艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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1-13

 束の間の休息。

 ショッピングと昼食。

 楽しかった一日。

 忘れられない一日。

 

 

 ――――それは近くて遠い、ある一日の記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎、どうしたの?」

 

 声が聞こえる。いや、聞こえた。

 認識と同時に、周囲の情報が頭に飛び込んでくる。馬鹿みたいに大きなぬいぐるみ。所狭しと並べられた雑貨。行き交う人々。向けられた視線。すぐ目の前で可愛らしく首を傾げている美少女。

 どうやら自分は呆けていたらしい、と士郎は思った。一瞬だけ視界が明滅し、立ち眩みに似た感覚を覚える。

 ずれてしまったピントを、目前の少女に合わせた。

 

「とおさ……か?」

「うん」

 

 少女の名を呼ぶ。

 士郎は知っている。彼女が何者であるかを。

 士郎は知らない。彼女が何故此処にいるのかを。

 少女は少しだけ癖のある髪を頭の両脇で纏めている。きめ細やか且つ健康的な肌。そして翡翠色の透き通るような眼が、士郎の顔を映していた。気の抜けた、間抜けそうな顔が映っていた。

 

「おーい」

「……ああ、大丈夫だ。ごめん、何でもない」

 

 目の前で手を振られる。そこで漸く意識が現実に追いつく。

 士郎は慌てて場を取り繕うように声を重ねた。

 

「悪い、遠坂。少し呆けてた」

「……少しってレベルじゃなかったけど」

 

 士郎のそんな態度に不信感を抱いたのか、少女――遠坂凛の顔が不満気に顰められた。所謂ジト目と言うやつである。それでも彼女の可愛さに一切の陰りは無いのだからズルいものだ。

 

「本当にごめん。俺、思っている以上に疲れていたのかもしれない」

「……はぁ、漸く自覚したか」

「へ?」

「今日の目的は息抜きよ。察しなさい」

 

 言葉と共に額に右手を目の前に出される。中指を親指で抑えた格好。つまりはデコピン。パチン、と。額に軽い衝撃が走る。

 そうだ。彼女の言う通りだ。自分は――いや、自分たちは息抜きをしに、此処に来ている。

 

「さっ、目を覚ましたのなら行くわよ。そろそろお昼ごはんの時間でしょ」

 

 少しだけ悪戯っぽく笑いながら。凛は手に持ったバスケットを士郎に向けて掲げた。軽く4人前以上は入りそうなバスケット。そう言えば昨日の遅くまで用意をしていたんだっけ。

 入口の方にはもう一人の同行者がいた。鮮やかな金色の髪、そして翡翠色の眼の異国の少女。凛に負けずとも劣らずの美少女が、2人を待っている。

 士郎の視線に気が付いたのか、少女は微笑みながら会釈をした。

 

「……ああ、そうか。そうだな」

 

 誰に聞かせるわけでもなく、士郎は1人、納得したように呟いた。そして思う。どうやら思っている以上に疲れているらしい。

 眉根を抑えて、首を軽く振る。振って、顔を上げた。倦怠感と寒さが身体を包んでいた。疲労を自覚した途端に、五体に明確な重圧となって襲い掛かってきた。動くのも億劫だった。

 そんな士郎の様子に痺れを切らしたのか、凛が士郎の右手を掴む。自分のとは違う、温かで柔らかな感覚。

 

「ほら、行くわよ」

 

 

 

 

 

 夢の終わりは何時だって唐突だ。

 息苦しさで意識が引き戻される。身体を覆うのは、夢以上の倦怠感と寒さ。加えて痛みを訴えている両足と左腕。ほんの少し動かそうとするだけでも億劫だ。

 そして自身は背負われている。温かで柔らかく、しかし力強い何かに。

 ――――ここは……?

