島津岳人、などという。
ド腐れ低能筋肉達磨の性欲馬鹿に正気を疑う程非道な質問を受けたので袖を巻くって言い訳を始めたいと思う。いい機会なので取り巻き連中の皆々様も鼓膜に焼き付けて頂きたい。
さて、武士道プランというものをご存知だろうか?
え? 知ってる? いや、ふざけんな。知っているのならば「なんでお前だけFクラスなの?」などという心にもないクエスチョンをオーバースローで投げ付けてくるのか。よって貴様らは知らんのだ。故に黙って聞き役に徹するがよろしかろう。
えーっと、武士道プランね。
そう武士道プラン。これがまたすごいのよ。
とにもかくにもめちゃすごい。やばいすごい。なにがすごいって人間のクローン作っちゃうんだもん。
だってクローンだよ? ヤバくね? 技術もそうだけどモラル超無視じゃん。
やって良いことと悪いことがあるよね。出来るからってはいやりますじゃ人間関係上手くいかんでしょ。
まあそこはそれ、これはこれ。そもそも九鬼財閥に空気を読むなどという控えめな人間様に許された高尚な機能がくっついているとも思えないし、やっちゃったもんはしょうがない。
クローン作成の批判についてはしかるべき専門知識をもったしかるべき方々がしかるべくやってくれるだろう。まあ心情的には微妙なとこだけどオレはやっぱり九鬼の肩を持つだろう。だってクローンは処分! とかなった暁にはオレもぶっ殺されちゃうしね。
九鬼がクローン人間作りました。
九鬼をほんの少しでも知っている人間ならばもう一捻りあると身構えるだろう。そんな貴方はとても正しい。一捻りどころかトリプルアクセルをかますのが我が生みの親九鬼財閥である。
作ったのは普通のクローンじゃない。偉人のクローンだ。
偉人である。過去の歴史に残る、並外れて優れた人間のことだ。
お分かりいただけるだろうかしら。九鬼は過去の偉人のクローンを作っちまったのである。
ここで武士道プランに立ち返る。
武士道プランとは、九鬼が言いたいのはこうだ。
過去の偉人のクローンを作ったから、貧弱で日和見な若人よ。彼等と共に切磋琢磨せい。勇往邁進川神万歳拍手喝采その他諸々いやっふー!
いやうぜぇ……。
マジで大きなお世話である。
そもそもなに? 何様のつもりですか?
切磋琢磨とかしたくもされたくも見たくも聞きたくもないんですけど。どうだよふふん、モチベも上がるべ? みたいな感じが鼻につくんですけど。
偉人と一緒に競争しましょうとか死んでもごめんだわ。目立たないように極力争うことなく隅っこで生きていたいわ。
じゃあ川神から出てけばいいじゃんと思うじゃん?
いやオレだってそうしたいよ。なにが楽しくてこんな奇人変人バーゲンセールのサーカス団みたいな異世界に住居を構えなきゃならんのか。
叶うものなら今すぐ転居したいね。海外の牧場あたりに。
けどまあそれも無理な話。過去に何度か懇願したもののにべもなく断られちゃったし。一度夜逃げよろしく脱走しようとしたが、義経が涙目で頼むんだもん。男として自分を曲げることもまた必要なのさ。決してゴリラ女のコブラツイストに屈したわけではない。
そうそう義経。
武士道プランで生まれた偉人の一人だ。
フルネーム、源義経。
知っているだろう、普通。超有名人だし。まあ歴史の教科書なんかでの取り扱いは寂しいもんだけど、どういうわけだがドラマや漫画、ゲームでのウケはかなりいいので現代人なら一度くらいは名前を聞いたことはある筈だ。
さてこの九鬼式義経。オリジナルと違い女の子である。
どうして女の子なのだろう? そんな疑問は良いじゃないか。義経はこんなにも可愛いのだから。
もう可愛い。超可愛い。真面目で勤勉で友達思い。何よりクローン組で浮きまくってるオレなんかにも超優しい、ああ付き合いたい、結婚したい。
オレの密かで淡い恋路に仁王立ちして立ち塞がるのはゴリラワカメこと武蔵坊弁慶。武士道プランの二人目だ。
アル中である。以上である。それ以外に語ることはない。
まあ一応、生物学上、奴の性別も女らしい。なんの冗談だ笑えない。
源氏組、最後の一人は那須与一その人だ。
那須与一は義経、弁慶に比べると一般の認知度がちょびっと低いかもしれない。かくいうオレもよく知らない。というか歴史上の義経と弁慶のこともいまいちよく知らん。なにぶん小さい頃からアイツらと一緒だったもんだから歴史の教科書に『源義経!』とちっちゃいおっさんが載ってても違和感バリバリなのである。
オレにとっての義経は可愛い義経だし、オレにとっての弁慶はゴリラ女だし、オレにとっての与一は中二病だ。今さらそれ以外とか言われても脳みそが新しく処理してくれない。元々オツムの出来も悪いしなぁ。
よって歴史上の那須与一がどうであろうと、与一は単なる良い奴で拗らせた激痛中二病で、そしてオレの友達だ。
彼女達クローン源氏三人組に共通する特徴として鬼のように強いことが上げられる。
強いってあれだよ? 街の腕自慢とかのレベルじゃないよ? 垂直のビルを只のスニーカーでかけ上がったり、スクーター持ち上げたりとかもうそういうレベルだよ?
