それから僕は……いや僕たちは族長のヨネさんに言われて、奥の部屋に招かれた。
造りは同じく和式なのだが、独特な空気がある。
「あー、それでどこまで話したかの……」
考え込む女児に御景さんが助け舟を出す。
「予言……でしたかな。 我々と思わしきものと、貴女たちに伝わる勇者の登場など……そして──」
「おぉおお! そうじゃったそうじゃった、感謝するぞ白鯨殿」
いいところで遮るような声を出されたことに一瞬だがムッとした表情を浮かべる。
まあ、それもすぐに元の真面目な雰囲気に戻ったが。
「そう、予言にはこうじゃ、『白鯨と黒豹を現れし時、勇者再臨す』とじゃが──」
ダンと足を踏み出し、歌舞伎役者のような立ち振る舞いで言葉を紡ぐ。
「ここからが本題。 『勇者再臨す、それが鐘と鳴り、世界は闇に包まれる』とな」
僕はその言葉の意味がよくわからない。
鐘がなると、世界は闇に包まれる……一体どういうことなんだ。
「あー、まあ……偶然ってことはないのか?」
ベネットさんは頬を掻きながら反応に困る。
「偶然……それは構わんが俺たちがこうして異世界なる場所に飛ばされたことや、白鯨と黒豹って馴染みあるワードが繋がったのも偶然だってか?」
御景さんが早口で捲し立てると、ベネットさんは声を荒げた。
「だいたいテメエこそ、異世界だとかファンタジーでメルヘンな世界はないってほざいてたじゃねえかよ!?」
「あれはお前の好きな創作染みた話に関してだ。 俺は現実主義で今、この瞬間を認識しているんだよ」
二人の間に火花が散っているように錯覚するが僕は急いで止める。
「お二人とも、やめましょうよ。 喧嘩なんてみっともないですよ」
「るせぇ!! ガキは黙ってやがれぇ!!」
僕の手を払いのけ臨戦態勢に入るベネットさん。
すると──
「せいっ!」
鋭いタピオカさんの手刀が彼の首筋を捉え、ぐぇっと悲鳴を漏らしたベネットさんが倒れ、そのまま床に伏した。
「案ずるな、当身だ。 …………目が覚めても痛みが取れるかは保証はせぬが」
うん、後半は聞かなかったことにしよう。
仕切り直すように咳払いをしたヨネさんは話し出した。
「それでお主たちには是非確認してもらいたいところがあるのじゃが──」
「族長! まさか、『シロキヌシ』の所に!」
キョトンとした表情は見た目通りなのだが、話し方とのギャップに違和感を感じる。
「当然じゃろ、この地で勇者と縁あるのはあの場所だけじゃ」
しかしと食いつくタピオカさん。
「ふむ、案内役はお主に頼もうかと思うたが……これはワラビィにでも──」
「族長!!」
タピオカさんの荒げた声音。 それは下手をすれば敵意すら含んでいたのかもしれない。
「貴女という人はあそこか我が一族にとって如何に神聖で危険性を孕んでいるのか理解しているのか!?」
「……当然。 むしろ、今立たなくてはこの先はもうないやも知れぬものじゃ……お主にこれを頼むは確かに酷じゃが、儂らや一族の為にも頼む」
そういうとヨネさんは深く頭を下げた。
僕たちも戸惑うが、タピオカさんはそれ以上だろう。
「……わかった。 こいつらをあの場所に案内すればいいのだろう?」
無言でコクリと頷く少女に、鼻で鳴らしタピオカは部屋を立ち去ろうとする。
「あ、それとだ」
立ち去る直前に肩越しに首を向けてきた。
「付き添いはいらん。 私だけでいい」
…………。 長く感じられた間。
「あい、わかった」
その返事に張り詰めた緊張感が霧散していくと今度こそタピオカさんは部屋を去って行った。
ヨネさんが深い溜息を漏らした唇を僕は自然と見ていた。
小さく動いた筋肉を読み取る。
せ わ を か け る。
そう言ったように見えた。
相変わらず気絶したベネットさんはともかく、僕は隣の御景さんを見ると、彼もまた何か感じることがあったらしく、機嫌が良さそうには見えず、片耳に掛けたイヤホンを弄っている。
これからどうなってしまうのか……。
早速、僕は運命とやらに不安を抱きだした。