成り代わったのは白き罪人   作:ミカヅキ

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お待たせしました。“鉄狸”編完結です。
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ルパン

「良いか、者ども!!今日こそ奴を引っ捕えて、あの気障(きざ)(つら)()(づら)に変えてやるぞォォ!!!」

「「「「「「「オォ――――――――――ッ!!!!!!」」」」」」」

「フン!偽者相手に大騒ぎしおって…。」

 気合の入った中森警部率いる機動隊の(とき)の声に相談役が(どく)()く。

「本物だよ!確かに、最初の予告状は奴のマークもその文章もパチモン臭かったが…。恐らくあれはワシら警察をおちょくるただの洒落(しゃれ)…。金庫のある部屋にさっき置かれたこの予告状は…、(まぎ)れも無く奴の物だ!!これで偽者って言ってるあんたの方がおかしいだろ!?」

「まぁ、そうじゃとしても…。この大袈裟(おおげさ)な警備は不要じゃろう…。忘れたか?彼奴(きゃつ)(ねろ)うとるのは、あの伝説の絡繰(からく)り師‐三水(さみず)吉右衛門(きちえもん)(こしら)えた、難航不落(なんこうふらく)の大金庫…“鉄狸(てつたぬき)”の扉を開ける事じゃ!!()じ開けようとする不埒(ふらち)(やから)退治(たいじ)する仕掛けが無数に張り(めぐ)らされており、唯一開け方を知る(わし)でさえ、誤って命を落としそうになるぐらいの曲者(くせもの)…。開けられる訳がなかろう!!」

(よく言う……。)

 中森警部の手を引かせる為とは言え、仮にも助けを求めてきたとは思えない言い(ぐさ)に内心で呆れる。

「だが、相手はあの月下(げっか)の奇術師‐怪盗キッドだぞ?例えどんな金庫だろーが、奴にかかればあっという間に…。」

「万が一、彼奴(きゃつ)にその才があったとしても、近付けやせんよ…。見せたじゃろ?“鉄狸(てつたぬき)”が置かれたあの部屋の防犯装置を!!彼奴(きゃつ)が部屋に1歩足を踏み入れたが最後…、床に()め込んだ重量センサーが作動し、たちまち鉄柵(てつさく)に囲まれて袋の(ねずみ)じゃわい!!」

(助けるの止めようかな……。)

 思わずそんな考えが頭を(よぎ)る位には相談役の言い(ぐさ)にイラっとしたが、気付かれないように深呼吸を繰り返して心を落ち着かせた。

(落ち着け私…。)

「しかしねぇ、現にキッドはその部屋の中にこの予告状を置いているじゃないか!!奴は用意してんだよ!あの装置を()(くぐ)る方法を!!」

 この状況だと、中森警部からの(みょう)な信頼が何故(なぜ)(うれ)しい。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「―――――って事はさー…。怪盗キッドがその予告状を置いた時…、ボクたちの側にいたって事だよね?」

「え?」

 コナンの突然の指摘に中森警部が振り返った。

「だって…、最初にあの部屋の扉を開けた時には何も無かったのに、次に開けた時には予告状があったんでしょ?その間、ボクたちずっと部屋の近くにいたよ?」

「あの重量センサーって、スイッチ切ってる時に置かれた物にはスイッチ入れても反応しないんスか?」

 コナンの指摘を受けて小五郎が相談役に確認する。

「ああ…。スイッチを入れた時の状態から重さがかかれば反応する仕組みじゃからのォ…。」

「…となると、スイッチを切っている間に置いたって事か…。」

「そー言えばおじ様、あの時スイッチ切ってたよね?」

 考え込む小五郎の隣で記憶を辿(たど)った園子が同意した。

「そうそう、私たちに重量センサーの性能を見せる為に部屋の中に煙草を投げ入れた後…。」

「その煙草を回収する為にスイッチを切って…。」

 同じく数分前の出来事を思い出そうとする蘭に続き、園子が再び口を開く。

「「あ――――――っ!!あの使用人さん、部屋に入って拾ってた!!」」

 女子2人の叫びに、その場にいた全員にその場面がフラッシュバックされる。

「あの野郎がキッドだったか!煙草を拾うフリをして、まんまと予告状を置きやがったな!!」

「でも、置けるのはあの使用人さんだけじゃないと思うよ!」

 客観的に見て最も疑わしい秋津(あきつ)に疑いをかける中森警部を、コナンが制止した。

「ずっと次郎吉おじさんの側にいたそのボディーガードのおじさんも…、次郎吉おじさんが扉を閉める隙を見て入れられるし!同じくあの時次郎吉おじさんの後ろにいた、執事見習いの瀬戸(せと)さんもカードを投げ入れる事は出来たと思うし…。それに3人とも最近雇われたみたいだから…。」