そんな連中と切磋琢磨っていやいや無理でしょキツイでしょ。
九鬼のジジババ共は現代の若人にどれだけ失望したか知らんけどもし義経達のレベルを求めているんだとしたら現実が見えてないどころの騒ぎではない。老眼鏡の購入を強く強く推奨する。
九鬼のジジババ共の期待値は『強さ』というカテゴライズに止まらない。力のある面倒な老害共は『賢さ』にまで一定の水準を求めているようだった。
その役目を果たすのがクローン4人目、葉桜清楚だ。
ご覧あれ、お聞きあれ『清楚』という上品かつ甘美な響きを。彼女が貞淑な淑女であるということにもはや僅かの疑いも挟むまい。
清楚さんはオレらの一つ上の学年で我らクローン組の姉さん的ポジションにたおやかに腰かけていらっしゃる。
なんかこう、あの人って見てるだけで元気になるよね。メキメキと活力がわいてきてデロデロと鼻の下が伸びていく。
そんな存在するだけで癒し効果マックスの清楚さんだ。彼女が誰のクローンなのかなど些末な問題でしかない。ぶっ飛ぶくらい頭いいし、なんかそういう感じの偉人だろう、きっと。
とまあこういうわけだ。わかるかな?
「いやなにがだよ。お前がFクラスにいる説明つかなくね?」
やれやれ。オレは優雅な仕草で肩を竦める。やだねぇ、これだから筋肉バカは。脳に必要なのは糖質だよ? たんぱく質じゃなくて。頭回ってる?
つまり、武士道プランってのは偉人と一緒に切磋琢磨する計画なわけよ。
でもあれよ、切磋琢磨っていっても様々な分野があるでしょうがこのやろー。
強さ競いたいなら源氏組と。
賢さ競いたいなら清楚さんとやればいい。
オレはまた違ったジャンルを求められてんだから、弱くても、多少馬鹿でも問題ないのFクラスでいいのテストが酷くてアイツらと離れて寂しくなんてないのわかった?
「あー、でもさ」
と、バンダナイケメン。
「強さ担当源氏組も頭はいいんだろ? アイツらSだし」
イケメンは嫌いだ。
ていうかなんでバンダナ巻いてんだお前。校則舐めんなよ。恥ずかしいのか? 実はそこだけ禿げててバンダナで隠してんのか?
「いや、初日に遅刻した人に校則云々言われたくはないと思うけど……」
と、撫で肩色白の男子生徒。
なんだっけこいつ、誰だっけこいつ。なんかポロだのモロだの露出狂みたいな渾名で呼ばれてた可哀想な奴だ。
遅刻のこと思い出させんなよ。これでも緊張して眠れなかったんだ。お陰で偏屈伯爵にどれだけシバかれたと思ってる。嫌なこと思い出させんなよ。
ちなみに眠れなかったのは本当に緊張してたからで、決して義経と与一とクラスが離れてショックだったからとかでは決してない。決して。
「じゃあ貴方はどんなすごいことができるの?」
と、天真爛漫な目で期待したように明け透けに聞いてくる犬っぽい女。
ヤバイ、苦手なタイプである。こういうのは再現なく甘やかしてしまいたくなる。
というか黒板に書いてあるオレの名前で分からんもんかね? 自分で言うのもなんだけど結構有名だと思ってたんだが。
「ふふん、自分はわかったぞ! ズバリ芸術に秀でているとみた!」
得意気に、控え目な胸を張る金髪。
どの角度から見ても海外の人っぽいけどよく知ってるな。というかよく読めたな、オレの名前。結構難しい漢字だと思うんだけど。
「クリスは日本人より日本人に詳しいからね。そして私は大和に詳しい。大和のことならなんでも分かる。ククク、昨日のオカズまで」
なんか筆舌に尽くしがたい女がいるぞここに。
オカズってのが夕食のことなのかそれとも刹那のワンダフルな恋人のことなのかでこの女への今後の対応が変わってくる。
前者なら近付きたくない。後者なら距離をおきたい。
「ねー、大和。昨日のオカズってなんだったの?」
「まゆっちが作ってくれた煮物だったよ、ワン子」
オレのことはもう無視か?
