艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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艦これ×Fateになります。
Arcadia様のところで投稿をしておりましたが、此方でも内容へのご指摘を頂きたくお世話になる事になりました。
終わり方は考えてありますので、そこまで進められるように頑張ります。


プロローグ――1

 衛宮士郎が目覚めたのは。

 

 見知らぬ砂浜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 燦々と降り注ぐ太陽の光。

 頬を撫ぜるそよ風。

 遠くに聞こえる鳥の声。

 そして寄せては返す波の音。

 はて。自分は寝る際に潮騒のBGMでもかけていただろうか。いやいや、そんなお洒落な趣味は持ち合わせていない。

 耳を通して脳に響く心地よさに、再度微睡みが押し寄せてきた。そんな奪われつつある意識の奥で、何故か青色の髪の友人が浮かび上がる。彼は見慣れた気障っぽい笑みを浮かべていた。

 あれは、間桐慎二。中学からの友人である。

 そう言えば彼は言っていた。眠れないときは自然の音を耳にするのが良いと。なるほど、納得である。

 これは実に良い。素晴らしい。身体も精神もリラックスできて、余計な邪念が省かれる。

 ああ、何時までもこうしていたい。まどろみに身を委ねると、浮かび上がった意識はまたも深い所へと落ちて行く……

 

 ――――ザバッ……

 

「……んあ?」

 

 足にかかった冷たさで再度意識が浮上した。意識が明瞭になると同時に腰の冷たさも感じる。

 衣服の冷えた感覚では無い。外気温に冷やされた冷たさとは別なものだ。加えるなら、冷たい物質が密着しているのとも違う。

 これは……そう、根源的な冷たさ。誰もが幼少期に体験し、自制を覚えることで離れて行く一種の癖。あるいは己の自尊心と羞恥心に作用する禁忌。ソレの始まりが未熟である事なら、ソレの再発は衰えの証である。

 とあるロングセラーのマンガにて、眼鏡をかけた少年は芸術的なソレを何度もしていたが……

 まさか。まさかまさかマサカまさかマサかまさか真逆――――

 

「ぬぉっ!? ……痛ぅぅ」

 

 ガバリ、と。勢いのままに士郎は起き上がった。顔は青ざめ、脈拍が規則を乱していた。先ほどまでとは正反対の最悪の目覚めだった。

 だが起き上がった拍子に全身に痛みが走る。思わず顔を顰め背を丸めた。言葉を失うほどに、それは予想もしなかった痛みだった。

 若干涙目になりつつ顔を挙げる。何だか色々と情けない想いが混じっていた。今にも泣き出したかった。

 しかしそんな考えは、眼前の景色を目にして吹き飛んだ。

 

 ……海?

 

 眼前には青い世界が広がっている。白い波立ち。後ろを向けば剥き出しになった岩肌。その奥には森らしきものが見える。

 どこだ、ここは。生じた疑問は至極当たり前の内容。思わず首を傾げ、

 

「うぉっ!?」

 

 足にかかった海水でまたも現実に引き戻された。見てみると、既に士郎の足は腰もとまで濡れている。今が満潮であるか干潮であるかは分からないが、相当長い事浸かっていたらしく持ち上げた足はずっしりと重かった。

 慌てて海から離れ、傍の岩に腰をかける。靴はもう駄目だろう。新しく買い替えなければならない。合わせてズボンも廃棄処分だ。これでは継ぎ接ぎはおろか他の物にあてがう事も出来ない。

 と、そこで士郎は気がついた。自分の着ている洋服がいやに汚れている事に。

 幾ら外で寝ていたとは言え、此処まで汚れることはあり得ない。

 

「……全体的に買い替えか」

 

 若干ずれた感想を抱きつつ、士郎は溜息混じりに言葉を吐いた。不思議には思ったが、それ以上に自分の姿のみずぼらしさに驚いていた。

 伸びきったシャツ。裂けた左袖。ずぶ濡れのズボンと靴。とてもではないが、日常はおろか家の中で使用するにしても無理がある。と言うか、何故こんな軽装で自分はここで寝ていたのか。

