艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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人名は適当です。
特に基準は設けておりません。



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『金剛』

 

 金剛型姉妹の長女にて、金剛型のネームシップ。

 横須賀の鎮守府に所属し、弓削提督の指揮下にて弓削艦隊の旗艦を務める。

 高い戦闘能力を誇る、日本の主力艦娘の一つ。

 

 (中略)

 

 鉄底海峡奪還作戦時に消息を絶つ。

 同じくして、同作戦に出撃した霧島、満潮、吹雪、磯波、白雪も消息を絶った事から、一艦隊ごと轟沈した可能性が高い。

 

 

 

 ――――艦娘記録、『金剛』の項目より、一部抜粋

 

 

 

 

 

「こ、金剛?」

「Yes! 英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

「あ、ああ、よろしく……?」

「ふふっ♪ 第一印象通り、とってもnice guyネ。お会いできて光栄デース! 私の活躍、期待して下サーイ!」

「う、うん……」

「それじゃあMr.衛宮。これからミッチーに怒られてくるので、その後でゆっくりお話しをしまショー! Bye!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嵐のような、とはまさに今のような事を指すのだろう。

 突如現れた女性による一方的な挨拶。飲まれたまま、流れに任せるように相槌を打つ。一頻り言葉を交わして満足したのか、ウィンクと投げキッスを置き土産に、彼女は部屋を出た。慌ただしくも、何故か気品を感じされる洗礼された行動。

 士郎は思った。投げキッスが絵になる人っているんだ、と。

 茫然としたままゆっくりと、傍らにて口を開いたままの磯波と目を合わせる。

 

 ……どういうこと?

 ええと……

 

 困ったようにドアと士郎とを交互に見る磯波。

 そうして、困ったように微笑まれる。言外にまだ思考が追いついていないと言われる。

 

 ……どういうこと?

 ……私が知りたいわよ。

 

 視線をずらして叢雲を見る。彼女もドアと士郎を交互に見た後、不機嫌そうに眉根を寄せた。それだけで彼女が何を考えているか、士郎は察する事が出来た。

 磯波と叢雲の二人からは応えを得られない。

 となると、あとは……

 

「……そうっ、金剛さんよ! 金剛さんがいるのよっ!」

 

 ありがとう、雷。まずはそこからだよな、うん。

 意識を戻したのか、先ほどの調子を取り戻す雷。彼女は慌ただしく両腕を振りながら声を上げた。金剛さんがいたのっ、金剛さんがいるのっ、何で金剛さんがいるのかしら、そうだ金剛さんに聞いてこなくちゃ!

 ガチャガチャ、バタンッ。

 ……ああ、そうだよな。うん、そうだよな。分からなきゃ訊きに行くよな。

 慌ただしく出て行った雷の背を見送る。出会ってまだ半日も経っていないが、何となく彼女の性格を掴めたように士郎は思った。

 

「……まぁ、雷ちゃんの事は放っておいて、誰かに訊きに行くのは当然よね」

「当の本人に訊きに行っても、ちゃんとした答えを用意してくれるとは思えないけどね」

「それもそうね。……じゃあ、訊くとすれば――――」

「――――ミッチー。多分、満潮の事かしら」

「でしょうね。じゃあ、行きましょうか」

「ええ」

 

 一方の荒潮と叢雲。冷静な二人は、先ほどの会話から事情を知っていそうな満潮に、事の仔細を訊ねに行くらしい。

 ヤレヤレってやつね。愚痴をこぼしつつもも、荒潮の肩を借りて叢雲は立ち上がった。緩慢な動きは出会った時以上の体調の悪さの証明。だが今の体調以上に、彼女は知らないままでいる方が嫌なのだろう。

 二人はどうするの?

 部屋を出ていく間際。思い出したかのように、叢雲が士郎たちを見る。

 

「……俺はいいや。金剛さんの事、大して知らないし」

 

 彼女に興味が無いわけではないが、どうしても訊きたい事柄があるわけでもない。

 優先順位の問題だ。士郎が訊くよりも、叢雲たちの方がよっぽど有意義な情報を得られる。

 それに、そもそも、

 

「俺は寝ているよ。……少し疲れた」

 

 色々な事が起きすぎた。これで目覚めてから半日も経過していない事が恐ろしい。

 そうね、その通りね。それ以上の追求をすることなく、叢雲は士郎の意を汲んだ。元より何と応えるかは、あらかた予想が付いていたのだろう。

 それで、磯波は?

