御景とロックを残して、ゴンドラに揺られるベネットとタピオカは窓から覗く景色を眺めていた。
互いに張り詰めたような緊張感があるわけでもない。
しかし、決して警戒を解いているわけでもないが。
「黒豹殿は……」
タピオカは目線を合わせることなく、ベネットへ話しかける。
「あの白鯨殿とはどういう関係なのだ?」
中年の目線は同様に窓を見つめたまま、答える。
「……どう見える?」
「恋仲というわけではなさそうであるな」
「HAHAHA!! 寝言は寝てから言え! ……まあ、あれだ……腐れ縁みてえなもんだ」
その回答に納得でもしたのか、それ以上追及はしてこない。
「というか、これから行く場所ってどんなところなんだ?」
「……神聖な場所だ。 皆にとってはな」
「お前にとってはどうなんだ?」
その時、彼女から漂う雰囲気に殺気が混じるがそれもすぐに霧散した。
「…………私にもこの感情は整理がつかん」
明らかに不機嫌な声音を聞くとベネットは肩を竦めた。
「へいへい。 まあ、上手く割り切るこったな……」
彼の経験上、それ以上踏み込まないのが無難と判断。
「そう言えば、俺たちの機体はどうなってんだ?」
「……村の工房で見ているそうだが、貴殿の方はともかく白鯨殿のは……」
「あー、デカいよなあれは」
この”世界”で使用されている金属やら何やらは確かに異なる部分があるが、もしかすればベネットのジャガーマンが欠損している右腕の代わりが見つかるかもしれないと話は出たが……。
「アイツのモビーディックは色々と規格外だからな。 それと本人もあんまり他人に触らせたがらないってのもある」
ベネットはジャガーマンを工房へ運んだが、御景はそれを拒否し移動させていた。
聞いた話では元々あの機体自体がいくつか作られた試作機の一つだとかで、ハッキリ言ってその時点で危うい部分が多いとは思える。
「それよりも俺が驚いてんのはこんな辺境でも整備が出来たことなんだが」
確かに辺りは森と山で囲まれた大自然……という印象が大きいせいか、最新鋭機の整備が出来るなんて夢にも思わなかったどろう。
「いくつか気になる言葉があったがそれは流す。 そう思われても仕方ないがここいらでは”機兵”に使われる良質な材料なんかが採れるのだ」
「へえ、特殊な金属や泥とかか?」
「金属はわかるが、泥? 貴殿の所では泥で兵器を作るのか?」
「いや、そうじゃねえが……なんか、こう……ゴーレムとかないのか?」
首を傾げたタピオカに落胆したように表情を曇らせるベネット。
「私は知らぬが、族長ならそこら辺は詳しいと思うぞ」
「マジか、やったぜ!」
どこかはしゃぐ中年の反応を見て、何とも言えない顔になるタピオカであった。
二人を乗せたゴンドラが停まると、ベネットは緩んでいた空気を締め直す。
懐の銃を取り出し、注意深く外へ出た。
だが、それに続くタピオカからは緊張感は感じられず、どちらかと言えば銃を取り出したベネットへ警戒しているくらいだ。
辺りを見回して銃口を下すとベネット。
「ここには、なにもいねえのか?」
タピオカは近場の岩に腰掛けると、問いに答えた。
「いるにはいるな。 しかし、好んで近寄りはしない。 野生に生きる者の方が余程賢いのだろう」
再び動き出したゴンドラを見送ると、独白した彼女の言葉を理解するより、今は辺りの警戒へと専念することにしたベネット。
いや、それよりもこれ以上は考えたくないのかもしれない─────何故か脳内で鳴り響く、警笛の正体を。