佐倉と合流して三人になった。
本題の須藤の件に入る前に、佐倉のデジカメの修理を申し込む。佐倉がオレを頼るのも納得できる、
いろいろ文句を言ってきたが黙らせて、これで佐倉の用事はとりあえず終わった。
フードコートの一角に、3人で腰を下ろす。
「あの、今日はありがとうございました」
佐倉がオレと櫛田に頭を下げた。
今日の服装は、
頭を下げるとどうなるか、ぽよよんと揺れるのだ。
さらに自然と、胸元が見やすくなるという効果もある。
オレはさりげなく腕を組んで、佐倉の礼を受けいれるポーズをとりながら、おっぱいをガン見していた。
テーブルの下で櫛田に足を蹴られたのは、なぜだろうか。
「大丈夫だよ。ねえ、佐倉さん。よかったら普通に話してくれないかな? 同級生なんだし」
櫛田の方へと顔を向ける。
最初に顔を見て、少し視線を下げて胸を見て、再び顔を見た。
櫛田からの2度目の蹴りが、オレのすねへと入った。
ふん、櫛田よ。いくら蹴りを入れようが、お前では勝てない存在がいるという事実は変わらないのだ。
以前プールで堀北の胸と櫛田の胸を見比べて、堀北に対して同じような感想を抱いたような気がする。世の中、上には上がいる、ということなんだろう。
「そういえば、ずっと敬語だな」
「あっ……」
佐倉は目を見開いた。
「う、うん。分かりま、あ……分かった。頑張ってみるね」
頑張らなくていい、そのままの佐倉でいてくれ、という言葉は飲み込む。
なにかを察したらしい櫛田から、三度目の蹴りを貰った。
「無理はしないでいいからね」
「だ、だいじょうぶ」
「うんっ」
テーブルの下では確実にオレにダメージを与えながら、テーブルの上では大天使そのものだった。
「ちょっと、ごめん。お手洗いにいくね」
櫛田は立ち上がって、テーブルから離れていく。
これは何かのサインか。
もしかしてオレは立ち上がって、櫛田を追いかけていくべきなんじゃないだろうか。
ケヤキモールのトイレは、男用、女用、多目的用と設置されているはずだ。
監視カメラの設置は未確認だが、櫛田は多目的用のトイレで待っていて、多目的な用途で使う可能性がないと言い切れるだろうか。
「いや、ないな」
「え?」
「なんでもない、こっちの話だ」
佐倉が居なかったらその可能性もあったかもしれないが、さすがに三人でいるときにそういうことはないだろう。
「…………」
「……今日は、無理言って悪かったな」
二人っきりになり、佐倉の緊張が少し軽減されたのを見計らって声をかける。
櫛田が抜けて二人きりで、どこか安心されてしまうのは、櫛田には悪いがそこそこ嬉しいもんだ。
「ううん、平気。……誘ってくれて、ありがとう」
「いや、こっちこそ」
「…………」
「…………」
会話のペースはゆっくりとしたもの。
これが佐倉以外が相手だったら、焦ったり、気まずかったりで、てんぱったりするんだろうが、佐倉相手ならむしろ心地よさを感じるペースだ。
「あの……」
「どうした?」
「聞きたいことって……須藤くんの件?」
「気づいてたのか?」
「昼休み話してたの、聞こえてたから」
そういえば、弁当を食べている姿を見られていたんだっけ。
堀北は佐倉に気を使って、佐倉が席を立ってから本題に入ったが、その前段階の会話を聞いていたら、ある程度予想がつくか。
「どうするのが一番だと思いますか?」
「……現場を見てたんだな」
「…………」
思い当たる節がなければ、出てこない問いかけだ。
堀北の予想は見事に当たっていたと。堀北の観察力もなかなかのものだと思う。
「佐倉の好きなようにすればいい」
「私の?」
「そうだ」
「…………」
「…………」
こうした方がいいと背中を押すのは簡単だ。そして佐倉は、言われたらそのとおりにするだろう。
だが、それでは佐倉のためにはならない。
本当に必要な場面なら背中を押した方がいいときもあるが、今はそうではない。
佐倉自身に決めさせることの方が、須藤への証言よりも大事なことだろう。
佐倉が証言を拒否したら、須藤の件はオレが何とかする──できなかったらすまんな、須藤。
「黙ってたら……後悔すると……思う」
黙ってたら後悔、か。
「なら、それだけでいいじゃないか」