「つまり、キッドが変装してここに乗り込んできた可能性が高いって事だな…。」

 コナンの言葉にを小五郎がまとめる。

「よーし、あの使用人をここへ連れて来い!!顔を思いっ切り引っ張って…、変装してるかどうか確かめてやる!!まずは、お前からだ!!!」

()っ……!!」

 言うや否や思いっ切り頬を引っ張ってくる中森警部に千暁(ちあき)(うめ)く。

(()()を完成させといて良かった…。)

 内心で安堵(あんど)の溜息を()きながら…。

「何をするか!!(わし)が雇うた者はその時点で最早(もはや)家族同然じゃ!!警察と言えど勝手な振る舞いは許さぬぞ!!」

 中森警部の手を振り(ほど)きながら相談役が声を張り上げる。

「あ、いや…。しかしねぇ……。」

「どうしてもと言うのなら、キッドだという証を(わし)に見せてからにせィ!!」

 相談役と中森警部のやり取りの中、中森警部の手から解放された“瀬戸(せと)”が痛そうに頬に手を当てるのを見て、「まぁ、コイツは違うみたいだな…。」と小五郎が呟く。

「やだ!大丈夫?瀬戸(せと)さん?!」

 園子が心配そうな声を上げるのに(こた)え、手を離しながら顔をそちらに向けた。

「え、えぇ…。少々驚きましたが大丈夫です。」

 にっこりと微笑んで見せる瀬戸(せと)の頬が、指の跡もそのままに赤く色付いているのを確認し、コナンもまた“瀬戸(せと)瑞貴(みずき)”を“怪盗キッド”候補から外した―――――――――。

(いつまでも()()()が通じるとは思わないで欲しいな……。)

 仕掛けは、マスクの下に仕込んだ特殊な接着剤。

 人体に影響が出ないように、かと言って粘着力が弱くなり過ぎないように調整を(ほどこ)したそれは、千暁(ちあき)がその知識と頭脳をフルに使い、寺井(じい)と共に苦心(くしん)しながら仕上げた特別性。

 専用の中和剤を使わないと、決して()がせないように調整してある。

 これまでは、顔を引っ張られればすぐに変装を見破られてしまっていたが、そのデメリットをいつまでも放置しておく程自分(怪盗キッド)は甘くない。

 確かに、すぐに変装を解く事が出来ない事は1つのデメリットになり得るが、“見破られない変装”というメリットに比べれば有って無きに等しい。1度()えて顔を引っ張らせれば、その後は疑いと警戒の目を自身から外す事も可能となるのだから。

 今後、すぐに()がせるマスクと併用(へいよう)すれば、より(あざむ)き易くなる。

 現に今、小五郎や園子たちはもちろん好敵手(ライバル)でさえ完全に(だま)されてくれているのだから。(もっと)も、痛む(ほお)を押さえたフリで付けたチークの効果もあるのだろうが。

 自分(怪盗キッド)のマジックの腕を持ってすれば、引っ張られた事で頬が()れたように瞬時にメイクする事など造作も無い事である。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「とにかく、(わし)はこれから部屋で食事を()る!あまり大騒ぎするでないぞ!」

「くっそー、顔を引っ張りゃすぐわかるのに…。」

 ボディーガードの後藤を(ともな)って自室へと戻る相談役を、中森警部が(くや)し気に見送った。その様子を見ながら、不意に園子が口を開く。

「なーんか変よね、おじ様…。」

「え?」

 不思議そうな顔をする蘭に、尚も園子が言い(つの)る。

「だって、いつもは「あのコソ泥に目にものを見せてくれようぞ!」ってギラギラしてるのに…。今回は、偽者だから放っておけとか…、証拠が無いから調べるなとか…。もしかしておじ様がキッド様だったりして!」

「まさかぁ…。」

 女子2人のやり取りに、コナンもまた釈然(しゃくぜん)としない顔で考え込む。

 その様子を何食わぬ顔で見詰め、客間へと促した。

「それでは皆様、客間へご案内(いた)します。」

 

 

「こちらでございます。只今お茶と、毛利様にはお煙草をご用意させていただきますので、どうぞお(くつろ)ぎになってお待ちくださいませ。」

 コナンや小五郎たちを客間に通し、一礼して一旦退室する。

(さて、このままだと精々(かせ)げて5分…。)

 それ以上は客を放っておくのは不自然。だが、そろそろ相談役は夕食の時間である。

(来た…!)

