艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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い、生きています。
更新遅くなり申し訳ございません…

2章ももうすぐで一区切りを迎えますので、もう少々お付き合いいただけますと幸いです…



2-12

 ――――ヒトマルマルマル。

 佐世保鎮守府、近海海上。

 海上警備、および新兵訓練海域。

 

 

 

 一歩を踏み越えれば、そこは悪鬼の蔓延る死地。

 命を護り、或いは奪い合う。死神が鼻歌交じりに闊歩する最前線。

 であれば。

 たとえ新兵の初めての出撃と言えども、何事もなく平穏無事に帰投できる、なんて。

 そんな都合の良い夢物語なんてあるわけがない。

 そんなことは誰もが分かっていたはずだ。

 

「なに、あの、大群……」

 

 誰かが零したその言葉。

 不意に零れ出たであろう程度の小さな音。

 だがそれを契機に、部隊に瞬時に伝播する恐怖。

 訓練による仮初のモノとは違う、初めての明確な殺意と敵意を前にし、身体が震えて視界が眩む。

 呼吸の有無が分からないほどの焦燥と混乱が思考をかき乱す。指先一つ動かせなくなる。

 その最中、垣間見るのは走馬灯。或いは楽しき思い出への逃避。

 目前へと迫りくる夥しい数の深海棲艦。その光景を現実と見なしたこの瞬間、思考するという行為すら奪われ、恐れと怖ろしさが蹂躙する。

 

 そんな中、冷静だったのは2人。

 

「新兵どもっ! 即刻鎮守府に帰投しろっ!」 

 

 1人は重巡洋艦・摩耶。

 部隊の中で最高練度を誇る彼女は、すぐさま新兵への帰投命令を下した。迫りくる深海棲艦の練度は不明だが、少なくとも実戦経験も不足している新兵を率いて迎撃できる相手ではないだろう。そのことを考えれば彼女の判断は当然である。無暗に命を散らすことの無意味さを、彼女はよく知っている。

 

「叢雲っ、帰投っ! 皆を頼んだわっ!」

 

 もう1人は駆逐艦・満潮。

 部隊の中で摩耶に次ぐ練度を誇る彼女は、この場で誰かしらが迎撃という名の足止めをしなければ、新兵全員が帰投できないであろうことを分かっていた。そしてその役目が、最低でも自身以上の練度がなければ務まらないことも。……いや、自身程度ですらきっと力不足であろうことも。

 

「な、何を勝手に――――」

 

 一方で名指しされた叢雲からすれば、そんな命令はたまったものではなかった。彼女は確かに摩耶や満潮と比べれば練度は低い。だがたった2人で足止めをしたところで、稼げる時間はそう多くないことも分かっていた。

 だからこそ声を上げようとした。自分も残ると。3人ならば少しは可能性が上がると。それが新兵を自分が率いて帰投するよりも、よっぽど合理的な選択肢だと。

 

「士郎っ!!!」

 

 だが出そうとした言葉は、極限まで無駄を省いた満潮の一言に抑えられた。

 他の艦娘では分からない、この場にそぐわない誰とも知らぬ第三者の名前。

 しかし叢雲はその意味を理解した。

 その言葉が持つ意味も、込められた想いも。

 痛いほどに。苦しいほどに。

 

 

 

「……いいのか?」

 

 去り行く面々を背に感じながら摩耶は問うた。

 

「ええ」

 

 短く、ただ肯定の意味を満潮は口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ヒトマルサンマル。

 佐世保鎮守府、一階中央玄関付近。

 

 

 

 力の抜けた身体。

 零れ落ち続ける血潮。

 失せて行く体温。

 奪った輝き。

 

 

 

 ずるりと。力なく寄りかかってきた天龍を、士郎は優しくその場に横たわらせた。深海棲艦化して襲われたとはいえ、彼女は艦娘である。この国を護るために命を燃やした戦士である。ならば、払うべき敬意がある。

 横たわらせた彼女は、見れば見るほどボロボロの様相であった。瘦せこけた頬。肌に刻まれた無数の傷跡。血に侵されていく服。そしてそれらに相反する安らかな表情は、どんな想いで浮かべたのだろうか。

