峙したバーボンと被る。

(別に意識した訳じゃないんだけど…。)

 まぁ、顔立ちそのものを似せた訳では無いし、執事(しつじ)という職業そのものから見れば物腰(やわ)らかで柔和(にゅうわ)な笑み、というのも良くある特徴と言える。

 こういうのは如何(いか)に堂々と成り切るか、というのが肝心なのだから。どの道、あと数時間で()()()キャラクターなのだから、割り切って楽しんでしまおう。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「それでは、旦那(だんな)様の所へご案内いたします。どうぞこちらへ。」

 鈴木相談役の(もと)へとれ彼らを(いざな)うべく、邸の中へと促しながら(きびす)を返す。

 好敵手(ライバル)が今回の一件の真相に辿(たど)り着くのはいつだろうか、とその柔和(にゅうわ)な“仮面”の下で挑戦的な笑みを隠して――――――――。

 




瀬戸(せと)瑞貴(みずき)
“原作”で“黒羽快斗(かいと)”が変装したドジっ子メイド“瀬戸(せと)瑞紀(みずき)”のオマージュ。外見はそのまま男装させただけの為、垂れ目に明るい色の髪、物腰柔らかで柔和な笑み、と総合的にトリプルフェイスとイメージが被ったが、別に千暁(ちあき)が意図していた訳では無い。
ただし、本家ドジっ子メイドとは異なり執事見習いとして申し分無い能力を発揮しており、潜入2日目にして“気の利く新人”“見どころがある”と評判は上々。
イメージCVは中〇悠一さん。
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