艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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明るい話ばかり書いているとシリアスな話を書きたくて。
シリアスな話ばかり書いていると明るい話を書きたくなります。


1-10

 調子が悪いことに気が付いたのは、一眠りした後の目覚めからだった。

 金剛の登場、満潮たちの過去、にわかに騒がしくなった病室。

 話の収拾がつかなくなってきた所で、怪我人である士郎と叢雲の体調を考慮し、2人を除いた面々が以降の内容については会議室で話し合う事を決めたところまでは覚えている。

 時計へ視線を向ける。

 最後の記憶から、大体5時間ほどの時間が経過していた。

 

「……熱、か?」

 

 身体が熱っぽく、そのくせ震えそうなほどに寒い。呼吸は荒く、目眩のせいで世界が回って見える。そして指一本動かす事すら億劫に思えるほどの身体のダルさ。

 典型的な発熱の症状。

 無理もない、と士郎は思った。ここ数日は、ともかく色んな事があった。海岸での目覚めから、金剛たちとの出会いまで、濃すぎるイベントが目白押しだ。身体も精神も休む暇が無いまま、今日の日まで突っ走ってきたのだ。

 ならば調子を崩すのも道理であり、寧ろ今まで崩していなかった方がおかしい。

 

「叢雲は……いない、か」

 

 首だけを動かして、傍らのベッドに視線を向けるが、そこに叢雲の姿は見えない。

 よかった。士郎はそう思った。もし彼女がいたら、自分の体調不良に気づかれてしまっただろう。

 骨折をし、身動きが取れない状況で、これ以上余計な心配ごとを増やさせるわけにはいかない。

 体内に篭った熱を吐き出すように、深々と息を吐き出す。

 

「……もう少し、寝よう」

 

 疲れから生じたか、或いはウィルス性か。

 何れにせよ現状の特効薬とは寝る事である。今は幸か不幸か安静にできる――と言うか安静にせざるをえないのだから、十全にこの時間を休息に宛がうべきだ。

 そうとも。

 少し寝れば、回復するさ。きっと。

 

 

 

 そうして。意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりの静かな時間を噛み締める。ここ数日は兎に角忙しかった。不安も恐れも明日の事も何もかも考えずに寝転ぶのは何時以来だろうか。何もしないという幸せを感じながら、三日月は大きく息を吐き出した。

 正確に言えば、状況は何も変わっていない。相変わらずここは激戦海域であり、1秒先には深海棲艦の襲撃を受ける可能性がある。文字通り、死と隣り合わせの日々。

 それでも。彼女の不安は薄れていた。安堵感すら覚えていたのだ。

 何せ今の研究所には、新しい艦娘がいる。

 名を、金剛。種別は戦艦。

 彼女は三日月たちと同じく、決して軽微とは言えない傷を負っている。

 だがそれでも彼女は戦艦だ。今まで中破以上の駆逐艦と軽巡しかいなかった面々に、戦艦と言う種別が一人いるだけで、心の面持は大きく変わる。戦艦と言うのはそれだけ強大な存在なのだ。

 

「はぁ……」

 

 気の抜けた溜息。満潮辺りが聞いていたら咎めそうなレベルだが、幸いにして会議室にいるのは三日月ただ一人である。激務から解放されたような表情と姿勢で、ソファーに寝転がる。

 本当に久しぶりの休息。一度安堵感に捕らわれると、全自動的に感情も追随する。

 この海域に出撃してから気の休まる日なんて来るはずがない。ましてや生真面目すぎる彼女は、今の今までずっと気持ちを張り詰め続けていた。

 

 何度でも言おう。この瞬間は、彼女にとって本当に久しぶりの休息なのだ。

 

 なお他の面々については、見張り番の荒潮を除いて、自由行動となっている。

 金剛と満潮と木曾は、別室で話を継続。

 磯波は叢雲のリハビリの付き添い。

 雷は衛宮士郎の元へすっ飛んでいき。

 ……望月は、不明。

 不明。

 不明。

 不明。

 