 不意に波打った心臓を、士郎は無理矢理に押さえつける。そして浅い呼吸を一つ。それから士郎は磯波へと向き直った。より正しくは、磯波の傍にいるであろう第三者へ。

 

「……大凡の事は察した。嫌な役割を担わせたようだ」

 

 果たしてそこには。士郎が思った通り第三者がいた。

 白色の和装。首までの長さに切り揃えられたショートカット。大井や隼鷹よりも大人びた様相。そして凛々しさを感じる小豆色の眼が、驚きもせずに何やら納得した様子で士郎を見ていた。

 艦娘だろう。士郎は疑問を抱くことなくそう判断した。黒煙がより濃くなった状況でも、落ち着き払った様子を崩さないからだ。それに磯波を抱き上げてくれてもいる。

 

「磯波か? 息はしている。今後に影響しない、とは言い切れないが」

「そうか……息はあるんだな、よかった」

「君は? ここの職員、と言う訳ではなさそうだが……」

「ああ、職員じゃない。衛宮士郎。磯波たちに助けられた……ええと、一般人、でいいのかな」

「衛宮士郎……あぁ、なるほど。君が噂の一般人か。妖精さんから話は聞いている」

 

 この短い会話で、納得したかのように女性は小さく頷いた。噂、そして妖精さんという言葉。士郎の知らぬところで、その名前は広がっているのだろう。昨日の今日だと言うのに早いものである。残念ながら満潮の妖精さんに釘を刺しておくという案は無駄に終わりそうだ。

 

「と、自己紹介がまだだったな。佐世保鎮守府所属、伊勢型航空戦艦・日向だ。……さて、それでは早速だが状況を教えてほしい」

 

 戦艦、日向。その名前ならば士郎も聞いた事はあった。九州が出自の彼にとっては、同じ戦艦でも金剛よりも日向の方が聞き馴染みはある。それに以前にも、日向は佐世保鎮守府の最高練度艦の1人だとも聞いている。

 

「深海棲艦が急襲してきた。隼鷹が艦載機で迎撃中で、大井は執務室にいるはず。一階から黒煙が出ていたから、磯波と消火活動を行っていた。そこで……原因は不明だが、天龍と交戦した」

「なるほど。他には?」

「他は分からない」

 

 士郎は端的に、且つ順を追って状況を説明する。憶測は含まず、事実だけを。

 

「……妙、だな」

「妙?」

「ああ……いや、随分と動ける艦娘の数が少ないと思ってな。……恥ずかしい話だが、謹慎により懲罰房にいた身なんだ。近々の状況が分からないのだが、何か他にも原因があるのかと思ってな」

「すまない、大井さんに聞けばわかるかもしれない」

「ああ……っと、いや、君に言う話ではなかったな。すまない」

 

 落ち着き払った声で、そう彼女は言葉を紡いだ。いくらこんな危機的な状況とはいえ、一般人であるはずの士郎に対し、余計な不安を抱かせる言葉選びをしたことについての謝罪だった。

 

「赤城や大井、摩耶、川内の所在は知っているか?」

「大井さんなら執務室で別れたっきりだ。あとは……すまない、分からない」

「そうか……なら、一先ず私は大井に会いに行こう。君は磯波を連れて外へ出てもらえないか。命の別状はなくても重傷であることに変わりはないし、安全なところで彼女を看病してもらいたい」

 

 今度は慎重に言葉を選ぶ。日向は士郎の事を知らない。知らないが、おおよその活躍を妖精さんから聞いている。なんでも深海棲艦を追い払ったとか。加えて実際に、天龍の撃退を目の当たりにもしている。

 だがだからと言って、彼が艦娘と並ぶような超人であるというわけではない。艦娘ほどの頑強さも、長時間働ける耐久性もあるはずがない。ましてや天龍を撃退した直後の今、アドレナリンの分泌により多少の無理は効いているのだろうが、長くは保たないのは明白だ。この場に残って諸々の手伝いをしてもらうよりも、早々に適当な理由をつけて安全な場所に避難してもらった方がいい。

 この場の不自然な落ち着きや、艦娘と渡り合う腕前から勘違いをしそうになるが、衛宮士郎は軍人でも何でもない。一般人なのだ。

 

「磯波を連れて出たら、戻ってくる必要はない。全てが終わったらまた話を――――っ!!?」

 ――――ズズンッ!!!