「え?」
「佐倉は、後悔したくないんだろ?」
「……うん」
「なら、他のことは抱え込まなくていい。証言するのは、佐倉自身のためだ」
「私のため?」
「それで何かトラブルに巻き込まれたりしたら、オレがどうにかするから」
佐倉がどういう選択をするのか、それは佐倉自身に任せる。
が、佐倉がどうするのか選んだのならば、その背中は押すべきだ。
トラブルから距離を置く方が、楽だと思う。
かかわらなければ少なくとも、そのトラブルについては自分には降りかからない可能性が高いからだ。うかつにかかわってしまうと、その影響がどう転がってくるのかが分からない。
オレにできることは、せいぜいその負担を軽減する程度だろう。
「どうして?」
「ん?」
「どうして、そこまで言ってくれるんですか?」
佐倉が素晴らしいおっぱいを持っているから下心で、とか言ったらどうなるか。
「それは、佐倉がす──」
「──ごめん、お待たせ」
「…………」
「お、お帰り」
「あれ? 私、なんか邪魔しちゃった?」
「いや、なんでもないぞ。なあ、佐倉?」
「は、はい。大丈夫です」
佐倉の真剣な問いをごまかすのは忍びないが、櫛田の登場は邪魔されたというより助けられた部分の方が大きい。
「ふーん……なんか息ピッタリじゃない?」
「友達だからな」
「う、うん」
流れで言ってみたが、今、認めたよな。佐倉が正式に友達になった瞬間だ。
堀北が友達だと認めてくれるのはいつになるだろうか。
「いいなー、私とも友達になってくれる?」
「じゃあ、櫛田も友達だな」
「綾小路くんには聞いてないから」
「佐倉、助けてくれ。櫛田がいじめる」
「え? あははは……よ、よろしく」
目の前のできごとに、びくっと身体を震わせたあとで、オレと櫛田のやりとりが冗談だと気づいたらしく、佐倉は今日初めての笑みを浮かべてくれた。
「喜べ櫛田。佐倉が明日、目撃者で証言してくれることになったぞ」
「ほんと? じゃあ、須藤くんの件は前進だね」
「その、どこまで役に立つか、わからないけど……頑張る」
頑張れ佐倉。
ボチボチいい時間ということもあり、フードコートから引き上げる。
「さっき妬いてないって言ったのは、ウソだからね」
「え?」
「やっぱりウソってのがウソ」
最後に耳元でこそっと櫛田に囁かれてしまった。
嘘か本当かどっちだろうか。
すぐに櫛田は離れていき、佐倉の前ではそれ以上追及できず、そのまま解散となった。
◇◇◇
7月5日 金曜日 放課後。
生徒会審議。
須藤の運命とDクラスのなけなしのクラスポイントがどうなるかが決まる審議は、生徒会室で書記の進行によりはじまった。
ゲンドウポーズで待ち構えている鬼畜眼鏡先輩、威圧感出し過ぎじゃないか。堀北が完全に飲まれているのが気がかりだ。
「小宮以下3名は須藤に呼び出され、特別棟で殴られたと主張していますが、須藤はこれを否定。
自分は小宮に呼び出されたと主張。双方の主張は食い違っています。
確実とされる事実は、以下の1つのみです。
つまり、加害者須藤の暴力行為により小宮・近藤・石崎が負傷。被害者は以上の3名」
「呼び出されて3対1だったとはいえ、殴ったのは悪かった……です。申し訳ございません」
事前に言い含めていたとおり、先陣を切って須藤は謝罪した。言葉がめちゃくちゃなのは、慣れないことをしているからだろう。強く拳を握りしめて軽く身体を震わせながらも、文句をいうことなく耐える。以前の須藤なら考えられない行動だ。
これは須藤に殴られたときに作った借りで、オレが須藤に出した二つの条件のうちの一つだ。二つの条件とは、先日のクラスでの謝罪と、ここでのCクラスへの謝罪である。この場では、謝罪以外は余計なことを言うな、と言い含めたが、あとは須藤がどこまで相手の挑発に耐えられるかどうかだろう。この調子なら大丈夫そうだ。
次は、堀北の番だ。
「…………」
「……堀北」
何も言い出さず、焦点の合わない目で下を向いたままの堀北に呼びかける。
完全に心ここにあらずだ。
「新たな証言、証拠がなければこのまま進行します。よろしいですか?」
「…………」
「議論するまでもなかったようだな」
鬼畜眼鏡先輩。声がクール過ぎませんか?