 もう一人。まだ応えぬ少女に視線を向ける。

 

「……いえ、私も良いです」

 

 意外にも。

 一瞬。迷ったような素振りを見せるも、磯波は否定の言葉を口にした。

 

「衛宮さんを一人には出来ませんし」

 

 ちらりと。

 士郎を見る。

 

 

 

「私には、訊きたい事は無いので」

 

 

 

 浮かべた笑み。

 感情の無い声。

 一変した様相。

 

「……磯波?」

 

 それは分かりやす過ぎる違和感。

 叢雲が怪訝そうに、荒潮が驚いたように表情を変える。彼女たちも磯波の違和感には気が付いているらしい。歩みを止めて、わざわざ二人は磯波の方へと体勢を向けた。

 

「……?」

 

 一方で。只一人、磯波だけがこの状況を掴めないままでいた。

 何故驚いたように名前を呼ばれたのか。

 何故こんなにも視線を集めているのか。

 何故この場の空気が留まっているのか。

 その理由に思い当たらないのか、彼女は僅かに小首を傾げた。

 

「? 何か……?」

「……いえ、何でも無いわ」

 

 くいっ、と。叢雲が急かす様に荒潮の袖を引く。

 一瞬の目配せ。囁かれた言葉。

 士郎たちからでは距離がありすぎて聞こえない。それでも口の動きから察するに、囁かれた言葉は一つや二つ程度だろうか。

 だがそれだけで。納得したように荒潮は頷いた。

 

「……そうね。……じゃあ、私たちは行ってくるわ」

「磯波、そこの阿呆の監視は任せたわ」

「はい、衛宮さんの事は任せて下さい」

 

 そうして。釈然としないものを残しながら。

 二人は出て行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「おまたせー」

「……何の用かしら」

 

 叢雲と荒潮が出て行って数分。

 士郎が磯波と二三言葉を交わした所で、二人が戻ってくる。

 ……連行するように、一人の少女を連れて。

 

「遅くなってごめんねー、ちょっと取り込んでててねー」

「苦労したわー、こっちは怪我人だってのにー」

「質問に答えなさいよ」

 

 二人の後ろ。その隙間。

 黄土色の髪が揺れているのが見える。

 そして聞こえる、僅かに怒気を含んだ少女の声。

 

「……満潮ちゃん?」

「ええ、そうよ。……で、何の用かしら?」

 

 驚いたように名を呼ぶ磯波。

 不機嫌さを隠そうともしない満潮。

 そして何故か得意げな表情の荒潮と叢雲。

 四者三様の表情が、そこにはあった。

 

「またまた~。此処に連れてきた時点で、用件なんて一つしかないじゃない?」

「金剛さんの事、知っている事全部話してもらうわ」

「……やっぱりね」

 

 予想はしていたのだろう。諦めと納得と疲労はが混じったような息を満潮は吐き出した。

 

「でもここまで連れてきた理由は? 広間じゃダメだったの?」

「金剛さんの前じゃ話せない事もあるんじゃない?」

「……相変わらず妙な所で聡いわね」

「満潮ちゃんが分かりやす過ぎるだけだと思うけどなぁ」

「……ハッ、言ってくれるじゃない」

 

 軽快に言葉を交わす荒潮と満潮の二人。此処に来る前からの知り合いだったのだろうか。言葉面だけみるとやや剣呑だが、二人の表情に陰りのようなものは一切見られない。ともすればそれは、気心の知れた者同士のじゃれあうような会話と言えた。

 

「――――」

 

 だからだろうか。

 

「――――い」

「え?」

 

 

 

「……ごめんなさい。少し、私、外に出ていますね」

 

 

 

 呟くように、囁くように。集中しなければ聞き取れないような声量の言葉を残し、磯波は立ち上がった。

 

「……磯波?」

「ごめんなさい。……少し、失礼します」

 

 叢雲を、荒潮を、満潮を。避けるようにして、磯波は早足で部屋を出る。

 誰も彼女の歩みを止められない。

 ただ視線だけが、閉じられた扉に集中する。

 

「――――あぁ、成程」

 

 そしてその中で。

 いち早く事の仔細を察したのか、満潮が言葉を吐き出す。

 

「事情は分かったわ。……そう言うことね」

 

 苛立つわけでもなく、咎めるわけでもなく。

 ただ落ち着いた声量のまま。

 意外な事に、誰よりも早く彼女は状況を受け入れた。

 

