艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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色々と描写したい内容はあるけれども、脱出方面に話の舵を切ってからは拾い切れなかったのがあります。
どっかで生かせられるようにします。


1-12

『レベリング』

 

 基礎訓練を終えた艦娘を危険度の高い海域に出撃させ、高練度の艦娘の指揮下の元で、実戦経験を積ませる事。

 この行為に正式名称は無く、行為そのものも一歩間違えれば主力艦隊を危険に晒してしまうため、行うか否かは各鎮守府の司令官の判断次第になる。

 飛躍的に実戦経験を積ませることが出来る反面、戦力や資材、燃料等に余裕のある鎮守府でしか行うことが出来ない。

 名称の由来は不明。

 

 間宮の記録帳より、一部抜粋。

 

 

 

 

 

 最初は何も見えなかった。

 でも、胸騒ぎみたいなのはあった。

 言葉にし難い、予感みたいなもの。

 そして何となくだけど、その予感は自分たちにとって良くないモノだと思った。

 不完全で、朧気で、でも確実に私を取り巻くナニカ。

 

 そのナニカが形を成したのは、金剛さんが息を呑んだあたりからだった。

 

 すぐに分かった。姿は相変わらず見えないけれど、前方にナニカ――いや、誰が――居るかは分かった。

 ……分からないわけがない。だって私たちは、この海域に来てから、ずっと一緒に行動してきたのだ。

 最初は確かに寄せ集めだった。顔と名前を知っているだけだった。結びつきは大して強くなかった。

 それでも出撃して。旗艦と逸れて。敵に追われながら、3人で必死に生きてきて。

 陳腐な表現かもしれないけど、私たちはそんな極限状態の中で、確かな絆を育んだのだ。

 

 だから、理解できた。誰が前方にいるかを、私は――私たちは理解した。

 

 理解したら、意識するよりも先に身体が動いていた。反射的だった。行動してから、思考が追い付いた。

 それはもう1人も同じだったみたいで。全くの同時に私たちは飛び出していた。

 後ろから金剛さんが、前からアイツが声を張り上げていたけど、そんなものは気にならなかった。

 残り少ない燃料も、周囲の警戒も、不自然すぎる状況も。何もかも気にならなかった。

 恐怖も、悪意も、敵意も、或いは死の予感すらも。……気にならなかったと言えばウソだけど、そんなことよりも大切なものを見つけてしまったから。

 ただただ真っすぐに、手を伸ばす。

 

 

 

「ダメやああぁぁあああああああああっ!!!」

「ダメっ!!! 戻ってっ!!!」

 

 

 

「荒潮、雷――――っ」

 

 

 

「黒潮――――っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃音が轟く。

 水柱が立つ。

 爆風が襲う。

 金剛は咄嗟に三日月を抱えると、後方へ飛び退いた。降り注ぐ砲弾と、乱立する水柱と、襲い来る爆風から身を守るためだった。

 戦艦ならば、多少の爆風で壊れるような建造はされていない。身を打つ衝撃と爆風から逃れるように、器用に浮力装置を扱って逃れる。

 

「こ、金剛さん、一体――――」

「罠ネ、しっかり掴まっ――――」

 

 状況が呑み込めていない三日月に満足な言葉を返す余裕も無い。

 すぐ傍に砲弾が着弾し、爆風に煽られる。逆らうことなく勢いに任せ、少しでも敵の射程外から逃れようと、自ら進んで金剛は吹き飛んだ。吹き飛びながら、冷静に思考をする。

 罠。そう、罠である。

 今になって漸く金剛は理解していた。砲弾の着弾前。自分が見た光景が如何に悪辣なものだったのかを。如何に非人道的な方策であるかを。

 

「荒潮、雷、――――黒潮っ」

 

 金剛はこれまでにない怒りを覚えていた。経験した事のないほどの怒りの感情だった。身を焼くような怒りだった。

 荒潮、雷、黒潮。3人の事は、正直なところよくは知らない。けど、満潮から概要は聞いていた。

 3人は一緒に行動していた事。揃って旧研究所に来た事。物資の調達に出て行った事。襲撃を受けた事。荒潮と雷を逃がすために黒潮が囮になった事。黒潮だけが行方不明になった事。

 全部、聞いてはいたのだ。

 

「アイツら――――よくもっ!」

 

 金剛が見た光景。

 それは、大海原に1人佇む黒潮の姿。

 力なく頭を垂れ、遠目には生きているかも死んでいるかも分からない。

 行方不明になった彼女が、何故物資調達ルートからも旧研究所付近からも遠いこの場所に居るのか。何故こんなところで力なく佇んでいるのか。生きているのなら何故動かないのか、死んでいるのなら何故沈んでいないのか。

