そろそろか。
授業の始まる時間になったあたしは痺れた両手を振って少し背伸びをする。
ぱきぱきと気持ちのいい音がなった。爽快感を感じるままに後ろを振り向く。
音無は既に机の上でいびきをかいていた。
何だよ。
そう思ってしまった。朝にあったことを音無に言おうと思ってたから。
そのまま前を向く。
「おっはよー!」
隣の女子生徒が大きめの声であたしに挨拶をしてくる。ったく朝から元気だな。
すっと横を向けば女子生徒の顔があった。
「朝、野球部一のバントマンの鈴木先輩に告られたってホント?」
その言葉でクラスが少しざわめく。
ああ、というか、鈴木って言うんだ、あの人。
「ああ」
適当に返事をする。
「それでそれで?ふったの?」
おいおい私が振ったのは前提かよ。まあ、振ったけどさ。
「ああ」
「やっぱりかー」
そこまで言って、一度言葉を切り、音無のほうをチラッと見た後。
「じゃねー」
なんて言って、元々いたらしい会話の輪の中へと戻っていく。
周りのクラスメイトも静かになる。
そして、まあ話す相手もいないし、いや、今寝てるんだけども、あたしは教科書を開く。
授業もそろそろ始まる。
あたしは開いた教科書を読み出した。
いくらか時間が経ち終礼。その終礼もチャイムの音とともに終わる。
生徒たちもまばらに帰り始める。
「じゃあね!」
隣の女子生徒が元気良くあたしに挨拶してくる。
「ああ」
返事くらいしないと悪いだろう。
女子生徒は友達と二人で教室を出て行った。
あたしは席を反対に向ける。
「音無。宿題しよう」
音無は寝ぼけ眼をこすって、「わかった」と、言った。
宿題を終えたあたしたちは、校門を出て、途中の駅までの同じ通学路をならんで歩く。
あたしは今日の朝のことを音無に言った。
「今朝さ、野球部の先輩に告白された」
ちょっとだけでも驚くことを期待してた。
「ああ、そう」
音無は抑揚の無い声で言った。
なんかちょっと自信なくすなあ。
と、内心ちょっとだけへこむ。
今日の会話はこれだけだった。
駅に着いたら別れる。明日また会おうといって。
帰れば両親はまた、言い争っていた。
あたしは嵐が過ぎるまで自分の殻にこもった。
あたしと音無の勉強会はそれから学校のある日には毎日やった。
休日は音無がバイトをしているので会えないが、あたしは図書館にこもって勉強した。
音無によりわかりやすく教えるために。
教室や帰り道の音無は相も変わらず無口なままだ。
あたしが話しかけないと何も言わない。
まあ、そんな、なあなあな距離感、詰める切欠が掴めない日々の中。
学校行事の一つ、球技大会がやってきた。
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本当に。