某ゲーム内のCGを見たことから想像が膨らみ、執筆致しました。
第一話、少し長くなっておりますが、お付き合い願います。
「ぎょえ~!なんじゃこりゃぁぁあ!」
朝・・・より昼に近い時間、誰もが目を覚ましているであろう。
ナツキ・スバルの絶叫から一日が始まる。
ベッドの上で彼は驚愕の表情を浮かべ肩で息をしていた。
心なしか顔色も青く、自分の死期を悟ったような顔にも見える。
彼が寝ていたはずのベッドは、彼がいないにも関わらずにふくれている。
そこには綺麗な金色とオレンジ色を混ぜたような長く艶のある髪の毛。
必要以上に開いた胸元で自己主張の激しい胸。
今は閉じられているため、強気な瞳は閉じられている。
100人中100人は見惚れるといっても過言はない美女が寝ていた。
「あわわわわ・・・あわわわわわわわ。」
ナツキ・スバルは思考停止・・・てんぱっていた。
目はきょろきょろと右へ左へ彷徨って、女性を極力見ないようにしている。
手も慌ただしく振っており、見る人が見れば、滑稽だ。と鼻で笑うだろう。
その筆頭たる女性は、今は眠っている。
「な、なななんだよ!?何でだよ!?どうゆうことだってばよ!?」
彼は寝ている女性の横で大騒ぎしていた。
冷静になってしまえば、ここで起こしてしまった方が、確実に自分の首を絞めるとわかるはずだが、
彼は現在てんぱっている。わかるはずもなかった。
大騒ぎしている彼の声に、煩わしかったのか、少し顔を顰めながらゆっくりと目を開いた。
まだ半分寝ぼけ眼だが、燃えるように真っ赤で綺麗な瞳。
その瞳にはしっかりと彼女の意思が宿っている。
「なんじゃ、凡愚。妾が眠っているのがわからぬか。いつもは慈悲をくれてやっておるが、
今日という今日は許さんぞ?」
彼女の言葉に彼は動きを停止する。
否、心臓も停止したが如く顔色が悪くなっていく。
言い訳を並べるより早くに、彼は行動に移った。
「申し訳ありません、許してください!俺にも何が何だかわかってないんです!
本当です嘘じゃないです助けてくださいいい!」
形振り構わずに綺麗に土下座を慣行している。
恥よりも生・・・等と考えているわけではなく、
彼自身本当に何が起こっているのかわかっていない様子だった。
そんな彼を詰まらなさそうに見ていた彼女が口を開いた。
「何を言っておる。昨夜は貴様から誘ってきたであろう?
嫌がる妾をあれやこれやと手と口を使って手籠めに・・・」
妖艶な仕草で胸元から扇子を抜き出し、口元に運ぶ。
そして、少しおどけたような口調だが、彼にしな垂れて言葉を紡いだ。
寝起きで着崩れている服。まだ少し眠たげで、普段より少し垂れている眼。
客観的に見てみると、事後の男女に見えなくもない。
しかし、男のほうから後ずさり距離をとった。
「いやいやいやいや!まてまてまて!事実無根だ!冤罪だ!
俺はそんなこと言った覚えもないし、そもそも寝る時は一人でベッドに潜ったわ!」
身振り手振りを交えて必死に弁明する男。
傍から見れば、浮気がばれて必死に弁明している旦那。の図である。
ベッドの上では逃げ場は少なく、ニヤニヤしながら追いつめていく彼女。
「そうじゃったか?しかし、この世の全ては妾の都合のよいようにできておる。
ゆえに妾に不利益が起こることなぞない。
今ここで妾が大声を出すと・・・貴様はどうなるのじゃ?」
四つん這いの恰好で、一歩、また一歩とゆっくり近づいていく。
既に彼の顔面は青色を突破し、白色になっていた。
体同士が触れ合うくらいに近づいた彼女は、彼の耳元へ口を持ってくる。
「ほおら、貴様が今すべきことじゃなんじゃ?