 

 言葉を遮る轟音、そして振動。

 咄嗟だった。理解よりも早く、士郎は磯波と共にそばにいた日向に下敷きにされた。荒々しく、それでいて気遣うかのように優しく。

 間髪を入れず、日向越しに振動を士郎は感じた。それは断続的に、雨が降り注ぐかのように、それでいてよっぽど大粒の何かだった。日向を挟んでいるにもかかわらず、日向を通して打ち据えてくるかのような確かな衝撃を士郎は感じたのだ。

 

「チィッ、爆撃か……」

 

 振動と衝撃は数十秒は続いただろうか。

 日向は忌々し気に言葉を吐いた。それからガラガラと何かを落とすような音とともに士郎の視界が開ける。崩壊した天井に、周囲には降り注いだであろう施設の破片。……そのどれもが、人を容易に圧殺できる大きさを持っている。

 パンパン、と。埃でも落とすかのような仕草で、日向は自身の身体を叩いた。戦艦としての身体の頑強さに加え、妖精さんの加護もある。爆撃を直接食らったわけではないのだ。多少血は出たが、この程度のダメージで動かなくなるほど柔ではない。

 

「全く……君、災難だな。もはや消火どころではなくなったぞ」

 

 日向はこの場の惨状にそぐわない軽口を叩いた。だが言葉の通りである。崩落して変わり果てた廊下に、勢いを増した火の手。仮に消火に成功したところで、今のように爆撃をされてしまえば意味はない。

 士郎は磯波を抱えた状態のまま、どうにか立ち上がった。アドレナリンが落ち着きを見せつつあるせいか、刺し貫かれた左肩をはじめとし、無理をした身体の節々が痛みを訴える。動作一つが億劫で仕方がなかった。

 

「爆撃ってことは、対空制圧されたってことか」

「いや、そう言うわけではないようだ。もしも制圧済みなら、今頃ここは爆撃の嵐で蹂躙済みだろう」

 

 それはその通りだ。鎮守府は艦娘の拠点。対空制圧を果たしたのなら、そんなわかりやすいシンボルを放置するはずがない。

 

「一つ防ぎ漏れた、というところだろう。なんにせよ、ここにいても意味はあるまい。……さて」

 

 ガラガラガラ。乱雑に瓦礫をどかして、日向は何かを拾い上げた。見覚えのある薙刀。そして、

 

「君、追加でもう1人頼む」

 

 ちょいちょいちょい。そう指先で指し示すは、倒れ伏した躯。先ほど士郎が命を奪った戦士の亡骸。

 

「戦友なんだ。この場に置くのは忍びない」

 

 戦友。その言葉を聞き、士郎の心臓が少なからず跳ねる。

 

「気にするな。誰かがやらなければやらないことだった。……寧ろ感謝しかない。本心だ」

 

 そんなわけがない。そう士郎は思ったが、言葉をぐっと飲みこんだ。ここで何を言おうと、そこには何の意味もない。何の意味も生まない。

 

「……分かった、日向さんは?」

「出撃してくる。この薙刀一つだけしかない身だが、いないよりはマシだからな」

 

 ビュンッ。薙刀を一振り。不安をかき消すかのような、力強い風切り音。

 ……天龍には悪いが、今の一振りで彼我の戦力差を痛烈に士郎は実感した。もしも相対したのが日向だったら、受けることはもちろんいなすこともできずに両断されていただろう。

 

「大井に話を聞きたいところだが、どうもその時間もなさそうだ。君、もし大井に会えたら私は出撃「日向さんっ!!!」おや?」

 

