艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

22 / 33
間違えて別の作品に本話を投稿していました。
何やってんだろうね。


2-4

「今日の事は秘密よ。まぁ、アンタがそう簡単に口外するとは思わないけど」

「ああ。……その、ありがとう」

「気にする事は無いわ。それよりもあの情けない顔を出さない様尽力する事ね」

「……そんな酷かったか」

「当たり前でしょ。じゃ、私は戻るわ。朝は磯波が行くだろうから、夕方に顔を出すわ」

「ああ」

「じゃあね。……ああ、そうそう。数日前に大井さんが訪れた、って言っていたわよね」

「ああ、そうだけど……?」

「そう……じゃあ、一つだけ」

 

 

 

「大井さんには気を付けなさい。アンタの立ち位置は、あくまでも『巻き込まれた一般人』よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛宮士郎が目覚めて一週間。

 彼の佐世保鎮守府での一日は、ほぼ同じことの繰り返しだ。

 起床、食事、リハビリ、睡眠。後は空き時間に磯波たちの近況報告を聞いたり、梢子やつづらに手伝ってもらいながら記憶の無い状況を打破しようと試みたり、散歩したり図書室に行ったり。

 何にせよ。ここで目覚めてからの変化と言えば、木曾と望月がいないくらいである。

 

「木曾さんたち、まだ帰れないみたいです。本部にカンヅメ状態だって嘆いていました」

 

 しゃりしゃりしゃり。器用にリンゴの皮を剥きながら、そう磯波は言った。曲面に沿って途切れることなく皮が蜷局を巻いていく。

 

「飛行場姫が沈んだのが立証されれば戻ってこれるみたいです」

「本部に行ってから5日か、てことはまだ戻ってこれそうにないかな」

「情報自体はひと月前に帰還した時点で報告しているんですけど、上の人たちもちゃんとした証明が欲しいみたいですね」

 

 確かな証明が欲しいと言う気持ちは分からなくも無いが、それが可能かと言えば難しいだろう。沈んだ証拠を持って帰って来れた訳では無いのだ。

 あの最後の記憶では。

 確かに手応えを得た。

 だが確かにそうだと言い切れるか、と問われれば言葉に詰まる。

 

「……そう言えば、何で木曾と望月だけが呼び出されたんだ?」

「お2人の練度が高かったからですね」

「練度?」

 

 聞いた事の無い言葉だ。士郎の表情を見て察したのか磯波が説明を加える。

 

「練度と言うのは、艦娘の実力値です。手合わせって言う模擬訓練をする事で計測をしています。産まれたての子を1として、最大値で99になります。限界突破をするとこの限りではないようですけどね」

「数値で本人の実力を管理しているって事か」

「そう言う事です。確か木曾さんは45で望月ちゃんが37……だったかな。とにかく私たちの中では木曾さんと望月ちゃんが2トップです」

「そっか……磯波や他の皆は?」

「私は32で、満潮ちゃんが36、三日月ちゃんは14で、叢雲ちゃんが……確か23って言っていました」

「叢雲と三日月は皆と開きがあるんだな」

「叢雲ちゃんは到着した時点から大破状態で動けませんでしたし、三日月ちゃんは私たちよりも鉄底海峡に居た期間が短いですからね」

 

 そうは言ってもこれだけ練度が上がる事は滅多にない事なんですよ。そう言って磯波は笑った。だがその言葉は裏を返せば、それだけ苛烈で凄惨な戦場に居たからこその成果である。笑顔も士郎を心配させまいとして無理矢理作ったものであることは容易に分かった。

 

「練度に応じて、任務内容も変わります。私くらいだと警備や遠征が主になりますね」

「練度で任務も変わるのか」

「はい。やっぱり高練度の方は敵主力艦隊との戦闘が多いです。この鎮守府で言うなら、日向さんや大井さんが該当するかと。お2人とも60を超えていますから」

「大井さんは会ったことあるな。木曾のお姉さんだっけ」

 

 茶色のセミロング。クリーム色の制服。優し気な目元と、相反するような気迫。

 5分にも満たない出会いではあったが、印象深さから思い出すことは容易であった。

 ……そう言えば満潮は言っていた。大井には気を付けろと。

 あの意味を未だ士郎は理解できていない。

 