 ……今ならわかる。

 黒潮は轟沈していなかった。轟沈はしていなかったが、深海棲艦に捕らえられてしまった。そして罠として利用されたのだ。

 捕らわれた後、殺されることは無く、艦娘をおびき出す罠として生かされたのだ。

 

「……っ!」

 

 そして今。爆風に曝されながら、金剛は一つ理解をしていた。

 砲撃主たちは、決して技術が高いわけではないと。寧ろかなり低いと。

 下手な鉄砲なんとやら――ではないが、普通はこれだけ砲撃に曝さられたら無事に済むはずがない。にも関わらず金剛と三日月が無事なのは、単純に相手のレベルが低い。ただそれだけである。

 そして、また一つ理解する。

 

「……手負いである事は認めますガ、これは相当舐められているようデスネ」

 

 何故練度の低い砲撃主に砲撃を任せるのか。

 それは、この状況を訓練と捉えているから。

 罠にかかった隙だらけの艦娘を轟沈させることで、低練度の艦の技術を上げようとしているから。

 概要は多少異なれど、要は艦娘側で言うレベリングと同じである。

 ……最低最悪のレベリングである。

 

「こ、金剛さんっ!?」

 

 ……どうやら知らぬ間に力を入れてしまったらしい。困惑したような三日月の声に、怒りに染まっていた金剛の思考は少し落ち着く。

 僅かな砲撃の間隙を嗅ぎ付けると、金剛は三日月を少しだけ遠くへと放り投げた。そして指示を与える。

 

「――――満潮たちと合流を。そして可能であれば先に逃げなサイ」

「金剛さんはっ!?」

「私は荒潮と雷を追いマス」

 

 嘘だ。自分の言葉が嘘だと分かっていながら、しかし口は淀みなく動いた。

 金剛は荒潮と雷の生存を絶望視していた。幾ら砲撃主の技術が低くとも、これだけの爆風と衝撃に曝されて、駆逐艦である荒潮と雷が自分たちと同じように生きていられるとは思えない。寧ろ砲撃が自分たちを集中して狙ってきている以上、最初の一撃で二人は轟沈、ないし致命的なダメージを負ったに違いない。

 きっと、いや絶対助からない。

 それは冷酷な判断。だが仮定の話に希望を語っても仕方が無い。

 故に、今の金剛の言葉の真意は3つ。

 三日月を満潮たちに合流させる事。

 満潮たちが逃げる時間を稼ぐ事。

 そして――――

 

「報いは受けさせマス……必ず」

 

 仇討ち。

 悪辣な策を思いつき、そして実行した、クソ野郎どもへの報復。

 その死を侮辱され、心を踏みにじられた三人に代わっての復讐。

 三日月が離れたことを確認すると、金剛は大きく息を吐き出した。そして気合を入れるように量の頬を全力で叩く。パンッ、と。力強い音が周囲に響き渡った。

 ……元より生きて帰ろうなんて、金剛は考えていない。

 迷うことなく、立ち込める白煙の中に足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金剛たちが深海棲艦に捉まった。そう、後方にいた満潮たちは判断した。

 轟いた砲撃音と、着弾によって乱立する水柱と煙。そしてかき消された金剛たちの姿。証拠は充分に揃っていた。

 

「っ! 全速力で離脱するわ、深海棲艦よっ!」

 

 満潮の指示は迅速だった。

 離脱の指示を与えるとともに、彼女は脳内に地図を展開した。本国への最短経路を突き進む以上、別の経路を構築する必要があるからだ。

 だが、

 

「それって……金剛さんたちを見捨てるって事? ……だとしたら、アンタの言葉は聞けないわ」

「んー……私も叢雲と同意見かな」

 

 反対の言葉が上がる。

 叢雲と望月だ。

 

「逃げる事は否定しないわ。でも、仲間を置き去りにして逃げるのは同意できない」

「満潮の判断は正しいと思うけど、今回ばかりは、その、ちょっとね……」

 

 叢雲はハッキリと。望月はどこか歯切れ悪く。

 しかし明確に否定の意思を伝える。このままであれば、満潮の指示に従うつもりは無いと口に出す。

 

「……どうあっても?」

「ええ、勿論」

「その身体で?」

「気遣ってくれるところ悪いけど、見捨てて逃げるなら轟沈した方がマシね」

 