言い訳を並べることか?そんなことはただの凡愚でもできることよ。
妾の機嫌は気紛れで、いつ行動を起こすかわからぬぞ?」
言葉の後に舌をチロリと出して男の耳たぶを一舐めする。
妖艶な彼女の仕草も声も、今の彼にとっては死刑宣告に近しいものがある。
半ば諦め表情で彼は口を開いた。
「すいません申し訳ありません私が悪かったです本当に!
若気の至りといいますか・・・本当に記憶にはございませんが、失礼なことをしてしまい・・・」
言葉を続けていく最中に少しずつ折れていく腰。
ちょうど半分に折りたたまれた頃には綺麗な土下座が完成していた。
彼の様子を見ていた彼女は満足げにほほ笑んでいた。土下座中の彼には見えなかったが。
「反省しておるのなら良い。無かったことにする積りもないのじゃろう?
妾の体に触れるなど、凡愚が百度輪廻を繰り返したとしても叶わぬことじゃ。
光栄に思うがよいぞ?凡愚。」
彼の顔から更に血の気がひいていく。
驚きっぱなしだが、一周回って少し冷静になっている彼。
覚えてないなんて損なんじゃね?等と不毛な考えをしていると、更に彼女から追撃がくる。
「そ・し・て。認めたということは・・だ。断る等あり得ぬとは思うが・・・
責任は取るのであろうな?」
口元は扇子で覆われているため見えないが、瞳は真剣そのもの。
答えを間違えれば首を刎ねる、と語っている。
彼は覚悟を決めたのか、瞳に決意を宿して彼女の瞳を見つめ返した。
「ああ・・・。わかってるよ。俺も男だ。
ああだこうだ言ってしまったが・・・。責任はとる。ここで逃げれば男じゃねぇ。」
拳を握りしめながら語る彼。
台詞はある程度見栄えがいいのだが、如何せん土下座慣行中により、滑稽さだけが目立つ結果となった。
「あっはっは。その潔さは良いぞ。褒めてつかわす。凡愚の割には良い決断力じゃ。
誓いの口づけをさせてやろう。床に這いつくばり、羞恥と屈辱を噛みしめて
野獣のように妾のおみ足を舐めるがよいぞ?」
ベッドの端へ腰かけ、足を組みながら舐めろと出している。
彼は暫し茫然としていたが、理解できたのか、掌で顔を覆いながら首を振っていた。
「どうした凡愚?言われたことも出来ないなど凡愚以下じゃ。
寛大な妾にも我慢の限界はある。あまり時間をかけるようじゃと
貴様の頭と胴体が離れるだけじゃぞ?」
言いながら、足を組み替える彼女。
妖艶なその姿に思わず見惚れてしまうのも無理はないこと。
彼は頭の中で高速でシミュレートしていた。
認める→足を舐める?→蹴り飛ばされる→首が飛ぶ?
断る→最終勧告→断る→首が飛ぶ
逃げる→捕まる→弁解する→首が飛ぶ
あれ・・・詰んでんじゃね・・・?と小さく零す。
彼は何故このような状況になっているのか、全く理解ができていなかった。
寝起きから怒涛のストレスラッシュにより、彼の頭で何かが切れる音がした。
「どうせ死ぬなら・・・いいぜ。やってやるよ。
足にでも靴にでも好きなところに口づけをしてやるよ。ただし・・・」
ゆらゆらと揺れながら静かに立ち上がる。
幽鬼の如く足取りで近づいていく。
顔は伏せているので表情は読めない。
彼女の前で立ち止まり、頭を下げながら彼は言葉を発する。
「どうせ死ぬなら好きにしてもいいってことだよなぁ!?昨日のことも覚えていないとか悔しいし・・・!
お前の体を好きにしてもいいんだよなぁ!?そうゆうことだろ!?」
差し出された足を掴みながら捲し立てる。
豹変ぶりにドン引きしていそうだが、彼女は目を細め、興味深そうに見ているだけだった。
そんな対応をされてしまい、勢いを失う彼。
「どうした?凡愚よ。好きにしたいのであろう?好きにするんじゃろう?