一応転入生として自己紹介中なんだけど、質問とかもうない感じかこれ。なんてFクラスなの? 他のクローンSなのに。あれなの? 一人だけ馬鹿なの? みたいな質問が最初で最後? マジでこれ? 他ないの? 過去の偉人よオレ様。現代に甦ってこれからブイブイ言わせちゃう勢いあるのよ? もっとこう、あるでしょ普通。
「はーい質問! 弁慶さんに恋人はいますか!?」
オレへの興味はもうないのかこの猿。
「与一系はフリー系?」
「あ、それ気になるー」
オレにはオレに関しての質問をせい。
ちなみに与一はフリーだ。以前、恋人は作らないのか? と訪ねてみたが、
『フ、確かにそうだな。一時の止まり木、そうした安らぎを求めるのもありと言えばありか。しかし機関に付け入る隙を与えたくない。俺の伴侶ともなれば狙われるのは確実だろうからな』
つまり強い女が好きらしかった。
弁慶はどうだろう? 知る限り、最恐である。
『あ、ああ姉御っ!?』
嫌そうだった。
気持ちは分かる。オレだって嫌だ。
収集がつかなくなってきたので鞭をしらせ担任教師が締め括りに入る。
え? 鞭出したの今。見間違えか?
「あー、もういい良いだろう。これ以上は個人的に訊ねるように! 席は……そうだな、源の隣でいいだろう」
およ、源?
担任教師の目線を追うとバランスのとれた体つきの、突き刺さるような目付きをした男子生徒が目に入る。
「ちっ、まあ仕方がねえ。色々、不馴れだろ? 面倒だが、分かんないことあったら聞いてこい」
おお、ちょっと感動。随分強面だけどわりといい人っぽい。やっぱ源って名字の人に外れはないな。
「源忠勝だ。まあなんだ、よろしくな」
「あんがと。こちらこそよろしく」
オレは他のクローン組と違って明日いきなり退学喰らう可能性とか多大にあるけど、まあそれまでよろしくどうぞ。
□□□
早速よろしくして貰うことにした。
放課後、忠勝に川神の案内を頼んだのである。
忠勝はブツブツ言っていたが断らなかった。それどころか案内する傍らで実際に住んでいる自分の考えも交えオススメの飲食店などもアナウンスしてくる始末。
わかっちゃいたが、さてはコヤツ、良い奴だな?
「とまあこんなもんか。駆け足だったが問題ないだろ。ちゃんと回ると日が暮れちまう。なんか気になるところあったか?」
「いーや、なーんも。すげえ分かりやすかった」
事実である。まだ知り合って1日未満だが忠勝が人の世話をやき慣れてるのは疑いなかった。
「しっかし。面倒見がいいのを差し引いても街並みに随分詳しいのな。やっぱ川神長いの?」
「っていうのもあるが、バイトが少し特殊でな。街中駆け巡ることもあるんだよ」
「なに? 運送業?」
「いや、代行業だ」
んん? 馴染みがない職種だ。
ちょっと食い付く
「興味あるか? 何でも屋だよ。親父が社長でその手伝いをな。ちょうどいい、ちょっと覗いてみるか。最近は親不孝通りも治安いいしな」
あー、なんか気色の悪いマザコン野郎が街の不良をシメて回ってたな。
そういえばアイツ確か成人してたはず。うわぁ、そう考えるとキツイわ。いい歳こいた大人が無軌道な非行少年少女を制裁するわけである。
困っちゃうね、これだから九鬼は。彼ら彼女らは他に行き場がないだけだと言うのに。全くもって押し付けがましい、ウザったい。
「っていっても完全に綺麗にってわけでもないか。オイ、目ぇ合わせんなよ」
忠勝の言う通りカエルみたいな座り方した少年の一団が挑戦的な眼差しをこちらに向けている。
うわ腹立つ。なに見てんだ許せんわコイツら。おいマザコン仕事しろよ、容赦なく取り締まれよ使えないな。
親不孝通り。
不穏な名前の通り治安もよろしくはないらしい。
それでも武士道プランに先駆けて、九鬼が大規模に非行少年少女を取り締まったから遥かに住みやすくなったとか。
「まあ九鬼が本格的に動けばな。ちょっと粋がる奴なら直ぐに引き下がるさ。中にはそれでも刃向かうのもいるだろうが」
「まさか天下の九鬼相手に?」
想像もつかない。
「ああ、多分板垣あたりは最後まで粘るかもな。……っとついた、ここだ」
「ん。『宇佐美代行センター』?」
忠勝の父親が経営しているということらしいが、源ではなく、宇佐美なのか。
とはいえ根掘り葉掘り訊ねる類のことでもない。
「親父。いるか」
「おう、忠勝か。そっちは……噂の転入生だな」
「はじめまして」
