チャイムが鳴った。
終礼を終えた担任教師が出席簿を抱えて教室を出る。
それを機に生徒たちは、まばらに立ち上がりだす。
そんな中、あたしは後ろで伸びをしている音無に話しかけた。
「帰ろう。音無」
あくび交じりに返事が返ってくる。
「ああ」
あたしたちはお互いに帰る準備をし始める。
そして教室を出て、下駄箱で靴を履き替えた後、二人並んで通学路を歩く。
先に口を開いたのはあたしだった。
「なあ、迷惑だったか?」
何でこんなこと聞いたのだろうか。
しかし、その答えが自分の中で出るよりも音無の返事のほうが早かった。
「いや。五時までなら平気だ」
よかった。そうなのか。
「そこから用事でもあるのか?」
「バイト。六時から」
音無はなんでもないかのように言った。
「そうか」
だからあたしも、なんでもないかのように答える。
今は四時、五時までは後一時間。
頑張れ。誘うんだあたし。
「じゃあさ。五時まで駅前のデパートでウインドウショッピングしないか?」
大通りの歩道、車のクラクションがけたたましく鳴る中にいて、音無の耳にあたしの声は聞こえたのだろうか。
「ああ。五時までなら」
聞こえていたみたいだ。
あたしは心の中で小さくガッツポーズをした。
そして、二人でデパートを歩いた。
お互いのことを知らないためか、少しぎこちなく。
しかし、二人で試食して回ってアパレルの着せ替え人形になっていたら。一時間なんてあっという間だった。
連絡先も交換した。
帰り際。駅のホームでさよなら。とバイト頑張れよ。を言って別れた。
「あ、明日学校に来るよう約束してないや」
そう呟きながら家の玄関を開ける。
両親の喧嘩から逃げるように学校の課題をして、身支度をした後。すぐにあたしは目を閉じた。
そして次の朝が来た。
今日も早めに学校に着いたあたしは、一時間目の化学の用意を出してぱパラパラと、今日授業でするであろう範囲をざっと読む。
今日も音無が来たのはチャイムの鳴りそうなときだった。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「疲れてそうな声だな」
「ああ」
そういって、音無は机に突っ伏して寝始める。
あたしは前を向いた。
すると、隣に座っている女子生徒が話しかけた。
「今日も積極的に行くねえ」
「何だよ、どうかしたのかよ」
「いやあ、昨日はどうだったのかなと思いまして」
目を輝かせてそんなことを言ってくる。興味津々な様子にあたしは少し引きつつ、回想する。
昨日、そうだな。
「特になかったよ」
お前の期待してそうなことは。
「えー、ほんとに?・・・告白とかしてないの?」
「してない」
事実だからはっきりという。
女子生徒は不満そうだったが、すぐに追求をあきらめた。
チャイムが鳴る。
放課後、あたしは生徒が帰り始めた教室で音無に話しかける。
「お前、今日バイトは?」
突っ伏した音無が顔を上げる。
「毎日ある。五時までだ」
なんだか先回りされて返事を返された。
だがわかった。五時までか。
「今日お前寝てたろ?宿題一緒にしてやろうか?」
音無しは少しいぶかしげな顔をしたが、いいよ。と返事をした。
そしてあたしは机を後ろ向きにして、ひとつ後ろの席にいる音無とくっつけて宿題をする。
授業を寝ていた音無は大変そうだったが教科書とにらめっこしてプリントを埋めていく。
何度もペンが止まったが、その度にあたしが教科書のどの部分か教えて、説明もしながら宿題をする。
五時になる十分前にはお互いに宿題を終えた。
そして、一緒に下校する。
その間、お互いに触れてなかった自分の事について話す。
あたしは家に居場所がないこと。
音無は入院してる妹がいること、両親とはまったく話さないこと。
ちょっとびっくりしたけど、今度、その妹さんと会ってみたいな。と思った。
そうしているとあたしの通学路の途中にある駅についた。
そこで別れる。
そして、別れたあたしは家へと帰り。明日の準備をして、部屋の隅で小さくなる。
明日、また音無と会えるのを楽しみにして。
物語を生み出す苦しみを知った作者がいたらしい。