 まだ覚醒しきっていない頭で思考する。間違ってもここは夢ではない。紛れもない現実。そしてその事を認識すると同時に、士郎の頭に多くの情報が蘇る。

 小さな孤島、

 望月、

 木曾、

 深海棲艦、

 脱出、

 満潮、

 研究所、

 磯波、

 艦娘、

 叢雲、

 ヌ級、

 雷、

 荒潮、

 三日月、

 金剛、

 捨て艦――――

 

「――――がはっ」

「っ、士郎、起きたか!?」

 

 頼りがいのある、どこか聞き覚えのある声。これは誰の声だっただろうか――ああ、そうだ、木曾だ。

 呼吸をしようとして、思わず咽る。それこそ今まで呼吸をすることを忘れていたかのように、息を吸って吐くと言う行為が、酷く辛くて煩わしかった。

 そんな士郎に気が付いたらしく、木曾の焦ったような声が聞こえた。

 

「……ああ、目が覚めた」

 

 随分と長い間、彼女の声を聞いていなかったような感覚を覚える。眼を開けると、水平線の先まで限りの無い青色が飛び込んできた。そして砲撃音。然程の間を置かずに少し離れた場所に水柱。現実に追いつけずに呆けた頭に、再び砲撃音が響く。

 

「ここは……?」

「……海上だ。そして間の悪い事に、私たちは今深海棲艦に捕捉されている」

「それって……まさかこの砲撃音は、全部深海棲艦のモノ、ってことか?」

「残念ながらそう言う事だ。今現在ここにいるのは、オレ、磯波、叢雲のみ。内、叢雲は負傷につき自力での航行は不可能。他の艦は敵と交戦している」

 

 木曾は至って冷静だ。起きたばかりで混乱している士郎の脳にも、無理なく情報が入って来る。

 

「衛宮さん、目を覚ましたんですねっ!」

「い、磯波?」

「はい――――ああ、目を覚ましてくれて良かった!」

 

 対して。傍にいる磯波は感情を隠そうともせずに、士郎が目を覚ましたことを喜んでいた。喜び過ぎて涙を浮かべるくらいだった。多分此処がもっと平和で安全なところなら、飛びついてきそうな勢いだった。

 そんな磯波の首を、か細い腕が締め上げる。

 

「っ、む、叢雲ちゃん!?」

「……うっさいのよ、おかげで目を覚ましちゃったじゃない」

「え、ええと……目を覚ましたんだ」

「ええ、おかげさまで。……で、何がどうなっているのかしら?」

 

 叢雲も感情を隠そうとはしていなかった。磯波とはベクトルが異なり、不機嫌というカテゴリーではあるが。だが自力での航行が不可能と言われるだけあって、言葉に力が籠っていない。加えて、先ほどまで士郎と同じように気を失っていたらしく、状況を掴めていなかった。

 

「深海棲艦に捕捉された。他の艦は交戦中。今から大凡1分後に、私たちはこの海域を脱出する」

「……脱出? 他の艦が交戦しているのに?」

「満潮からの案だ。全員で生き残るためのな」

「………………ふぅん、成程。そう言う事」

「ふ、ふらふもひゃん!?」

 

 叢雲は今の会話だけで状況を掴んだらしい。そして何故か磯波の頬を抓る。さらに特大の溜息を吐き出した。

 

「単刀直入に訊くわ。立案した馬鹿は誰?」

「今の状況については満潮だ」

「ふぅん。……じゃあ、私が気絶する前のは?」

「お前とオレと望月と士郎以外の全員だ」

「……なぁるほどね」

 

 士郎としては会話の意味が分からないが、叢雲の不機嫌度が目に見える形で増した事だけは分かった。心なしか磯波の顔色が青くなっている。

 

「……絶対後で泣かしてやる」

「同感だ。……全員で帰るぞ」

「ったりまえよ」

「――――さて、じゃあ行くか。士郎、もう少しだけ付き合ってくれ」

 

 士郎からは木曾の表情は見えない。見えないが、笑っている事は分かった。あの安心感のある笑顔を浮かべている事だけは分かった。

 だから士郎は、動く右手の親指を上げる。

 サムアップ。

 それはいつかの始まりの日に、初めて木曾と交わした意思疎通。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木曾の背にて揺られながら士郎が思ったのは、何故自分が此処にいるのか、という事だった。

 此処とは、研究所から離れた戦場のど真ん中、と言うわけでは無い。

 ――――俺は冬木市にいた。間違いなく、必ず。

 束の間の夢で思い出す。自分が何故か忘れていて、そして今も穴だらけの記憶。

 冬の季節、

 学び舎、

 青い死神、

 紅い穂先、

 血溜まり、

 赤い宝石、

 気高い少女、

 白い少女、

 鉛色の巨人、

 遠坂凛、

 休日、

 ショッピング、

 夢ではない。自身が経験した記憶。どれこもれも――――忘れるはずがない記憶。

 そして、今の自分の現状とは欠片も結びつかない記憶。

 

 ――――……変、だね。何で学生がこんな場所に?