「一方的に相手を殴ったという事実は、怪我の状態から見ても明らかです。
これを基準として答えを出していくべきだと思います」
甘い、甘いぞ橘。
須藤に一方的に殴られたらあんなもんじゃすまない。
見ろ、この身体を(ここで全裸に)。
須藤ならここまでやる。俺が証人だーーー。
ごっこをやったらどうなるだろうか、等とくだらないことが脳裏に浮かぶ。
殴られてから2日が経ち、動くのには支障がなくなってきているが、まだまだ痣などは消えないままだ。幸い顔の奴は治りが早く、今日までは化粧をしてもらったが、明日からは化粧無しでもいけそうな感じだ。
「Dクラス側の正当防衛という主張は、須藤くんが無傷であり」
そろそろ、まじめにやらないとまずいか。
これは復讐のチャンスだ。
突然立ち上がり、謎の奇声を発する男子生徒、綾小路清隆の誕生した瞬間をオレは忘れていない。堀北よ、満身創痍のオレの脇腹を掴んだ報いを受けるがいい。
オレは、思いの丈を込めて堀北の脇腹に、勢いよく手を伸ばし掴んだ。
「ひゃっ!?」
普段は聞くことのできない堀北の可愛い声が響く。
まだだ。
オレは立ち上がるまでやられた。さあ、立ち上がれ堀北。綾小路Tレックスのように。
堀北の体を掴んだまま、ぐにゅぐにゅと揉む仕草を加えて上下へと動かし、胸の下あたりを思い切り押し込んだ。
「へ、ふ、へぇ……あ、綾小路くん。な、に? ふにゅっ。へ。え、ふえぇえ。ちょっと…なに?」
既に堀北は立ち上がっていたが、面白くなってきたのでオレは攻める手を緩めなかった。
すまし顔のまま、ここか? ここがええのんか? と弄りつづけ。
「ちょ……う、ちょっ……」
まだだ。まだ終わっていない。
「だめ……や……ちょっと……うう」
まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ。
完全に狂戦士の魂が発動していた。
「綾小路くん……だ……もう……んん」
オレのターン、攻撃。
「きゃ……だめ……そこ、は」
オレのターン、攻撃。
「もう、ん、だぁ」
オレのターン、こうげ──
「──ごほん」
「!?」
鬼畜眼鏡先輩の咳払いで、オレの体内から狂戦士の魂が抜けて、攻撃を止めることができた。
おそるべし狂戦士の魂。
隣の堀北は、鋭い目で睨んでいるがTPOを弁えて、それ以上は我慢しているようだ。
それだけ理性が戻れば十分だろう。
オレが堀北の脇を狙ったのは、以前の恨みを返すためではない。堀北の理性を強制的な刺激で取り戻すためであって、それ以外のことなど一切考えていない。ちょっと、指の先がおっぱいに触れたな、とかそれは偶然の産物であって、小さいおっぱいでも、それはそれでおっぱいだな、とか欠片も感じてなどいない。あくまでも素知らぬ顔で、現実を伝える。
「お前が戦わなきゃ、このまま敗北だ」
「……失礼しました。私から質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
大きく深呼吸を1つ取り、堀北のターンが始まった。
・須藤に呼び出されただけで、石崎がいたのは不自然。
・石崎を用心棒で呼んだなら、3対1で一方的にやられたことは腑に落ちない。
・ケンカの意思がないなら三人も怪我しない。
一般論としては有効だが、この辺りは相手も想定していたらしく、事前に用意されていたようにスラスラと反論され、須藤の暴力に一般論は通じないと主張されてしまって有効打とはならなかった。
実際に殴られているという証拠があるだけに、それを覆すのは簡単ではない。
ただ、ここまでは想定内。
「一部始終を目撃した生徒がいます。目撃者をこちらへ」
佐倉という事件を実際に目撃した生徒がいる。佐倉の証言が、どれだけ相手を揺さぶることができるのかが、勝敗の分かれ目だろう。扉を開けて佐倉が入ってきた。