忠勝に先導されて連れられた事務所には先客がいた。
宇佐美巨人。忠勝の父親で川神学園、2ーSの担任らしい。
「オジサンもお前の話は聞いてるよ。絵無の奴と会わせてみたいもんだが。今日はまたどうした?」
「川神の案内をちょっとな。それとこれは相談なんだが、うち、夏にかけて忙しくなるだろ?」
「ああ、そういう……けど九鬼はいいのか?」
蚊帳の外だが、なんとなく話が見えてきた。
「なあ、アルバイトの話を聞いてみる気はないか? もちろん、無理にとは言わないけどよ」
「やめときなさいよ。オジサン、九鬼に五月蝿く言われたくないし」
「聞くだけはタダだろ。人手不足だって深刻だしな」
「だからってお前。それに今日会ったばかりなんだろ? 転入生だって面食らうわ」
「オレは別に構いませんよ」
そもそもオレは他のクローン組と役目が大きく異なる。義経達ほど慎重に扱われない代わりに比較的身軽だったりするのだ。
忠勝にしても言ってはなんだが今日会ったばかりのオレにこんなことを頼むくらいだ。人手不足は本当のことなのだろう。
ていうかうんあれよ、オレも思うところがあるわけよ。そりゃあ義経達と比べればオレはちょっぴり、いや、だいぶ、うーん、かなり足りてないところも多いけどさ、それにしたって九鬼の連中あからさまじゃねえ?
従者部隊(笑)の何人かは劣等種を見るようなノリで接してくるしさー。ぐれちゃうよ? マジで。代行業とか耳触りダーティーだしこれはもうわたりに船とみたね。
「代行業って具体的にはなにするんですか?」
「んー、いろいろよ。猫探しからボディーガードまで。正直、多少危険なこともあるからバイトしてくれるのはいいけど、一度親御さん、というか九鬼に話を通してまた明日来てくれる?」
「わかりました」
「ありがとな」と忠勝。
「それでお前らどうするんだ? もう帰るのか? 個人的にもう少しで面白い奴が来るんだが」
「誰だよ、客か?」
「まあ学園来ないし、生徒ってより、客だわな。ほら、絵無だよ。前に預かった絵が売れたからその代金を渡すことになってる」
「ああ」
忠勝は途端に興味が失せたようだった。
絵という単語に興味を引かれたがいくら放置気味とはいえ転入初日で長いこと帰らないのも不味い。
また明日来ると約束し、忠勝には重ねて礼を言い、今日のところは帰宅することにした。
忠勝とは途中で別れた。
不馴れな川神とは言え九鬼ビルまでの道順は流石に覚えている。
しっかしまあ、濃厚な1日だったように思う。イベントが奇抜だったわけではない。オレのやったことと言えば1日授業を聞いて、放課後寄り道をしたくらいのものだ。別に大したことはなにもしていない。
だがこう、胃もたれめいた状態になっているのは会う奴会う奴キャラが濃いからだろう。コース料理食いに行って全品ステーキ出てくるようなしつこさである。口直しを切実に所望したい。
九鬼も面子の濃さもあれだが、川神学園も大概だ。生まれはともかく、それ以外は極々平均値に行儀正しくおさまっているオレなんかにはたまったもんじゃない。
義経達はもっと多忙だろう。
なんでも決闘とかいう目眩を覚える恐るべきシステムによって殆ど初対面の奴と殴り合わねばならぬらしい。
気の毒ー! って感じだが、だからと言って手伝おうとも思わない。大体出来ることなんてないし、義経達より一歩外の居場所、それがオレのポジションだからだ。
ああ、そう考えると、オレだけFなのもなんだか笑える話だな。それが自分の実力で、卑屈さは微塵もない。ほん少しだけの寂しさを飲み込むと、オレに相応しい、生ぬるーい扉の鍵が手に入る。
――――はて、と考える。
「うわ、なんだか今のオレ、与一っぽい」
死にたくなった。
ちょっとノスタルジーな気分にひたるとすぐこれだよ。あー、やだやだばっちい! やめだやめだ。
気分を切り替えて早足になる。
すると、
「北斎!」
名前を呼ばれた。
振り返る。
ちょっぴり苦笑した。
「おー、義経。なんだ今から帰りか?」
走り寄ってくる。
隣にはゴリラ、中二、文学女神。
別に声をかけられたら待ってるっつうに、なんでわざわざかけてくるかね。
「そうなんだ! 北斎も今から帰りなら、一緒に帰ろう」
「いや、もう目の前なんだけど」
九鬼ビルはすぐそこだ。
「いいんだ。初日は皆で帰りたかったから」
あら可愛い。ちょー癒される。
とにかくまあ、こんな感じで、学園生活初日はおしまい。