「幸村さん。」

瀬戸(せと)さん。どうしました?」

 カートに夕食を乗せ、相談役の元へと運ぼうとしていたメイドの幸村を呼び止める。

「実は、先程旦那(だんな)様に呼ばれたのですが、園子お嬢様方にお茶をお出ししなければならず…。そのお夕食は私がお届けしますので、代わりにお嬢様方にお茶をお出ししていただけませんか?」

旦那(だんな)様から?わざわざ瀬戸(せと)さんをお呼びになるなんて、どんなご用かしら?」

 やや恰幅(かっぷく)の良い幸村がふっくらとした顔を傾げるが、ここ2日の間に“気の()く新人”として相談役の覚えもめでたい姿を見せていた為、申し出自体を疑ってはいない様子である。

「さぁ、私も詳しい事は…。ただ「手を貸してくれ」と言われただけですので…。」

 心当たりは無い、という顔を見せればそれ以上の疑問は無いようだった。

「わかりました。園子お嬢様たちのところへは私が行きますから、旦那(だんな)様のお夕食はお願いしますね。」

 元より気紛(きまぐ)()つアグレッシブな相談役である。少々突然の指示もいつもの事、と幸村はあっさりと“瀬戸(せと)”の申し出を了承した。

「お願いします。それと、毛利様に新しいお煙草(たばこ)を…。銘柄(めいがら)はワイルドセブンです。」

「ええ。任せてください。それじゃあ、そちらもよろしくお願いしますね。」

 互いに一礼してそれぞれの目的地へと向かう。

「手を貸してくれ」と助けを求めてきたのは相談役である為、全てが全て嘘という訳でもない。

 今日の夕食を運ぶ係の幸村は、この邸の中では古株(ふるかぶ)で信頼が厚い。反面、やや大雑把(おおざっぱ)な性格の為、ある程度筋が通っていれば追及はしないと踏んでいた。

 読みが当たって(うれ)しい限りである。

 表情に出さないように努めながら相談役の自室へとカートを運んだ。扉の前に立つボディーガードの後藤に軽く会釈(えしゃく)し、ノックする。

 コンコンコンッ!

旦那(だんな)様。お夕食をお持ち(いた)しました。」

「うむ。入れ。」

「失礼(いた)します。」

 相談役の許可を待ち、入室する。

「ん?瀬戸(せと)君、何故(なぜ)(ぬし)が…?毛利探偵たちをもてなすように言った(はず)だが……。」

 “瀬戸(せと)”の姿を見た途端、相談役が怪訝(けげん)そうな顔を見せた。

「お呼びと伺いましたので、途中で幸村さんに代わっていただきました。」

「別に呼んではおらんぞ。」

 (なお)()に落ちない様子の相談役に、()()()()()()を告げる。

「いえ、確かに「手を貸してくれ」と…。」

 その言葉に、相談役も()()と気付いた。

 そして、開いたままのドアとその側に立つ後藤に目をやる。

「あ、ああ……。そうじゃったそうじゃった!!」

 取り(つくろ)うように笑顔を見せ、立ち上がって扉の前に立つ“瀬戸(せと)”を促す。

「詳しい事は食べながらでも良いかの?ささ、こっちに運んでくれ!」

(かしこ)まりました。」

 礼儀正しく一礼して見せ、ごく自然な動作で扉を閉め、カートを押しながら相談役へと歩み寄った。

 相談役が示したテーブルに夕食を並べながら、扉の外までは聞こえないように小声で(ささや)く。

随分(ずいぶん)と大胆なお誘いでしたので、もしや罠かと思いましたよ…。」

「!やはりお(ぬし)……!!」

「シッ!あの優秀なボディーガード殿に聞こえてしまいますよ…?」

 “瀬戸(せと)瑞貴(みずき)”のものとは異なる、“怪盗キッド”としての声に興奮しかける相談役を制止した。

「じ、実はお(ぬし)に恥を忍んで頼みがあるんじゃ……!」

「分かっていますよ…。私を呼ばざるを得なかった理由も、あなたが焦っておられる気持ちもね……。」

「な、何じゃと……?!」

 小声でやり取りしながらも、つい声が大きくなりかける相談役に再び人差し指を立てて見せる。

「泥棒は誰しもが()の“怪盗紳士”のファン…。“ルパン”の名を(かん)する名犬をいつまでもあんな所に閉じ込めておくのも忍びない……。お手伝いさせていただきますよ…。」