「証言者、氏名を述べてください」
「い……いちのD、佐倉……愛里です」
ただでさえ目立つのを避ける佐倉だ。周囲から集まる圧力に、いつも以上に言葉が震えている。
「私は、確かに見ました。最初にCクラスの生徒が須藤くんに殴り掛かったんです。……間違いありませんっ!」
それでも佐倉は必死になって自分が見たものを訴えた。
「佐倉くんと言ったね。本当に見たのなら、もっと早く名乗り出るべきだったと思うが」
「それは……その……」
Cクラスの担任、坂上が突っ込んでくる。先ほどから度々口を挟んで積極的にCクラス寄りの発言を繰り返していた。無言を決め込んだこちらの
「まったく、これだからDクラスは」
「私はただ……本当のことを」
「佐倉くん。佐倉愛里くん。クラスのため、須藤くんを救うため、嘘をつくことを強いられたんじゃないのかね」
「え?」
「佐倉さんは、事件を本当に目撃した生徒だからこそ、この場にいます」
堀北が割って入るが、坂上は嘘の証言をさせるために利用している、と主張して受け入れない。
「佐倉くんも震えているじゃないか。これ以上、彼女に負担を──」
「──証拠なら……証拠ならあります」
「これ以上の無理は、よしたまえ」
「これが、私があの日、特別棟にいた証拠です」
オレたちも事前には聞かされていなかった証拠、メモリーカードを佐倉は所持していた。
生徒会長の一言で中身の確認が始まる。モニターに保存されていた写真を映し出した。佐倉がデジカメでこれまで撮ってきた写真らしく、いくつかの写真をめくった先に、当日佐倉が特別棟で自撮りをしようとしている写真が現れた。
「私はあの日、自分を撮るために、人のいない場所を探していました。日付もあります」
「デジタルカメラは容易に日付を変更ができるはず。証拠としては不十分では?」
「しかし、坂上先生。この写真は違うと思いますが」
さらに生徒会長が操作して写真を切り替えると、須藤が3人に囲まれた状態で相手と胸倉を掴みあっているものが映し出された。
「これで、私がそこにいたことは信じてもらえたと思います」
佐倉の証言は終わった。最初は不安だったが、証言としては写真という証拠もあり、十分だったはずだ。
「ありがとう、佐倉さん」
珍しく堀北が礼を言うのも納得のできだった。佐倉も少し照れながらも小さく笑って応える。
佐倉は与えられた仕事をしっかりと果たしてくれた。あとはCクラスがどういう反応を見せてくるか。
「なるほど、どうやら貴方が現場にいたという話は本当のようだ」
やはりCクラスは坂上が答えてくる。方針として生徒には、うかつなことを口にさせないようにしているのだろう。
「ですが、どちらが仕掛けたものかは分かりません」
佐倉の用意した証拠は、互いに胸倉を掴みあっているシーンを切り取った写真であり、映像ではなかった。
「あなたが一部始終を見ていた確証にもなりません」
あくまでも佐倉が、嘘の証言をしていると主張して押し切るようだ。
「それは……」
「茶柱先生、落としどころを模索しませんか?」
「落としどころですか?」
話は終わったと言わんばかりに、坂上は茶柱に切り出した。
「今回、私は須藤くんが嘘の証言をしたと確信しています」
須藤が立ち上がりかけるも、僅かに椅子を動かしたところで耐えて座った。いいぞ、ずいぶん大人になったな。この騒動がどう決着をしたとしても、須藤は今後Dクラスにとって重要な戦力になるだろう。
自分の訴えが一切認められなかったことに、佐倉は目に涙を浮かべて俯いた。佐倉は何も悪くない。