なら何故足を掴んだままで固まっておる。貴様のしたかったことは足を掴むことか?
そうではないであろう?妾の体を・・・滅茶苦茶にしたいんじゃろう・・・?」
彼女から彼にしな垂れかかりながら言葉を紡ぐ。
慌てて支えようと手を差し伸べたところ、柔らかいナニカに当たってしまい、慌てて手を下げる。
手を下げたことにより、彼女を支えきれず、床に倒れこむ二人。
彼女が怪我をしないように、と下敷きになりながらも、包みこむように抱きしめた。
衝撃により一瞬、息が止まるがそれより彼女の怪我がないか目を向ける。
その瞬間に彼女と目が合い、少し瞳を潤ませながら、微笑みを浮かべていた彼女が口を開いた
「そうじゃ。それでいいのじゃ。もっと己の欲望に忠実になるがよいぞ。
妾の体に触れたいであろう?この柔餅より気持ちのよい肌、触っていたいのであろう?
今だけは特別じゃ。凡愚であるが、貴様は触ってもいいのじゃぞ・・・。」
彼の首へ両腕を回しながら、真っすぐ瞳を見つめて告げる。
彼女の香や普段なら言わない台詞に彼はすっかりと酔ってしまっていた。
“もう・・・ゴールしてもいいよね”と心の中で呟きながら、理性が崩壊していく音を聞いていた。
「プ、プリシラ・・・俺・・・。」
彼女の頬と後頭部へ手を添えて、ゆっくりと顔を近づける。
元々近かった二人の距離がゼロになる瞬間――
ガチャ と扉が開く音が響き渡った。
「スバルくーん。朝ですよ。スバル君のレムが起こしにきましたよー・・・。」
水色の髪の毛をしたショートヘアの女の子、-特筆すべきところはメイド服をきているというところか-が、
起こす気はないのであろう、小声で告げながら入ってきた。
扉が開く音がした瞬間に慌てて彼を顔を離す。
一瞬で顔中汗まみれになっており、焦っていることが伺える。
「プ、プリシラ。すまん。少しベッドの下・・・いや陰でいい。このまま隠れててくれないか?
上手い事やり過ごして、すぐに出て行ってもらうからさ。」
彼は返答を聞くまでもなく、彼女へ頼んだ!と告げて対応をしようとする。
そんな彼の態度に彼女は怒り心頭であった。
また、彼女には遠慮という言葉や空気を読むという言葉は無かった。
「レ、レム!おはよう!今日もいい朝だなぁ~!
よっ「おい、鬼の娘よ。貴様は今何をしたのかわかっておるのか?」
彼の言葉を遮りながら彼女は告げる。
瞬間、場の空気が凍ったことを彼は理解した。
そして、もう自分の言葉では絶対に止まらずに、(自分の)血をみるということを・・・。
「な、な、な何故プリシラ様がここに!?しかも・・・なんて恰好をしているのですか!?
