艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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クソ速いね、やったぜ!(当社比)

22/7/16 誤字脱字修正


2-11

 吹き抜ける潮の香。

 高く高く昇った太陽。

 脚に当たって弾ける波。

 そしてどこからか聞こえる砲撃音。

 

 

 

 ここは――――そう。

 鉄底海峡――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 照りつける太陽の光。

 遮蔽物が無く、陽に焼かれる身体。

 まとわりつく潮風でベトベトの肌。

 半開きの口はカラカラに乾いている。

 朦朧とする視界に映し出されるのは、何の変哲もない海面。

 

 そして気配。

 こびりついた、死の気配。

 

 忘れられるはずがない。脳髄の奥。記憶を強制的に穿り返し、トラウマを叩きつける様な。そんな強烈にして苛烈で乱暴な、死神の手招き。無数の死者の誘い。

 何故自分は海にいるのか。

 佐世保鎮守府にいたのではなかったのか。

 磯波はどうなったのか。

 相対していた深海棲艦はどうなったのか。

 叢雲や満潮、三日月は無事なのか。

 大井や隼鷹はどうしているのか。

 川内や不知火、電は。

 深海棲艦の群れは。

 そんな幾つもの疑問を抱くよりも先に。先ず士郎は目覚めてすぐ、この場所が鉄底海峡であると判断した。

 そう思う程に、ここには覚えのある気配がこびりついていた。

 

「うっ、ぐっ……」

 

 誰かの声が聞こえた。士郎の声ではない、第三者の声。それは傍らから。

 誰だろうか。視線を向けようとして、士郎は気が付いた。今の己が全く身動きを取れない状況に。指一本動かす事すら億劫な事に。そして誰かに肩を貸してもらいながら支えられている事に。

 今更ながらに、士郎は疑問を抱いた。先ほどまで自分は、燃え盛る佐世保鎮守府にいた。その筈で間違いない。にも関わらず、何故今は海上にいるのか。

 

 だが、答えは与えられない。

 

 この動けない状況で、またあの鉄底海峡で、誰かに肩を貸してもらいながら。

 士郎は力なく、運ばれている。

 分かるのは、ただそれだけ。

 

「なぁ、おい」

 

 勝気な声色だ。そう士郎は思った。その声は頭上から聞こえた。

 

「……なぁ……に?」

 

 弱々しい声色だ。そう士郎は思った。それは己の口から聞こえた。

 

「もうすぐ抜けるぜ。……そう、もうすぐだ」

「ふふっ……そう、ね……もう……すぐ……ね」

 

 士郎の意図することなく、その口からは自動再生されるかのように、言葉が紡がれた。弱弱しく、今にも途切れてしまいそうな声だった。

 少し視線を動かそうとするが、それすらも出来ない。此処に来て士郎は、酷く疲れて億劫だから身体を動かせないのではなく、まるで金縛りにあったかのように何も出来ないことに気が付いた。

 まるで、映像を見せられているかのように。

 だらりと力なく海面に目を向け、視界の端に時折映る代物で、状況を判断するしかなかった。

 

「アイツらなんざ、屁でもねぇ。だろ?」

「うん……」

 

 勝気な声。同じ勝気でも木曾とは違う、だが絶対に生きて帰ると言う意思を感じる声色。それは休むことなく、或いは無言の間を嫌うかのように、士郎の耳に届いた。

 

「とっととこんな傷治してさぁ、借り返しに行こうぜ。三倍返しだ。ぶっ飛ばすんだ」

「いい、わね……それ」

「だろぉ? あのクソッたれな顔にこの右拳をぶち込むんだ。日向の姐御に拳闘でも習ってさ。ついでに蔓延るクソ共も一掃しちまおうぜ」

「うん……」

「つってもまぁ、先ずはゆっくり休みてぇな。みんなでさ」

「ええ……」

 

 対して。それに頷いたり相槌を打つ声は、弱々しく聞き取り辛い。蚊の鳴く様な、耳を澄ましても逃してしまいそうな声量。遠くの砲撃音は当然として、波打つ音にすらその声は飲み込まれかねない。

 夢を見ているようだ。士郎はそう思った。夢の中で、誰かの体験を追体験している。そうでもなければ、この状況に説明がつかない。そもそもとして説明のつくような状況では無いのだが、士郎はそう思う事にした。