「いつまで続けても話し合いは平行線でしょう。私たちは証言を変えませんし、それはそちらも同じでしょう。写真があるとはいえ、決定的な証拠ではない。そこで落としどころですよ、Cクラスの生徒にも、一方的に殴られたとはいえ、人数的に3対1だったことなど幾ばくかの責任はあるでしょうし、須藤くんに2週間の停学。Cクラスの生徒たちに1週間の停学でいかがでしょう? 罰の違いは、相手を傷つけたかどうか」
佐倉の証言と証拠が無ければ、須藤は1ヶ月以上の停学にされていたはずで、かなりの譲歩だ。日数的に須藤の方が多く、重いとはいえ、相手は3人でありトータルでは3週間の停学。クラスポイントへの影響は、下手したら相手の方が重くなるだろう。
互いに譲歩した上での落としどころとしては、悪くない。
「茶柱先生。あなたはどう思われますか?」
「結論は、既に出たようなものでしょう」
茶柱は徹頭徹尾、この問題をどうにかするつもりはないらしい。このままいけばそれで決着だ。
悪い結果ではない……悪くはないんだが、それで終わらせるわけにはいかなくなった。
「生徒会長、発言してもよろしいでしょうか?」
「……かまわん」
決まりかけたのを遮って手を挙げ、発言権を求める。
許可を出した相手は、レンズ越しにオレを挑発するような目で見てきた。
いいだろう、鬼畜眼鏡先輩。オレの理屈という奴を見せてやる。
「坂上先生。先ほどの発言は、須藤が嘘をついていることを確信している。つまり須藤を庇うために、佐倉も嘘の証言をしたと確信していると捉えて問題ありませんね?」
「……そうなるな」
証言する気の無かった佐倉が、勇気を振り絞ってこの場に立ち、自分の目撃したものを主張した。それを嘘だというのであれば、佐倉のためにこのまま終わらせるわけにはいかない。
トラブルに巻き込まれたらどうにかする。その言葉を本当にするために。
坂上は、佐倉に対するペナルティーこそ口にしなかったが、生徒会審議という場で事実かどうか分からない意見を主張したという結果が残ることは、後々悪い方向に響く可能性がある。
「確信していると言いました。その言葉に先生は、どれだけ責任が取れるんですか?」
あえて挑発するような物言いで問いかける。
「なんだと?」
「経緯はどうであれ殴った須藤は悪い。だからこそ、この審議の冒頭で彼は謝罪しましたし、殴った件については、須藤及びDクラスにペナルティーが課されることも、甘んじて受けるつもりでしたよ」
Dクラス全員が納得しているというわけではないだろうが、少なくともこの場にいるオレと堀北は、そのつもりだったはずだ。
「ただし、それはCクラス側も非を認めた場合です。あくまでも嘘をついたのはDクラス。その上で多少の妥協はしてやるから感謝しろ、という立場で物を言うのであれば、こちらにも考えがあります」
「何が言いたい?」
「白黒はっきりつけましょう。先ほど先生が提案した落としどころは拒否します。そして、この騒動に対するレートを引き上げましょう。もし仮に、須藤の話が真実だと証明できなかったときは、須藤だけではなく嘘の証言をした、させたとして佐倉、オレ、堀北も須藤と同じように停学します。そしてCクラスの生徒は無罪放免で結構です」
先に失敗した場合に、こちらが負うべきものを提示する。
「君が勝手に言って、Dクラスの生徒は納得するのか?」
ちらりと佐倉と堀北に視線を送った。
「綾小路くん……いいわ。私も彼の意見に賛成です」
「その……私も、綾小路くんの提案を、支持……します」
堀北は短く思案後に、佐倉も声が小さいながらも支持を表明した。須藤は元からペナの対象だ。
再び、坂上を見る。
「というわけで、Dクラスは乗り気ですよ。話を続けましょう。
須藤が言っていることが真実で、Cクラスが嘘をついていた。
そのことが証明できた場合、須藤が殴ったことは水に流して、須藤はペナルティーを受けない」