 自分が倒れていた所には他に何も見当たらない。強いて言うなら、何かの破片のようなものがあるくらい。そして所持しているのは自宅の鍵だけ。

 この場所に見覚えは無いが、これ程の軽装なら冬木市内、或いはその近辺にいると考えて間違いは無い筈。原因はさっぱり不明であるが、海沿いに歩けば市には戻れるだろう。そう結論付けて士郎は立ち上がった。

 

「さっさと帰ろう……」

 

 疲れを存分に滲ませた言葉を吐いて、やや覚束ない足取りで砂浜を歩く。ズキズキと頭が痛むのはもしかしたら飲み過ぎたからだろうか。

 はて、昨日はバイトでも入っていただろうか。あるいは藤ねぇに連れ回されでもしただろうか。

 バイト先の気の良い女主人と姉代わりの虎を交互に思い浮かべ、思わず士郎は顔を顰めた。普段は良識のある大人たちだが、酒が絡むとリミッターが外れるのだ。そしてその被害は、何故か士郎に集中する事が大半である。

 帰ったら文句の一つでも言ってやろう。証拠は無いが彼女たちのどちらかが関係している事は十中八九間違いない。普段は温厚な自分でも、怒る時は怒るのだ。

 

「痛たたた……」

 

 余計な痛みを増した頭を押さえながら、ふらふらと足取り重くその場を後にする。

 頭上ではウミネコが鳴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、どこよ。ここ……」

 

 うんざりとした表情で士郎は言葉を吐いた。眼に映る景色は何も変わりはしなかった。

 彼是一時間は歩いているだろうか。左手に大海原。右手には森。足場の起伏くらいしか変化は無い。

 本当に此処は何処なのだろうか。過る不安に遂に士郎は足を止めた。

 

「疲れた……」

 

 起きてから何も口にしていない。痛みと疲労に耐えて進んでも、回復手段が無ければ何時かは倒れてしまうだろう。と言うか、正直今すぐにも倒れたかった。

 本当に自分は何をしていたのか。心当たりが無さ過ぎて泣きそうになる。思い出せる限りで一番新しい記憶は学校に行ったところであった。手がかりには成りそうも無い。

 照りつける太陽。ゴールの無い進軍。押し寄せる不安。

 ぼぅ、と。水平線の彼方へ視線を飛ばす。船の一つでも無いかと、虚しい希望を抱いての行為だった。

 

「……あれは?」

 

 大海原。大海原。大海原。黒い点。大海原。

 見渡す限りの青い世界の中に、不自然なものが一つあった。アレは何だ。生じた疑問に応じるように、士郎は眼を細め、馴染みの呪文と共に視力を強化した。

 トレース・オン。

 あっさりと強化は成功し、視界が急激に明瞭になる。そのままに遠くの黒い点にピントを合わせると、理解し難い不思議なものが其処にはいた。

 

「……人?」

 

 いや、そんなわけないだろう。頭を振って、もう一度。あ、やっぱり人だ。……いやいやいやいや。

 呆然としつつ、それでも視線は外さない。ソレは間違いなく――――そう、人である。海の上を滑っている存在が人と認識して良いかは別として。

 そしてソレは、僅かずつながら此方へと向かって来ていた。

 

「え……え?」

 

 黒い人型は徐々に大きくなり、次第に全体像が視えるようになる。相変わらず頭はついて行ってくれないが、眼に映る情報は士郎の脳内に一つ一つ蓄積していった。

 噴きだしている黒煙。

 ボロボロの衣服。

 身に着けた金属品。

 小脇に抱えられているもう一人。

 海を滑る少女。

 ……少女?

 少女。

 蛇行している足取り(?)。

 今にも倒れそうにフラフラとしている。

 それでも此処を目指して進んでいる。

 確かに此方を見据えて。

 そして、その後方上空には猛スピードで後を追う黒い物体。

 黒い、物体。

 

「何だ、アレ……」

 

 僅かに視線をずらした先には、何かが少女たちを目掛けて迫って来ていた。当初は黒い点でしかなかったが、ぐんぐんと大きくなっていく。

 何だ、あれ?