まさか・・・スバル君に夜這いを!?レムもまだしたことないのに・・・。」
青髪の女の子・・・-レム-は混乱しているのか、はちゃめちゃなことを言っている。
対して金髪の彼女・・・-プリシラ-は堂々としたものだった。
先ほど転げた際に、更に着崩れしており、胸元は殆ど隠れておらず、
またスカートもずり上がっているため、下着も殆ど見えている状況だ。
「五月蠅いぞ、小娘風情が。妾の邪魔をするのでない。
折角いいところじゃったのに・・・」
プリシラはいつもの様に、扇子を口元へあてている。
レムも少し落ち着いたのか、売り言葉に買い言葉で応戦する。
当事者の彼、-スバル-はこの先の近未来を予想して、大きなため息をつくのであった。
「それで?説明してくれるかしら。」
金髪縦ロールをしたようじょ・・・女性-ベアトリス-が声を出す。
額にはしっかりと筋が入っており、どれほど怒っておるかはすぐにわかる。
レムとスバルは既に顔面蒼白になっており、言葉を発することさえ出来ていない。
しかし、プリシラはどこ吹く風で、はだけた服もそのままにベアトリスを見つめている。
「そ・れ・で!?説明してほしいのかしら!?」
黙ったままのレムとスバルに対して、堪忍袋の緒が切れたベアトリスは言葉を強めた。
顔を上げられないスバルに変わり、レムが慌てて説明をしようとする。
「あ、あの、ベアトリス様―「お前に聞いてるんじゃないかしら。
そこで犬のように這いつくばっているあの男に聞いてるかしら!」
びくっと体を震わせるスバル。
恐怖のあまり顔を上げることができなかったが、話が進まないことがわかると観念した。
ゆっくり、顔をあげていくと、満面の笑みを浮かべているベアトリスの顔があった。
彼は恐怖した。ベアトリス-通称ベア子-の満面の笑みなど見たことがなかったからだ。(パックを除く)
自身の死期を覚悟した彼は、一連の騒動の説明をし始めた。
「なるほど・・・あいつの言ってる事に間違いはないかしら?」
縦ドリル-ベアトリス-がプリシラへ向けて言葉を放つ。
「ふむ・・・。半端モノ風情が何故偉そうにしておるのか、この際今は流そう。
凡愚の説明で間違いはない、そのままじゃ。」
服装は整えられ、普段通りの立ち振る舞いで応答するプリシラ。
少し離れたところで、隙あれば噛みつこうと、機会を伺うレム。
その横でやれやれと首を振りながら、ため息をついている、
赤い髪の鬼-ラム-がメイド服を着用して立っている。
レムとプリシラの口喧嘩?は大きくなりすぎ収拾がつけられず、手が出る手前といった、
一触即発の雰囲気の中、ラムがお茶を持ってきたところで収拾がつけられた。
一人では手がつけられないと悟ったラムは、スバルにベアトリスを探してくるように指示を出す。
ベアトリスの到着から説明、今に至るまでスバルは当然のように正座から土下座のループである。
「普通に考えると、他所の王選候補者を疵物にした挙句、朝から盛ろうとするなんて・・・
お前の命一つだけでは足りないくらいに失礼なことかしら。」
真意はどうであれ、今回のプリシラと邂逅した経緯は“ロズワールが客として招いた”事。
お客様としてお招きしたにも関わらずに、真意は問わないが、疵物にされた事が問題だった。
プリシラが言いふらすかわからないが、彼女がこのことを言いふらしてしまうと
王選候補の一人、エミリアの当選は絶望的になる。
只でさえ、エミリアの容姿絡みでほかの王選候補者より遅れをとっている状況だ。
その上で風評まで傷がついてしまうと、王選候補から外されることさえあり得る。
ここまで大きな話になるとは思っていなかったスバル。
たとえ覚えがないことであろうと、自分がエミリアの枷になることだけは避けたかった。
彼は覚悟を決めた表情で口を開いた。
「プリシラ。頼みがある。
身勝手な願いとはわかっている。でも聞いてほしい。
俺の・・・俺の首一つでどうか勘弁してくれねぇか?」
プリシラは表情を変えずに、スバルの瞳を見つめている。
無言で続きを促すように。
「今ここで、無様に死ねと言われれば自分で死ぬ。
殺したいってなら、無抵抗で殺されてもいい。
ただ・・・一つだけ約束してくれ。俺の首で、エミリアたんの・・・
エミリアの陣営の邪魔をしないってことを。」
「お前なら、邪魔せずとも優勝しちまうんだろ?
目の前の有象無象を踏み潰す為に、わざわざ労力を支払う理由もないだろ?