 噂をすれば、ということだろうか。

 士郎たちがいる箇所とは反対側。中央玄関を挟んだ無事な方の廊下から、鋭い声とともに走ってくる人影が2つ。

 茶色のセミロング。クリーム色の制服。柔和な印象はどこへ、不機嫌を隠そうともしない顔色の大井。

 鈍色のショート。紺色の鉢巻き。隼鷹とよく似ているが、彼女よりも赤色の薄い和装。着崩しているというより慌てて着たかのような様相の女性。

 

「大井、それに千歳か」

 

 さて、説明をどうするか。

 まだ脱出していないこと。磯波が重傷を負っていること。天龍を手にかけたこと。

 こんな時だというのに、先ほどとは全く別の意味合いで、士郎の心臓はやや早鐘を打ち始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――なるほど。状況は理解したわ。とりあえず千歳は隼鷹の加勢をお願い。日向さんは海へ。新兵が訓練中よ、一人でも多く逃がして」

「「了解」」

 

 大井たちの情報共有は、一分もしないうちに終わった。無駄を極限まで省いたやり取りは、それだけ今の状況が危機的で切迫していることの裏返しであるのかもしれない。

 指示を聞いた千歳は上階へ、日向は空いている穴から海へと駆け出して行った。

 そうして残ったのは、大井と士郎たち。

 

「さ、て」

 

 向き直った大井の顔は、今まで相対していたような感情を一切取り払っていた。柔和な笑顔も、或いは気苦労性の様相も、何もかも。

 言わば、無。

 感情を排したその顔からは、何も読みとれない。

 大井は先ず士郎へ、それから磯波へ、そして最後に天龍へと視線を移した。

 

「……ハァ、まったく」

 

 零した言葉には、どれだけの感情が込められているのだろうか。

 天龍。その存在を士郎は知らない。だが日向は彼女の事を戦友と称した。ならば、大井にとっても同様だろう。

 言葉を士郎は発せない。何の説明もできない。今の大井に対して、言葉を発する資格を持っていないのだから。

 

「……ありがとうございます、衛宮さん」

 

 沈黙は一呼吸程度のわずかな間。

 言って大井は士郎に向き直った。あの柔和な笑顔で。張り付けた笑顔で。

 ……なにが、ありがとう、なものか。士郎は思った。

 柔和な笑顔で感情を隠してはいるが、握りしめられた手が、握りしめすぎて震えている手が、何よりも雄弁に彼女の心情を語っている。

 

「事情は日向さんから聞きました。重荷を背負わせてしまい申し訳ございません」

「あ、いや……」

「諸々お伺いしたいことはありますが……ここも長くは保たないでしょう。まずは磯波を連れて脱出を……いえ、あの、可能であれば天龍を連れていってもらえますか」

「ああ、分かった。天龍もだな」

 

 大井の言葉に、士郎は即答した。悩む素振りもなかった。

 ……極論を言ってしまえば。いつ何がどうなるとも分からぬこの状況で、荷物ですらない死体を連れていくことの意味は無い。ましてや天龍は、どんな事情があったにしても鎮守府の崩壊の一端を担い、さらには磯波に重傷を負わせている。

 だがその是非を問うほど、士郎は合理的にモノを判断しない。

 士郎は磯波を抱えたまま、天龍の傍に跪いた。彼女を背負うためだ。

 

 

 

「本当に、感謝をしています」

 

 

 

 大井に背を向ける形になったところで発せられた言葉に、士郎は思わず動きを止めた。

 

「天龍が深海棲艦になる前に、なり切ってしまう前に、活動を止めることができた。……皆に手をかける前に終わらせることができた」

 

 言葉は震えていた。

 今の彼女はどんな顔をしているのだろうか。

 泣いているのだろうか。

 表情を崩さずにいるのだろうか。

 或いは……変わらずに微笑みを張り付けているのだろうか。

 士郎は振り返らない、振り返ることができない。

 振り返って彼女を見せてしまうのは、きっと失礼なことだろうから。

 

「いつか……いつか必ず――――」

 ――――ズズンッ!!!

