艦隊これくしょん×Fate/staynight   作:くまー

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アラートとか警報とか。
調子とかコンディションとか。
統一されていないのは執筆時の気分でごちゃ混ぜになっているからです。


1-5

『軽空母ヌ級』

 

 深海棲艦の一種。種別は軽空母。

 外観・性能共に正規空母ヲ級の未成熟体といった様相の空母。基本的な攻撃方法は、艦載機を使用した遠距離からの空撃。見た目に反して扱える艦載機数が多く、制空権を握られると非常に厄介。

 一方で彼らは偵察を始めとするサポートに従事する場面が多く、単体での戦闘力はそう驚異的でも無い。適正距離を潰して近接戦闘にさえ持ち込めれば、ある程度の練度さえあれば駆逐艦でも撃墜は可能。

とは言え単体で動いている場面は殆ど無く、大概の場合は複数の他の艦と共に編隊を組んでいる。

 

 『深海棲艦の要綱』より一部抜粋。

 

 

 

 

 

 鳴り響くアラート。羅列する情報。

 頭の中で並べたヌ級についての基本情報は、出撃する前に頭に叩き込んだ深海棲艦についての要綱の一つだった。情報の一つが有ると無いとでは大きく違う。少しでも作戦の成功率を高める為には、この程度くらいは覚えていなければ話にならない。

 叢雲は優秀な艦娘だ。一見呆けているようなこの現状でも、彼女の脳はこの場を切り抜けられる可能性に付いて、無意識のうちに計算して算出しようとしていた。敵の目的、他の敵影、光源の位置、足場、自前の戦力、彼我の実力差……そしてヌ級の一挙手一投足。言うまでも無く、一番警戒しなければならないのはヌ級の動きである。

 

 見れば見る程、ヌ級は奇妙な形をしていた。

 

 不格好に改造されたような巨大な頭部。横一文字に開いた口らしき箇所。不揃いな歯並び。胴体を覆う装甲。唯一装甲の付いていない手足は、生気が一切見られない青白さで染め上げられている。そしてその左手には、力任せに取り外された仕切り扉が握られていた。

 滴る水の音。ギチギチと耳障りな音が頭部から漏れる。空いている口らしき箇所からは、何かを噛み締めるような音が鳴り続けていた。不快感の塊のような存在だった。

 眼が何処にあるかは分からないが、此方を認識しているのは理解できる。何せ纏わりつくような不快な視線は嫌というほど感じるのだから。

 すぅ、と。ヌ級の腕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■ 艦これ×Fate ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 両足に力を込める。右手で地上を掴む。

 梯子を蹴り、右手側に転がる様にして士郎は入口から出た。決して綺麗とは言い難い、不格好な様相で。横転するように。勿論叢雲は左腕でしっかりと抱きしめている。

 ほぼ同時に破壊音。そして風圧。

 息をのむ様な声が胸元から聞こえてきたが、士郎からすればそれは見るまでもない結果だった。上げられた腕が振り下ろされた。ただそれだけのこと。

 崩壊した、先ほどまで自分たちがいた場所。あのまま呆けているか、もしくは室内へ戻る事を選択していれば、生き埋めになっていた事は間違いない。

 立ち上る砂埃。その奥に見える僅かな影。

 ギョロリ、と。視線だけが士郎たちを捉えて離さない。

 

「――――ヅッ」

 

 勢いに任せて距離を取る。ゴロゴロと二転三転し、大凡五メートル程の距離は開けただろうか。加えてさらにバックステップで限界に近い距離を取った。それでも背筋の悪寒は無くなろうとはしない。

 強い。間違いなくアレは強い。

 冷静に士郎は分析する。目前の異形の物体は、自分が初日に迎撃した艦載機なんかとは比べ物にならないほど強い。少なくとも徒手空拳で勝てる相手では無い。戦わずに済むのならば、それに越したことは無いだろう。

 だがそれは不可能だ。目前にいるのは敵。周囲は海。背後に足場は無し。逃げ場は無い。戦って勝つしか道は無い。

 

「……下がりなさい」

 