 

 その間にも、一方的な話は続く。

 

 自分たちを襲ってくれた相手への愚痴。絶■に借りを返す。よくもご尊顔を。あのクソッたれ共。マジで許さねぇ。一緒にぶっ飛ばし■戻ろうぜ。まぁ先ずは体力回復優先で。あと、帰ったら何しようかな。まぁ俺は戦いに■るけどな。体力は余っているからなぁ。ハハハ■。

 

 またどこかで砲撃音。

 

 アイ■らもしっかり遠征任務しているよな。サボってたら許さねぇ。■たちが出ているからって安心していたら説■しないとなぁ。お■からもよぉく言ってくれよ。後方支援だって立■■任務さ。戦う事だけじゃない■んな、なぁ?

 

 脚に当たって弾ける波の音。

 

 あとこんな無茶苦茶な■で結果出ると考えていやがるク■共。アイツらもぶっ飛ばさ■ぇ■■ぁ? そう思うだろ■? ったく、自尊心だけは強■とか■■ようがねぇよ。■■、なんだぁ、あ■ま■■痴を言うなってか? へへっ、■■らい■■■度言わせろよ。な■?

 

 少しづつ霞み始める声。

 

 ■■たらさ、少し■■取るか。■■も■■■ろ? ■■■■頑■ってんだ。少しくらいはイイ■■■か。■■事■かり■■も悪くない■ど、■■でさ。■■■なんだし。別々の■隊だ■ど、ここで■■■■た■■■かの■■だろう■■ぁ。なぁ、良い■■? 良い案だ■?

 

 士郎の意志に関係なく、生じる空白の間。

 

 ■ったら■■み■く重雷■■■艦の■■を■■■も■うことも■討してみな■か。元々ア■ツらだって■■ちと■じ■巡なんだしさ。■■ね■謂■は■■と■う■んだよねぇ。■■■■■■■思うだろ? これを■に■■■改■た■■。■■み■■■り■■の■も■■■け■よぉ。

 

「そう、ねぇ……」

 

 士郎の口からは、相変わらず弱々しい相槌が零れていた。どこまで聞こえているかも分からない。同意しているのか流しているのか、或いは己の意識がある事を示しているだけなのか。それすらも分からないが、ただ声だけは定期的に、頷くように、零す。

 これはいったい誰の記憶なのだろうか?

 視界の端に少しだけ映る黒っぽい服の端。それだけで判断できるわけではないが、木曾たちとは意匠が違う。望月や三日月のと似ていると思うが、海面までの距離から、彼女たちよりも少し背丈は大きいだろう。睦月型の艦娘を全て把握しているわけではないが、彼女たちとは違うと士郎は思った。

 

「いい、わねぇ……」

「だろ?」

 

 誰かの記憶の追体験。士郎自身の最後の記憶は、燃え盛る建物内での深海棲艦との戦いの真っ最中である。にも関わらず、この状態という事は、もしかして自分は死んでしまったのだろうか。

 最悪の想像にしかめっ面を作る。表情筋も動かないので、あくまでも脳内で。摩訶不思議な状態とはいえ、そんな易々と悪い想像をしてしまう事に意味はない。それどころかそれは、士郎の為に行動をしてくれた皆に対して失礼な想像だ。

 生きなければならない。救われた以上、絶対に。

 説明できない状況だろうが、現況が訳が分からなかろうが、死ぬ事を受け入れるわけにはいかない。

 

「うわっ!」

 

 その矢先に、振動。それから投げ出される身体。転がる視界。そして着水。立ち上がる事もままならず、仰向けに海面に浮かぶ。眩しい太陽。そして激しい波。

 ごぽっ。空けた口にタイミング悪く海水が入り込む。激しい波に飲み込まれるように、視界を覆う水。ぼやける視界。呼吸が出来なくて焦るが、すぐに黒い人影が映る。

 

「■■っ!!!」

 

 海面へと引き上げられる顔。一瞬だけ映った、焦りを隠せぬ泣きそうな顔。

 知らない子……と言う訳ではない。どこかで見た覚えがある。士郎はそう思った。木曾と同い年くらいの、勇ましさと可愛らしさが同居する顔つき。片目が隠れるほどの前髪。そして意志の強さを感じる黄金色の瞳。思い出せないが、しかしどこかで目にした。