 ……説得は不可能。短いやり取りで、そう満潮は判断する。やれやれとでも言いたげに、溜息が零れる。

 ちらりと望月と叢雲、木曾、そして最後に磯波に視線を向け――瞼を閉じる。

 ……大丈夫、もう決まった事だから。覚悟なんて、今更の話だ。

 ゆっくりと、瞼を開ける。

 

「……私もね。実は2人に同意見なの」

 

 重々しい息を吐き出す。発した言葉は、意外にも2人を肯定していた。

 

 

 

「でも……ごめん。これは……もう他の皆で決めていた事だから」

 

 

 

 一瞬だった。少なくとも、叢雲はそう思った。

 ぐるりと視界が回転する。水平線が回転し、空が海に、海が空へと変化する。何が起きたか分からない。分かるはずもないまま、彼女の意識は闇に落ちた。抵抗の一つも出来やしなかった。

 一瞬だった。少なくとも、望月はそう思った。

 腹部に衝撃が走る。満潮の姿が目の前に来たと思ったら、今度は少しだけ遠のいた。何が起きたか分からない。分からないが、彼女の身体は反射的に防衛本能に従って動いていた。そして状況を把握する。

 

「……なるほど、実力行使ってわけね」

 

 鈍痛を訴える腹部。痺れの残る右腕。

 咄嗟に右腕でガードしていなかったら、意識を刈り取られていたかもしれない。それほどの、手加減の無い一撃。

 とは言え正直なところ、これくらいは予想していた。何かしらの諍いがあった際に、誰かしらが汚れ役に――つまりは、実力行使に出るのは予想できた。例えば……皆のまとめ役だった満潮とか、或いは金剛とかが。

 だから、望月は反応出来た。予測していたから、反応することが出来た。

 ちらりと。気絶した叢雲に視線を向けて息を吐く。

 

「……正直なところさ、実のところ万が一の場合は実力行使に出るだろうなぁ、って予想はしていたんだ」

「……」

「予想はしていたけどさ……まさか磯波にまで話が回っているとは思わなかったよ」

「……ごめんなさい。納得いかないのは私も同じだけど、この場は――――どうか従ってください」

 

 顎への一撃。それも予想もしてない方向から、正確無比に、一撃。

 気絶しない方が無理だろう、と望月は思った。彼女が叢雲の立場だったとして、磯波の一撃を防げる自信は無かった。

 気絶した叢雲を抱えて。今にも泣きそうな顔で磯波は訴える。それだけで……望月は全てを察することが出来た。

 

「この分だと、どうやら何も知らなかったのは私と叢雲だけみたいだね。……叢雲が聞かされていなかったのは、重傷で満足に動けないから。私は――大方、お兄さんを無事に本国へ送り届けるのに、顔見知りが沈んじゃマズいだろ、ってところかな?」

「……すごいわね。九割方正解よ」

「……残りの一割は?」

「木曾さんにもこの話は伝えていなかったわ」

 

 満潮の言葉を木曾は首肯した。それを見て、そりゃそうだ、と望月は思った。一緒に行動してきたのに、片方だけ聞かされないわけがない。

 だが木曾も、望月と同じくこの状況についてはある程度は予想していたのだろう。寧ろより現実的に、考えうる限りの最悪の状況も想定していたに違いない。現状に対して、顔色一つ変えていないのがその証明だ。

 つまりは、気絶させられた叢雲を除いて。

 今の状況に従えていないのは望月だけという事であり――――

 

「望月」

 

 木曾に名を呼ばれる。

 何度も聞いたことのある、感情を含まない声だった。忘れもしない。■■■が沈んだ、あの日にも聞いた声だった。

 鋭く息を吐き出す。

 

「分かっている」

 

 少しだけ反発するように。

 望月は返答した。

 自分の意見が、今はただの我儘でしかない事を理解して、それでも納得は出来ない故だった。

 分かってはいるのだ。ちゃんと分かってはいるのだ。

 満潮の判断は正しいものであり、そして誰よりもこの状況を歯がゆく思っているかくらい。

 今更一から説明されるまでも無く、分かってはいるのだ。

 耐えるように、頭を垂れ、

 

「まだ、間に合う」

 

 思わず、顔を上げる。

 

「行くぞ」

 

 望月だけではない。

 驚いた表情で、満潮と磯波も木曾を見ていた。

 

 

 

「今度は間に合わせるぞ。こっちは――――士郎は任せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうことかしら」

 

 望月が一瞬の隙の間に出ていってしまった。

 ならばと、後を追おうとした木曾の前に、満潮は立ちはだかる。

 