 そしてそれは。叢雲も同じ考えを抱いていた。彼女もこの絶望的な状況を正しく理解した上で、何を為さなければならないかについても承知していた。

 士郎を押しのけるようにして叢雲は立ち上がる。

 

「お、おい……」

「アンタは下がっていなさい。アレと戦うのは艦娘の使命よ」

「でも、今の叢雲じゃ……っ!?」

 

 最後まで言わさせない。士郎の言葉を遮る様に、叢雲は自らの腕を士郎の眼前に伸ばした。士郎の視界いっぱいに、叢雲の掌が映る。

 

「無理は承知よ。……でも私じゃなきゃダメ」

「そんなこと言っている場合か! その怪我じゃ満足にも動けないだろっ!」

「……そうね。アンタの言うとおりね」

 

 事実は事実だ。癪ではあるが士郎の言う通り。今の叢雲のコンディションは最悪。相手の一撃を喰らうだけで致命傷になりかねない。コンディションだけを考えれば、まだ士郎の方が良好である。

 だがそれでも。この場に置いて深海棲艦とマトモに戦えるのは、艦娘の自分だけだと彼女は考えていた。

 深海棲艦を倒す方法は数あれど、確実に倒す事が出来るのは艦娘だけ。

 ならば。叢雲が出るのは当然の答えだ。

 だが、何より――――

 

「……時間を稼ぐわ。アンタは動かずに、可能であれば逃げなさい」

 

 ――――深海棲艦が狙う対象には優先順位が存在する。

 一つ目は、弱っているモノ。

 二つ目は、近くにいるモノ。

 そして三つ目は――――艦娘。

 自分が動けば、間違いなく敵は此方に意識を向ける。此方にのみ意識を向ける。脅威の欠片にもならない一般人の衛宮士郎など、意識から弾き飛ばされるだろう。

 それはつまり、一般人である衛宮士郎が生き伸びる時間が長くなることに繋がり――――

 

 

 

「叢雲っ!!!」

 

 

 

 名前を呼ばれる前に、一瞬だが彼女は士郎へと振り返った。それは一般人である彼を安心させる為に、自然と向けた仕草のようなモノだった。

 だが振り返った先にいたのは、脅威を前に怯えた顔つきの士郎――――では無かった。そしてそれは状況が分からずに呆然としている顔でもなかった。当然泣き顔なんてものでも無かった。

 言うなれば、焦燥。目を見開き、歯を食いしばり――――しかしその意識は、声とともに叢雲へと向けられていたのだ。

 

「――――え」

 

 何が、と。問うまでもない。

 伸ばされた手。掴まれた肩。掛けられた体重。

 生じる圧迫感と重み。前のめりに縺れる足。頭を庇う温かみ。

 身体が押し倒されたのは明白だ。が、その理由を叢雲は分からなかった。察知できなかった。

 

 ――――あ、アンタ何やって……っ!?

 

 視界いっぱいに映る衛宮士郎の顔。思わず出かけた文句の言葉は、しかし彼の必死の形相の前に飲み込んだ。飲み込まざるを得なかった。

 士郎は叢雲へと視線を合わせてはいなかった。それどころか、その形相で前ばかりを見ていた。

 何を、と。疑問に思うよりも早く。叢雲の視線も士郎と同じ方向へと向けられた。映ったのは、まさしく刹那の光景。

 視界を覆うように、二人の頭上を切り裂く鉄の塊。

 ブン、と。耳に届いたのは、不格好な風切り音。

 フワリ、と。風と共に飛び散る赤銅色の髪の毛。

 

「きゃっ」

「ぐっ……っ」

 

 押し倒す形で、そして押し倒される形で。二人は先の攻撃を何とか避けた。代償は風圧で切れた士郎の髪の毛数本。あのまま突っ立っていれば、確実に叢雲の首から先は吹っ飛んだだろう。

 ……いや、違う。今考えるべきはそこではない。

 叢雲が視線を切った、その僅かな間に。ヌ級はノーステップで、自らの腕力だけで取り外した扉を投げつけて来たのだ。手裏剣を投げるかのような手軽さで、それでいて斧で首を刈り取る様に。