「あ、そう言えば会ったことがあるって言っていましたね。実は大井さんって、薄葉艦隊のエースなんですよ」

 

 ほら、これ見て下さい。

 そう言って磯波は、手に持っているスマホを士郎に見せた。

 士郎が見やすいようにと、わざわざ身を乗り出してくる。

 

 

 

『大井さんには気を付けて下さい』

 

 

 

「っ!?」

「あ、やっぱり大欠伸中の大井さんは意外でしたか?」

 

 言葉と内容が合っていない。どこにも欠伸中の大井の写真なんて無い。

 あるのは文字。

 白抜きの背景に浮かび上がる、先日満潮に言われたのと同じ言葉。

 

「ほら、これとか見て下さい」

 

『大井さんの上の方が衛宮さんの素性を疑っています』

 

「こっちはすごい凛々しいでしょう?」

 

『この部屋も盗聴されています。先日見つけました』

 

「やっぱり高練度となると皆の模範とならなきゃいけませんからね」

 

『疑われる理由は不明ですが、何であれ衛宮さんは巻き込まれた一般人です。それを肝に銘じて下さい』

 

 予め打ち込んで画像として保存していたのだろう。

 磯波のフリックに合わせて、文字だけが変わる。

 そのどれもが士郎への注意喚起。それも大井が信用ならないだけではなく、士郎自身も気づいていなかった、盗聴と言う事実のおまけつきだ。

 士郎の驚きを他所に、磯波は一人で言葉を並べ続けている。……士郎の理解までの時間を稼いでいるのは明白だ。

 

「私も大井さんみたくなれるよう、頑張らないといけません……って、衛宮さん聞いていますか?」

「あ、ああ。聞いている」

「あ、そうだ! もしも大井さんとお話しする機会とかあったら、是非とも呼んでください! 私もお話したいことがいっぱいあるので!」

「ああ……」

 

 士郎の顔色を見て、言いたい事が伝わった事を認識したのだろう。磯波は念押しをして士郎から離れた。

 

「大井さんと話したい、って子は他にもいるんです。木曾さんにアポを取ろうとする子もいるんですよ」

「……人気なんだな。分かった。大井さんの日程にもよるけど、時間を取ってくれそうだったら連絡するよ」

「お願いします! 絶対ですよ、衛宮さん!」

 

 役者だ。そう士郎は思った。

 言葉は弾んでおり、焦りは見られない。傍から聞いている分にはとても注意喚起をしているようには聞こえない。

 だがその眼は真剣そのもので。

 彼女が嘘や酔狂ではなく、本当に今の現状が士郎の考えている以上にマズイ事を教えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 注意されてから気付くのでは何ともお粗末としか言いようが無いが、気付かないままでいるよりはよっぽどマシである。

 激戦区に居た記憶喪失の日系人。それが他人から見た士郎の評だ。

 他国、或いは深海棲艦側のスパイとでも思われているのだろうか。

 ……心外ではあるが、今の士郎に証明できる手立ては無い。

 

 

 

「……心此処に在らず、って感じね」

 

 日課のリハビリ。衰えた筋力を取り戻すその最中。

 士郎の様子を見て、叢雲の呆れ混じりの言葉を吐いた。

 

「そんな様子でトレーニングしていたら怪我するわよ」

「……ごめん」

「重症ね。どうしたってのよ?」

 

 初日こそ梢子がリハビリについていたが、以降は叢雲が士郎のリハビリをついている。梢子自身が多忙の身である事と、見知った人物の方が精神的に良いだろうと言う配慮からであった。

 叢雲は不思議そうに首を傾げると、士郎の傍に座った。悩みがあるなら聞くわよ。話が長くなることを見越した上での行動だった。

 

「……夢見が悪かったんだ」

「夢見?」

「ああ、鉄底海峡での夢を見たんだ」

 