 ソレは飛んでいた。形容し難いフォルムには、飛行に足る性能があるとは見えない。だが飛んでいた。

 既に少女たちは視力を強化しなくても目視できる距離にまで来ている。だが、此処に辿りつく前に黒い物体は彼女たちに追いつくだろう。

 アレは……良いものではない。理屈も過程もすっ飛ばして、士郎はソレに否定の感情を抱いた。アレは違う、見るからに嫌悪感をかき立てるモノだった。

 このままでは、拙い。

 

「おい、後ろ!」

 

 声を張り上げ、士郎は彼女たちに背後の危機を知らせようとした。だが彼女たちに気づいている素振りは見られない。

 聞こえない。聞こえるにはまだ距離が遠い。

 舌打ちをしつつ、士郎はもう一度声を張り上げる。だが、無駄な徒労に終わるのは目に見えた結果だ。

 ならば、他に何か手を。しかしその何かを思いつくには時間も物質も何もかもが圧倒的に足りない。

 

 ――――なら、作ればいい。

 

 考えるよりも早く士郎の身体は動いていた。身体が半身に構えられる。それと同時に、何も無かった筈の手には西洋風の弓矢と弦が握られていた。

 その所業を、一切士郎は疑問に思わなかった。あるのは目前の脅威に対する敵対の意思だけ。距離も、所業も、認識も。全ては埒外に。

 そして、放つ。猛スピードで向かってくるソレに向けて、真っ直ぐに。

 

「なっ!?」

 

 だが、放った矢は避けられてしまう。明らかに異常な飛行性能を以ってして。

 真上に跳ぶ。慣性の法則を無視した急激な軌道変更。あり得ないと、胸中に驚きが滲む。

 だがそんな余裕を感じる間も無く、ソレは再度動きを開始した。

 異常なスピードを伴って。

 

「来るか……っ」

 

 背筋を走る悪寒。噴き出た冷汗が言葉以上の危機感を士郎に与える。

 ソレが対象を変えたのは明らかだった。眼下の二人よりも此方に危機意識を持ったのだろう。二人を通り越し、真っ直ぐに此方に向かってくる。

 時間が足りない。弓を消すと、士郎は両手に竹刀を構えた。長さの足りない通常の半分程度のサイズ。そしてそれに強化をかけると、迷わず後方へと跳んだ。

 間髪いれず、士郎の居た場所に砂埃が不規則に立つ。

 

「銃撃かっ!?」

 

 目だけは良い。だからこそ気がついた。

 ソレとの距離はもう幾許も無い。だが真っ直ぐに向かってくる分、開いていた銃門らしきものを強化していた眼は目視出来た。

 それでも避けれたのは幸運でしかない。

 だが、その幸運は続く。

 

「くっ! ……けど、弾切れみたいだなっ!」

 

 あろうことは、ソレは真っ直ぐに士郎へと突撃してきた。一層の加速を以って、胴体目掛けて飛んでくる。どうにか竹刀一本を犠牲に避ける。詳細は不明だが、この場面で突撃を選択する辺り、弾切れの可能性は高い。

 そして近接戦闘しか手が無いのなら、此方にも対抗の目はある。

 そう判断すると、士郎は代わりの竹刀を顕現させる。

 

「トレース・オンッ!」

 

 翻り、またも真っ直ぐに突撃してくる。身体の反応だけでは追いつけない一撃。目視から線上を予測し、どうにか竹刀を犠牲にいなし続ける防戦。間近で見たソレは、ますます奇妙なフォルムをしている。ともあれマトモにぶつかれば、まず間違いなく胴体が泣き別れするだろう。

 歯を食いしばり、足に力を入れる。

 バランスを崩せばそれだけで全てが終わる。

 

「もっと……」

 

 もっと速く。

 飛ばされた竹刀。

 補充される代わり。

 飛ばされる竹刀。

 補充される代わり。

 だが、まだ捉えきれない。速すぎる。予測は出来ても、速すぎる。

 

「もっと……っ」

 

 もっと速く。

 手が痺れる。

 握力が失せる。

 息が上がる。

 肺が痛む。

 決めねば。尽きる前に決めねば。

 

「もっと……もっとっ!」

 

 もっと速く。

 イメージする。

 描く最短経路。

 補足の手段。

 打ち落とす一撃。

 破壊に足る武器を。

 

 

 

 ――――トレース・オンッ!