「とすると……私をわざわざ呼んだのは、磯波の件も含んでいるってことで良いかしら?」

「え、ええ。その通りだけど……」

「大体は把握したわ。ま、あれだけあからさまな態度を取られれば、気になるのは当然よね……」

 

 まったく、世話の焼ける。苦虫を噛み潰したかのような表情と、重々しい言葉。そうして頭を掻き回すと、満潮は傍らの無人のベッドに腰を下ろした。

 そしてその容姿に似合わぬ、大きすぎる息を吐き出す。

 

「磯波の事は気にしないことね。これは、アイツ自身が解決しなくちゃいけない問題だから」

「……出来る事は無いの?」

「無いわ。これは当人たちで解決する問題。第三者が関わる事ではないわ」

 

 言い切られる。ハッキリと。冷徹さすら感じるほどに。

 流石の荒潮も、これ以上は言葉を重ねられない。

 心情はどうあれ、満潮の言葉を否定できる材料を荒潮は持っていないからだ。

 

「でもその言葉通りなら、アンタは何があったかは知っているんでしょ」

 

 だがそんな二人の間に、第三者の声が割り込む

 叢雲。

 発せられたのは疑問系では無く、断定の口調の言葉。

 

「磯波の事も、金剛さんの事も、全部知っているんでしょ」

「……だったら?」

「別に。でも共有すべき情報はあるんじゃないの?」

 

 それとも知らないままでいろと?

 咎めるわけでもなく、責めるわけでもなく、ただ疑問を口にする。そして満潮とは反対側の――士郎が寝ているベッドに腰を下ろした。

 

「状況は悪くなる一方。時間も残されてはいない。……悪いけど、アンタの考えに悠長に付き合うつもりは無いわ」

「……」

「……そうね。満潮ちゃんには悪いけど、私も叢雲ちゃんの考えに賛成よ」

 

 壁に背を預け、荒潮も叢雲に同意の意を示す。

 無論、士郎も根本的には彼女たちと同じ考えだ。

 

「アンタは当人たちの問題って言うけれど、放っておく事に利があるとは思えない。ましてや今の状況で、徒に時間を費やす事は悪手でしょ」

「解決の糸口があるのなら、私たちも動くべきだと思うわ。……それに、あの様子の磯波ちゃんが、自分から解決できるとは思えないし」

 

 思い返す。初めて会った時の事を。

 酷く怯えた表情で、引き金に指を掛け、今にも不安に押しつぶされそうだった少女を。

 

「言っとくけど、アンタが答えないなら勝手に行動するだけよ」

 

 最後通告。そう言わんばかりの言葉。

 叢雲の言葉に嘘は無いのだろう。やると言ったらやる。駆け引きでも何でもない、ただの宣言。

 そしてその意味が分かるからこそ、満潮は一層顔を歪めた。

 

「……それに意味が無くとも?」

「意味の有無はアンタが決める事じゃないでしょ」

「失敗すれば壊滅的になろうとも?」

「今ですら酷い状況なのに、これ以上悪くなる事を恐れるの?」

「……金剛さんはともかく、磯波には時間が必要よ」

「その時間を迎えるのと、私たちが骸になるの、どっちが早いのかしら?」

 

 詰んでいた。どうしようもなく。満潮の言葉にも正当性はあるが、それ以上に現状に猶予が無い。

 押し黙る満潮。停滞する場。一変した空間。ただただ、重苦しい。

 これ以上の問答は無用。そう判断したのか、荒潮がドアノブに手をかける。

 それを見て、満潮は盛大に息を吐き出した。

 

「……ホント、揃いも揃ってお人好しね。……誰に感化されたんだか」

 

 呆れた様に言葉を吐き出される。彼女は半眼で荒潮を、叢雲を、そして士郎へと視線を移した。

 もう一度、息を吐く。

 

「知ったところで何も出来ないわよ。これは本当に当人たちの問題なんだから」

「それは、確かにそうかもしれないけど……」

「本っ当にお人好しね……」

 

 吐かれた溜息は呆れか、それとも諦めか。

 少しだけ顔を歪め、観念したように彼女は口を開いた。

 

「……まぁ良いわ。何があったのかくらいなら、アンタたちも知っておいた方がいいでしょうし」

 

 もう過ぎ去った話よ。

 そう言って、彼女は一つの話を始める。

 

 

 

「金剛さんと私と磯波は、同じ艦隊だったの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同じ艦隊……?」

「ええ。この徹底海峡奪還作戦のために再編された、特別部隊ってこと」

 

