「雅美。俺はな。母さんに一目ぼれだったんだ。」
懐かしい、やさしい声音で父の声が聞こえる。
聞いてるあたしが見える。おそらく幼稚園ごろのあたしだ。
「恋は押して押して押し通せ。これ、岩沢家の家訓な。」
「うん!」
小さなあたしは大きくうなずいた。
そんな夢を見た。
起きたあたしはさっさと支度をして学校へ行く。
登校中に音無の姿はなかった。
騒がしいクラスへ早くに登校すると音無の席は空いていた。
「何だよ、来てねえのか。」
そう言いつつ目の前にある自分の椅子に座る。
ちょっと乱暴に扱った椅子がガタンっと音を立てた。
少ないクラスメイトの目が集まるが、気にせずそのまま座る。
「一時間目は英語か」
教科書とノート、筆記用具を取り出して並べる。
並べ終わったあたしは窓のほうを見る。
曇り空が広がっている。
「雨が降らなきゃいいんだがな。」
そう呟いて教科書を広げ手持ち無沙汰にしているとき、隣の席の女子生徒が私に声をかけた。
「はじめまして岩沢さん。これからよろしくね。」
「ああ」
その女子生徒とお互いに自己紹介をして、あたしが一方的に聞く形で、休み時間に昨日のTVの話なんかをするようになった。
そして、音無は姿を現さなかった。
次の日も朝早くに登校したが、音無は来なかった。
ああ、そう。早くに来ているのは家にはあたしの居場所なんてないから。
しかし特に話したいこともないのに、どうして、あたしはあいつを待っているんだろうか。
そして、その次の日も音無は姿を現さなかった。
入学式から一週間が経って、ようやく音無は学校に来た。
遅刻ぎりぎりであたしの教室の後ろのほうの扉が開く。
入ってきた音無は元気のあふれていそうな周りのクラスメイトとは対照的に、気怠げに椅子を引き、すっと座る。
「よう。音無。」
そう声をかければ、音無は
「ああ、岩沢」
なんて、ぼんやりとした返事を返してくる。
「おまえ、会ったときから眠そうだな。」
長い髪で顔を隠して。
「ああ、眠いからな。」
単純な返事。
「そんなもん見ればわかるって」
「そうか」
「だから、理由きいてんだって。」
音無は眠気で頭が回ってないみたいだ。
ったく、今日はこんなにも晴れているってのに。
「ああ、ゲームしてた」
そうかゲームか。……って
「一週間休んだのはどうなんだよ?」
「ゲームしてた」
おい。って思った。でもちょっと羨ましかった。
だってあたしには、家に居場所なんてないから。
学校に行くほうがまだましだ。
あたしは、胸にそういった複雑な思いをしまいこんで言った。
「学校来いよ」
その言葉に音無は顔をしかめた。
なので次の言葉で問いかける。
「学校、嫌いなのか?」
そんなあたしの質問に音無はさも当然であるかのように答える。
「ああ、嫌いだ。」
そうか嫌いなのか。しかし、そんなにもあっさりと答えるなんてな。
ちょっと驚きながら話を続ける。
「なんでだよ」
「おれ、べつに勉強できないし。人の顔色を伺いながら話すのなんてだるいから。TVとかゲームなら人にも迷惑かけなくて済むし」
何だそんなことかよ。
「何だお前、友だちいねえのかよ」
「うるせえ」
なんて言ってそっぽを向く音無。
何だよこのひねくれたお人よしは。
あたしはそんな音無に笑いかけながら言った。
「かわいそうだから、あたしが友だちになってやろうか?」
正直に言ってこれはただの同情心だ。それ以上それ以下でもない。
きっと。おそらく。
少しの静寂の後、音無が言った。
「俺と友達になっていいことなんてないって」
そんなことを言い出す。あたしは少しむきになって持論を振りかざした。
「べつにいいよ。そんなの、『こいつになら迷惑かけられていい』ってやつとなるもんじゃないのか?友だちって」
くさい台詞。少し恥ずかしかった。
「どうして俺なんだ」
音無が私に問いかける。
ちょっと返答に困るな。お茶を濁そう。
「あたしがお前に興味があるから」
「はあ?何だよ。それ」
案の定音無は困惑してるっぽい。
あたしも困惑している。
このまま押し込もう。
「だめな理由がないのなら友だちな。あたしたち。別にあたしの顔色伺う必要なんてねーからよ」
めんどくさそうな顔を浮かべた音無は私の顔を見て、
「わかったよ」
なんていった。
よし、じゃあ。
「今日の帰りは一緒に話しながら帰ろうぜ」
なんて約束を取り付ける。
まあ、家に少しでも居たくないってのもあるんだがな。
そして、話をさえぎるかのようにチャイムが鳴った。
隣でにやけてるやつは無視した。
授業中、寝息という名のBGMが聞こえてきたが、誰のかはすぐわかった。
キャラ崩壊してないかな?
と心配している作者がいるそうな。
UA、」感想。等ありがとうございます。
書きたいものを書いてるだけですが、励みになってます。