「お、おお…!そうか………!!」

 (わら)にも(すが)る思いで頼った“怪盗キッド”の言葉に、相談役の表情が一気に明るくなった。

「その為にもまずはあの部屋に行かなくてはなりません。私1人で行っても良いが、せっかく助け出した名犬に噛まれたくはありません。相談役もご一緒していただきたい……。」

「う、うむ…。しかし、どうやって……?」

「私は金庫を開けたら、そのまま窓から失礼しますのでこのままでも構わないでしょう…。入口で中森警部に止められるかもしれませんが、「あの金庫は複雑だから、1度や2度開けるところを見られても問題無い」とでも言い張ればよろしいのですよ……。あのボディーガード殿には「キッドが盗み見るかもしれないから入口を警戒しておいて欲しい」と言ってね…。ようは、私が“鉄狸(てつたぬき)”を開けようとしている間だけ誤魔化(ごまか)せれば良いんですから……。」

「な、なるほど…。」

 後は時間との勝負である。

「では、参りましょうか。」

「うむ。」

 いざ流れが決まれば、相談役の行動は早かった。

 扉を開けるや否や、扉の前に控えていた後藤に「これから“鉄狸(てつたぬき)”のチェックに行く。今日は運び出したいものもあるしの。」と言い置いてスタスタと先に行ってしまう。

(足早っ!)

「お、お待ちください!」

 “瀬戸(せと)”の声に戻しながら慌てて追いかけるが、早い。走っていないのにも関わらず、小走りでないと追い付けない程である。

「早く来んか、瀬戸(せと)君!お(ぬし)には手伝ってもらわねばならない事があるんじゃからの!!」

「は、はい!」

 相談役と執事(しつじ)見習いのやり取りに、状況が全く分からないながらも有能なボディーガードは黙って後を追った。

 ――――――――その後、相談役が気迫で中森警部の疑いを蹴散らし、無事に“鉄狸(てつたぬき)”の鎮座(ちんざ)する部屋へと入る事が出来た。

「頼んだぞ……!」

「お任せください…。5分で開けて見せますよ……。」

 外に聞こえないように小声で(たく)してくる相談役に頷き、(ふところ)から出したメモ用紙を“鉄狸(てつたぬき)”に張り付ける。

「危ないので、横にズレていてくださいね…。」

「ああ…。」

 相談役が窓際に寄ったのを確認し、“鉄狸(てつたぬき)”へと取り掛かった。

 キチ……キチ……

 貼り付けたメモ用紙に番号を書き込みながら、少しずつ慎重にダイヤルを合わせていく。

 キチッ…!

(良し…!)

 正しい番号によって、ダイヤルが開き鍵穴が現れる。ここまでくれば後は簡単だった。

「おお……!」

 それを見て、相談役も顔を輝かせた。

 再び(ふところ)に手を入れ、針金を2本とペンチを取り出す。ペンチで針金の先端を少し曲げ、調整して2本とも鍵穴に入れた。

 カコンッ……!

 小気味の良い音を立てた直後、ズズズ…と“鉄狸(てつたぬき)”が手前に盛り上がる。

「や、やったか……!」

 ガコンッ!!!

 重苦しい音と共に“鉄狸(てつたぬき)”の扉が上に跳ね上がった。

「ワンワンッ!」

「お、おぉルパン!無事じゃったか…!!」

 “鉄狸(てつたぬき)”から飛び出してきた愛犬‐ルパンの姿に、相談役が目を(うる)ませて駆け寄った。

 その姿を横目で見ながら、執事服を脱ぎ捨て、“怪盗キッド”としての()()となる。“瀬戸(せと)”のマスクとウィッグはそのままだが、“怪盗キッド”の声で(いとま)を告げた。

「それでは私の()()は終わりましたので、これでお(いとま)させていただきます。またいずれ、月下(げっか)(あわ)い光の中でお会いしましょう…。」

 面倒な相手(コナン)が出て来ないうちに退散させてもらうに限る。言うや否や窓から飛び降り、ハンググライダーで飛び立った千暁(ちあき)に、後ろから相談役が「ま、待て!」と呼び止めようとしている声が聞かれたが、振り返らずに飛ぶ。

「か、怪盗キッドだ――――――――!!!」

「お、追え追え―――――――――!!!」

 上手く風を捕まえる事に成功し、(やしき)を取り囲む機動隊が自分(怪盗キッド)の姿を捉えた声を聞きながら、そのまま高度を上げた―――――――。

 

 




・ワイルドセブン…小五郎さんの煙草がマイルド〇ブンという考察を目にした為、それをもじりました。
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