「あなたどうしていつも!」
「うっせえな!」
今日も両親は朝から喧嘩しているらしい。
あたしが物心ついたときにはすでにこんな家庭だった。
そして、あたしこと岩沢雅美は両親の怒号の聞こえる家を後のする。
今日は高校の始業式だってのに、浮かれた気持ちなんて一切ない。
「はあ」
そっとため息をついて、うつむいたまま歩き出した。
そしてあたしは、いま、高校の始業式に出席している。
「皆さんはじめ・・・」
始業式とともに校長先生の訓辞が始まる。
それにしても校長先生の話は小学校の時と変わらず長いようだ。
「ふああ……」
ほら、横の男子生徒もあくびをしている。
ただ、家に帰ったらまた両親の喧嘩の声のなか、自分の殻にこもってうずくまる時間が始まるし・・・
それと比べればこの退屈の時間はまだましだな。
なんて考えているとき、何を思ってかはわからないがふと隣の男子生徒を見る。
寝ていた。
「起きろよ。無し男。」
そう、ぶっきらぼうに声をかけてみる。
何で無し男かといえば胸元の名札に「音無」ってあるからだ。
ついでに観察してみる。
長めの赤茶けた髪に整った顔立ち。口元はわずかに開いて、寝息を立てている。
って起きやしない。
「起きとけよ。注意されるぜ……」
そう声をかけながら無し男の体を前後の揺さぶってみる。
左右じゃないのは無し男の向こうにも生徒がいるからだ。
そこまでしてやっと無し男は目をあけた。
「なんだよ。」
少し不機嫌な声。
「いびきをかいてたから起こしたんだよ。」
そう。言い訳する。
本当ははいびきなんてかいてないけど。
「そうか」
なんて無し男が答えたとき
「……とおもいます。以上」
って、校長の話が終わった。
次の時間はクラスに帰ってホームルームだ。
あたしやほかの生徒たちは先生の指示に従ってクラスに戻る。
担任らしき女性が教壇に立って話し始める。
そして話し始めてどのくらいたったか、たぶん十分くらいだと思う。
後ろの席の男、無し男に話しかけた。
「さっきはよく寝てたな……」
寝てた。
「起きたら話しかけるか。」
そう呟いて前を向いた。
ホームルームが終わって後ろを振り向いたら無し男は伸びをしていた。
この後は授業なんてなく、下校を残すのみだ。
「お前、今日ずっと寝てるのな。」
「ああ、疲れて寝てたよ。」
そう返事が返ってくる。
「あたしは岩沢雅美。お前は?」
「音無結弦」
単語だけが返ってきた。
「そうか、一年よろしく、無し男改め音無。」
「無し男って何だよ……まぁよろしく」
そんなボーっとした返事が返ってきた。
「じゃあまたな」
「ああ」
そういって、教室を後にした。
帰り道、ふと、どうして彼に話しかけたかを考えてみる。
「あたしも、なんだかんだで浮かれてたのかな」
きっとそうなんじゃないかな。
前世で会ってるなんて理由でもない限りさ。