一度そこで言葉を区切る。
先ほどは失敗した場合のリスクを出した。今度は成功した場合の見返りだ。
「その上で、CクラスはDクラスに、87ポイントのクラスポイントを譲渡する」
「は? そんなことできるわけが」
「先生は確信していると言いました。須藤が嘘をついているって確信していれば何も問題ありませんよね? 須藤が嘘をついているのが事実であれば、その否定の証明なんてできないんですから」
「話にならない。生徒会長、無理だと言ってやれ」
「原則として、生徒間の揉め事の解決には、プライベートポイントしか使えない」
鬼畜眼鏡先輩の裁定が下る。
須藤に対するペナルティーを無くすることが本題であり、追加条件はオマケだ。
あわよくばを狙ってみたが、ルールとして無理ならそこは諦めるしかないか。
「だが、今回の件は生徒間だけとは言えない。坂上先生、生徒間で解決すべき内容に口を挟むことまでは、生徒会として大きく問題とはしません。しかし、確信しているというのは、いささか失言でした。綾小路はあなたの失言を対象にして、交渉を持ちかけている。
綾小路の証明がされれば、Cクラスの担任がCクラスに肩入れして、間違った結果を導こうとしていたということになる。それは問題と言わざるを得ません。その責任に対して、今回に限り、クラスポイントのやりとりを認めよう」
「会長」
書記が驚きの声を上げて会長を見る。かなり異例の判断らしい。
「ただし、誰もが納得する証拠が出せないのなら、綾小路がさっき言ったDクラス側のペナルティーに加えて、同じ額のクラスポイントをCクラスに譲渡する。それでいいな?」
「構いませんよ。ありがとうございます」
それは最初から織り込み済みだ。だからこその87ポイント、Dクラスが現在出せる限界のポイントを持ち出したわけだ。
「坂上先生、生徒会長の許可は下りましたが、いいですよね?
繰り返しますが、あなたはこちらが嘘をついていると確信していると言いました。それならばその言葉に、責任をとってください。それとも先生は責任を取らずに降りますか?」
「…………」
返事はすぐに返ってこないが、ここを逃してはならない。
「今ならばまだ引き返せますよ? オレはDクラスが嘘をついていないと証明してみせますよ。
Cクラス側から殴り掛かったことを認めてください。認めるのであれば、須藤が殴った件についてのペナルティーは甘んじて受け入れます。どうしますか?」
意識的に表情を消して、詰めかける。
ここで認めるのならそれで終わりだ。佐倉は嘘をついていないことが、証明されたことになる。
「…………」
「…………」
ここが今回の最終ポイントだ。認めるのか突っぱねるのか。
Cクラスの生徒が動揺しているのが、見て取れる。あとは坂上の判断次第だろう。
「ふん。綾小路と言ったな。悪くない案だったが、お前は少ししゃべりすぎた」
「…………」
「
綾小路、お前の方こそ自分の言葉に責任を持てるのか?」
結論は、あくまでも須藤が嘘をついているというもの。坂上の言葉は、坂上が噓をついているとほとんど言っているようなものだが、それは今回の証拠にはならないだろう。
それがCクラスの答えならば、それに応じるまでだ。
「はぁ……ダメだったか」
「綾小路くん」
「綾小路」
「悪いな……どうやら、ここまでみたいだ」
心配そうに声を掛けてくる須藤や堀北に対して、肩をがっくりと落としてため息をついてみせる。できれば使いたくなかったんだが、ここまで否定されてしまったら仕方あるまい。
「ふん、やはりブラフだったか。まあ、いい教訓になったと思うんだな」
「いえ。大げさに肩を落としたのは、Cクラスの生徒を思ってですよ。
というわけで、一之瀬、あとは頼んだ」
最後の切り札を切らせてもらおうか。