「お、目が覚めたかよ、眠り姫」
僕が目を開けると見覚えのある顔が見えた。
あの少女を襲っていた……? 二人組の片割れだ。
「黒豹殿、どちらかといえば王子になると思うぞ」
その声は女性で襟首を掴んで引きずり回した張本人。
「そんなことはどうだっていいだろ。 それよりも早くその族長様に会わせてやれよ」
僕の前で二人はドンドン話を進めている。
すっかり状況に追いつけない僕は辺りを見回すと、引きずられるまでに居た家の内装より豪華で大きい。
「何がどうなっているんだ?」
こちらの言葉が聞こえていたようで中年の男が言葉を紡いだ。
「……そりゃ、俺たちのセリフだぜ。 変な爆発に巻き込まれたと思いきや見知らぬ場所で、そんでもって賊や異人に襲われるしな!」
「それは災難であったな」
女性の心が籠っていない言葉に中年の男がカッと目を見開いて食いつく。
「その異人ってのがお前らだけどな!」
「それはお互い様である。 貴様らが我が妹を襲ったのだからな」
グッと痛いところを突かれたと風に言葉を濁すが。
「だから、あれは道を聞いただけ……てか、そもそもお前らの族長ってのが俺たちを呼んだんだろうが!?」
その言葉に女性の方もたじろぐが。
「ふ、ふん! その件については現在、族長が話を聞いているところだ! そもそも貴様らのような人間に頼るなどありえん!!」
まるで自分が人間ではないような発言だな……。
そう僕が思っていると、奥から人の気配。
「さっきからどうしたんじゃ……こうも五月蠅くては話もまともに出来んわい!」
暖簾らしき仕切りを跨ぐのは子供。 恐らく、十歳を行くか分らない女の子だ。
恰好は寝間着……いや、着物? 浴衣だろうか?
喋り方も不思議であったが、何よりも驚いたのが少女と思われるその部位的特徴。
フサフサの白い尻尾とイヌ科を彷彿とさせる尖がり耳が生えていたのだ。
「oh、Jesus!?」
中年の男が驚いた声で反応したから、僕は少しだけ冷静に対処できた。
「……」
その少女の後ろから現れたのは中年の男の片割れで、僕に銃を向けてきた男だ。
男を見た瞬間に僕は違和感に駆られたが、声でそれがかき消される。
「ぞ、族長! 話は済んだのか!?」
詰め寄ろうとする女性を片手を上げ、待てと指示。
ピタリと静止した女性の横を通り過ぎ、少女は僕に近づく。
「ふむ……なるほど、なるほど」
座っている僕の両頬を掴むとマジマジと見つめてきた。
その際、何故かわからないが頬を上気させ、尻尾を振り、耳をピコピコと動かし、黄金の瞳がキラキラと輝かせながら。
少女は満足したのか、手を放すと両目を閉じ腕を組んでから、一考するようにウンウン唸る。
「族長! どうなのだ!?」
その様子に溜まらず女性を問う。
何やら深刻そうな空気に僕は息を呑んだ。
「ふむ、そうさな……若くていい男じゃな!」
その答えに女性と僕と中年の男はズルっと体勢を崩す。
「ま、冗句はともかく……”当たり”じゃな」
女の子は僕の方をジッと見つめる。
「お主、名は?」
……名前?
僕は自身の名前すら覚えていないのだ。
「あ、えっと……」
当然ながら答えに窮した……。
不審に思う一同の中、声が上がったのは意外な人物だ。
「……ロック」
「え?」
その人物は今まで黙っていた青年で、静かな瞳でいつの間にか片耳にはイヤホンを付けていた。
ゆっくりと歩いてきた彼の恰好は最後に見た格好とは違い、和服で左腕の袖が宙で靡いている。
「お前の名前は【ロック=セカンド】……だろ?」
この人は僕のことを知っているのか? そう思っても仕方ないような自信ある発言に自然と肯定していた。
「恐らくだが、気絶した際のショックで記憶が曖昧になっているんだろう……よくあることだ」
右手を差し出してこう言ってきた。
「俺の名前は【御景=ヴァ―ルシュタイン】だ」
ミカゲ、と名乗る男の手を見つめると、意を決して僕も手を差し出す。
グッと引っ張り起こされると、今度は中年の男が話し出した。
「俺は【ベネット】──」
「本名はベンジャミンだ」
「て、てめぇ!」
二人が取っ組み合いになりそうなところを女性が制止。
「貴様ら、いい加減にわきまえろ。 族長の前で!」
呵々と笑う少女は愉快そうに手を振るう。
「良い良い。 この際じゃ、お主も紹介しておけ」
「……【タピオカ】だ」
明らかに嫌々そうに名乗る女性。
「お、肝心の儂がまだじゃったの。 儂はこの集落を治める【ヨネ】じゃ」
とりあえず、全員の紹介が終わったわけなのだが……。
「そ、それで族長、”当たり”と言ってはいたが、本当か?」
タピオカさんの言葉で思い出す、少女の言葉を。
「うむ、どうやら、そのようじゃ。 漸く儂らの使命を終える日が来たということじゃ」
「……そうか」
しんみりとした空気の中、ベネットさんが口を挿む。
「いや、悪いが話が見えてこねえ、要点だけ伝えてくれねえか?」
代わりに答えたのは御景さんで。
「『【朗報】伝説の勇者降臨したったww』……だ」
「……なるほど」
……っ!? そんなことで納得できるのか!?
真顔でネットスラングを口頭で伝える和服青年とかシュール過ぎませんか!?
「え、というか、勇者ですか!?」
あまりにも自然に唐突に僕は”勇者”となっていました。