眠れなかったあたしはうっすらと瞼を明ける。
そのまま横を見れば、キッチンの電気は点きっぱなしだった。おそらく父が突っ伏して寝ているのだろう。
母は畳の上で寝息を立てている。
もちろんわかってた。喧嘩が終わったのを見計らって目を開けたからだ。
いや、見てないから見計らったというのはおかしいかもしれない。
だとすれば、聞き計らった、だろうか、いや。そんな日本語なかったはずだ。
この場合は終わるまで息を潜めている。位が妥当だろうか。
そこまで考えたあたしは教科書を持って家を出る。公園の光の下で教科書を読むためだ。
家で読まないのは集中できないから。いつ父親が起きてくるかわからない。
母親が寝ている以上、あたしが起きていることを知った父親はにあたしに話しかけてくるだろう。
そんな無駄な時間はごめんだ。
今のあたしに夢なんてない以上、学校の担任には大学に行って公務員か学校事務になるということにしている。
理由は世間体として最も無難だからだ。教師のわずらわしい追求なんてない。
そして、大学は親に頼って行きたくない、いや、頼れない。
連帯保証人にならないし、ならないだろう。親戚ともほぼ絶縁状態。
あたしには奨学金が絶望的だ。借りれるかもしれない。しかし、借りれないかもしれない。
だったら、現実的なのは1つは昼間働ける夜間の授業があって学費の安い国公立、という選択肢。
または、自衛官になるために防衛大という選択肢。
自衛官は公務員だから。
こっちは教師に勧められた。
どちらにせよ今は目の前の教科書と向き会うしかないな。
そこまで考えて、電燈の下にあるベンチに座る。
復習として今日授業でした範囲を読み、わからないところに印をつけ、そして先に読み進めている。続きを全教科、ある程度読んだところで夜が明ける。公園の時計は五時半を指していた。
あたしは家に帰る支度をし始めた。シャワーを浴びて学校に行くためだ。
今日は私が机に突っ伏す番だな。
そう思うと口元が緩んだ。
朝、あたしの登校する通学路に人影はいなかった。
もちろん、音無の姿はなかった。
そして、途中にある電車の駅の改札口には出勤時間の早い大人たちがちらほらといる。
目を合わせないようにして、すっと人の間を通った。
踏切ではなく駅の構内を通っているのはそう、小学校のころからしてきた習慣だ。特に意味はない。
学校には少し歩くと着いた。
そして、あたしの下駄箱を空けてる男子生徒を視界に納める。
何してるのだろうか。あたし、靴が履き替えられないな。ガタイいいし丸坊主だから野球部だろうか。
そんなことを考えていると。あたしの下駄箱を閉めた男子生徒が胸をなでおろし、きょろきょろと周りを見出す。
あたしと目が合った。
すると慌ててあたしの下駄箱から紙きれのようなものを取り出し、それを後ろ手に隠してこういった。
「俺と付き合ってください!」
告白されたのは人生初めてだった。
「……」
だからか少し黙ってしまう。
けど少し息を吸って答えた。
「すまない」
「そうですか……」
そう一言を残して立ち去っていった背中は、あたしの下駄箱を漁っていた時より小さかった。
すこし呆然とした。
再起動したあたしは教室の自分の机に座って、そのまま突っ伏す。
私のどこに惚れたんだか。
でもなんだかいまは、自分に少し自信を持てる気がする。
そして、そのまま仮眠を取った。