だから・・・頼む。プリシラ・・・頼む・・・!」
プリシラはただ黙って見つめるだけだった。
“やっぱ都合良すぎたかな”と自嘲するスバル。
スバルが再度口を開けようとしたところ、プリシラが遮った。
「うむ、一つだけ条件を付けたしていいのであれば、妾から何も言うまい。」
ゆっくりと立ち上がり、一歩、また一歩とスバルへ近づく。
その光景を、死刑執行人に処刑される罪人の気持ちでスバルは眺めていた。
プリシラが約束を守るか分からないが、彼女も王戦候補者の一人。
誇りや矜持は人一倍持っているはず・・・とスバルは睨んでいた。
スバルの目の前で立ち止まるプリシラ。
口元の扇子をゆっくりとスバルの前へもっていき、告げる。
「凡愚よ。貴様が死ぬ前に妾へ罪滅ぼしを行うのじゃ。
勝手に冥府へ逃げることは許さん。そのような勝手は凡愚ですらない。
ただの屑じゃ。半魔陣営にただの屑がいたと風潮は嫌じゃろう・・・?」
扇子でスバルの顎を持ち上げながら伝えるプリシラ。
プリシラの威圧から、スバルはすぐに返答ができずに息が詰まる。
しかし、ここで返答できずに、プリシラの気が変わることが一番怖い。
スバルは力を振り絞って、大きく頷いた。
「ああ・・・。わかったよ。やってやるさ、罪滅ぼしってやつをな・・・。
その代わり、約束は守ってくれよ?約束さえ守ってくれるなら
何だってやってやるさ・・・。」
プリシラを睨みつけるように、真っすぐ力強く宣言したスバル。
周囲の人間は最早、蚊帳の外である。
「何でも、と言ったの?吐いた言葉は取り消せんぞ?」
扇子を自分の口元へ下げ、睨みつけるようにして、語尾を強める。
スバルも負けじと睨み返しながら宣言する。
「ああ、男が一度言ったことは取り下げねぇよ。
すぐに死ねと言われても死んでやる覚悟だ。
しかし、何でもといっても、エミリアの陣営に害なすことはしねぇ。
最初の約束すら意味がなくなってしまうからな・・・。
それ以外のことで、何でも、だ。いいな?」
スバルは釘を刺すように伝える。
「妾がそのような事に労力を割くと思うか?
最初に約束した通り、半魔陣営に不利になるような流言はしない。
嫌がらせ等も以ての外じゃ。
この世は妾の都合の良いようにできておるのじゃぞ?
今この瞬間もな・・・」
プリシラが最後に呟いた言葉は誰にも聞こえていなかった。
約束が果たされたことで、満足そうに頷くスバル。
彼は死にに行くにも関わらず、笑顔でエミリア陣営の皆と挨拶を交わす。
彼は慢心していた。
“ある能力”がある為、すぐに開放されると踏んでいたのだ。
まさかあのような事になるとは、この時は全くもって思ってもいなかった―。
「別れの挨拶は済ませたか?凡愚よ。妾はあまり待つことは好かん。
さっさと済ませて、疾き乗るが良い。」
プリシラは若干不機嫌そうな雰囲気を醸している。
彼の陣営からすれば、永遠の別れである。
時間など、どれだけあっても足りない。
しかし、別れの時はきた。
「スバル・・・。元気でね?今までいっぱいありがとう。
スバルに精霊様のご加護がありますように・・・。」
詳細を知らされていないエミリア。
スバルが必死に頼み込んだのだった。
『エミリアには詳細は伏せてくれ。
大事な王戦前に、無駄な心労をかけることはないだろ?』
やましいことがばれたくないわけではない。
決してやましいことがばれたくないわけではない。
「おう。あんがとな。エミリアたんも・・・エミリアも元気でな。
王戦で勝てるように祈ってるぜ。」
「スバル・・・。」
レムとラム、そしてロズワールはここにいない。
ラムは、レムがついていこうとしていたのを阻止している為。
ロズワールは魔獣討伐の為に夜遅くから出かけている。
「お前の顔を見なくなることでせいせいするかしら。
もう帰ってこなくていいのよ。」
ベアトリスはいつもの雰囲気と変わらず受け答えをする。
今はそれがありがたいスバルだった。
「ベア子も本当に世話になった。
ありがとな。パックと仲良くしろよ?」
「当たり前なのよ。ベティーとにいちゃは愛し合ってるのかしら。」
にやけた顔を隠すように少し顔を俯かせるベアトリス。
それが微笑ましく、スバルは笑った。
「そろそろお姫様の機嫌が天元突破しそうなので・・・
行くとするわ。本当に世話になった。ありがとう。
・・・またな!」
笑顔で告げて竜車に乗り込むスバル。
そして発進後も、竜車が見えなくなるまで、エミリアは手を振っていた。
「行っちゃった・・・ね。スバル・・・。
寂しいの・・・かな?」
「あんなやついなくなってせいせいするのかしら。
早く帰ってにいちゃと遊ぶのよ。」
見えなくなった竜車を見送った後、一同は屋敷に戻るのであった。
エミリアは再度振り返り、何かをお祈りした後に、戻っていった。
「なぁ、そう言えば俺は何をすればいいんだ?
