ミカベネ物語 ファンファン編   作:ミ景

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2、森の目覚め

 目を覚ました僕が最初に見たのは木の葉から漏れる光だ。

 いつも寝ていた安っぽいベッドの上じゃなく、草が生い茂る地面の上に寝ていた。

 いい加減眩しく感じた木漏れ日を右手で遮る。

 ゆっくりと意識を回想へ移すと、記憶を遡らせた……が。

「あ、あれ?」

 そこで僕は最大の疑問に行き当たった。

「僕って誰だ?」

 例えるなら検索するキーワードを入力する直前に忘れてしまうような……いやいやなんで変な知識は残っているんだ!?

「とりあえず……ここはどこだ?」

 自分の名前や経歴は思い出せない……俗にいう記憶喪失ってものかもしれない。

 だが、自分以外に関しては大まかながら記憶……というより知識として残っている。

 少なくとも今は『日常』からかけ離れている状態というのは本能的に理解した。

 自身の身体に異常がないか確認。

 少なくとも怪我をしたようには感じず、不審な手術跡なんかもない。

「寝てる間に臓器を抜き取られる──なんて、都市伝説じゃあるまいし」

 乾いた笑みの後に、なんでこんなことは覚えているのか本当に疑問が湧いた。

 立ち上がると長く横になっていたせいか、若干の立ち眩みで足がもつれる。

「本当に大丈夫かな?」

 今は陽が高いために大丈夫かもしれないが、夜になれば野生の猛獣なんかがいるかもしれない。

 歩き出した僕は不安で溜息が漏れた。

「…………大丈夫、かなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく、歩くと身体も道に馴染んできたのか山道にも関わらずサクサク進んでいた。

 僕自身の恰好は動きやすいもので、もしかしたらハイキングや何かの用事でここを訪れたのかもしれない、と楽観的に考えることにする。

「それにしても……」

 辺りを見渡せば、草や林が生い茂って道らしき道はない。

 つまり、ここを通る人間は少ない、どころかいないのかもしれない……いやいや悲観的になるな!

「うんうん、きっと大丈夫だよ……きっとそう」

 歩みを緩め、遂には止まってしまう。

「ああああ、冷静になれ!! というかだいぶ歩いちゃったけど戻れるのか? いや、無理だよな!?」

 とりあえず、叫んでみたが現状が改善されるわけではない。

 昔からアクシデントには弱いな──ん?

「昔、から?」

 決して全部ではないが断片的なものが頭を過る。

 もしかして、叫んだ効果なのか……?

 だったら──

大きく吸い込んだ息を言葉に変える!

「きゃあああああああ!!」

 ん? いつから僕は女らしい叫び声になったんだ?

「ってそんなわけないじゃないか!」

 内心ボケた自分に突っ込むと声の方向へ走り出す。

 

 

 意外と近くに人影を発見。

そこにはフードを被った人物が明らかにガラの悪い男と飄々とした青年の二人組に絡まれているところだった。

「おいおい、俺たちは別に乱暴しようってわけじゃなくてだなぁ」

 フードの人物に男が近づこうとすると少女の悲鳴。

「だ、誰か助けてください!!」

 その声が先程の悲鳴と一致。

「や、やめてあげましょうよ!」

 僕は気づいたら身体を少女と男の間に割って入った。

「あん?」

 明らかに不機嫌そうな声音で男が睨みつけてくる

 その腰からぶら下がる拳銃が目に入った時、僕は僅かに後悔。

 次の瞬間には頭が吹っ飛ばされるのを覚悟していた。

「……やっぱり人選ミスだな。 お前に任せた俺が馬鹿だったよ」

 その声は男の後ろに立つ青年からのもので、彼は両耳からイヤホンらしきものをぶら下げていた。

 対して、その言葉に男は吼える。

「ああん? だったらテメエが声掛けろよ!!」

「じゃんけん勝負でお前が決めるって言ったんだろ? それに俺はシャイなんだよ」

 青年がそう言うと男の脇を抜け、僕の前にやってくる。

悪気はないと思わせる爽やかな笑顔だ。

「勘違いさせてすまなかったな、俺たちは単に道を聞こうとしただけなんだ」 

 青年の笑顔は何とも言えない……”作り物”に見えた。

僕の雰囲気が伝わったのか、柄の悪い男が吹き出した。

「おいおいおい、お前のせいで余計に怯えてんだろうが!」

「うるせえ! 笑顔なんて相当久々で表情筋ガチガチなんだよ!!」

 笑顔のまま怒鳴る彼に恐怖を抱く。

「はぁ…………笑顔なんてこの際どうでもいい」

 青年の開き直るような声音。

 対して表情は幾分も変わりないというのが何とも薄気味悪さに拍車を掛けた。

 それは先程の笑みとは明らかに違う意味を孕んでいる。

「ともかく、俺たちには時間がない……近くの村はどこだ?」

 その質問は僕ではない……後ろの彼女に問いたものだ。

「……」

 答えに窮している様子を見かねた僕は改めて少女を庇うように前に出た。

「なあ、お前は何か思い過ごしをしているようだが、危害を加えるつもりなら既にお前を殺すことだって可能なことはわからないか?」

 その言葉には信憑性があり、納得してしまう。

 それでも、僕は──

「さあな、それならアンタらこそ他を当たれよ」

 退かなかった。

 

 その様子を見て目の前の男は笑みを僅かに動かした。

 懐から取り出した拳銃の安全装置は恐らく外されており、カチリと撃鉄は起こされた。

「ああ、そうするとしよう」

 銃口と共に向けられた視線を辿ると青年の顔が映り込む。

 僕はその表情が掴みどころを感じさせなかった彼の本当の笑顔だと思えた。

 咄嗟に目を閉じたのはきっと反射的な事かもしれない。

 大きく乾いた音が耳を打ち鳴らすと身体を走った衝撃で僕の意識は刈り取られていった。

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