「望月が何故出て行った――かは本人に訊くとして、何故出て行かせたのよ。作戦について話をしていなかった私たちにも非があるとは言え、見過ごすことは出来ないわ」

 

 何故望月を行かせたのか。その理由を聞くまで引き下がるつもりは無い。不退転の意思を眼に宿し、満潮は木曾を睨み付けた。

 無論、言葉の通り満潮も自身の非は認めている。理由があるとは言え、やはり作戦を隠すべきではなかった。望月が語った内容の通りとは言え、3人を話から除外したのは、結果から見れば悪手だったのだ。

 とは言え、重傷を負った衛宮士郎。そして衛宮士郎と行動を共にしていた木曾と望月。あとついでに叢雲。この4人の生存を優先させるのは、他の艦娘たちの総意でもある。

 

「……色々と言いたいことはある」

 

 対して。

 木曾は強めに息を吐き出すと、良く通る声で言葉を発した。

 

「何故俺たちを話から除外したのかとか、聞かされていないのに同意しろとか無理に決まっているとか、こっちの事情も考慮しろとか、自分たちで勝手に話を進めてんじゃねぇよとか、喜ぶとでも思ったかふざけんじゃねぇぞ馬鹿野郎とか」

「……」

「でも、全部ひっくるめて、一つだけ言わせろ」

 

 

 

「既に深海棲艦に囲まれている」

 

 

 

 満潮は訝しむ間もなく驚きに目を見開いた。

 磯波の息を呑む声がハッキリと聞こえた。

 構うことなく、木曾は言葉を続ける。

 

「さっき、離脱と言ったな。判断は悪くないが、経験から言わせてもらえば、逃げたところで同じように敵艦隊が待ち構えている筈だ」

 

 待ち構えている。同じように。敵の艦隊が。

 震える声を隠そうともせず、満潮は口を開いた。

 

「……待ち伏せされているって事? わざわざ?」

「レベリングが目的だからな。……相手の砲撃を良く見てみろ」

 

 この会話の間も、砲撃は絶え間なく続いている。相手は金剛たちが居た場所に、塵一つとて残さないと言わんばかりに、集中的に砲弾を降り注いでいた。

 そう、集中的に。こんなにも長い時間の間。念には念を入れるような、徹底的な砲撃。

 如何に敵の貯蓄が大量にあれど、冷静に頭を回せば、それが如何におかしな行為であるかは分かる。

 結論を導くのは容易い。

 

「……成程。私たちは低練度の艦の訓練のための餌ってわけね」

 

 満潮は納得した。認めたくはないが、どうも戦況は満潮が考えている以上に悪いらしい。こっちが訓練も満足に終わっていない艦娘を出撃させなければならないのに、相手は悠長にも活きた獲物で訓練できているのだから。余裕と言う点では、深海棲艦の方が圧倒的に勝っているのだろう。

 ……現実は何時だって非情だ。

 

「そうだ。それでもって、もしも逃げ出した場合でも、他の場所で待ち構えている別の深海棲艦によって砲撃の嵐を喰らう。……それも、教育済みの強力なタイプの砲撃だ」

「……それって、逃げ出した獲物を逃がすつもりも、弱らせるつもりもないってこと?」

「だろうな。流石にそこまでは手間をかけないんだろうよ」

 

 レベリング。遠方からの砲撃。目には見えねど、周囲は既に敵がいる。……逃げても無駄。

 これだけ材料が揃っていれば、いくら愚鈍でも分かる。ましてや聡明な満潮ならば、結論はとうの昔に出ていたようなものだ。

 ……詰んでいる、って事ね。

 背けていた現実を目の当たりにして、力なく頭を垂れる。

 

 

 

「……でも、木曾さんは『経験』したんですよね?」

 

 

 

 言葉を発したのは磯波だった。

 彼女は木曾の言葉の真意を正しく理解している。

 

「どうやって脱出したんですか?」

「幸か不幸か2回経験していてな。……1回目は運が良かった。2回目は、偶然だ」

「……何よ、それ。参考にならないじゃない」

 

 期待していたのとは違う、参考にならない回答。

 だが満潮の言葉を木曾は否定した。

 

「いや、そうでもない。2回脱出したことで、漸く分かったことがあるからな」

 

 無駄ではない。そう言って、木曾は砲撃の方を指さした。

 

「さっきも言った通り、既に周囲は強力な深海棲艦によって囲まれている筈だ。別の方面に逃げるのは、よっぽどの実力と幸運をもった艦娘じゃなきゃ厳しい」

「……」

「だから、前に進む」

「は?」

 