 嘘をついたにしてはそれなりに良く出来た方だろう。

 士郎の住んでいた街が存在してない事を知っているのは、あの海にいた面々の中では満潮だけだ。

 士郎が疑われているのを知っているのは、満潮と磯波だけだ。

 疑われている件については2人以外にも知っているかもしれないが、他の艦娘のいる場所で口に出せる内容ではない。

 なら、此処では真実は口に出来なかった。

 

「どんな内容だったの?」

「……深海棲艦に襲われていた。必死で泳いで逃げようとしたけど、追い付かれて、そこで目が覚めた」

「アンタがあそこにいたのと関係あるのかしら?」

「……かもしれない」

 

 鉄底海峡にいた理由。何をどうしてあそこで目覚めたのか。何が自分の身にあったのか。

 今口にしたのは嘘だが、思い出すきかっけが欲しいのは事実だ。それはきっと、士郎の記憶と現状の齟齬を埋める一つになり得る。

 

「ま、無い物強請りしても仕方が無いわ。先ずはリハビリをして……早く帰れるようにする事ね」

「……ああ」

「家族とは連絡取れたの?」

 

 家族。その言葉に姉代わりの顔が浮かぶ。

 血の繋がりこそ無いが、士郎の大切な人。

 つづらの冷酷な宣告が脳裏に蘇り、心音が僅かに乱れるが、無理矢理押さえつける。

 

「……いや、まだだ」

「まだ? あー、守秘義務のせいかしら」

「守秘義務?」

「そう。私たち、機密扱いだから」

 

 機密扱い。初めて聞く言葉ではない、そう言えばそんな事を望月が言っていたような覚えがある。

 

「機密扱いって言っても、公の存在か否かってわけじゃないわよ。技術的な話」

「技術……」

「そ。アンタは理由が何であれ私たちと寝食を共にしたからね。守秘義務は課せられると思うわ」

 

 艦娘の技術についてなんて士郎は全く知らないが、艦娘について何も知らないかと言えば違う。

 彼女たちが人と同じである事を知っている。

 彼女たちが人とは異なる事を知っている。

 その事を口外しないための契約があるであろうことくらい、少し考えれば分かる事だ。

 

「アンタはまだ暫く家族と話せないかもしれないけど、家族はアンタが保護されている事は知っているでしょうね」

「そうか」

「そうかって……軽いわね」

「いや……守秘義務って事は帰った後も監視をされるのかって思って」

「まぁされるでしょうね。でもそれは、アンタの身を護る為でもあるわ」

「俺の身を?」

 

 士郎は叢雲の言葉に首を傾げる。何故護られるのかが理解出来なかったからだ。

 その様相を見て、これ見よがしに叢雲は溜息を吐いた。

 

「言ったでしょ。私たちは機密扱い。アンタは私たちと行動を共にしていた」

「あ、ああ」

「つまり、他者から見たら艦娘を知っている存在なのよ。実際にどーかは置いておいて」

「あ、そう言う事か」

 

 士郎は艦娘を知っている。ならばその情報を引き出す為に攫われる可能性はある。他国のスパイ、人知れず兵器の開発に勤しむ裏の人間、或いは深海棲艦……陸の上も脅威で溢れている。

 

「本当はアンタもどっか鎮守府で働くのが一番だけど……アンタは平和な場所で生活しているのがお似合いよ。だからアンタは安心してリハビリに従事する事ね」

 

 まぁ、回復お化けのアンタならすぐよ。

 そう言って叢雲は笑った。

 少しだけ寂しそうな笑い方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎の日課の一つに、図書室での勉強がある。

 主に調べるのはかつての艦種とその特徴。そして今日至るまでの歴史。

 前者は艦娘を良く知る為。後者はこの世界と士郎の知る世界の齟齬を把握するためだ。

 

 そう。世界。

 

 常識ではない。記憶ではない。歴史でもない。

 世界。

 そう言って差し支えないほどに、士郎の知る歴史は此処には無い。

 正確には、00年以降から異なっているのだ。

 突如として現れた深海棲艦。奪われた制海権。そして艦娘。

 この辺りがどうにもあやふやで正確さに欠けている。

 それはどの歴史書を紐解いても同じだ。

 

 

 

「淘汰された、ってよりは最初から無いのか?」

 