 再編された特別部隊。

 その言葉に嫌な感情を士郎は覚える。

 そしてそれは叢雲や荒潮も同じだったのだろう。

 そんな3人の顔を見て、満潮は諦観気味の薄ら笑いと共に言葉を出した。

 

「艦種も練度も一部を除いてバラバラ……早い話が『捨て艦』よ」

 

 捨て艦。その言葉に聞き覚えはある。初めて出会ったときに、彼女の口から出てきた言葉だ。

 作戦。

 再編。

 練度。

 特務部隊。

 そして捨て艦。

 当時の士郎では分からなかったが、今ならばその意味を察する事が出来る。

 

「他にいたのは、霧島さんと吹雪と白雪。まさにお手本のような編成部隊だったわ」

「……」

「……作戦としては正しいわ。人海戦術を採択しなければならないほど、戦況は悪化の一途を辿っていたから。綺麗事だけでは解決のしようが無かった」

 

 この場で唯一知識が足りない士郎にも分かるように……と言うよりは、自身の記憶を整理するべく、彼女は背景も交えて説明をする。

 金剛、霧島、満潮、吹雪、白雪、磯波。

 彼女のの口から出るは、今は過ぎ去りし六人一組の物語。

 

「一応本人たちの名誉の為にも言っておくけど、私たちは勿論、金剛さんと霧島さんだって作戦には反対だった」

「……それは、そうよ。賛成なんかするわけがない……」

「ええ、そう。……でも、従わざるを得なかった」

 

 上層部の決定には逆らえるはずがない。如何に艦娘として優れていようとも、彼女たちはあくまでも兵士であり兵器。輝かしい戦歴も、築き上げてきた誉れも、そして敵を抹殺できる力すらも、命令を覆すには至らなかった。

 ギリギリまで食い下がっていたらしいが、結果として2人は引き下がらざるを得なかった。引き下がるしか他が無かった。

 

「2人とも――いえ、皆気づいてはいたのよ。その案を採択しなければならないほど、状況が芳しくないってことくらい」

 

 それでも、その考えを認めてはならない。認めてしまっては、それこそ艦娘で在ることの意味が無い。

 故に、引き下がった後の2人の行動は早かった。海域の情報、敵の情報、友軍の情報、援軍の情報……手に入るだけかき集め、敵を殲滅するべく作戦を立てる。

 情報と、予測と、経験と、最後に勘と閃きを。

 無論、作戦を立てている間にも、駆逐艦4人の特訓は忘れない。

 なにせ彼女たちに出来る事は、せめて全員が無事に帰還できるように全力を尽くすだけなのだから。

 

「圧倒的に時間が足りない中で、一週間もの準備期間を得られたのは僥倖だったわ」

 

 得られた猶予は一週間。

 その一週間の間に、六人は死に物狂いで、生き残る確率を上げるべく行動した。

 海域の海図。敵の勢力。観測情報。気象の影響。敵主力艦隊の情報。全てを頭に叩き込む。

 武装の扱い方。敵影の察知方法。攻撃の避け方。味方とのコンビネーション。全てを身体に叩き込む。

 休息はあろか、眠る間も無い。あるはずがない。

 それもこれも、生きて帰ってくるために。全員で揃って帰ってくるために。

 そうして、六人は出陣の日を迎える。

 

「今でも覚えているわ。大雨が降る、最悪な天候の日だった」

 

 最悪な日だったが、身を隠すには最良の日だった。荒れる波間に隠れるようにして、無駄な戦闘を行う可能性を下げて、進軍する事が出来る。少しでも敵の元に辿りつくために、彼女たちは天候すらも作戦の一つとして数えていたのだ。

 

「狙いは大成功。誰一人として欠けることなく、この海域に突入する事が出来た」

 

 そして、その後も。事前の取り決め通り、彼女たちは余計な戦闘行為に及ぶ事無く、敵本陣を潰す為だけに足を走らせた。流石にこの海域では敵に捕捉されるが、彼女たちは常に逃げの一手を選択し続けたのだ。

 誉れは置いてきた。

 誇りは捨て去った。

 それもこれも、敵の親玉の首級を上げ、全員で生きて帰る為に。

 

「事前の準備もあったけど、やっぱり金剛さんの指揮が素晴らしかったわ。寄せ集めの艦隊が誰一人欠けることなく、最奥部まで進軍出来たんだからね」

 

 国の主力艦隊ですら、満足な状態で敵の主力艦隊と矛を交える事は、稀と言えた。

 にもかかわらず、金剛の指揮もあり、艦隊は目立った損害を受けることなく、敵の親玉を発見する事が出来た。

 それはいったい、どれほどの奇跡だっただろうか。

 