 唐突な結論に満潮は思わず声を上げた。木曾の言葉を全く理解出来なかったからだ。

 

「ちょっと待って。あれだけ前方から砲弾が降り注いでいるのに、何でわざわざ狙われに行かなきゃいけないのよ」

「それが一番生き残る可能性が高いからだな」

「……ごめんなさい、もっとちゃんとした順序で話してくれるかしら?」

 

 トントン。米神を2回人差し指で叩いて、満潮は落ち着きを取り戻そうとする。

 冷静に、冷静に。多少感情的になっているのは否めないから。落ち着いて、もっと冷静に。

 

「よく考えろ。前方の敵は練度が低いんだぞ?」

 

 何故分からない。そうも言いたげな木曾の語調に、冷静に努めようとした満潮の顔が引き攣る。彼女は、案外感情的だ。

 ガシガシと乱暴気に頭を掻いて、しかし木曾の言う通り答えを探そうとする。だがすぐに余計な邪念に思考は遮られた。さっさと答えを言え、という邪念だった。

 違う違う。落ち着け、冷静になれ、頭を働かせろ。

 相手の目的はレベリング。

 周囲は既に囲まれている。

 それも高練度の艦ばかり。

 現在訓練中の低練度の艦の尻拭いをするべく待ち構えている。

 つまり訓練中の艦がいる前方くらいしか練度の低い艦はなくて。

 前方の敵だけは練度が低いわけで。

 

 ――――そう。前方の敵は、練度が低い。

 

「……ああ、そういう事、か」

「……ええ。冷静に考えれば、木曾さんの言う通りですね」

 

 満潮と磯波。答えに辿り着いたのは、全くの同時。

 いや、辿り着いたと言うのは間違いだ。何せ答えは、最初から提示されていたのだから。

 漸く2人が答えを得たことが分かると、木曾は深々と息を吐き出した。

 

「そういう事だ。初見だと前方からの集中砲火に惑うが、同時にそこが唯一の相手の弱点でもあるんだ。……分かったら、行くぞ。グズグズしている暇は無ぇ」

「……ちょっと待った。問題点が2点」

 

 出発しようとした矢先。満潮は人差し指と中指を立てて木曾を静止した。

 

「まず1点目。……衛宮士郎と叢雲。重症の2人はどうするの?」

「……砲撃が当たらないようにする。相手の攻撃を喰らわないようにする。それしかないだろ」

「脳筋か」

 

 思わずツッコみを入れると、今度は満潮が深々と息を吐き出した。話の流れからしてまさかとは思っていたが、本気で戦場に気絶中の2人を連れて行くつもりだったらしい。

 幾つか口をついて言葉が出そうになるが無理矢理留める。代わりに、如何にも面倒くさげに木曾と磯波を指差した。

 

「……ったく、アンタら二人はここに残ってなさい。私と望月とで囮になって相手の砲撃を引き受けるから――――そうね、3分。3分経ったら脱出する事」

「満潮ちゃん、それは――――」

「言ったでしょ、皆で決めた事だって。……借りを返せぬままに死なれちゃ、こっちが困るのよ」

 

 磯波の言葉を遮り、皆の総意である事を伝える。

 そして話はお終いと言いたげに、満潮は2人に背を向けた。

 

「……3分、か。……信じるぞ」

「当然よ、任せなさい。――――で、もう1点だけど」

 

 もう1本。残していた人差し指を折る。

 

「先にアンタが行かせた望月は無事なんでしょうね? この作戦、望月が無事な事を前提に立てているんだけど」

「……なんだ。そんな事か」

 

 木曾は笑った。

 満潮の言葉を小馬鹿にするのではなく、勿論楽しそうなわけでもなく。

 何を思い出しているのか。感情を宿さず。遠くを見るように目を眇めて。

 木曾は笑った。

 

 

 

「望月を舐めるなよ? あの程度の砲撃なら、アイツも経験済みさ」

 




おまけ(と言う名のNG)



 ……どうやら知らぬ間に力を入れてしまったらしい。困惑したような三日月の声に、怒りに染まっていた金剛の思考は少し落ち着く。
 僅かな砲撃の間隙を嗅ぎ付けると、金剛は三日月を少しだけ遠くへと放り投げた。そして指示を与えようと口を開く。
 だが金剛の眼に映ったのは、下半身だけ海上に出ている珍妙なオブジェだった。

「……What are you doing 三日月。You looks like 犬神家ネー」
「放り投げたのは金剛さんでしょ!?」
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