 

 初めて出会ったあの孤島で。

 望月も言っていた。

 

 ――――深海棲艦の動きが活発化しているせいで、ここら一帯は封鎖状態さ。渡航なんて出来やしない筈だよ。

 

 士郎には深海棲艦なんて言葉に聞き覚えはない。全く知らない。

 仮にその言葉が公ではなくとも、封鎖状態なんて非常事態になれば、テレビなり新聞なりでその情報を知ることが出来るはずだ。

 

 ――――此処はソロモン諸島かフロリダ諸島か……まぁ、そこらへんにある名も無き小島ってとこかね。

 

 ありえない。絶対に、ありえない。

 渡航した記憶はない。海を渡った記憶はない。

 ましてや望月は、一帯は封鎖されていると言っていた。そんなところに行くわけがない、行けるはずがない。

 

 ――――な、何で一般人が此処に?

 

 満潮の驚愕は尤もだ。一般人が激戦の最前線にいることなど、ありえるはずがない。

 改めて情報を整理すれば、自身の記憶との相違と言い、世界の情勢と言い、説明のつかない事ばかりである。

 そして、

 

「……ッ」

 

 記憶を掘り返そうとすると、まるでその行為を拒むかのように、頭に痛みが走る。何かを忘れている事は確実だ。そしてその何かとは、士郎の抱いている疑問に関わる事に違いない。

 士郎は木曾に気づかれぬ様に、静かに息を吐き出した。この怒涛の数日間。思えば、一瞬たりとも記憶に関して思い返す暇はなかった。目覚めてから今に至るまで、思考する暇はなかった。動けぬ身になって漸くその時間を得たのだ。

 ……尤も。正しくは、今はそれしかできない、と言うべきだろうが。

 

『――――』

 

 耳鳴りがする。ほじくり返した記憶の拒否反応。痛みが増していく頭。遠くなりそうな意識。遠くで響くナニカの音。

 これでは思考もままならない。ならば、と。自身を律するように、士郎は意識を強制的に切り替えることにした。

 意識する。浮かんだのは撃鉄。その引き金を躊躇い無く弾く。自動車を駆動させるかのように、魔術回路に魔力が迸る。体内を魔力を循環する。

 

 

 

「……は?」

 

 

 

「士郎、どうした?」

「い、いや、何でもないっ」

 

 慌てて繕う。だが一度出てしまった疑問は、すぐに動揺へと変わる。

 そしてその同様を、木曾が見逃す筈がない。

 

「士郎、状況が状況だ。何か異変を感じたのなら教えてくれ」

「いや、これは俺の問題と言うか、その……」

「士郎」

 

 有無を言わさぬ口調だった。決して大きくない声量なのに、耳を通して脳にまで届く。

 一言。そのたった一言に、全ては集約されていた。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

「……なぁ」

「何だ」

「初めて会った時にさ、俺がどうやって深海棲艦を撃退したか覚えているか?」

「ああ、良く覚えている。弓を放ち、竹刀でいなし、最後には巨大な斧剣で打ち落とした。特に最後の一撃は、見事な腕前だった」

「……ああ、そうだ。確かに、そうした」

「……士郎?」

 

 木曾の訝しむような声。だが士郎には届いていない。思考することで彼は精いっぱいだった。

 ――――世界には、魔術と言うものがる。

 魔術とは、魔力を用いて人為的に神秘・奇跡を再現する術の総称である。現代の常識からは外れ、秘匿された知識と成果のことを指す。

 そしてそのような術を扱う者は、魔術師と呼ばれる。魔術師は魔術を扱う為に必要な魔術回路を体内に内包している。その回路を励起させ、魔力を通すことで、魔術は行使される。

 士郎が浜辺で視力を強化したのも。弓を、竹刀を、斧剣を創り出したのも。或いはヌ級に跳びかかった時の両足の強化も。片手剣を創り出したのも。その全ては魔術である。

 だが魔術を扱う際には、魔術回路を励起させなくてはならない。

 そして士郎が魔術回路を励起させるには、まずは魔術回路を作るとこから始めなければならない。

 ならば、

 

 今まで、自分は、どうやって、魔術を、行使していた?