 だが記憶を穿り返すよりも先に、焦りの声が耳を打つ。

 

「クソッたれがぁ!!!」

 

 瞬間、再び振動。視界の端で立つ水柱。激しさを増す波。

 砲撃だ。あの最後の日と同じ。深海棲艦による砲撃。

 それが絶え間なく、自分たちを襲っている。

 

「あと少しだってのに!」

 

 士郎を抱えたまま、少女は器用に荒々しく波打つ海面を滑った。砲手の腕が良くないのか、或いは砲撃の着水はまばらだ。避ける事は不可能ではない。

 かつてこの海で木曾と共に潜り抜けた時と同じように。少女も降り注ぐ砲弾一つ一つの着弾地点を予測しながら回避をした。着弾で波打つ海面を滑りながら、踊る様に、ともすれば軽やかに。

 だがそれも長くは続かない。

 

「うわっ!」

 

 偶々……そう、偶々。本当にすぐ近くに砲弾が着水する。すぐ目前で立つ水柱。水飛沫に飲み込まれる身体。

 少女は士郎諸共、海中に沈んだ。だがすぐに浮かび上がる。浮力装置を使い、何とか海面へ。だが彼女も限界が近いのだろう。何とか顔を出したところで、荒い呼吸を繰り返した。

 

「クッ……ソ……」

 

 逃げなければならない。だが身体は動かない。

 極限の疲労。それでも休んではならない、そんな暇もない。

 早く行動をしなければ、次が来てしまう。

 

「ふぅぅぅ……ッ!!!」

 

 体力は限界だろう。だが気力を振り絞り、何とか少女は海面に立ち上がった。

 後は何とかして逃げるだけ。この広い大海原で、何の遮蔽物の無い中を、相手が諦めるまで、燃料が尽きぬことを祈りながら、ただ只管に。

 ――――その何と絶望的なことか。

 

「……ちゃん」

「あぁ?」

 

 此処に来て。初めて士郎――と言うより、追体験中の少女――は、相槌以外の声を口に出した。

 

「……てて」

「あぁ? 何だって?」

 

 全く、聞こえない。

 砲撃の音や彼女自身の荒い息づかい、だけではない。

 既に少女自身の息も細くなっている。

 

「喋る元気があるなら貯えとけよ。華麗な戦略的撤退を見せてやっからよ!」

「……ぁ」

「ハッ、オレをあんま舐めんなよ? この程度朝飯前だぜ」

「……て」

「イイから黙ってろって。任せときなっての」

「……てて」

「っ、だからっ」

 

 

 

「……捨て、て」

 

 

 

 この時の士郎の感情は筆舌に尽くし難かった。この場この状況におけるその言葉の意味。それが分かってしまう程度には士郎は察しが良い。もしも動く事が出来れば、その感情に追随するようなアクションを起こしていただろう。例え彼が関わりの薄い第三者でしかなくとも。それは予感ではなく確信だ。

 だが士郎以上に、それを聞かされた少女の方が。その激情は筆舌に尽くし難い。

 

 

 

「――――ッ、ふざけんなっ!!!」

 

 

 

 首をつかまれる。そしてぶつけられる言葉。怒号。怒りに満ちた黄金色の瞳。そこにあるのは言葉に出来ない激情。

 

 

 

「何が捨ててだっ!!! 帰るんだよっ!!! オレもっ!!! お前もっ!!! そんでもってバカな命令を下した糞野郎どもをぶちのめすっ!!! そうすんだろうがっ!!!」

 

 

 

 捨てる、なんて。そんなものはない、そんなことはできない。

 理知的に、効率的に、合理的に。そんな事、分かっていても出来ない。彼女たちは機械じゃない。

 隠さずにぶつけられる感情。そして見計らったかのようなタイミングで響く砲撃音。

 チィッ、と。舌打ちを一つ零して、再び少女は動く。

 

「んな言葉、二度と口にすんじゃねぇ!!!」

 

 避ける避ける避ける避ける――――っ!