「ま、そこまで奇跡が続けば充分だった。……充分すぎたのよ」

 

 だが敵の主力艦隊を発見した所で、マトモに対抗できるのは金剛と霧島の2人のみ。満潮たちのような練度の低い艦では、幾ら訓練を経ていようとも、太刀打ちできる道理などある筈が無い。

 だから、この結果は。最初から分かり切ったようなものだった。

 

「最初に沈んだのは白雪だったわ。砲弾の直撃で、本当に一瞬の事だった」

 

 敵艦隊を視界に収めるのと、爆風が視界を塞いだのは、全くの同時だった。

 轟音と共に足場までもが揺れる。

 そうして体勢を立て直し、再び目を開いた頃には、仲間が1人消えていた。

 一瞬。本当に一瞬。

 3秒もしない間に、先ほどまで会話していた筈の仲間が、跡形も無く消えてしまった。

 

「金剛さんと霧島さんの判断は総員撤退。これ以上に無い程早い決断だった。……でも、敵の方が上手だったわ」

 

 総員撤退。金剛は敵との力量差を認めて、撤退を指示した。相手を倒す可能性が、今の自分たちでは、万に一つも無い事を悟ったのだろう。

 だがその動きを、黙って敵が見逃すはずが無い。

 指示を受けて、撤退をすべく行動しようとした瞬間には、満潮たちの頭上に砲弾が降り注いでいた。

 

「何もかもが遅すぎた。当然よね。敵は私たちが補足するずっと前から、準備を終えていたのよ」

 

 回避は間に合わない。受けるには耐久が低すぎる。どうにかする手立ては無い。

 それだけで、思考が止まってしまった。

 諦めるには充分過ぎたのだ。

 

「でも、生き延びた」

 

 満潮には霧島が、磯波には金剛が。幸か不幸か、手が届く範囲にいた。

 彼女たちにそれぞれ抱えられる形で、2人は守られた。

 響く爆撃音と熱気。伝わる衝撃。硝煙の臭い。

 転がり、投げ飛ばされるようにして4人は爆心地から抜け出す。

 吹雪の姿は見えなかった。

 そして煙が晴れる待つ時間も無かった。

 

「視界が遮られている間に、霧島さんが囮になって、金剛さんは私と磯波を抱えて撤退」

 

 きっと最初から打ち合わせは済んでいたのだろう。損害の度合いが大きい霧島は留まる事を選び、軽微な金剛は2人を抱えてその場を後にする。

 言葉は交わされない。

 只の一度も振り返らない。

 だからその後の事は知らない、分からない。

 

「それで逃げて逃げて逃げて……逃げ続けて、此処に辿りついた」

 

 元・マカリスター海洋研究所。

 アイアンボトムサウンドに位置するこの施設が、旧海洋研究所を改造した対深海棲艦用拠点であることは、事前に得ていた情報で分かっていた。同様に、随分と前に放棄されたという事も。つまりは、補給は期待できないような、廃墟同然の施設であると言う事を。

 だが、今3人が欲しているのは、身を落ちつけられる場所だ。

 閉じられていた鍵を強引にこじ開け、転がりこむ様に内部に入る。情報通り放置されて大分時間が経つのか、中の空気は淀んでいた。

 だがそんなこと、3人は全く気にしない

 傷ついた身体。消耗した体力と精神。そして漸く身を落ち着けれそうな所に辿りついたと言う安堵感。

 張り詰めていた緊張感は切れた後で。

 ならば、眠りに落ちるのに必然であり。

 再び満潮が目を覚ました頃には、全てが過ぎた後だった。

 

「金剛さんは一筆だけ残して倉庫に引き籠った後だった」

 

 『ごめんなさい、少し休みます』

 普段の彼女らしからぬ文と、震えた筆跡。

 倉庫のドアを叩いても、彼女が出てくる事は無かった。

 

「そして磯波は記憶を失っていた」

 

 正確には、艦隊を再編されてからのことを、彼女の脳は記憶していなかった。

 何が自身たちに起きていたかを忘れ、何故この海域にいるのかを忘れ、自分たちが過ごした一週間を忘れ。

 つまりは満潮や金剛は勿論、沈んでしまった霧島も、吹雪も、白雪の事も彼女は忘れていた。

 

「こんなところかしらね。……あとはアンタ達も知っての通りよ」

 