 あまりにも。あまりにも強大すぎる、その身体能力。

 死ぬ。何であっても、一撃が当たれば、死ぬ。

 艦娘である叢雲も。一般人の衛宮士郎も。

 くらえば、死ぬ。

 

「……■■」

 

 そんな脅威に気が付いたところで、状況は待ってくれない。

 士郎たちが如何に拙い状況で、如何に拙い敵と相対しているかを噛み締めている間に。

 敵は次の行動を決めていた。

 

 ギチギチ、ギチギチ

 

 厭な音と呻き声を漏らしつつ、ヌ級は重心を下げた。踏みしめた地面、明らかに力が篭られた両足。

 そうして。ドン、と。

 爆発音に似た音を残し、その身体が空へと跳び上がった。

 

「――――あ」

 

 それはどちらの声だったか。

 戦場での思考の停止は自殺行為もいいところだ。それを分かっていながら、叢雲は思わず呆けてしまっていた。

 目の前に着地したヌ級。既に振りかぶられた腕。あとは二人を薙ぎ払うように、その力を解放するだけ。

 叢雲は失念していた。そうとも、ここは戦場。相手が殺す気で向かってくる事は当たり前。

 自分たちがこの場を生き延びるには、戦って勝つしか道が無かった事を。

 一般人だからと言って、気にかけておく余裕なんて無かった事を。

 立ち上がって、そのままの状態で呆ける二人。

 ああ、なんて無様――――

 

 

 

 「――――ガッ」

 

 

 

 だから。叢雲は。

 目前で起きた光景に、一瞬だが理性が吹っ飛んだ。

 振りかぶられた剛腕。

 薙ぎ払うように放たれた力。

 押さえつけられた頭。

 逆らえずに伏した足。

 上げた顔。

 交錯した視線。

 そして顔。安心しろとでも言いたげに、柔く微笑む顔が。

 

 一瞬で視界から消えた。

 

「……は?」

 

 遅れて顔を打つ突風。だがその視線は動かない。地に座り込んだまま、彼女は振り抜かれたヌ級の腕を見上げていた。まだ彼女は何が起きたかを理解できてはいなかった。

 ――――或いは、理解したくなかっただけか。

 ギリギリ、ギリギリ。

 耳障りな音を鳴らしながら、ゆっくりと視線が右へと動く。ヌ級の腕が振り抜かれた方向へ。まるで認識する事を拒むかのように、意志に反して何処までも遅々とした動きで。でも、確実に。

 陽も落ちる。世界はもうすぐ夕闇に。地平線の向こうへと輝きが姿を隠すまで、あと幾許もないだろう。

 

 その僅かな光源が。叢雲の現実を映し出す。

 

 ただでさえ歪んでいたフェンスの中で、一際大きく歪んでいるフェンスが視界の先にはあった。そしてその中心部には、めり込む様に何かが鎮座している。力任せに突っ込んだかのように、それはあまりにも不似合いな光景だった。

 そうして。ワンテンポ置いて。

 ズルリ、と。窪みからソレがずり落ちた。

 力の見えない様相。

 人形のように投げ出された四肢。

 俯いたままの頭。

 最後の陽に照らされる、赤銅色の髪の毛。

 赤銅色の髪の毛。

 赤銅色の髪の毛。

 赤銅色の髪の毛――――っ!

 

 

 

「士郎っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き飛んで行った士郎の姿を、茫然とした表情で叢雲は見ていた。

 最後の陽の光が水平線に沈み、ほぼ同じくして士郎の体が水の下へと沈んでいく様まで。くっきりと。しっかりと。

 それは余りにも呆気なさすぎる光景。

 しかし巻き戻すことはできない現実。

 そしてそんな彼女の意識を現実に引き戻したのは、腹部に生じた無遠慮な圧迫感だった。

 

「――――ガッ、ハ……っ?」

 

 ただの一撃。握りつぶすように。

 呆けて開いたままの口から空気が絞り出される。吸う余裕はない。あまりの苦しさに、吐き出す事を止めることすら困難であった。

 何が、と。問うよりも早く、彼女の視線は原因を捉えた。

 

 ――――ああ、そういうこと……

 