 一発でも当たればそれでお陀仏だ。口調の勇ましさとは相反して、彼女の身体は冷静に2人とも生きるためのルートを選び、敵の砲撃を掻い潜り続ける。口角から泡を飛ばし、開き切った片目からは涙を流しながら、それでも彼女は生きるために動きを止めない。

 この続きを信じて。まだ歩み続ける事を当然として。

 彼女は絶対に諦めない。

 

 ――――ああ、強いなぁ。貴女は。

 

 士郎の脳裏に響く言葉。魂が揺さぶられる様な強い感情。狭まる視界の中でもハッキリと見えるその姿。

 彼女に支えられながら、この身体はそう感じたのだろう。その意思を眩しすぎると思うくらいに。焦がれてしまう程に。

 

 

 

 そうして薄れて行く意識の中で。

 士郎は確かに聞いた。

 か細く、弱々しく、しかしハッキリと。

 その続きの言葉も。

 最後まで。

 ……最期まで。

 

 

 

 

 

 ――――ありがとう■■ちゃん。

 

 

 

 

 

 ――――こんな海でも。こんな状況でも。

 

 

 

 

 

 ――――一緒に戦えて、戦う姿が見えて。

 

 

 

 

 

 ――――そして……私は貴女と出会えて、幸せでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ、どうだ……逃げ切ってやったぜ、こんちくしょうめ」

 

「……」

 

「……はっ、どうしたよ? 驚きすぎて言葉も出ねぇか? 言っただろ、強く想えばどーとでもなるんだよ」

 

「……」

 

「……しかし流石に疲れたぜ……どっかで休みてぇな」

 

「……」

 

「……疲れて寝てんのか? ……いいぜ、今は寝てても。許してやる」

 

「……」

 

「……その代わり、後で叩き起こすからな。眠くても許さねぇからな」

 

「……」

 

「……なぁ」

 

「……」

 

「龍、田」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深く精神を犯した記憶は、終わってみれば一瞬の事だったらしい。

 気が付けば士郎は、もとの正面玄関前にいた。

 両手には干将・莫邪。そして目の前には、突きの体勢のまま硬直している深海棲艦。

 いや、深海棲艦という呼称は正しくないだろう。今はどうであれ、先ほどの光景が正しければ、彼女には別の名前がある。その得物を使用するに相応しい名前がある。

 

「「天龍」」

 

 偶然にも。士郎の声は、誰かの声と重なった。だがその誰かを認識するよりも早く、天龍()は動いた。

 

「ッ!」

 

 ズブリ、と。左肩に入り込んだ刀身が抜かれる。瞬間的な灼熱のような熱さ、それから痛みが生じるが、それを士郎は奥歯を噛み締めて耐える。

 士郎は無意識のうちに、敵の得物に解析の魔術をかけていた。どんな得物であれど、使い手の数だけ使い方は存在する。当然の事だが、その手腕を、最も得意とする動きを、事前に察する事が出来れば戦いは有利に運ぶ。

 聴勁。功夫の達人は視覚で敵を捉えることなく、腕と腕とが触れあった刹那に相手の次を動作を読み取ることが可能だという。そんな事を士郎は知りもしないが、解析の魔術を掛ける事で無意識とは言え疑似的に士郎はその手法を真似ていた。ただ解析がのめり込み過ぎて、その得物が持つ強すぎる記憶まで垣間見てしまったのだ。士郎の持つ魔術の特異性と、その得物に込められた強大な想いによる、限定的な奇跡。

 あの得物の持ち主の名前は天龍では無く龍田。だが彼女は、きっと、もう――――

 

「……ッ」

 

 士郎はだらりと両腕の力を抜いた。握った双剣ごと、その腕は重力に引かれて垂直に。

 それから再び半身になる。貫かれた左肩、そちらを前に。利き腕の右腕を隠すように。

 痛みは噛み殺す。この程度に痛みに屈するわけには行かない。

 天龍も腕に干将莫邪による切り傷が付いているが、その怪我に構う事無く得物を構え直した。だが以前の突きの体勢とは異なり、柄の方を上に、刀身を下にする構えだ。

 その刃先で斬り上げるのか。或いは、下段を斬り払うのか。

 

「磯波を頼む」

 

 士郎は背後にいる誰かに頼みごとをした。誰かは分からないが、誰かがいるのは分かっていた。

 本当なら振り返って確認をし、ちゃんとお願いをしたい。だがここで天龍から視線を切れば、死ぬのは士郎だ。今彼女は士郎を最大の敵として捉えている。一瞬でも隙を見せれば、この身体は一刀のもとに斬り伏せられるだろう。

 天龍。詳しい事は知らない。そこまでは士郎も勉強が進んではいない。

 だが彼女は艦娘であるはずだ。そう士郎は記憶している。味方であるはずの磯波を襲い、さらには深海棲艦の如く変貌しつつあるが……艦娘の筈なのだ。

 強い洗脳を受けている? 或いは、酷い混乱状況なのだろうか?