 その後については語るまでも無い。

 程なくして荒潮が、叢雲が、そして士郎たちがこの場所を訪れる。

 だから後の事は皆が知っての通り。もうお話はお終い。手を叩いて告げる。嘘偽りの無い、皆が知らなかった彼女たちだけの物語。

 

「言ったでしょ。『当人たちの問題』だって」

 

 感情の色が見えぬ声で、そう満潮は言い放った。

 分かっていたのだ。彼女は、きっと、最初から。

 そうして溜息を一つ。一つだけ吐いて、立ち上がった。

 

「まぁ……でも、悪い話ばかりではないわ。二人には改善の兆しが出ているもの」

「改善の、兆し?」

「ええ。金剛さんは倉庫から出てきたし、磯波も記憶は戻っている。後は当人たち……と言うよりは、磯波がもう少し前に出るだけね」

「……記憶が戻っている?」

「本人の自己申告を信じるならね。……尤も、思い出したのはつい昨日。それも、アンタら2人を救出する際の事らしいわ」

 

 顎で指される士郎と叢雲。2人、昨日、そして救出となれば……

 

「……どう転ぶか分からないものね」

 

 小さく。士郎にしか聞こえないような声量で、叢雲はそう零した。きっと彼女も、士郎と同じ事を考えているのだろう。

 無茶をして出て、無謀な戦闘を行って、そして2人して死にかけて。

 それでもその行為は、意図せぬところで意外な結果をもたらしている。

 ……本当に何がどう転ぶか分からないものだ。

 

「……ホント……感謝をしているわ」

 

 ポツリと。満潮の口から、意外な言葉が零れる。 

 

「……金剛さんと言い、磯波と言い……正直、復調の兆しが出るとは思っていなかった。……何時までもあのままだと思っていたわ」

「……」

「だから……その切欠を作ってくれたアンタには、どういう理由で行動したのであれ、感謝をしている」

 

 ここにきて、初めて。満潮が士郎へと視線を向ける。

 まっすぐに。柔らかな頬笑みと共に。

 見惚れるような笑みと共に。

 

「……満潮ちゃん?」

 

 意外だったのだろうか。

 荒潮が驚きと共に名を呼ぶ。

 尤も、それは聞こえるかも分からない程に、小さな呟きだったが。

 

「――――っ!」

 

 が、聞こえたのだろう。

 一瞬。本当に一瞬。

 一瞬で満潮は引き攣ったような顔を見せ、

 

「――――なさい」

「……え?」

「――――忘れなさい。今すぐ。余計な事まで話し過ぎたわ」

 

 しまった、と。そう言いたげに、彼女は額に手を当て俯いた。顔を見せぬように、誰にも見えないように頭を垂れる。

 

「んー? みーちーしーおーちゃ~ん?」

 

 だが。

 逃がさない、と。そう言いたげに笑みを浮かべる荒潮。間延びした声は、まるで玩具を手に入れた喜びのようで。先ほどまでの押し黙った彼女は消え失せていて。

 呆れた。叢雲はそんな二人を見て、呟きを零す。諸々の意味を含んだその言葉は、これ以上も無く正鵠を射ていると言えた。

 そう。

 先ほどまでのシリアスな空気はどうしたんだと言わんばかりに場が軟化し、

 

「満潮っ!」

 

 見計らったかのようなタイミングで、部屋に1人分の影が颯爽と入り込む。

 肩口で揺れる、やや濃いめの栗色の髪の毛。

 白が基調のセーラー服。

 ふわりと浮かんだスカート。

 白っぽいナニカが見え――――何故か隣から拳が士郎の頬にクリティカルヒット。

 へごっ、と。口から変な声が洩れた。

 

「見つけたっ!」

 

 駆逐艦、雷。

 息を切らせて再来訪。

 

「金剛さんから、詳しい話は満潮に訊いてって言われたわっ! さぁ、洗いざらい話して頂戴!」

「……はぁ」

 

 心底嫌そうな顔で、聞えよがしに満潮は息を吐き出した。

 

 




おまけ(と言う名のNG)


「満潮っ!」

 見計らったかのようなタイミングで、部屋に1人分の影が颯爽と入り込む。
 肩口で揺れる、やや濃いめの栗色の髪の毛。
 白が基調のセーラー服。
 ふわりと浮かんだスカート。
 肌色のナニカが見え――――ると同時に視界が温かいもので覆われ閉ざされる。

「な、何でアンタなにも履いてないのよ!?」
「え? だって今乾かしていて替えが無いから」

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