 歴史書を読みながら、士郎はそう言葉を零した。この図書室に保管されている歴史書は、今士郎が読んでいるので最後だ。じっくり内容を読んだわけでは無いが、この数日で粗方目は通し終わっている。

 決して此処は図書室として規模が大きいわけでは無いが、鎮守府と言う深海棲艦に対して一番の理解がある施設である。ならば此処で得られる情報が殆どと言う見方をすべきだ。

 もしも他に情報を求めるのならば、隣の資料室により詳しい情報がありそうだが……

 

「……流石に、なぁ」

 

 禁止されている部屋に立ち入るほど士郎は愚かではない。自身があくまでも一般人であり、今はどういう見方をされているかを知らないわけでは無いのだ。……余計な行動で首を絞めるわけにはいかない。

 読んでいた歴史書を閉じて、天井を仰ぐ。

 ままならない事ばかりである。

 

「すいません、貸し出しで」

「はい、勉強熱心ですねー」

 

 顔馴染みとなった司書と二言三言交わして図書室を出る。少し重い足取り。今こうしている間も、誰かに見られているのかもしれないと言う、精神的な呪縛。今日は部屋でジッとしていたい気分だった。

 

「きゃっ」

「っと」

 

 そんな事を考えながら歩いていたら、曲がり角で誰かとぶつかった。相手は相当なスピードを出していたらしく、衝撃で思わず士郎は尻もちをついた。

 

「痛たた……ご、ごめんなさいなのです!」

「こっちは大丈夫、そっちは――――」

 

 大丈夫か。そう問おうとして、士郎は言葉を失った。

 そこには少女が居た。

 やや濃い目の栗色の髪の毛。

 結われた長髪。

 小柄な体躯。

 金色の眼。

 幼さの残る顔立ち。

 そして白色が基調のセーラー服。

 その姿は。あの海域で一緒に居た少女と酷似していて、

 

「い、雷……?」

 

『初めまして。私の名前は雷。暁型の三番艦、駆逐艦の雷よ!』

 胸を張って朗々と挙げられた名前。浮かぶは世話焼きで、元気いっぱいの――あの姿。あの海域で分かれた、3人の内の1人。駆逐艦、雷。

 ――――違う。口に出してから気付く。よく似ているが、目の前の少女と雷は同一人物ではない。彼女とは少ししか会話していないが、それでも目の前の少女が違う人物であることは分かる。

 一方で少女は。ぶつかった事が衝撃的だったのか、驚いたように目を見開いていた。硬直すらしていた。

 

「ごめん、立てるか?」

 

 慌てて士郎は立ち上がると、目の前の少女に手を差し出した。幾らリハビリ中の身と言えど、少女を前に何時までも尻もちをついたままでいる程、呆けているわけにはいかない。

 だがその手に反応することなく、少女は驚いた表情のまま士郎を見上げていた。

 

「あなたは――――」

「ん?」

「あなたは雷ちゃんを……知っているのですか?」

 

 この時。

 もしも士郎に少しでも頭を働かせる余裕があれば。

 もしも少しでも相手の事を考えることが出来たのならば。

 もしも駆逐艦について少しでも学習していれば。

 もしももう少しばかり冷静だったなら。

 違う答えを出せたのかもしれない。違う対応が出来たのかもしれない。

 

「ああ」

 

 結論から言えば。士郎は反射的に頷いていた。焦燥と混乱から、一番簡単な回答を口にしていた。

 

「っ! あのっ!」

 

 少女は飛び跳ねる様にして立ち上がると、伸ばしたままの士郎の腕を掴んだ。そして先程とは異なり、切羽詰まった表情で士郎を見上げる。

 

 

 

「教えてください! 雷ちゃんは……雷ちゃんは無事ですか?」

 

 

 




おまけ(と言う名のNG)

「……夢見が悪かったんだ」
「夢見?」
「ああ、鉄底海峡での夢を見たんだ」

 中略

「どんな内容だったの?」
「……鉛色の巨人に足を潰されたんだ。あ、いや、反対に曲げられたんだったかな。それから首を斬られて、頭だけを持ち上げられた」
「……ゴメン、ちょっと待って。梢子さんを呼んでくるわ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。