 ……思えば最初の会った時から望月はおかしかった。

 

 姿勢を正し、三日月は考える。

 思い出すのは、初日の出会い。出会った直後の望月は、無表情だった。

 いつものように気怠げな挨拶と共に入ってきたくせに、まるでその表情には何の感情も浮かんでいなかった。受け答えすらも機械的だった。

 その時は、それも仕方ないと思った。何せ場所が場所だ。これで望月が元気いっぱいだったら精神の疾患を疑うし、こちらも平常通りに取り繕える気がしない。「やっほー、望月だよーっ! よっろしくー☆」とか、「もっちーだよー、はっぴー、うれぴー、よろぴくねー」なんて言われた日には、これ以上苦しまないように、一思いにと引き金を引くだろう。誰だってそうする、私だってそうする。

 

 閑話休題。

 

 ……兎に角、あの日の望月は様子がおかしかった。いや、様子がおかしいのは仕方なしにしても、それが今でも続いていて、同じ姉妹艦だと言うのに、今日に至るまで会話らしき会話をした記憶が無い。

 ……これは問題だ。三日月はそう思った。望月が、ではなく、自分が、である。

 姉妹艦だと言うのに、今の今まで望月の様子に気が付くことが出来なかった。それだけでも恥ずべき問題なのに、この空いた時間を自身の休息のためにあてがうとは何様のつもりなのか。

 真面目な三日月はそう思った。問題を先延ばしにする趣味は無いし、気が付いた以上は放っておくことは出来ない。

 兎にも角にも、まずは本人を見つけて話をしなければ。立ち上がり頬を叩く。

 善は急げ、と。部屋を出ようとドアノブに手をかけようとし、

 

「だ、誰かいるっ!?」

 

 どーん、ばーん。

 壊さんばかりの勢いで目前のドアが開け放たれたと思えば、間髪入れずに茶色の物体が飛び込んでくる。

 思わず飛びのく三日月。

 勢い余ったソレは、回避した三日月に構うことなく、そのまま部屋の中央まで走り抜けた。

 

「あ、三日月っ!」

 

 振り向いた先にいたのは、雷。先ほど出て行ったばかりの同僚。

 げっ、と。思わず眉根を寄せる。面倒ごとだ、と予想できたからだ。

 あまりにもタイミングが悪すぎる。何も今じゃなくていいじゃない。30秒、いやせめて10秒後なら鉢合わせしなかったかもしれないというのに。

 とは言え、過ぎたことを言っても仕方が無い。たらればの話は後回し。真面目な彼女に雷を放っておくなんて選択肢があるはずもなく、心の中で溜息を吐いて、彼女は雷へと向き直った。

 尤も、そんな事を思えたのはこの時まで。

 次に雷の口から発せられた言葉が、全てを覆す。

 

 

 

「助けてっ! 衛宮さんが死んじゃうっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……42℃。人間が出していい熱じゃないわね、コレ」

 

 苦し気に息を吐く衛宮士郎を一瞥し、満潮は淡々と言葉を重ねる。

 衛宮士郎が高熱を出した。言葉にすれば、たったこれだけ。だがこれだけの事で、天秤は大きく最悪に傾いた。

 

「……衛宮さん、死んじゃうの?」

「このままならね」

「……満潮ちゃんっ」

 

 咎めるような声に、満潮は振り返る。

 珍しくも三日月が睨んでいた。

 

「……悪いけど、事実は事実よ。この研究所に解熱剤は見当たらない。例えあったとしても、満足な食事すら摂れていないのに、薬を飲んでも効力を発揮できるとは思えないわ」

「……っ」

「彼は人間よ。私たち艦娘とは違う。……寧ろ、良く保った方ね」

 