 

 言葉を遮る、再びの轟音と振動。

 ぱらぱらと破片が落ちてくるが、幸いにして大きくはない。

 とは言え、鎮守府はもう保たないだろう。日向のように頑強であれば問題もなかろうが、士郎や今の磯波では、崩壊に巻き込まれてしまえばひとたまりもない。

 

「さぁ、行ってください」

 

 そしてそのわずかな間に、大井の声は平静を取り戻していた。そこに先ほどまでの生の声はない。

 

「三日月たちが程なく戻ってくるはずです。以降については、彼女たちの指示に従ってください」

「分かった……ありがとう、大井さん」

 

 天龍を抱えたことで、士郎の負担は相当なものになった。が、我儘を言うほど軟な精神でもない。

 感謝の言葉を一つ、それから大井に改めて顔を向ける。

 意外なことに、彼女は呆気にとられたような顔をしていたが、すぐに笑顔を浮かべた。

 それは今までの張り付けた笑顔とは異なる、恐らくは彼女の本心の笑みで――――

 

 

 

 ――――パララッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び散る赤。

 傾ぐ大井の身体。

 

 

 

 士郎には何が起きたのか理解できなかった。

 ただ眼前で。まるでスローモーションで映画を見せられているかのように。笑顔のまま大井が、何かに弾かれるように身体を傾げた。

 一拍遅れて、飛び散る赤色の何か。

 そしてゆっくりと、それでいて世界のすべてを置き去りにするスピードで。

 大井の身体は地面に横になった。

 ……否、叩きつけられた。

 

「……は?」

 

 重ねて。士郎には何が起きたのか、全く理解できなかった。

 眼前で。先ほどまで話していた大井が、床に倒れ伏している。

 そして彼女を中心に、赤色の液体が広がり始める。

 

「大井さん?」

 

 酷く間抜けな声だった。だが士郎がそれに気が付くことは無い。

 士郎は少し体を下げた。理解ができないまま、大井を起こそうとしたのだ。背負った天龍が、ずるりと滑り落ちそうになる。

 

 ――――パララッ

 

 衝撃。それは天龍越しに。

 だというのにも関わらず感じる、荒々しい痛み。そして視界の端に散った赤色。

 突然の衝撃に耐えきれるわけもなく、無様に士郎は身体を傾げた。ロクに踏ん張りもできずに、抱えていた磯波や天龍と共に床に尻もちをつく。

 ――――銃撃!

 漸く思考が追いついたところで、士郎は咄嗟に両手に干将・莫邪を投影した。それから大井たちを護るように、銃撃を食らった方向へ一歩前に踏み出て、

 

 ――――パララッ

 

 三度。銃撃音。

 たまたま構えた干将・莫邪が盾になったこと、受けた衝撃で再び尻もちをついたこと、干将・莫邪の効果のおかげで防御力が向上していること。

 それらが功を奏し、貫かれることこそなかったが、心臓付近を狙った相手の正確な技量に士郎は内心で恐れを抱いた。

 視線の先。つまりは廊下の奥には、一人の女性。

 生気の薄い青白くて無表情な顔色。

 大井や天龍、木曾たちと異なる、青色のセーラー服。

 頭部にはアンテナのように飛び出ている何か。

 そして腕。

 真っすぐに士郎たちに向けられた腕の先には、厳つい銃口が見て取れる。

 

「深海棲艦、じゃないよな」

 

 こんな時だというのに。非生産的な言葉を士郎は零した。

 士郎は知っている。あの顔の色を。

 士郎は知っている。あの敵意と殺意を。

 士郎は知っている。あの憎悪に満ちた目を。

 士郎は知っている。つい先ほど、同じように相対したばかりなのだから。

 

 




おまけ(と言う名の補足)


「三日月たちが程なく戻ってくるはずです。以降については、彼女たちの指示に従ってください」

・大井が言葉を端折っているだけで、本当は三日月たちへの連絡は取れていません。
 大井の所属艦隊の監督責任である薄葉提督が電話に出てくれないので、緊急時の取り決め通りにワンギリ入れまくっている&これだけ大事になっていれば街に出ていてもそろそろ気が付いて戻ってくるだろう、という希望的観測からの発言です。
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