 そして、今、自分は、回路を、どうやって、生成した?

 

 記憶に無い。

 記憶に無い。

 記憶に無い。

 記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――教えてもらった――記憶に無い記憶に無い記憶に無い――魔術を行使する術――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――否定――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――ありえない――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――投影――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――双剣――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――こじ開けた――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――麻痺――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い――撃鉄――記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無い記憶に無いそんなの記憶に無い――――ッ!!!

 

 

 

「士郎」

 

 動揺がたった一つの言葉を切欠に始まったのなら。

 

「大丈夫だ」

 

 それを収めたのも、たった一つの言葉だった。

 

「――――俺を信じろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共に過ごした時間は片手で数えられる程度の日数でしかないが、それでもその人となりは把握できる。

 故に、木曾は士郎の動揺が別のモノ――この四面楚歌の状況ではなく――にあると察していた。彼はこの状況で動揺を覚えるほど、柔な人間ではないと木曾は考えていた。

 それは捉えようによっては聊か行き過ぎた信頼の証ではある。が、木曾はそんな自身の考えを一切疑っていなかったし、事実として彼女の考えは概ね正しかった。士郎の動揺の本質は、現状とは全く別にあった。

 だが動揺の正体が何であれ、放置しているのは悪手にしかならない。当人にとっても。周りにとっても。

 ならばこそ。木曾は士郎の意識を他に逸らす。下手に考え込ませるのではなく、己に意識を逸らさせる。

 

「……木曾」

「どうした、士郎」

「いや、何でもない。……ありがとう」

「おう」

 

 生じた疑問は、一先ず置いておく。たったのそれだけで、狭まった視野は元に戻る。

 どうやら思考の間に、自分たちは随分と移動をしていたらしい。周囲に意識を向けながら、士郎はそう思った。

 見渡す果てまで同じ景色の続く、つまりは景色の変化に乏しい海上ではあるが、砲撃音の方角が大きく変わっている。時折立つ水柱も、今や随分と遠くだ。

 

「……アイツらはまだなの?」

「分からん。ただ向かう先と時間は決めているから、そろそろこちらに向かって来るはずだ」

 

 木曾の声は険しい。元々冷静な彼女ではあるが、今はどちらかと言えば、無理矢理に感情を排している様に見える。

 叢雲も返答の内容に期待はしていなかったらしい。そう、と。呟くように頷くと、それ以上は何も言わなかった。

 

「現時点で他の艦影は見えません。敵も、味方も、何一つ」

 

 磯波は双眼鏡を片手に周囲の索敵を担当している。レーダーもない、艦載機もない、つまりは己の眼しか頼るモノが無いが、それでも何もしないよりはマシである。

 木曾は自身のうなじをチリチリと何かが焦がしている感覚を味わっていた。それはこの海域に出撃してから、何度も経験をしている感覚だ。そしてこの感覚を経験する時と言うのは、大概にして良くない事が起きている。つまりは虫の知らせのようなものだ。

 

「……三分。三分だけ、待つ。三分経ったら、お前らは先に行け」

 

 周囲の状況、そして己の経験と勘から、木曾は時間制限付きでの撤退の判断を下した。有無を言わさぬ語調だった。

 三分。それはあまりにも短い時間。

 だがこれでも。猶予はギリギリであると木曾は考えていた。場合によっては切り上げる事も考えなければならない、とすら思っていた。この海域にて培った経験と勘が、脳内にて警報を鳴らしている。士郎を支える手に、僅かに汗が滲んでいた。

 