 その通りだ。言葉の通りなのだ。

 衛宮士郎がここに来てから、可能な限りまともな食事を出してきた。だがその殆どが水や缶詰。栄養はあったとしても、精神的に安らげるかと言えば否だ。

 まして彼は、ヌ級との戦闘行為――もっと言えば、合流以前に敵艦載機と戦闘を行っている。体力の消耗は段違いであり、遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。寧ろ碌な休息も取らずに今日まで動けていた事がおかしいのだ。

 だから満潮は、雷と三日月が助けを請うて来た時には、既にこの結果について予想がついていた。何せつい先ほどまで、もしも彼が倒れてしまった場合について、金剛と木曾と話し合っていたのだから。

 

「都合の良い希望は持たず、なるべく彼が安静にしていられるようにする事。それくらいが私たちの出来る事よ」

 

 自分がどれだけ残酷で冷たい事を言っているのか。

 それを承知で満潮は言葉を重ねた。

 

「余計な事はしない方がいいわ。……あと、そうね。覚悟だけはしておく事ね」

「かく、ご……?」

「ええ、そう。どう転んでも、冷静にいられるように……ね」

 

 その言葉が何を意味する事か、くらい。予想ぐらいは着くのだろう。雷と三日月の両名が黙ったところで、満潮は立ち上がった。これ以上ここにいても仕方が無いからだ。

 ……あと、扉の外で聞き耳を立てている阿呆どもにも説明をしなければならない。やるべき事は。他にもまだある。

 小さく、誰にも聞こえないくらいの声量で言葉を零す。

 

「……ま、後は任せたわ」

 

 大体にして、そもそも。

 もしも彼の処遇を彼以外が決めるとするのであれば。

 それは自分たちではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 災難は何時だって畳み掛けてくる。

 そして上手く対処していく事を強いられる。

 そんな事は自身の経験から、嫌と言うほど分かっていたことだ。

 

「全く……少しは勘弁してほしいネー」

 

 誰にも言えない文句を金剛は零した。彼女は自身の存在が皆にどう影響を与えるかを熟知している。だからこそ、人目がある前では大っぴらに愚痴も吐けない。

 1人、つい数時間前まで引き篭もっていた部屋に戻り、ガラクタの山を漁る。何か少しでもいいから使えるものがないか、彼女は探していた。

 だが結果は芳しくない。

 

「……弾薬が三つ、デスカ」

 

 武器、ではない。これは姉妹から貰ったお守り。使えない武装は捨ててきても、これだけは後生大事に持っていたらしい。

 ま、これは捨てられないし仕方ないネー。ポケットに無造作に突っ込んで、もう一度漁り回る。だが結果は同じことだった。

 

「Humm……これは拙いネー……」

 

 衛宮士郎が倒れた。まぁこれは予想はしていた事だ。何せちょうど先ほどまで、満潮と木曾との三人で、もしもの場合を想定して話し合っていたくらいだから。

 が、幾ら何でもタイミングが悪い。話し合ってすぐに現実になるとは思わなかった。自分の不甲斐なさが原因の一つだという事は分かっているが、やっぱり神様は意地悪である。もう少しくらい猶予を持たせてくれてもいいのに。明後日の方向へ文句を飛ばしながら、金剛は自身の艤装を持ち上げた。

 ――――砲撃、一発分。

 余計な機能を捨て去った故の軽い事に若干の驚きを覚えつつ、溜息を吐き出す。

 どんな手段を取るにせよ、現状は絶望的だ。

 

「武器と言えるのは……あとは手榴弾1発程度……」

 

 元より、こんな役立たずの引き篭もりの部屋で、現状を覆せるような一品が見つかるとは考えていない。だから見つからなくても、言うほど彼女は落胆していなかった。

 そうとも。

 この時間を尤も有効活用すべき人物は、悔しいが自分ではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かっていたことだ。全部。

 何もかも。本当に、何もかも。

 なのに、都合の良いところばかりに目を向けて、自分勝手な解釈ばかりしていた。

 現実を見ている気になって、机上の空論ばかり重ねて。

 結局、本当は何も見えちゃいなかったのだ。

 