何も聞かされていないが。」
走る竜車の中、沈黙に耐えかねたスバルが口を開いた。
乗り込んでからというもの、プリシラは外を眺めるばかりで一言も発さなかった。
「妾の目には映らぬが、微生物以下のモノが喚いておるのか?
妾の命令も聞けぬ凡愚以下のモノが喚いておるわ。
貴様を生かすも殺すも妾次第。本当にわかっておるのじゃろうな・・・?」
プリシラはドスをきかした低音の声でスバルに告げる。
少しびびりながらも、プリシラの目を見てスバルは答える。
「それについては本当に悪かったと思っている。
でも、エミリアたんからすれば、永遠の別れなんだ。
別れの時間ぐらい大目に見てくれねぇか?」
真摯に、目を逸らさずに告げた。
プリシラの目も徐々に収まっているように見える。
「はぁ・・・。妾も甘くなったものじゃな。
こんな凡愚の言葉に惑わされるとは・・・。
よかろう、今回は惑わされてやるが、次はないと思え。良いな?」
スバルは驚愕の表情を浮かべる。
プリシラがまさか許すとは考えてもいなかった。
“どうせ死ぬなら一瞬で死にてぇな~”と考えていたから、自分が生きていることが不思議だった。
「・・・え?まじで?えっと・・・プリシラさん?
俺のこと殺さないの?」
「“まじ”じゃ。貴様の命は妾の気分次第と言ったであろう?
貴様は凡愚であるが、道化にもなれよう。
精々、妾の機嫌を損ねぬよう、道化に徹することじゃな。」
プリシラが扇子を畳んで此方へ向けている。そして、口元を隠さずに、笑っていた。
スバルはプリシラの笑顔を初めて見た気がして、見惚れていた。
「何を呆けておる?早速道化ぶりを披露しておるのか?
貴様の道化ぶりと言ったら、先日の必死な弁明が一番の道化じゃ。
中々もって、妾を楽しませることがうまいと言えよう。」
我に返ったスバルの目の前に、プリシラの真っ赤な瞳が近づいていた。
緊張からうまく舌が回らず、また狭い竜車の中で逃げ道など、無かった。
「な、何を言ってるんだよ?俺が道化?一体何のことだ?
必死な弁明が必死すぎて面白かったのか?
・・・悪かったな。こちとて命がかかってるんですー!
必死にもなりますー!」
少し卑屈になり、子供っぽい口調で返すスバル。
プリシラは特に気にした様子もなく、更にスバルへと顔を近づける。
お互いの息がかかるくらいの距離。あと数センチで唇同士がくっつく、そんな距離で。
「貴様が本当に妾に手を出したと思っておったのか?
そのような気概も度量も貴様にはなかろう。
妾にとっては、本当にいい余興となった。
褒めてつかわすぞ?道化よ。」
囁くようにプリシラは告げた。
スバルの頭は真っ白になってしまい、怒りで頭が埋め尽くされそうになった瞬間に
唇の端辺りに、生暖かい、ヌルっとしたものが這った。
「・・・!!!プ、プ、プリシラ!