 

 

 

『ギッ!?』

 

 此処で初めて、ソレは声らしきものを上げた。生物のような感情が其処にはあった。

 戸惑い。そして恐怖。

 士郎の手元には巨大な斧剣があった。自前の腕力では持ち上がるとは思えない程強大な斧剣が。

 ソレに思考があるならば、間違い無く思っただろう。阿呆か、と。だがしかし、ならばこの悪寒は何なのか、とも。

 あの腕では持ち上がるまい。なんの手品かは知らぬが、選択を誤ったであろうことは瞭然だ。

 だが此方の武装も尽きた。主の下へ戻るには燃料も足りぬ。まず間違いなく此処が死地となろう。

 ならば、潰す。後方の彼女達よりも、目前の脅威を。

 響くエラー。赤く点滅する警告灯。動く余裕は、幾許も無い。

 加速するようにソレは上空へと飛び立った。そして重力に引かれるようにして、真っ直ぐに落ちる。速さは力。狙いは頭部。空気を切り裂き、風を纏い、唸り声を上げて特攻する。

 

 

 

 そう。

 まさしくそれは特攻だった。

 全力を尽くした――――悲しいほどの特攻だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅっ」

 

 力強く息を吐き出すと、士郎は手元の斧剣を握りしめた。不思議と恐れは無い。静かな湖畔のように、先ほどまでとは相反した落ち着きがあった。

 何故こんなものを選んだのか。理由は不明。だが、奴めを叩き落とすには充分な代物だという事は分かる。

 問題点を挙げるなら、これを扱えるかどうか。幾ら鍛えているとは言え限度はある。ましてや疲れ切った今の身体ではロクに動かす事も出来まい。

 なのに。なのになのになのに――――失敗するイメージはわかない。不思議なことに、奴を叩き落とすイメージだけはしっかりと描く事が出来た。

 イメージは描けた。自信はある。

 ならば、それで良い。

 

「トレース・オン」

 

 もう一度馴染みの詞を口にする。イメージを完璧なものとして固定するだけの詞。

 そうして頭上へと視線を向けると、ちょうどソレが此方に向けて翻ったところだった。

 

「……来い」

 

 イメージする。

 打ち落とす。

 距離。

 速度。

 到達時間。

 補足する視神経。

 経験からの予測。

 振り上げる斧剣。

 直感に従い力を解放する。

 そして意図せず、食いしばった歯の隙間から言葉が漏れた。

 

 

 

「射殺す――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酷く体中が痛んでいた。

 息をするのも苦しかった。

 耳障りな音が鳴り響いていた。

 眠い、と士郎は思った。もう限界だった。疲れたと言う言葉すら生温い程に疲弊していた。

 砂浜に大の字に倒れたまま、士郎はただ荒い呼吸を繰り返していた。喉が焼けつくように痛む。起き上がろうとする気力も湧かなかった。

 もう指一本動かせない。痛みと疲労で感覚が無い。文字通りの限界だった。

 

「……生きているか?」

 

 その士郎に声が掛けられる。女性の声だった。

 閉じていた眼を僅かに開くと、ぼやけた視界が人影を映した。

 

「……救援、感謝する。すまない、助かった」

 

 此方の状況を察したのだろう。士郎が何かを言うよりも早く、相手は言葉を紡いだ。言葉の硬さと声色の柔らかさが混合していた。

 言葉には言葉で返したい。だが、痛んだ喉は声を出せそうにない。

 僅かに逡巡し、代わりに士郎は右手に全力を注いだ。拳を握り、親指だけ上げる。

 サムアップ。

 そして、無理矢理に笑みを作る。

 俺は大丈夫だと。せめてもの意地を張って。

 

 

 

 そこまでが士郎の覚えている最後の事だった。

 




最後まで読んで頂きありがとうございました。
今後ともお目を通して頂ければ幸いです。
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