 

「……敵は、敵だ」

 

 士郎は脳裏に過った考えを切って捨てた。甘美な考え。そんなものは何も救いやしない。あれもこれも良いようには選べない。

 時間も無い。火の手は遮るものなく広がり続け、黒煙が通路を満たしていく。そしてこうしている間にも、大井や隼鷹が見た深海棲艦の群れは近づいてきているだろう。磯波だって、いつまで保つか分からない。

 救えないのなら倒すしかなく。そもそも救おうなんて、そんな考え自体が思い上がりも甚だしい。

 

 

 

 ――――お願い、もう楽にしてあげて

 

 

 

 決着は一瞬だった。

 あれこれと考えを張り巡らせ、打つべき手について思考を重ねていた士郎だったが、脳裏に響いた声に身体が衝動的に動く。

 倒れ込むが如く、士郎は床を蹴った。懐に飛び込むが如く、距離を潰す。ともすればそれは、馬鹿正直に見える程の正面からの特攻。

 

 ――――初手は切り上げ、でもその双剣で弾けるわ

 

 脳裏に響く声の通り、天龍は最短距離で最速で士郎を仕留めるべく、得物を切り上げるように振るった。刀身が士郎真っ二つにするべく、下から襲い来る。

 だが力が十全に乗り切る前の、その絶妙なタイミングで、士郎は双剣にて刀身を弾いた。タイミングは刹那と言わんばかりの瞬間的なものだったが、不思議と士郎は苦も無くその間を勝ち取る。

 

 ――――無理矢理柄で叩きに来るわ。頭を下げて。それで避けられるから

 

 刀身は弾いた。しかし間髪入れずに、その剛力により得物は半回転し、今度は柄の部分が士郎の横っ面を叩きに襲い来る。

 だが、先ほどの刀身での一撃に比べれば不格好。力も乗り切っていない。声に従う様に頭を下げれば、髪の毛の先を撫でられるだけで終わる。

 もう身体は目の前。

 あとはこの双剣を振るうだけ。

 

「――――ッ!」

 

 瞬間、脳に、意識に、身体に流れ込む言葉にし難い感情。士郎が持つそれとは別の、あらゆる悲哀や後悔が綯交ぜになった感情。

 それを歯を食い縛って耐える。耐えて、最後の動きに入る。

 即ち――――

 

「……チィ」

 

 それでも。艦娘としての筋力を用いれば、相打ちになっても天龍は士郎を仕留める事は出来ただろう。自身の心臓が止まるまでに、刀身で胴体を串刺しにする事も、頭部を柄で粉砕する事も、或いは両腕で首を締め落とす事も。

 

 だが天龍は、その何も、選択をしなかった。

 

 得物は弾かれたまま。両手は柄に沿わされて。両足は床を踏みしめて。

 そして、迎えるが如く、士郎と天龍の身体が密着して。

 貫く刃。士郎の手に、そして顔にかかる、熱い血潮。

 

 ――――ありがとう

 

 士郎の耳に響く、その言葉。

 誰かは分からないけど、誰かは分かる。

 それから優しく、抱きしめられるように。

 その細腕で、包み込まれて。

 

「……わりぃな」

 

 カラン、と。少し遅れて耳に響く乾いた音。

 士郎に寄り掛かる様に、力なく倒れ込む体。

 その身体を、無手で士郎は優しく支える。

 軽いのに、重い。

 冷たいのに、熱い。

 矛盾したその想いを。士郎はその手に刻むかのように、強く彼女を抱きしめた。

 

 

 




おまけ(と言う名の裏設定)



天龍のポジションは黒潮にする予定だったけど、あんまりにも鉄底海峡組に救いがないので差し替えに。当初の予定では、天龍は3章以降に出る予定でした。
尚、黒潮だった場合は、満潮と士郎のコンビで倒す予定でした。救いが無ぇなぁ。
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