お前何をっ・・・!し、舌で・・・!唇の端を・・・!?」
怒りで埋め尽くされていた頭は、一瞬でピンクに切り替わっていた。
顔を真っ赤にしながら大声を上げるスバル。
プリシラは自分の唇の端を舌で舐め上げ、告げた。
「なに、ただの戯れよ。
それに本当に楽しませてもらった。罪には罰を。功績には恩賞を。
当然のことであろう?それは、妾からの褒美、じゃ。
今後も褒美が欲しければ、大いに妾を楽しませることじゃな、道化よ。」
右手は胸の上に、左手は腰に添えて。舌で唇を舐め上げて、少し上目遣いに此方を見る。
“狙ってるだろ、お前・・・”とは言えないスバル。
少なくとも、今回の勝負はスバルの負けだ。勝負にすらなっていなかった。
プリシラが本気を出せば、男一人魅了するなんて、容易い。
「・・・ったく。わぁーったよ。俺の負けだ。
はいはい、道化に徹しますよ。ご主人様?
次の褒美は唇にしてもらうぜ?覚悟しとけよ?」
精一杯の強がりを見せるスバル。
そんなスバルをプリシラは微笑みながら眺めている。
「ふっふっふ。それは道化が妾をどの程度楽しめるかによる。
精々励め。道化よ。
期待しておるぞ・・・?スバルよ。」
片目を閉じてばっちりとウインクを決めるプリシラ。
“歳考えろよ”と頭に浮かんだが、似合いすぎてて言えなかったスバル。
というより、顔が真っ赤になっており、何を言っても負け犬の遠吠えになることがわかっていたのだ。
無言の抵抗をしていると、最後の追撃をプリシラが仕掛ける。
「何を照れておるのじゃ、凡愚よ。
妾は疲れたから寝る。宿につくまで静かにしておれよ、凡愚。
・・・おやすみ、スバル。」
もはやリンガの如く真っ赤になったスバル。
優しい微笑み付きで、名前を呼ばれるなんて卑怯だ・・・と呟く。
普段とのギャップにやられてしまったが、仕返しなんてした暁には10倍返し・・・いや100倍。
プリシラの寝顔を遠目に眺めつつ、今回の負けは認めるスバル。
いつか復讐すると胸に誓い、竜車の外を眺める。
「ってーか、行先聞いてないのに、いつ起こしたらいいかわかんねぇぇぇ!?」
「五月蠅いぞ凡愚!
首を直ぐに落とされたいようじゃな!」
「すいません・・・まだしにとうないです・・・。すいません・・・。」
彼に明日の日は拝めるのか。
頑張れスバル。
例え永遠に勝てない主従関係をしてしまったとしても。
明日には今日よりいいことがあると信じて―。
「これからどうなるんだよぉぉー!?」小声
息抜きに書き始めたところ、筆がのる…?すらすらと書けたので、投稿。
以下おまけ
“今日のぷりしらさん”
某豪邸 禁書庫
【彼と仲良くなる10の行動】
「こ・・・これは!?」
「ふむふむ・・・なんとっ。」
「早速実践じゃな。」 イソイソ
「ふむ・・・よく寝ておる。」
「起床時が楽しみじゃ。」
・・・ZZZzzz...
数刻後
「・・・」
「・・・」
「ぬぁぁぁぁ!何で起きておるのじゃ!」
「妾はやり直しを所望する!疾き寝よ!」
【その1.彼の寝顔を覗き、寝起きにおはようと伝えること】
※本編とは全く関係ありません。
あまり時間がとれず、更新がいつになるかわかりませんが、ちょこちょこ更新します。
今回では、時系列等もわかりにくいと思いますが、次回である程度わかると思います。
一人でも面白いと感じて頂けると幸いです。
誤字脱字報告や感想などお待ちしております。