「木曾さんは?」

「オレは残る」

「衛宮さんは?」

「……ここに残すわけにはいかない。磯波、頼「却下」」

 

 磯波は木曾の言葉に否定の言葉を重ねた。木曾が何を言うのか分かっていなければ返せないタイミングだった。

 

「俺も磯波と同意見だな」

「……士郎」

「言っただろ。『余裕に決まっているだろ。なんなら、道草食ってくれても良いぞ』」

「……」

「あらあら、木曾さんの負けね。それに、全員で帰るんでしょ?」

 

 磯波はそっぽを向いていた。士郎は笑っていた。叢雲も笑っていた。三人とも己の現状を理解した上で、それでいて三者三様の表情を浮かべていた。だが決して自棄になった訳ではない。

 木曾は一瞬だけ呆けたような表情を浮かべるが、すぐに溜息とともに霧散させた。3:1。意志は力尽くでは捻じ曲げられない。自分の意見を押し通すのは不可能であることを察すると、彼女は僅かに口角を上げた。

 

「……お前らは、本当に気の良い馬鹿共だな」

「そっくりそのまま返す」

「衛宮さんの言うとおりですね」

「全くだわ」

 

 つまりは揃いも揃って馬鹿ばかり。本当に馬鹿ばかりだ。

 

 

 

「――――っ、5時の方向に艦影っ! ――――満潮ちゃんたちですっ!」

 

 

 

 急転直下。切り替わる意識。磯波の声に導かれるように、全員が同じ方向へ視線を向ける。

 5時の方向。見渡す限りの水平線。ゴマ粒のような黒い点。それは此方に向かってくる。やがて1つが3つに分裂し、細部を判別できるようになる。

 先頭に満潮。

 続いて望月と三日月。

 

「ほら、無事じゃない」

 

 叢雲が嬉しそうに声を上げた。

 

「あとは金剛さんたちだけですね」

 

 磯波が感情を抑えながら、努めて冷静に言葉を発した。

 

「良かった、無事か」

「……ああ」

 

 木曾は士郎の呟きを言葉少なに肯定した。

 仲間と合流できたことは吉報であるはずだが、木曾はどこか言葉にし難い引っ掛かりを覚えていた。それは先ほどから自身のうなじを焦がす感覚のせいだった。

 木曾はこの海域に来て長い。そんなのは今更の話ではあるが、つまりはこの海域で生き延びた経験が、木曾を喜びに浸らせようとはしないのだ。それどころか、より一層嫌な予感が増していた。うなじに飽き足らず、喉がへばりつくような渇きを訴えていた。

 士郎はそんな木曾の様子に少し遅れて気が付いた。そして奇しくも、木曾から伝播する形で、士郎も言葉にし難い不安を嗅ぎ取った。嫌な汗が背を流れ、先ほどまでの高揚感が冷める。

 何かを見落としている。確証も何もないのに、何故か2人は同じことを思った。呼吸を忘れるほどに、その不安に2人の脳内は支配される。心音がやたらと煩かった。

 

 

 

 そしてその予測は現実のものとなる。

 

 

 

 頭上を飛ぶ艦載機。

 

 一糸乱れぬ編隊。

 

 通り過ぎ様に、何かを落とされる。

 

 バラバラと、バラバラと。

 

 黒い塊。

 

 重力の鎖。

 

 空気を切り裂くように。

 

 無数のソレが落ちてくる。

 

 爆弾。

 

 爆弾。

 

 爆弾、爆弾、爆弾、爆弾、爆弾――――

 

「ッ! 皆、爆撃――――」

 

 それは誰の言葉だったか。

 言葉に導かれるように皆が上を見上げ、

 

 

 

 爆発の華が、咲いた。

 

 

 




おまけ(と言う名のNG)


 木曾の声は険しい。元々冷静な彼女ではあるが、今はどちらかと言えば、無理矢理に感情を排している様に見える。
 叢雲も返答の内容に期待はしていなかったらしい。そう、と。呟くように頷くと、それ以上は何も言わなかった。

「へんひへんへはへひのふぁんふぇいはみえまふぇん」
「なぁ、木曾。いつまで叢雲は磯波を抓っているんだ?」
「……さぁな」



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