 胴体を握る、武骨な両手。左右から押しつぶすように、万力のような力で締め付けられている。

 なんてことはない。呆けている間に、自分の命運も尽きた。ただそれだけのこと。

 ……いや。命運なんてものは、もしかしたら当の昔に尽きていたかもしれない。

 

「……マズッた、わ」

 

 まだ自制の利かない子供が虫を殺すように。

 ペットボトルを握りつぶして捨てるように。

 手にしたゴミを圧縮して放り捨てるように。

 そして子供がおもちゃを放り投げるように。

 掴まれた体。振りかぶられたフォーム。悲鳴をあげる体。せり上がってきた吐瀉物以外の何か。

 決まり切った結末を語る必要は無い。

 海面に叩きつけられる。

 一撃で粉砕される。

 叢雲の生命はそれで終わり。

 戦い未満の戦いはこれにて閉幕。

 それはどこまでも呆気ない、予定調和のような終わりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息が出来なかった。

 全身の感覚が消え失せた。

 防御行為なんて意味は無かった。

 為すすべもなく身体は沈んでいった。

 

 ――――あー、あ……

 

 少し名残惜しそうに、彼女は口を開けた。重力に引かれるように、身体はゆっくりとだが沈んでいく。半開きの口の中に、容赦なく水が入り込んだ。

 空気が、泡となって消えて行く。絞り出すように、空気が逃げて行く。沈みゆく体から逃げていく。

 その様相を無感動に眺めながら、叢雲は僅かに手を動かした。

 

 ――――失敗した

 

 右手が海面へと向けられる。僅かに見える明かりを遮る様に、開いた右手が視界に映った。

 思い残す事は少なかった。失敗すれば死ぬ。分かっていた事だ。だから、思ったのは。どこかに消えた仲間たちの安否。先ほどまで一緒にいた筈の少年への申し訳無さ。そして、

 

 ――――ゴメン……

 

 まだ就任したてで若く、やや頼りげのない提督がいた。

 阿呆みたいに騒がしく、口の減らない仲間たちがいた。

 そんな自分たちを見て、困ったように笑う先輩艦がいた。

 仲間たちと笑いあった日があった。仲間たちと競い合った日があった。仲間たちと心を躍らせた日があった。必ず帰る事を誓った日があった。

 陸奥

 利根

 足柄

 神通

 子日 

 最初にいた頃の仲間は、最初の襲撃で半分に減った。そして次の襲撃で一人が沈んだ。三度目と四度目は何とか切り抜けたが、五度目の襲撃で旗艦が沈んだ。

 行け、と言われた。

 逃げろ、と言われた。

 生きて、と言われた。

 

 ――――私、ダメだったよ……

 

 伸ばした手がゆっくりと閉じる。

 狭まる視界。まどろむ意識。

 

 

 

 ――――?

 

 

 

 その。

 目を瞑ろうかという。最後の光景に。

 

 ――――……ぇ

 

 視界の端で、何かが動いていた。

 

 ――――なん、で

 

 暗くなった視界の中で、何かがこっちに向かって来ていた。

 水をかきわける右腕。

 動かせていない左腕。

 大きく見開かれた目。

 強く食い縛られた歯。

 そして暗がりでもわかる赤銅色の髪の毛。

 

 ――――なんで、アンタが……

 

 彼は必死だった。必死で沈みゆく身に手を伸ばそうとしていた。それは生を諦めた顔でもないし、ヤケッパチの色も無かった。確固たる意志を以った顔だった。

 ただ純粋に。助けようと手を伸ばしてくる。

 でも。それと同じくらい――――

 

 

 

 ――――なんで、アンタがそんな泣きそうな顔してんのよ……

 




おまけ(と言う名のNG)

 滴る水の音。ギチギチと耳障りな音が頭部から漏れる。空いている口らしき箇所からは、何かを噛み締めるような音が鳴り続けていた。不快感の塊のような存在だった。
 眼が何処にあるかは分からないが、此方を認識しているのは理解できる。何せ纏わりつくような不快な視線は嫌というほど感じるのだから。

※ぶっちゃけ書いている時のイメージは「エイリアン」のエイリアン。
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