「……木曾さん、怖い顔してる」

「仕様だ」

 

 素っ気無く言葉を返してから、悪いな、と木曾は続けた。バツの悪そうな声だった。彼女は自分が思っていた以上に感情を制御しきれていない事を恥じていた。

 いつもと変わらぬ調子で、気にしてないよ、と望月が手を振る。完全に感情を制御できる生き物なんていない。それは外見年齢に不相応とも言える達観だった。

 そのまま。2人は何も言わずに、沈みゆく夕日を見やる。

 その夕日が落ち切るまで、何も言葉を発さなかった。

 

「……俺は甘えていた」

「そうだね」

 

 静かに。

 光源が無くなって、夜の帳が落ち切ってから、漸く木曾は口を開いた。追随するように望月は肯定した。

 

「分かっているようで、何も分かっていなかった。無責任に背負わせすぎた」

「そうだね」

「ちょっと考えれば分かる事なのにな」

「そうだね」

「俺は何も学んでいなかった」

「……そうかな?」

「そうさ」

 

 互いに目を合わせることなく、言葉だけが交わされる。感情は篭っていない。予め決まっている台本を読むかのような、そんな気軽さすら含んだ、会話未満の会話。

 分かっているのだ。二人とも。分かっていて、分かっていながら、それでも言葉に出す。

 だからこの会話の内容に意味などない。

 もしも意味を求めるのならば、それは会話の内容ではなく、行為そのものにある。

 

「……決めた」

 

 幾らか意味のない言葉を重ねて。海風に限界まで体温を奪われて。要はそれくらいの無駄な時間を費やして。

 漸く木曾の口から、感情の篭った言葉が発せられた。

 

「望月」

「分かった、了解」

 

 即答だった。用件を聞く前の即答だった。名前を呼ばれた時点で、彼女は木曾が何を言うか予想できていたし、また受け入れる覚悟があった。それは奇しくも、彼女も同じ考えを抱いていたからに他ならない。

 木曾は一瞬迷ったように口を閉ざし、それから少しだけ口角を釣り上げた。悩んでいること――いや、悩んでいたことが、馬鹿らしいと言いたげな表情だった。

 

「士郎を連れて、この海域を脱出する」

 

 躊躇いは無かった。気負いもなかった。

 ともすれば、その言葉には呼吸のような自然さすらあった。

 あまりにも夢見がちと言われかねない決断を、彼女は迷うことなく口に出した。笑みを浮かべる余裕すらあった。

 

「今夜?」

 

 望月は時間を訊いた。

 そう、時間である。

 時期ではない。

 

「ああ」

「じゃあ、もうすぐに準備しないとね」

 

 ノータイムで言葉を重ねる。余計な言葉が無くとも、意思を伝達し、共有できるくらいには、二人の仲は長い。

 同時に二人は立ち上がると、それ以上の言葉を重ねることなく、研究所内へと戻る。

 2人の脳裏では、これからこれからの目的と、それに至るまでの経過について、全く同じ内容が思い浮かべられていた。二人は各々が何を為すべきかを、ちゃんと把握していた。

 

 そうとも。

 

 誓ったのだ。あの小さな無人島で。

 3人揃って、必ず生きて帰ると。

 

 




おまけ(と言う名のNG)


 善は急げ、と。部屋を出ようとドアノブに手をかけようとし、

「だ、誰かいるっ!?」

 どーん、ばーん。どごっ!
 壊さんばかりの勢いで目前のドアが開け放たれてその角が三日月の額にクリティカルヒットする。
 飛び散る火花。点滅する視界。回りに回って驚天動地。
 ふらふらと2、3歩よろけて、そのまま倒れ込む。

「ほ、星が……」
「やばっ、ゴメン、大丈夫!?」
「星が見えたスター……」
「何言ってんの三日月!?」
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